新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.761、2008/2/25 18:34 https://www.shinginza.com/qa-jiko.htm

【民事・交通事故・後遺症認定後逸出利益及び介護費用とその後の被害者の死亡】

質問:私の父は,会社員をしておりました(年収600万円)が,昨年,交通事故に遭い,下半身が機能不全となる重い後遺障害(後遺障害等級1級,症状固定時50歳)が残りました。しかし,今年になって,父は,車椅子の操作を誤って転倒してしまい,打ち所が悪く,死亡してしまいました(死亡時51歳)。加害者に対して,後遺障害による逸失利益を請求しておりましたが,死亡時までの分に限られてしまうのでしょうか。また,母は既に死亡し,子供は私だけですが,私は結婚し主婦をしていますので,父と同居し,今後ずっと私が父の介護をするつもりで,将来の介護費用も請求しておりました。将来の介護費用も,死亡時までの分に限られてしまうのでしょうか。

回答:
1.結論から申しますと,
@後遺障害による逸失利益は,死亡時までの分に限られないと考えます。最高裁判決も同様に考えております。
A他方,将来の介護費用は,死亡時までの分に限られると考えます。
B最高裁判決も同様に考えております。
Cなお,後遺障害による逸失利益は,死亡時までの分に限られるのかの問題については,「bV01」でも回答しておりますので,ご参照下さい。

解説:
1.あなたのご質問については,逸失利益と将来の介護費用についてご説明したうえで,前記問題点をご説明いたします。

2.まず,逸失利益について,ご説明します。逸失利益とは,仮に,加害者の加害行為がなければ,将来の労働等によって得られたであろう経済的損害のことをいいます。逸失利益は,このように将来にわたる消極的な損害(将来得べかりし利益)のことをいいます。では,本件のように後遺障害が残った場合,逸失利益をどのように計算すべきでしょうか。この点,裁判実務では,「@基礎収入額×A労働能力喪失率×B就労可能年齢に達する年齢に対応する中間利息控除係数」で計算しております。以下,順にご説明します。

3.まず,@「基礎収入額」は,裁判実務では,有職者の場合,原則として,事故前の年収額を基礎とします。本件では,事故前のあなたのお父さんの年収は600万円でしたので,この金額が基礎となります。

4.次に,A「労働能力喪失率」とは,労働能力の低下の程度のことをいいます。この点,裁判実務では,毎日のように全国の裁判所に提訴される多くの損害賠償請求訴訟を迅速かつ公平に処理すべき要請があることから,「労働能力喪失率」は,ある程度定型的に決められる傾向にあります。そして,裁判実務で尊重される基準として,財団法人日弁連交通事故相談センター東京支部発行の「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」(通称「赤本」)があります。その基準(平成19年度版赤本)によりますと,「労働能力喪失率」は,本件のように,後遺障害等級1級の場合,100パーセント,すなわち,労働能力は全く失われたと考えております。

5.最後に,B「就労可能年齢に達する年齢に対応する中間利息控除係数」について,ご説明します。まず,「就労可能年齢」は,裁判実務では,一般的に,67歳とされております。すなわち,67歳まで働くことができたと考えられております。次に,「中間利息控除係数」とは,仮に,後遺障害が残らなければ,67歳まで収入がありますが,将来に及んで発生する損害額を,通常は一時払いされることになりますので,その間の利息相当額を控除すべきとの考えに基づくものです。そして,本件の場合の「就労可能年齢に達する年齢(67歳−50歳=17歳)に対応する中間利息控除係数」は,平成19年版赤本の基準によりますと,11.2741とされております。

6.以上より,本件の場合,逸失利益は,「600万円×1×11.2741=6764万4600円」認められる可能性があります。

7.次に,将来の介護費用について,ご説明します。あなたのお父さんは,下半身が機能不全となる重い後遺障害が残ったのですから,今後生活していくためには,近親者や介護業者による介護が必要不可欠です。そして,近親者の介護の負担に対する対価や介護業者に対する介護料を,裁判実務では,将来の介護費用として加害者に請求できると考えております。将来の介護費用は,このように将来にわたる積極的な損害のことをいいます。なお,裁判実務では,近親者の介護の場合であっても,かかる将来の介護費用は,近親者の損害ではなく,被害者本人の損害として構成するのが一般です。

8.では,本件のように,主婦をしているあなたが,お父さんと同居し,今後ずっとお父さんの介護をする場合,将来の介護費用をどのように計算すべきでしょうか。このような場合,裁判実務では,「@1日あたりの近親者の介護費用×365日×A(被害者の)平均余命に対応する中間利息控除係数」で計算するのが一般的であると思われます。以下,順にご説明します。

9.まず,@「1日あたりの近親者の介護費用」は,平成19年版赤本の基準によりますと,8000円とされております。すなわち,近親者の介護の負担に対する対価は,1日あたり8000円と評価するのが相当であると考えられております。

10.次に,A「(被害者の)平均余命に対応する中間利息控除係数」について,ご説明します。まず,「平均余命」は,本件のようにあなたのお父さんが症状固定時50歳の場合,厚生労働省大臣官房統計情報部編「平成17年簡易生命表」によりますと,30.59年とされております。次に,「中間利息控除係数」とは,上記の逸失利益の場合と同様,平均余命まで介護を受ける必要がありますが,将来に及んで発生する損害額を,通常は一時払いされることになりますので,その間の利息相当額を控除すべきとの考えに基づくものです。そして,本件の場合の「平均余命(30年)に対応する中間利息控除係数」は,平成19年版赤本の基準によりますと,15.3725とされております。

11.以上より,本件の場合,将来の介護費用は,「8000円×365日×15.3725=4488万7700円」認められる可能性があります。

12.しかし,本件では,あなたのお父さんは,車椅子の操作を誤って転倒してしまい,死亡しております。そこで,このような場合,後遺障害による逸失利益は,死亡時までの分に限られるのかが問題となります。この点,そもそも,逸失利益とは,仮に,加害者の加害行為がなければ,将来の労働等によって得られたであろう経済的損害のことで,将来にわたる消極的な損害(将来得べかりし利益)のことをいいます。そうすると,被害者が死亡した場合,それ以降の逸失利益が生じる余地はありませんので,逸失利益は,死亡時までの分に限られるとも考えられます。しかし,最高裁平成8年4月25日判決は,交通事故により後遺障害(後遺障害等級12級)が残った被害者が,海でリハビリテーションを兼ねた貝採り中に,水難事故に遭い死亡した事案で,逸失利益は,死亡時までの分に限られないと判断しました。また,最高裁平成8年5月31日判決も,交通事故により後遺障害(後遺障害等級12級)が残った被害者が,別件の交通事故で死亡した事案で,同様の判断を下しました。最高裁判決は,上記判断の理由として,「賠償義務を負担する者がその義務の一部を免れ,他方,被害者ないしその遺族が事故により生じた損害のてん補を受けることができなくなるというのは衡平の理念に反する」点を実質的根拠として挙げております。そもそも,損害賠償制度の目的は,被害者に生じた損害を,加害者等に公平に分担する点にあります。そして,被害者が事故後たまたま死亡したことにより,加害者が逸失利益の支払義務を免れ,他方,被害者やその遺族が損害の填補を受けることができなくなるのは,公平の観点から妥当ではなく,最高裁判決の判断は妥当であると考えます。以上より,逸失利益は,死亡時までの分に限られないと考えます。

13.では,将来の介護費用は,死亡時までの分に限られるのでしょうか。この点,将来の介護費用も,逸失利益と同様,将来にわたる損害であり,被害者が死亡した場合,それ以降の将来の介護費用が生じる余地はありませんので,逸失利益の場合と同様,争いがあります。この点,最高裁平成11年12月20日判決は,交通事故により脳挫傷等の傷害を負い,要介護状態にあった被害者(後遺障害等級1級)が,控訴審係属中に胃がんで死亡した事案において,将来の介護費用は,死亡時までの分に限られると判断しました。最高裁判決は,その理由として,「介護費用の賠償は,被害者において現実に支出すべき費用を補てんするものであり,判決において将来の介護費用の支払を命ずるのは,引き続き被害者の介護を必要とする蓋然性が認められるからにほかならない。ところが,被害者が死亡すれば,その時点以降の介護は不要となるのであるから,もはや介護費用の賠償を命ずべき理由はなく,その費用をなお加害者に負担させることは,被害者ないしその遺族に根拠のない利得を与える結果となり,かえって衡平の理念に反することになる」点,「交通事故による損害賠償請求訴訟において一時金賠償方式を採る場合には,損害は交通事故の時に一定の内容のものとして発生したと観念され,交通事故後に生じた事由によって損害の内容に消長を来たさないものとされるのであるが,右のように衡平性の裏付けが欠ける場合にまで,このような法的な擬制を及ぼすことは相当ではない」点を実質的根拠として挙げております。

14.この点,最高裁判決の結論が,@逸失利益の場合とA将来の介護費用の場合で結論が正反対となっておりますので,その整合性,結論の妥当性について,検討する必要があります。そもそも,@逸失利益とは,仮に,加害者の加害行為がなければ,将来の労働等によって得られたであろう経済的損害のことで,将来にわたる消極的な損害(将来得べかりし利益)のことをいい,その実質は,遺族の扶養利益の性質を備えるものといえます。これに対して,A将来の介護費用は,将来にわたる近親者の介護の負担に対する対価や介護業者に対する介護料(積極的な損害)のことで,その実質は,被害者が現実に支出すべき費用の前払いの性質を備えるものといえます。このような@逸失利益とA将来の介護費用の実質の違いに鑑みると,最高裁判決のように,@被害者が事故後たまたま死亡したことにより,加害者が,遺族の扶養利益の実質を備える逸失利益の支払義務を免れ,被害者やその遺族が損害の填補を受けることができなくなるのは,妥当ではないと考える一方,A被害者が事故後死亡したのにもかかわらず,被害者やその遺族が,被害者が現実に支出すべき費用の前払いの実質を備える将来の介護費用の支払いを受けることができるとするのは,妥当ではないと考えるのは,損害賠償請求制度の目的である損害の公平な分担の観点から,妥当であると考えます。よって,将来の介護費用は,死亡時までの分に限られると考えます。

15.より詳しく相談したい場合には,交通事故に詳しい弁護士に相談することをお勧めします。

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