新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.227、2005/3/1 13:23 https://www.shinginza.com/cooling.htm

[民事・消費者]
質問:10日前、家に突然電話がかかってきて「キャンペーンであなたが当選しました。プレゼントを渡したいので取りにきてください」と言われ、指定された場所までプレゼントを取りに行きました。そこは雑居ビル内にある事務所のようなところだったのですが、そこに入った途端、小さな部屋につれていかれ、宝石を買わないかなどという話を1時間近くされました。私は宝石など欲しくなかったのですが、あまりにもしつこかったので、つい買ってしまいました。翌日、冷静になって考えてみるとやはり宝石は必要ないと思ったので、私はその事務所にクーリングオフをしたいと電話をかけました。ところが事務所の人は「あなたはうちの店に宝石を買いに来たんだ。あなたの家を訪問して販売したわけでもないし、訪問販売に当たらないのでクーリングオフなどできない」と言われてクーリングオフは出来ないものだと思い込んでしまいました。でもやはり納得がいきません。本当にクーリングオフは出来ないのでしょうか。

回答:
1、クーリングオフは可能です。クーリングオフとは、訪問販売・電話勧誘販売・連鎖販売取引・特定継続的役務提供など特定の取引において、一定の期限内であれば無条件に取引を解約することができるという制度のことをいいます(クーリングオフは特定商取引法に定められているものの他、業界の自主規制、当事者による任意の合意などにより設定されますが、本稿では特定商取引法に定められているものについて解説します)。この制度は予期せぬ事態において冷静な判断力を失って契約を結んでしまった消費者に冷静になって考え直す機会を与えることをその趣旨としています。ですので、自分の意思でお店に行って買い物をしたような場合には、クーリングオフ制度を使うことは出来ません。
2、これを本件について見てみると、確かに相談者の方は自らお店に出向いていますので、訪問販売等には該当しないようにも思えます。ここで「訪問販売」について定義している特定商取引法2条1項1号・2号を見てみると、「販売業者又は役務提供事業者が、営業所等において、営業所等以外の場所において呼び止めて営業所等に同行させた者その他政令で定める方法により誘引した者(以下「特定顧客」という。)」と規定されており、これを受けた政令1条にキャッチセールスと並んでアポイントメントセールスも「特定顧客」として規定されています。
3、アポイントメントセールスとは電話やメールでお客さんに営業所等に来るようにとのアポイントメント(約束)をとりつけ、そこで特定の商品等を販売する契約を締結することをいいます。アポイントメントセールスにも販売目的隠匿型と有利条件告知型があり、前者は「プレゼントをあげるから事務所まで来てください」などと言って商品等の販売が目的であることを秘匿して営業所等に呼び出し、契約をするものであり、後者は「あなたは特別に選ばれた人なので、特価でお売りします」などと言って、営業所に呼び出し、契約をするというものです。
4、以上を前提に本件を見てみますと、販売業者はもともと宝石を売るつもりであったのにその目的を秘匿して相談者の方に電話をかけ「プレゼントを渡したいので」と告げて営業所まで来るようにアポイントをとり、営業所まで来させた上で宝石を販売しておりますので、上記アポイントメントセールスの販売目的隠匿型に当てはまり、したがってこれは特定商取引法にいうところの「訪問販売」に該当することになります。
5、「訪問販売」に当たる場合には、理由の如何を問わず、書面を受領した日から8日以内であればクーリングオフをすることが出来ます。ここに言う「書面」とは法4条、5条に規定されている法定書面のことであり、目的物の特定に関する事項、代金の支払・商品の引渡し等に関する事項、当事者間の確定に関する事項、クーリングオフに関する事項等を記載しなければならないとされています。必要事項が記載されていない書面を交付された場合には、法定書面の交付を受けていないことになりますので、結局クーリングオフの期間制限の起算日である「書面を受領した日」というものが観念できなくなり、クーリングオフ期間が延長されることになります。書面の交付自体がない場合も同様です。
6、本件でも法定書面が交付されていないのであれば、今からでも販売業者に対して書面をもってクーリングオフをすることが出来ます。一方、契約をした際に法定書面が交付されている場合には、既に書面の受領から8日が経過しているので、クーリングオフすることができないことになります。しかし、このような場合でも、事業者がクーリングオフを回避ないし妨害し、それによって消費者が期間内にクーリングオフしなかったと認められる場合には、例外的に消費者はなおクーリングオフをすることが出来ます(法9条1項1号)。
7、クーリングオフをすることが出来る期間は、消費者が事業者からクーリングオフを行うことが出来るとの説明を受け、その旨記載した書面(省令7条の2第1項)を受領した日から8日間です。これを本件についてみてみると、本件契約は訪問販売にあたり8日以内であればクーリングオフすることが出来るのに、販売者は「クーリングオフできない」と不実の告知をし、そのことによって相談者の方はクーリングオフすることが出来ないと思い込んでクーリングオフの期間が徒過してしまっているのですから、相談者の方は事業者からクーリングオフをすることが出来るとの説明を受け、その旨の書面を交付され、そこから8日間経過するまではクーリングオフをすることが出来ます。

法律相談事例集データベースのページに戻る

法律相談ページに戻る(電話03−3248−5791で簡単な無料法律相談を受付しております)

トップページに戻る