新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.560、2007/1/11 11:31 https://www.shinginza.com/qa-seikyu.htm

[民事・裁判・執行]
質問:知人にお金を貸したのですが,返してくれません。自筆の借用書はあります。民事訴訟を起こして勝訴すれば裁判所が強制執行をしてくれるのでしょうか。

回答:
裁判所を通じた強制的な手続を使って貸金債権を回収するためには,貴方の仰るとおり,まずは民事訴訟で勝訴するなどしなければなりません。しかし,勝訴判決をもらえば後は裁判所が勝手に取り立てて回収してくれるということでもありませんので注意が必要です。そこで,これから民事訴訟と強制執行の関係,仕組みについてご説明します。

解説:
【勝訴判決の意味】
民事訴訟で勝訴判決をもらっただけでは,裁判所が強制的に取り立ててくれないとはどういうことでしょうか。それなら裁判所は一体何をしてくれるというのでしょうか。まず,この点について見ていきます。貴方が民事訴訟を起こす場合,その訴訟は,借主に対して「貸したお金を返せ。」という訴訟(こういう訴訟を「貸金請求訴訟」などといいます。)です。そして,貴方の主張が認められれば,裁判所は「借主は,貸主にいくらいくらを支払え。」という判決を出してくれます。さて,この判決を読んでもうお分かりかもしれませんが,裁判所は「借主に対して,貸主(貴方)にお金を支払うように命じているだけ」です。つまり,借主がこの命令に従わなかったときにその判決を出した裁判所が自ら回収に乗り出してくれるわけではないのです。

【判決に基づく任意の履行】
借主が「訴訟で負けてしまったのだから仕方ない。」と思って,判決のとおりに自主的に返済してくれればそれに越したことはありません。勝訴判決も十分意味があったものといえます。裁判で全力を尽くして争った上で負けたのであれば,渋々ながらも判決のとおりに支払ったり,支払方法について話し合ったりするのが普通の感覚であってほしいものです。

【判決に基づく強制執行】
ところが,残念ながらそうでない場合もあります。その場合,判決内容を実現するためには,改めて「強制執行」という手続を採らなければなりません。「債務者(借主)にはこれこれの財産があります。そして,私(貸主である貴方)には勝訴判決があります。ですから,この財産に対して強制執行をしてください。」と裁判所に申し立てるのです。このときの裁判所は,民事訴訟を担当した裁判官からなる裁判所とは異なる裁判所で,「執行裁判所」と呼ばれます(東京地裁では,民事第21部という部署が執行を担当しています。)。また,執行との対比上,「貸したお金を返せ」と争った事件を「本案」と呼びます。

【いきなり強制執行?】
こんなに遠回しなことをしなければならないのか,「本案」をすっ飛ばしていきなり強制執行の申立てができないかとお思いかもしれません。しかし,そういうことはできないのが原則です。民事執行法22条により,強制執行をするためには「債務名義」と呼ばれるものが必要とされているからです。

【債務名義の意味と種類】
「債務名義」とは何でしょうか。債務名義の定義は「強制執行手続前に別個の法定の権利判定手続によって作成された,債権者の給付請求権の存在を公証する文書」です。難しいですね。これをすごく簡単に言い換えるとすれば「強制執行してもいい権利がありますよということについて国がお墨付きを与えた文書」といったところでしょうか。「債務名義」にはどのようなものがあるかについては,民事執行法22条に列挙されていますが,最も代表的なものが「確定判決(同条1号)」です。もし,借主が控訴した場合,判決は確定しませんが,その場合でも一審の判決が「判決が確定しなくても仮に執行してもいいよ。」という「仮執行宣言」を付けてくれれば,「仮執行の宣言を付した判決(同条2号)」として債務名義になります。また,訴訟を起こし,裁判上で借主と和解した場合も確定判決と同一の効力がある「和解調書(同条7号)」が作成されるので債務名義がもらえます。

【「勝訴判決をもらうこと」の意味】
最初,勝訴判決そのものが意味するところは,裁判所が「借主に対して,貸主(貴方)にお金を支払うように命じているだけ」だとご説明しました。しかし,今見てきたように,「勝訴判決をもらうこと」については,「債務名義を手に入れる」という意味があるのです。

【手続の選択】
もし,貴方が持っているという借用書が「強制執行されても異議ありません。」というような条項が加えられた公正証書(いわゆる執行証書)である場合や,借主が今から公正証書の作成に応じてくれるような場合であれば,その公正証書が債務名義になる(同条5号)ため,改めて本案訴訟を提起する必要はありません。しかし,お手元の借用書はそのような公正証書ではないようですし,現に返済をしない借主が易々と公正証書の作成に協力してくれるとは考えにくく,貴方が債務名義を得るためには裁判所を利用せざるを得ない可能性が高いと思います。このとき,裁判所を利用するとしても,通常の民事訴訟を起こすか支払督促を申し立てるかという手続の選択をする必要があります。支払督促については,当法律相談データベースの151番をご参照ください。弁護士に具体的なご相談をする前提としてお役に立つかと存じます。

【保全手続】
なお,本案で勝訴判決をもらうまでに債務者の財産がなくなってしまうような心配がある場合に,本案で勝訴判決が出るまでの間「仮に」財産を差し押さえるという手続もあります。これについては,当法律相談データベースの「保全」のカテゴリをご参照ください。

【費用の目安】
当事務所に事件処理をご依頼される場合の費用の目安については,
https://www.shinginza.com/fee.htm
こちらのページをご覧ください。具体的な金額については,事案の難易や請求金額によって変動しますが,当事務所報酬規定
https://www.shinginza.com/shinginza-fee.pdf
に従って決定することとなります。

【参照条文】
民事執行法
(債務名義)
第二十二条  強制執行は、次に掲げるもの(以下「債務名義」という。)により行う。
一  確定判決
二  仮執行の宣言を付した判決
三  抗告によらなければ不服を申し立てることができない裁判(確定しなければその効力を生じない裁判にあつては、確定したものに限る。)
四  仮執行の宣言を付した支払督促
四の二  訴訟費用若しくは和解の費用の負担の額を定める裁判所書記官の処分又は第四十二条第四項に規定する執行費用及び返還すべき金銭の額を定める裁判所書記官の処分(後者の処分にあつては、確定したものに限る。)
五  金銭の一定の額の支払又はその他の代替物若しくは有価証券の一定の数量の給付を目的とする請求について公証人が作成した公正証書で、債務者が直ちに強制執行に服する旨の陳述が記載されているもの(以下「執行証書」という。)
六  確定した執行判決のある外国裁判所の判決
六の二  確定した執行決定のある仲裁判断
七  確定判決と同一の効力を有するもの(第三号に掲げる裁判を除く。)

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