新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.670、2007/9/10 18:26 https://www.shinginza.com/rikon/index.htm

【親族・内縁の妻の相続権・内縁の妻の保護規定】

質問:私は10年以上に亘り、ある男性と同居してきましたが、この間その男性が亡くなりました。相手の男性もほかの女性と結婚していたわけではありませんでしたが、婚姻届は出していませんでした。私は、男性の財産を相続できますか。また、ずっとその男性の所有している土地・建物に住んでいましたが、その家は出て行かなければならないでしょうか。

回答:
1.わが国では法律婚主義をとっているため、婚姻届を出さないと、国は法律上の夫婦として認めてくれません。したがって、婚姻届を出していないということですと、残念ながら、あなたが亡くなった男性の財産を相続することはありません。もっとも、夫婦としての実態(結婚する意思と夫婦共同生活をしている事実)があるのに、単に婚姻届を出していないだけという場合、法律上の夫婦と同様に扱う必要があり、法律上、あるいはその解釈の上で、上記のような内縁関係の場合に、相続等で、一方当事者が保護されるケースもあります。

内縁の実態と保護の必要性について一言申し上げます。内縁は、民法が婚姻成立について届け出主義(民法739条)を採ったことから生じた問題ですから明治、大正時代から議論されています。以前は足入れ婚の風習、そして現代では婚姻観の変化により届け出をしない場合がかなりあり問題となっています。具体的には、当事者間の内縁の不当破棄についてどう保護するかという理論が判例上形成され、当初婚姻予約の不履行、そして準婚関係として、賠償責任を認め夫婦と同様の保護が認められました(最高裁判例昭和33年4月11日判決、民集12-5-789)。形式上の要件が整っていないからといって、夫婦の実態がある内縁を法的保護の外に置くことは妥当ではありませんから当然の事です。

夫婦間の同居協力義務、費用分担、貞操保持義務、離婚の財産分与(死亡による解消の場合は問題があります)、夫婦共有財産の推定(民法752条以下)も同様に類推適用が認められています。内縁の当事者は自ら同意して関係を形成していますから婚姻と同様の取り扱いを受けても何ら不都合はないしょう。しかし、内縁関係以外の第三者が法的な利害を有するような公の場面では、当事者以外の第三者に対しては内縁関係保護理論の適用は認められていません。そのひとつが、「相続権」です。相続は、私有財産制を採用する関係上、死亡した被相続人の財産の承継人を誰にするか公の戸籍を基にして被相続人の意思、親族間の財産形成への寄与を画一的に定めて相続権を決め、財産関係の法的秩序を維持していますから、内縁関係が形成されてもこの点について変更する事は出来ないわけです。

第三者の権利、利益を不当に侵害しないようであれば、財産関係においても法的保護の必要性がありますから解釈を通じて第三者の利益を不当に侵害しないように配慮しながら内縁関係を事実上保護していくことが大切です。なお、外形的には、夫婦同然の結婚生活を送っていても、結婚する意思がないいわゆる「同棲」や「愛人関係」というのは、一応「内縁関係」とは区別され、法律的に保護されるものではありません。あなたの場合、法定相続人がいるかどうか不明ですので場合を分けて説明します。

2.法定相続人がいない場合
@内縁関係といえる場合に、相続で保護されるケースというのは、基本的には、亡くなった男性に相続人がいない場合です。民法上、亡くなった者(被相続人)に相続人が誰もいない場合には、被相続人と特別の縁故関係にあったものは家庭裁判所に申し立てをして、相続財産の全部または一部を請求できることになります。(958条の3)

相続人がいない場合は、本来であれば財産の帰属者がいないのでやむを得ず国に帰属しますが(959条)、相続権の根拠は被相続人の意思の推定と相続人の相続財産形成への関与ですから、相続人がいない場合被相続人と生活を同じくして暮らしていた人や生前被相続人のために看護等して尽くした人に分与する事は、被相続人の意思にも合致し、公平上も妥当だからです。従って「特別縁故」に内縁の妻は該当します。他に未認知の子などが考えられます。妻、子、兄弟等親族に準ずる関係があるような人が本条に該当することになります。実際には、裁判所に相続人が不存在であるとして、「利害関係人」として、相続財産管理人の選任を、家庭裁判所に申し立て(952条)、その手続きの中で上記の請求をすることになるでしょう。相手男性に相続人がいない場合には、上記の通り、特別縁故者として、家屋所有権の分与を受けうるということになります。

3.相続人がいる場合
@相続人がいる場合には、被相続人の財産は原則どおり、相続人が相続するのみです。被相続人の立場から言えば、相続人以外のものに財産を残そうと思ったら、生前に贈与をするか、遺言を書いておくしかないということにはなります。もっとも、生前贈与や遺言があったとしても、法定相続人の遺留分を侵すことはできず、遺留分を侵害する部分は減殺請求(1031条)される可能性があります。

A相続人がいる場合でも、内縁配偶者に相続権がないことから、当然に相続人が、内縁配偶者を排除できるという結論は不当です。そこで内縁関係保護の為権利濫用等の一般法理により救済できるかどうかが問題になります。最高裁の判例には、他の相続人からの家屋明け渡し請求について、家屋の所有権を相続した者が被相続人の内縁配偶者に対して明け渡しをすることは権利の濫用であるとして、結果的にその主張を排斥したもの(最判昭和39年10月13日)があります。しかしこの判例は単に内縁の妻という理由だけで当然に権利濫用の法理を認めてはいません。

相続人は、内縁の夫の養子であり養親子関係は事実上破綻しており離縁が決定していたが戸籍上の手続が終了しないうちに養父が死亡したもので、更に、相続人は家屋利用の必要性がなく、他方、内縁の妻には子供がおり、経済的に独立していないのでどうしても経済的に家屋利用の必要性があったという事案です。以上のように他の相続人の権利主張が認められるかどうかは権利関係当事者の環境、経済的理由、保護の必要性を詳細に検討して決定されます。あなたのケースでも、以上の条件と同等の場合、土地・建物を明け渡す必要はないという結論になる可能性は高いと思われます。

4.@尚本件は内縁の夫が不動産の所有権を有している場合ですが、建物賃借権を有していた場合には特別の規定があります。借地借家法36条は、賃借人が相続人なくして死亡した場合には、同居者は賃借人の権利義務を承継するので、借家を出て行く必要はないということを規定して、一定の保護を図っています。しかし、あなたの住んでいた不動産関係についてですが、相手男性の持ち家ということですので、借地借家法36条の直接適用はありません。

A また内縁の夫の権利が賃借権で相続人がいる場合でも大家からの明け渡し請求に対して、内縁の妻は相続権はないものの、相続人の承継した賃借権を援用して(いわゆる居住権)、明け渡しを拒みうるとした裁判例(最判昭和42年2月21日民集21-1-15)があります。しかしこの判例は、当該家屋に他の相続人が賃借権を相続し居住していたという前提であり、他の相続人とともに内縁の妻が居住を続けても大家側に何の不利益がない場合であり、相続人の母が内縁の妻という関係である。すなわち、相続人の賃借権援用について相続人の意思に反しないという場合である。従って、内縁の妻が単独で居住し、他の相続人の同意を得ずして常に相続人の賃借権 援用できるかどうかは断定できません。

≪参照条文≫

民法
(特別縁故者に対する相続財産の分与)
第九百五十八条の三  前条の場合において、相当と認めるときは、家庭裁判所は、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者の請求によって、これらの者に、清算後残存すべき相続財産の全部又は一部を与えることができる。
2  前項の請求は、第九百五十八条の期間の満了後三箇月以内にしなければならない。
(相続財産の管理人の選任)
第九百五十二条  前条の場合には、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求によって、相続財産の管理人を選任しなければならない。
(遺贈又は贈与の減殺請求)
第千三十一条  遺留分権利者及びその承継人は、遺留分を保全するのに必要な限度で、遺贈及び前条に規定する贈与の減殺を請求することができる。

借地借家法
(居住用建物の賃貸借の承継)
第36条 居住の用に供する建物の賃借人が相続人なしに死亡した場合において、その当時婚姻又は縁組の届出をしていないが、建物の賃借人と事実上夫婦又は養親子と同様の関係にあった同居者があるときは、その同居者は、建物の賃借人の権利義務を承継する。ただし、相続人なしに死亡したことを知った後1月以内に建物の賃貸人に反対の意思を表示したときは、この限りでない。
2 前項本文の場合においては、建物の賃貸借関係に基づき生じた債権又は債務は、同項の規定により建物の賃借人の権利義務を承継した者に帰属する。

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