新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.684、2007/10/10 18:17 https://www.shinginza.com/rikon/qa-rikon-youikuhi.htm

【家事・親子・養育費・婚姻費用の計算】

質問:養育費や婚姻費用の調停を起こしたいと思います。夫は今まで話し合いを拒否してきましたので、調停不成立となる可能性が高いと思います。審判となった場合、裁判所ではどのように計算されるのでしょうか。

回答:
子供が成年になるまで養育・監護することは親の義務です。両親が離婚しても負担する義務は継続します。子供の衣食住、教育などにかかる費用は両親が分担することになり、子供の監護者でない側の親が、監護者である親の側に養育費を支払うことになります。養育費や婚姻費用は、配偶者や子供に対する「生活保持義務」に基いて請求されるものです。これは、夫婦間や親子間では、自分と同程度の生活を保持させるべきであるという考え方に基いています。「生活保持義務」とは、「親に存する余力の範囲内で行えば足りるようないわゆる生活扶助義務ではなく、いわば一椀の飯も分かち合うという性質のものであり、親は子に対して自己と同程度の生活を常にさせるべき」義務であり「経済的余裕がないからとして、直ちに未成熟子である各本件事件本人の扶養義務を免れる余地はない」ものとされています。(大阪高平6(ラ)67号)

また、養育費を負担すべき終期については、一般的に成人に達するまでとされますが、場合によっては大学卒業時まで負担すべき場合もあります。例えば、子の父親が医師、母親が歯科医である事例では、「未成熟子の扶養の本質は、いわゆる生活保護義務として、扶養義務者である親が扶養権利者である子について自己のそれと同一の生活程度を保持すべき義務であるところ、抗告人らの父である相手方は医師として、母は薬剤師として、それぞれ大学の医学部や薬学部を卒業して社会生活を営んでいる者であり」「抗告人らが成育してきた家庭の経済的、教育的水準に照らせば、抗告人らが4年制大学を卒業すべき年齢時まで」、いまだ未成熟子の段階にあるものとして、相手方において抗告人らの養育費を負担し、これを支払うべきであるとしています。(大阪高平2(ラ)124号)

民法752条(同居、協力及び扶助の義務) 夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。
民法760条(婚姻費用の分担) 夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する。
民法766条1項(監護に関する事項の定め)父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をするべき者その他監護について必要な事項は、その協議で定める。協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所がこれを定める。
民法877条1項(扶養義務者)直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養する義務がある。
民法879条(扶養の程度又は方法)扶養の程度又は方法について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、扶養権利者の需要、扶養義務者の資力その他一切の事情を考慮して、家庭裁判所が、これを定める。
家事審判法9条1項乙類4号 民法766条第1項又は第2項の規定による子の監護者の指定その他子の監護に関する処分。

養育費の金額は両親が話し合いで決めるのが原則ですが、夫婦の話し合いで養育費の金額が決まらない場合は、家庭裁判所において調停、審判により判定されることになります(民法766条1項、家事審判法9条1項乙類4号)。家庭裁判所に調停を申し立て、調停が成立しない場合(「不調」といいます)は、自動的に審判事件に移行しますから、別途審判を申し立てる必要はありません。

養育費や婚姻費用の計算は、法律や政令などで、具体的な計算方法が規定されているわけではありませんが、裁判所の審判実務では、両親の基礎収入を計算し、生活保護基準により算出された標準的な生活費の指数を用いて分担割合を計算し、具体的な金額を計算しています。義務者に借金返済などの個別事情があっても、必ずしも全て斟酌されるとは限りません。これは、養育費の審判が、権利義務を確定させるために「勝ち負け」を争う損害賠償請求訴訟などの通常の民事裁判とは異なり、家庭内の平和と子供の福祉を考慮して後見的に諸条件を定める審判手続だからです。各法律の総則規定を引用しますから、比較して読むと分かりやすいと思います。

家事審判法第1条(目的)この法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等を基本として、家庭の平和と健全な親族共同生活の維持を図ることを目的とする。
民事訴訟法第2条(裁判所及び当事者の責務)裁判所は、民事訴訟が公正かつ迅速に行われるように努め、当事者は、信義に従い誠実に民事訴訟を追行しなければならない。

裁判所では、標準的な経費を基に、養育費の算定表を提示していますので、これを参考にすることもできます。http://www.courts.go.jp/tokyo/saiban/tetuzuki/youikuhi_santei_hyou.html しかし、この算定表では具体的金額までは分かりませんので、具体的な計算も行ってみるべきだと思います。上記の通り確定した計算方法はありませんが、最近の審判例を参考に分かりやすく説明するために具体的に計算してみたいとおもいます。

具体例(1)
年収500万円の父親(サラリーマン)に対して、15歳の子供、9歳の子供と同居する母親(年収200万円のパート勤務)が養育費を請求する場合。
@両親の基礎収入を計算する
父親の基礎収入=総収入500万円×0.4=200万円
母親の基礎収入=総収入200万円×0.4=80万円

A子の生活費を計算する
=義務者の基礎収入200万円
×子の指数(55+90)
÷(義務者の指数100+子の指数(55+90))
=118万3673円(年額)

B義務者の養育費分担額を計算する
=子の生活費1183673円
×義務者の基礎収入200万円
÷(義務者の基礎収入200万円+権利者の基礎収入80万円)
=845480円(年額)
÷12=70456円(月額)

具体例(2)
年収500万円の父親(別居中、サラリーマン)に対して、15歳の子供、9歳の子供と同居する母親(年収200万円のパート勤務)が婚姻費用を請求する場合。
@夫婦の基礎収入を計算して加算する
X=父親の基礎収入=総収入500万円×0.4=200万円
Y=母親の基礎収入=総収入200万円×0.4=80万円
X+Y=280万円

A母親世帯の分配割合を計算する
Z=280万円(X+Y)
×(100+55+90(母親世帯指数合計))
÷(100+100+55+90(家族全員の指数合計))
=198万8405円

B父親から母親に支払われる額を計算
=Z−Y
=1988405−800000
=118万8405円(年額)
÷12=99033円(月額)

子供の生活指数は、親子の生活費の指数を、厚生労働省によって告示されている生活保護基準から算出した結果、親の生活費を「100」とした場合、0歳から14歳までの子については「55」とし、15歳から19歳までの子については、教育費を考慮し、「90」とするのが相当とされています。下記ページで養育費の概算ができますので、ご参考になさってください。https://www.shinginza.com/rikon/youikuhi.htm
※ 上記計算は、審判例を参考にして計算方法のみ抽出したモデル計算例ですが、実際の審判で同じように計算されるとは限りませんのでご注意下さい。

養育費の金額や支払方法は、父母の協議により決定・変更を行うことはできますが、養育費の請求権は扶養請求権の一環であり、法律上は他人に譲渡することも放棄することもできないものと解されています。そのため、夫婦の合意により、仮に離婚協議書に「子供の養育費は一切請求しない」と言う旨を記載したとしても、扶養料請求権の処分は禁止されており(民法881条)、不適法なので、子を監護している親は子を代理して、他方の親に対して養育費の支払請求をすることができます。

民法881条 (扶養請求権の処分の禁止)扶養を受ける権利は、処分することができない。

また、養育費には「事情変更の原則」(民法880条)が適用されますので、変更・取消が可能です。事情変更の原則とは、法は契約時に全く予想できなかったような社会事情の変動が当事者の責任の及ばない範囲で生じ、しかもそれが重大である時は、当事者に契約の解除または将来に向けて契約内容の改訂を請求することを認めているということです。たとえば、考慮される事情として以下のものが挙げられます。
・物価の高騰
・貨幣価値の変動
・父母の再婚とそれに伴う子の養子縁組
・父母の病気、就職、失職など

このようなことが発生した場合には、養育費を請求する相手方の住所地を管轄する家庭裁判所に、事情変更に基づく申立をします。そして、調停、もしくは審判を経て、新たな合意がなされます。

民法880条(扶養に関する協議又は審判の変更又は取消し)扶養をすべき者若しくは扶養を受けるべき者の順序又は扶養の程度若しくは方法について協議又は審判があった後事情に変更を生じたときは、家庭裁判所は、その協議又は審判の変更又は取消しをすることができる。

なお、上記の方法に従ってご自身で概算を計算されても、個別事情が大きく影響する場合もありますので、実際に調停成立させる場合や、裁判外で公正証書を作成される場合など、事件を終結させる場合は、弁護士の法律相談を受けて妥当な範囲の計算かどうか、確認を受けることをお勧めいたします。

尚、本件とは直接関係ありませんが、生活保持義務を互いに負う兄弟間の扶養料は計算方式が、親子間ほど明確な基準はないようですが、多くの場合は、生活保護を基準に算出されるようです。
@生活保護の基準等を参考に、要扶養者の生活費を算出する。
A算出された生活費から、要扶養者の収入(年金など)を引く。
B扶養義務者の扶養能力に応じて、負担金額を決定する。
という順序です。また、就労能力があるにもかかわらず怠惰で働こうとしない場合までは、一般的には扶養する義務はあるとはいえません。

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