新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.422、2006/6/12 15:14 https://www.shinginza.com/qa-jiko.htm

[民事・不法行為]
質問:私は,昨年,青信号に従って横断歩道を歩行中,信号を無視して交差点に進入したバイクに衝突され,半年間の入院を要する怪我をしました。加害者は,高校2年生で任意保険に加入していなかったのですが,自賠責保険から支払われた金額だけでは到底納得できません。加害者の両親に損害賠償を請求することはできるでしょうか。なお,加害車両であるバイクは,加害者の高校生がアルバイト収入で購入したものだということですが,登録名義は高校生の父親の名前になっています。

回答:
1、自賠責保険は,補償対象が対人賠償に限られ,かつ,対人賠償においても補償限度額が定められているため,交通事故の際に発生した損害の全てを填補するものではありません。そこで,自賠責保険によって填補されなかった損害部分については,改めて加害者に損害賠償請求をする必要があり,加害者が任意保険に加入していれば,保険会社による支払がなされることになります。
2、ところで,本件のように,加害者が高校生で支払能力がない場合には,加害者自身から支払をうけることは現実的には困難ですし,任意保険に加入していなければ,保険会社からの支払も受けることができないことになってしまいますが,このような場合は,以下のように,加害者の両親に対して運行供用者責任(自動車賠償責任法3条)に基づく損賠賠償を請求することが可能であるといえます。
3、運行供用者とは,一般に,車の運行についての運行支配と運行利益が帰属する者をいうとされていますが,加害車両を運転していた所有者が未成年者である場合における加害者の親権者については,運行利益を重視することなく,運行供用者責任を肯定する複数の判例があります。すなわち,最高裁昭和50年11月28日判決は,加害車両の所有者でなくても,「その運行を事実上支配管理することができ,社会通念上その運行が社会に害悪をもたらさないよう監視,監督すべき立場にある者は,運行供用者にあたる」という一般論を示した上で,運転者(所有者)が20歳になったばかりの者であること,同居して家業に従事していること,加害車両が実父居宅の庭に保管されていたことを理由とし,登録名義人である実父が,加害車両の運行を事実上支配管理することができ,社会通念上その運行が社会に害悪をもたらさないよう監視,監督すべき立場にあり,運行供用者にあたると判示しています。そして,この最高裁判決を前提に,熊本地裁昭和52年10月25日判決は,高校生が,アルバイト収入で購入し,登録名義人である実父方に保管していた自動二輪車を運転中,歩行者に衝突したという事案において,運転者(所有者)がいまだ高校生で実父の扶養がなければ生活できず,加害車両の維持管理費についても結局,実父の負担に帰するものであることを理由として,運転者の親権者でその監督義務の責任のある実父は,加害車両の運行を事実上支配管理することができ,社会通念上その運行が社会に害悪をもたらさないよう監視,監督すべき立場にあったとし,同人が運行供用者にあたると判示しています。また,東京地裁昭和52年9月8日判決も,未成年者が,実父方に保管していた普通乗用自動車を運転中,原動機付自転車に衝突したという事案において,実父の食住の援助がなかったとすれば,運転者が加害車両の月賦代金及び維持費用の支払いを続けることができなかった事実を認定した上で,加害車両の所有者とは認められない実父(登録名義人)が,加害車両を事実上支配管理することができ,社会通念上その運行が社会に害悪をもたらさないよう監視,監督すべき立場にあったとして,同人が運行供用者にあたると判示しています。平成に入ってからの判例をみても,大阪地裁平成2年5月31日判決は,加害者(19歳の大学生)が通学目的で購入し,代金はアルバイト収入で支払っていた自動二輪車につき,父親と同居し,学費はもとよりその生活自体父親の援助を受けていたこと,同車を父親方玄関前の敷地に駐車させていたことなどを理由に,父親は同車の運行を事実上支配管理することができ,同車の運行が社会に害悪をもたらさないように監視,監督すべき立場にあったとして,父親に運行供用者責任を認めていますし,名古屋地裁平成11年6月18日判決も,加害者(19歳)が自己のアルバイト収入で購入し,同人だけが使用していた原動機付自転車による事故につき,同人が専門学校生徒であり,両親に扶養されていた等の理由から両親に運行供用者責任を認めています。これらの判決を総合すると,判例は,加害車両の運転者が未成年のケースにつき,たとえ,運転者自身が加害車両を購入した場合であっても,親権者の食住の援助がなければ生活することや加害車両の維持管理費用を負担することができず,また,加害車両が親権者の居宅等に保管されているような場合には,親権者が,加害車両を事実上支配管理することができ,社会通念上その運行が社会に害悪をもたらさないよう監視,監督すべき立場にあったとして,運行供用者であると認めているといえます。
4、したがって,本件の場合も,たとえ加害車両のバイクは加害者である高校生が自らのアルバイト収入で購入したものであったとしても,通常,高校生が親権者の食住の援助なく,生活したり,維持管理費用の負担や保管場所の確保をしたりすることはできないでしょうから,両親の運行供用者責任が認められる可能性は高いといえ,あなたとしては,両親へ損害賠償請求を行うことができると思われます。

法律相談事例集データベースのページに戻る

法律相談ページに戻る(電話03−3248−5791で簡単な無料法律相談を受付しております)

トップページに戻る