新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.765、2008/3/6 15:21 https://www.shinginza.com/qa-seikyu.htm

【民事・商事債権・5年かどうか・貸付行為は商法502条8号・銀行取引」か】

質問:10年くらい前に借りた消費者金融の残金の請求が、違う業者の名前で、ハガキで送られてきました。金額が200万円以上だったので、びっくりして、「一部でも入金してくれれば、金額や支払方法を考慮してあげます」という文言につられて、業者の口座に千円を送金してしまいました。後で、インターネットで調べたら、消費者金融の債務は5年で時効消滅する制度があると知りました。私は業者に電話して、「時効消滅しているから払えない」と言いましたが、業者は「一部でも送金したのだから、債務承認にあたり時効中断しているので、残金全額払ってもらいます」と言います。業者の主張は正しいのでしょうか。私はどうしたら良いのでしょうか。

回答:千円を送金したからと言って、直ちにあきらめてしまう必要はありません。弁護士に相談して、正式な時効援用手続を取ってもらうと良いでしょう。但し、金融業者が法人でなく、個人業者であれば時効期間は10年になり、未だ時効が完成しない場合もありますから対応にご注意ください。

解説:
1、話の腰を折るつもりはありませんが、具体的回答の前に、先ず消費者金融の5年の時効期間について前提のお話をさせてください。あなたがインターネットで調べた消費者金融業者の債権が5年間で時効消滅するというのは、金融行為が当然に商行為に該当するので、商法522条を根拠とする主張と思われますが、問題があるのです。条文参照してみます。「商法第522条(商事消滅時効)商行為によって生じた債権は、この法律に別段の定めがある場合を除き、五年間行使しないときは、時効によって消滅する。」と言うのは、貸し金等金融行為は営利を目的にして反復されますから商法が規定する商行為にあたり商法522条が適用になるようにもおもわれるのですが、一般の貸し金業者の金融行為が「商行為」に当たる根拠条文として考えられる商法502条8号の営業的商行為「両外その他の銀行取引」に該当するかどうか、この点かなり昔から争いがあるのです。

2、結論から言うと、金融業者が行う貸付行為は、営業的商行為「銀行取引」に該当しません。最高裁の確立した判例です。したがって、金融業者の貸付行為は民法の原則により時効期間は10年です(民法167条)。但し、金融業者が会社の場合は商行為となり、5年の商事債権になります(会社法5条)。

3、分かりにくい結論ですし、商法の規定自体も一読して直ちに理解できるような体系にはなっていませんから、民法、商法の基本から説明します。民法は、私的個人間の取引、法律関係を規律しているのですが、この民法の特別法として商法等(実質的商法として会社法、手形法等他にたくさんあります)の規定があるのです。商法を定義すると、実質的には企業の社会生活秩序に関する法です。企業とは、資本主義体制の中核であり、営利を目的にして業務を反復、継続、集団的に投機的行為を行う個人及び法人を言います。したがって、基本的に1回きりの個人間の投機性がない取引行為を対象とする民法の規定では、対応できない状態が生じます。そもそも、私的自治の大原則は、適正、公平、迅速、低廉な取引社会の実現を目指していますから、資本主義社会では自ずから特別法たる商法の制定が求められますので、明治23年から制定されて社会発展の要請に応じ、数々の改正か繰り返されているのです。どういう場合に特別法である商法が適用になるかと言うと、商法上、まず企業家は「商人」として位置付けて、商人に関する取引に適用するのです(取引の一方が商人の場合も適用になります。商法3条)。

ところが、商人の定義は「自己の名を持って商行為をなすを業とするもの」と商法4条は抽象的に規定しますので、これだけではまだ十分理解できないと思います。商行為とは501、502、503条、会社法5条等に商法上具体的に列挙されています。商行為とは、実質的には反復、継続、集団的、投機的に営利活動に関する行為です。商法は、この商行為と言う定義の面からも商法を適用しているのです。すなわち、商人、商行為の定義に当てはまるものに商法を適用するのです。(商法1条、学問上商人と、商行為両方の概念から商法の適用を認めるので折衷主義といわれておりフランス等多くの国が採用しています)522条は、商法の適用を商行為の概念から認めており、8号の「銀行取引」とは、民法の特別法として反復、継続、集団的、投機的に営利活動に関する行為でなければなりません。貸付行為は利息を生みますから営利行為には間違いないのですが、投機性がないのです。すなわち、銀行取引とは、両替と同様、第三者の資本を預かり、この資本を再利用貸付して利益を生むという一連の経済投機活動を意味し、一般の個人が誰でも行うことが出来る貸付行為のみでは企業家、商人の経済活動とは評価されないのです。又、商法は特別法ですから、民法の例外規定であり限定的に解釈しなければならないのです。

4、ところが、この貸付業者が会社登記をすると一転して、会社の行為は商行為と評価されて(会社法5条)会社は商人となり(商法4条)商事債権の522条が適用になり時効期間は5年になります。

5、ここで、どうして会社になると商行為であり、個人の場合には商行為ではなく10年なのか疑問に思うかも知れません。会社とは、営利を目的とする社団法人であり、複数の労力、無数の資本を結集して投機的営利活動を業として行うものであり、存在自体が商行為を行う主体として評価できるからです。したがって、商事債権と言うことになり5年の時効にかかることになります。

6、大審院判例昭和13年2月28日。判例は「貸金業者の貸付行為が銀行取引であるには、金銭転換の媒介をして利益を取得することを要する。」と言って、貸し金行為を銀行取引に該当しないと説明しています。

7、昭和三〇年九月二七日最高裁第三小法廷判決(貸金請求事件)。「貸金業者が前記法律によつて貸金業の届出を受理されたからといつて、かかる者のなす金融行為自体が商行為となるものでもなく、従つてまたかかる貸金業者が商人と認められるものでもないから(商法五〇一条及び五〇二条参照)」と説明しています。

8、以上から、消費者金融業者が個人の場合、金融行為は502条8号の「銀行取引」に該当せず営業的商行為に該当しませんから、民法の一般原則に戻り法167条から10年になります。金融業者が会社の場合は、営業金融行為はもちろん商行為ですから5年です(会社法5条)。すなわち、金融業者が会社形式の場合にだけ5年の商事債権になるのです。そういう意味で厳格に言うと、あなたが調べた時効期間が5年と言うのは間違いになるわけです。あなたの場合、10年前後の経過ですから相手が個人業者なら時効完成前の場合もありますので注意してください。一般の人には商法上の商人、商行為の概念がよく理解できないと思いますので、この際ですから詳しく御説明しました。御了承ください。

9、尚、金融会社が個人であり時効完成前であれば、業者の通知は催告に該当しますので、今後、訴訟等の時効中断手続が予想されます(民法147条、153条)。又、あなたの千円の支払いは、後述のように債務の承認の可能性がございます。注意してください。

10、少し回り道しましたが、以下、金融業者が会社の場合で5年の時効期間であることを前提にご説明します(無論10年の経過が事実であれば、金融業者が個人でも同じ問題になります)。本件で業者が主張する、「債務承認」とは、民法147条3号の時効中断事由を根拠としています。(条文参照)民法第147条(時効中断事由)時効は、次に掲げる事由によって中断する。3 承認

11、本件では、時効期間経過後に債務承認したと主張されていますが、時効期間経過後に債務承認があった場合は、原則として時効援用権を喪失し、信義則上、時効援用をすることは許されないと解釈されています。これは、過去の主張に矛盾する主張をすることはできないという、禁反言の原則から導かれた法解釈です。

12、昭和41年4月20日最高裁判決。「時効の完成後、債務者が債務の承認をすることは、時効による債務消滅の主張と相容れない行為であり、相手方においても債務者はもはや時効の援用をしない趣旨であると考えるであろうから、その後においては債務者に時効の援用を認めないものと解するのが、信義則に照らし、相当である」但し、上記解釈は、両当事者の公平を図る立場から信義則に基き導かれるものですので、債務承認を受けた債権者側に信義則に基く保護に値しないような事情がある場合は、債務者は時効援用権を喪失しない可能性があります。

13、平成13年3月13日福岡地裁判決(簡裁からの控訴事件)。「債務者が、自己の負担する債務について時効が完成した後に、債権者に対し債務の承認をしたとしても、債権者及び債務者の各具体的事情を総合考慮の上、信義則に照らして、債務者がもはや時効の援用をしない趣旨であるとの保護すべき信頼が債権者に生じたとはいえないような場合には、債務者にその完成した消滅時効の援用を認めるのが相当といわなければならない。」この判例では、債務者は、一度口頭で「支払は終了した」と言われた後に、「100万円以上の債務が残っているから一括で払って欲しい。一括が無理なら5万、10万、20万のどれかを支払え。そうすれば利子をチャラにしてやる。払わなければ集金に行く」などと威圧的な態度で要求されたという事案ですので、債権者の側にも問題があったと判断された事案でした。

14、本件でも、10年以上ぶりに督促のハガキが来て、そのハガキの金額にびっくりして、支払ってしまったというのですから、援用権を喪失しない可能性があるといえます。ハガキの文面や、それまでの交渉経緯や、もともとの債権の弁済状況などを確認してみないと、一概に援用権を喪失していると断定することは出来ません。一部弁済をすることは、債務承認になるのでしょうか。裁判所は、一部弁済であることを認めて弁済すれば、債務全部について、債務承認となると判断しています。

15、昭和36年8月31日最高裁判決。「本件小切手の振出交付は、本件債務の弁済に代えて為された者ではなく、本件債務の一部弁済のためになされたものであるというのであるから(この点上告人も強いて争ってはいない)、右振出交付は、上告人が、本件債務の存在を認識し、その一部弁済の方法として、取引銀行に委託し、同銀行をしてその支払いをなさしめるためになされたものと解するのが相当である。」「しかも、債務の弁済は、債務の承認を表白するものに外ならないのであるから、小切手の支払による債務の弁済は、また、債務の承認たる効力をも有するものといわなければならない。」この判例は、2年の短期消滅時効(民法173条1号)が適用される売掛代金債権であって、当事者間で一部弁済のために小切手が交付されたという事案です(商事債権でも5年より短い期間の時効制度があれば短いほうが優先します。商法522条が規定する「他の法令に五年間より短い時効期間の定めがあるときは、その定めるところによる」とはこういう意味です)。

16、しかし、本件では、10年以上ぶりにハガキが一枚郵送されただけで、電話連絡も含めて一切の連絡交渉も無しに千円の振込をしただけですから、私見となりますが、上記の判例とは事情を異にしており、千円の振込をしただけでは、当事者間で目的となる債権の特定が不十分であり、当然一部弁済であることの意思疎通も欠けていますから、債権全部の債務承認が成立しない可能性も十分あると考えます。民法では時効中断事由を「債務承認」としか規定していませんから、一部弁済により「債務承認」の効果を生じるためには、弁済の事実の他に、当事者間で「残りの債務の存在を承認します」という直接の債務承認が行われたケースに比肩し得るような、意思の連絡が必要と考えられるからです。一部弁済が債務承認となるためには、少なくとも、一部弁済が行われる前か、同時に、当事者間で何らかの連絡交渉があり、債権の内容について特定し、内容を確認し、返済方法や残額を確認した上で、弁済が行われる必要があると考えることができます。上記判例は、そのような特定があったケースと考えられますが、ご相談の事案では、そのような特定が不十分と評価することも可能です。

17、また、仮に債務承認が成立し得るとしても、本件のようなケースでは、意思表示に関する一般規定である詐欺取消(民法96条)の規定を類推適用(債務承認は意思表示そのものではなく観念の通知と解釈されており類推適用となります)することにより、債務承認の効力を否認する可能性があると考えます。ハガキでは「一部でも入金してくれれば、金額や支払方法を考慮してあげます」と記載しておきながら、実際に送金されると残金全額の請求をするというのでは、時効完成後長期に時間が経過した債権者の態度として、不適当であると考えられます。法的に支払い義務の無い債権を払わせようとした行為を、詐欺取消の要件である欺もう行為と評価しうる場合があると思います。本件の催告も、一部免除を示唆するような文言が無ければ、また、通常の催告の形式を取り、内容証明郵便による催告や、訴訟提起による請求を行っていれば、債務者は、弁護士などの法律専門家に相談してから対応を決めた可能性が高いと考えられ、そうなっていれば、千円を振込することもなかったのですから、債権者の行為により不当に債務を負担させられたと主張することは十分に考えられると思います。

18、なお、今回の業者からの連絡が、従来の取引のあった業者とは別の業者からの連絡だということですが、今回の業者が、従来の業者の権利を法的に間違いなく引き継いでいるかどうかは、確認してみる必要があります。法人の社名変更や、合併などがあった場合は、それが法務局で登記されることが、第三者対抗要件として必要となります。

19、会社法908条(登記の効力)この法律の規定により登記すべき事項は、登記の後でなければ、これをもって善意の第三者に対抗することができない。

20、債権の移転が、営業譲渡や債権譲渡により行われた場合は、債権譲渡の通知が必要となります。債権譲渡通知は、譲渡人、つまり、もともとの債権者名義で通知する必要があります。実務的には、譲渡人と譲受人の連名で通知を行うことも多いですが、譲渡人の名義と押印が無い通知であれば、正式な通知と評価されない可能性があります。従って、10年以上ぶりに、新しい名前の業者から通知が来たというのであれば、債権譲渡通知の要件を満たしていない可能性もあります。

21、民法467条(指名債権譲渡の対抗要件)指名債権の譲渡は、譲渡人が債務者に通知をし、又は債務者が承諾をしなければ、債務者その他の第三者に対抗することができない。

22、以上の通り、業者の主張が全て認められるためには、いくつかの論点をクリアする必要があり、業者の方が請求する側ですから、これらの点について、主張立証を行う必要があります。任意の支払い交渉が成立しない場合は、裁判所の支払命令を得るために、訴訟を提起しなければならないのは相手方です。あなたの立場では、びっくりして千円を送金してしまったとしても、弁護士に依頼して、内容証明郵便により時効援用通知を送るなどして、相手方の対応を見てみると良いでしょう。中には、振り込め詐欺まがいの業者もあり、架空の債権譲受けを根拠として、連絡をしている業者もあるでしょうし、債権譲渡を受けている事案だとしても、消滅時効にかかった債権を譲り受けたものであり、きちんとした譲渡通知手続を踏んでいないものもあります。社名変更や法人合併などで、債権の移転に問題が無い事例でも、今回の、ハガキ送付の経緯や、振り込んだ経緯などから、時効援用が可能である場合もありますし、千円の振込が直ちに残金全額の承認には繋がらない可能性もあります。実際に相手が裁判を起してまで請求してこない可能性もあります。出来れば、これ以上は相手方とご自分で連絡を取ることを控え、法律専門家である弁護士の相談をお受けになる事をお勧めいたします。

≪条文参照≫

会社法
(法人格)
第三条  会社は、法人とする。
(商行為)
第五条  会社(外国会社を含む。次条第一項、第八条及び第九条において同じ。)がその事業としてする行為及びその事業のためにする行為は、商行為とする。

商法
(趣旨等)
第一条  商人の営業、商行為その他商事については、他の法律に特別の定めがあるものを除くほか、この法律の定めるところによる。
2  商事に関し、この法律に定めがない事項については商慣習に従い、商慣習がないときは、民法 (明治二十九年法律第八十九号)の定めるところによる
(一方的商行為)
第三条  当事者の一方のために商行為となる行為については、この法律をその双方に適用する。
(定義)
第四条  この法律において「商人」とは、自己の名をもって商行為をすることを業とする者をいう。
2  店舗その他これに類似する設備によって物品を販売することを業とする者又は鉱業を営む者は、商行為を行うことを業としない者であっても、これを商人とみなす。
(絶対的商行為)
第五百一条  次に掲げる行為は、商行為とする。
一  利益を得て譲渡する意思をもってする動産、不動産若しくは有価証券の有償取得又はその取得したものの譲渡を目的とする行為
二  他人から取得する動産又は有価証券の供給契約及びその履行のためにする有償取得を目的とする行為
三  取引所においてする取引
四  手形その他の商業証券に関する行為
(営業的商行為)
第五百二条  次に掲げる行為は、営業としてするときは、商行為とする。ただし、専ら賃金を得る目的で物を製造し、又は労務に従事する者の行為は、この限りでない。
一  賃貸する意思をもってする動産若しくは不動産の有償取得若しくは賃借又はその取得し若しくは賃借したものの賃貸を目的とする行為
二  他人のためにする製造又は加工に関する行為
三  電気又はガスの供給に関する行為
四  運送に関する行為
五  作業又は労務の請負
六  出版、印刷又は撮影に関する行為
七  客の来集を目的とする場屋における取引
八  両替その他の銀行取引
九  保険
十  寄託の引受け
十一  仲立ち又は取次ぎに関する行為
十二  商行為の代理の引受け
十三  信託の引受け
(附属的商行為)
第五百三条  商人がその営業のためにする行為は、商行為とする。
2  商人の行為は、その営業のためにするものと推定する。

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