新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.420、2006/6/8 16:11 https://www.shinginza.com/qa-fudousan.htm

[民事・契約]
質問:今住んでいる家は、敷地は昭和41年7月1日に20年の約束で母が近所の地主から建物所有の目的で借り、建物は母が建てたもので、地主との間で借地契約をしています。当時の賃貸借契約書はありますが、その後のものはなく、母に聞くと、口頭で更新されてきたとのことです。ところで今般、2度目の更新時期を迎えたところ、地主の使いという不動産屋から手紙が来て、この地域には昔から更新料を支払う慣習があるので、更新したければ一括で287万円、分割なら20年間で240回の毎月支払として元利均等月額18,940円を地代に上乗せして支払ってほしいと言われました。払わなければならないでしょうか。この件に関する資料をお送りしますので宜しくお願いします。

回答:
1.資料を拝見しました。不動産屋さんからきた文書には、「○○駅周辺に多くの借地権が存在するのは、戦時中空襲によって焼け野原になったことによる特異な地域性、すなわち、焼け出された被災者たちが雨露をしのぐために残材を掻き集め勝手にバラックを建てて住み着いたところから始まっており、当時は権利云々どころか食料、衣服等が最優先課題でお互い助け合わなければ生きていけない時代で、貸主も借主も共に被災し、温情ある地主はそれを黙認し、黙示の合意を持って権利が発生した経緯があります。そして、この地域では長年商慣習により更新料が支払われており金額については周辺事例等により相場が形成され、またその支払いの有無が賃料の額に反映されています。」などと書かれていて、あたかも昔から更新料を支払う商慣習があったかのような表現で、あなたもお母さんもびっくりされたとのことでしょう。
2.ところで、更新料とは、借地契約を更新するにあたって借地人から地主に対して支払われるお金のことをいいますが、法律には借地法(旧)にも借地借家法(新)にも借地契約の更新時に更新料を支払うという規定はありません。そして、借地期間が満了した場合、地主に正当な理由がなければ地主が承諾しなくとも当該借地契約は当然に更新されるのが原則です(法定更新、借地借家法5条2項)。その意味では、賃貸借契約に更新料の支払い約束がない場合、借地人が地主に更新料を支払う義務を負うものではありません。学説の中には、更新料の支払いが行われている現実をもって「更新料の支払いは既に慣習法ないし事実たる慣習となっている」として借地人に更新料支払い義務があるとする見解もありますが、昭和51年10月1日最高裁判例(判時835号)はこれを否定しています。更新料の額が一定していないこと、仮に借地人の更新料支払義務が存在するとすれば、事実上更新料の支払いを法定更新の要件として加重することになり、借地借家法の趣旨に反する結果ともなること等を考えれば、更新料支払いについて、慣習法ないし事実たる慣習を認めることはできないとの根拠からです。従って、あなたの場合も、賃貸借契約書に更新料に関する合意がないこと、過去の更新の際には支払っておらず商慣習は存在しないこと等を理由として、更新料の請求を拒絶することができます。
3.しかしながら、東京など都会やその周辺では借地契約の更新に当たり更新料の授受がなされるのが一般のようです。この更新料の性格としては、賃料の補充、権利金等の目減り分の補充、異議権放棄の対価、あるいは訴訟回避の利益の対価と説明されることが多く、法律上は支払う義務はないけれども円満な解決のために一定程度の出費を行うというもののようです。ところで、地主と借地人との間で更新時には更新料を支払うという合意があった場合は、更新料の支払いは義務的となり、その不払いの場合は、他の事情と相まって地主と借地人間の信頼関係を破壊するに至った場合には、借地契約の解除原因となると解されています。
4.更新料の額は、契約の経緯、内容、地代改定の動向など、建物の状況と種々の要素を総合的に勘案して決定されますが、一般には借地価格の3〜5%ないし10%、更地価格の数%くらいの金額が相場のようです。借地権価格は土地区域にもよりますが、更地価格の6割〜7割の金額ですので、あなたの場合、土地の路線価235、000円/u×借地面積174.12u×借地権割合7割として借地権の金額が約2、864万円、それに対する10%である286.4万円を切り上げた287万円を更新料額と算定したものと思われます。将来の建て替えや信頼関係維持のために任意に支払う例もあり、地価の下落によってその負担が軽減されることもあります。正式な委任状がない限り不動産屋さんが地主の代理人として交渉することはできませんので、不動産屋さんではなく地主とよく話し合っていただき、折り合いがつかないときには簡易裁判所の調停を利用するのも一つの方法でしょう。

法律相談事例集データベースのページに戻る

法律相談ページに戻る(電話03−3248−5791で簡単な無料法律相談を受付しております)

トップページに戻る