薬剤師・看護職の資格と行政処分

薬剤師・保健師・助産師・看護師・准看護師の行政処分

法令・公的資料確認日:2026年9月27日

罰金を受けたら、仕事を続けられなくなるのでしょうか。交通違反、業務上の不正、調剤・医療事故などを理由とする資格への行政処分について、刑事処分との違い、手続、準備する資料、処分後の対応を説明します。

罰金刑を受けても、資格が自動的に取り消されるわけではありません。一方、刑事事件が不起訴で終わっても、業務上の不正や品位を損なう行為が別途認定されれば、行政処分の対象となる場合があります。通知が届いたときは、処分の原因とされる事実、予定される処分、提出期限・期日を確認してください。

質問

私は薬剤師です。高速道路でのスピード違反により、罰金刑を受けました。薬剤師免許が取り消されたり、仕事を停止されたりするのでしょうか。行政から通知が届いた場合、どのように対応すればよいですか。保健師、助産師、看護師、准看護師の場合も教えてください。

回答

  1. 罰金以上の刑を受けたことは行政処分の理由となり得ますが、処分の有無・種類・期間は個別に判断されます。違反の内容、被害の程度、前歴、反省、再発防止策などを確認する必要があります。
  2. 薬剤師と看護職の資格に対する処分は、戒告、3年以内の業務停止、免許取消しです。法律上の「業務停止」を、運転免許の「免許停止」と混同しないでください。
  3. 薬剤師・保健師・助産師・看護師の処分権者は厚生労働大臣、准看護師は都道府県知事です。准看護師についても一律に厚生労働大臣が処分するわけではありません。
  4. 交通反則告知書、いわゆる青切符による反則金は罰金刑ではありません。まず、反則金の納付なのか、裁判所の略式命令等による罰金刑なのかを確認してください。
  5. 速度違反を「戒告又は1か月の停止で済む」と一律に予測することはできません。飲酒運転、ひき逃げ、危険運転、被害の重大性等によっては重い処分が検討されます。
  6. 通知が届いた場合は、刑事記録や再発防止に関する資料を整理し、意見聴取・弁明の段階から対応します。処分後は不服申立て等の期限がありますので、早めの相談が重要です。

解説1.行政処分の種類と、誰が決めるか

資格ごとの処分権者・根拠法
資格処分権者主な根拠・意見を聴く機関等
薬剤師厚生労働大臣薬剤師法5条・8条。医道審議会の意見を聴いて判断します。
保健師・助産師・看護師厚生労働大臣保健師助産師看護師法9条・14条1項・15条。医道審議会の意見を聴いて判断します。
准看護師都道府県知事同法14条2項・15条2項。准看護師試験委員の意見を聴いて判断します。

医道審議会は厚生労働省の審議会であり、都道府県の担当課そのものではありません。都道府県の担当課は、事実確認や通知、法令に基づく意見聴取等を担当する場合があります。准看護師については、実際に東京都准看護師試験委員会の議事概要にも行政処分に関する議題が掲載されています。

処分意味と注意点
戒告責任を問い、将来を戒める行政処分です。戒告そのものは業務を停止させる処分ではありませんが、再教育研修命令等への対応が必要となる場合があります。
3年以内の業務停止命じられた期間、対象となる資格業務を行えません。勤務先を変えても停止の効力を避けることはできません。
免許取消し資格を失います。後述の再免許は別途判断され、一定期間が過ぎれば自動的に復活する制度ではありません。

行政指導としての「厳重注意」と、法律上の処分である「戒告」は別です。また、薬剤師免許の処分、薬局開設許可・保険薬剤師登録等の処分、勤務先の懲戒処分、運転免許の処分は、それぞれ根拠と効果が異なります。

解説2.どのような場合に行政処分が問題になるか

薬剤師法5条・8条、保健師助産師看護師法9条・14条は、罰金以上の刑に処せられた場合、薬事又は当該資格の業務に関する犯罪・不正があった場合、各資格の品位を損なう行為があった場合などを対象としています。心身の障害に関する省令所定の事由や、法律に定める薬物中毒の事由もあります。

刑事処分と行政処分は、目的が異なります

刑事手続は犯罪に対する刑罰を定める手続です。資格に対する行政処分は、資格業務の適正さや国民の信頼を確保する観点から行われます。そのため、刑事裁判で罰金となったから行政でも軽い処分に限られる、執行猶予が付いたから資格には影響しない、とはいえません。

反対に、不起訴という結果だけで行政処分の可能性が完全になくなるわけでもありません。不起訴の理由と認定できる事実を区別し、業務上の不正・品位を損なう行為等の要件を検討します。疑いがあるだけで処分が当然に正当化されるわけではなく、対象行為と証拠を具体的に確認することが大切です。

心身の障害や病名だけで、一律に資格を失うわけではありません

省令は、業務に必要な認知・判断・意思疎通を適切に行う能力との関係で要件を定めています。免許申請時には、障害を補う手段や治療による軽減の状況を考慮する規定もあります。病名や通院歴だけから結論を出さず、業務遂行能力、治療・支援の状況を医学的資料とともに整理します。精神科への相談や治療を受けること自体を不利益の理由と誤解しないでください。

旧資料の法令名・条項・刑罰名には注意

旧「薬事法」は現在の医薬品医療機器等法(薬機法)です。2025年6月1日からは拘禁刑が導入されましたが、施行前の行為には経過措置があります。古い通知・裁判例にある懲役・禁錮、性犯罪の罪名、大麻関係法の名称等は、当時の表記です。本記事では現行の条文を参照し、行為時に適用される法令は別に確認します。

解説3.交通違反――反則金と罰金を区別する

青切符による反則金の納付は、刑罰である罰金とは異なります。鳥取県の医療従事者の免許手続の案内でも、この違いが説明されています。一方、裁判所の略式命令で罰金を受けた場合は、正式な公判が開かれていなくても罰金刑です。

ただし、「罰金刑ではない」という点と、「行為の内容が資格上まったく問題にならない」という点は別です。免許申請書等の質問は正確に読み、行政からの照会には確認した事実に基づいて回答してください。報告・申告の要否や方法は、資格、手続の段階、通知内容により確認します。

薬剤師の交通事犯についての公的な考え方

厚生労働省の2021年6月14日改正の通知は、一定の交通事犯について戒告等を基本とする一方、酒気帯び・酒酔い運転、ひき逃げ等を重く扱うことを示しています。この考え方は、すべての速度違反について処分を一律に決める表ではありません。超過速度、道路状況、事故・被害、飲酒、救護、反復性等を確認します。

実際に、2025年7月2日の薬剤師倫理部会の議事概要(PDF)には、危険運転致傷の事案について業務停止2年とする答申が掲載されています。これは個別事案の答申であり、速度違反一般に適用する期間ではありませんが、交通事犯でも長期の停止が問題となり得ることを示しています。

看護職にも同じ処分期間が当てはまるわけではありません

看護職についても、ひき逃げ、救護・通報義務違反、危険運転などは、人の生命・身体の安全を守る職責との関係で検討されます。薬剤師の方針をそのまま看護師や准看護師の処分期間に置き換えず、それぞれの法令・公的方針と事情を確認する必要があります。

解説4.業務上の不正・事故等で重視されること

主な判断の観点は、厚生労働省の薬剤師及び看護職に関する処分方針に示されています。罪名だけでは分からない業務との関係、被害、行為の悪質性、再発防止策などを検討します。

主な場面確認すべき事情
無資格業務・職務上の義務違反資格を要する行為を誰が行ったか、適法な補助業務との区別、指示・監督の実態、故意・反復性、患者への危険。薬剤師では処方箋に基づく調剤、疑義照会、必要な情報提供・薬学的指導、適正な記録等が重要です。
調剤過誤・医療事故注意義務違反、結果、事前に得られた情報、勤務・管理体制、他の職員との役割分担、事故後の報告・検証。同じ事故でも各人の責任を区別します。
薬物関係の違反取扱い、持出し・譲渡・使用等の実態、職務上の知識や立場の利用、患者や第三者への危険、治療・再発防止の状況。
暴力・性犯罪・患者への不適切行為人権・身体の安全の侵害、患者との力関係、職務の機会の利用、被害の程度。勤務時間外の行為でも対象になり得ます。
窃盗・詐欺・文書偽造・不正請求患者の財産や薬剤の持出し、虚偽の記録・処方箋等、診療・調剤・介護報酬の不正への関与、立場の利用、組織的な指示、認識・利益・期間等。

「上司の指示だった」「人手が足りなかった」と説明するだけでは十分ではありません。業務分担や指示系統、照会・報告の記録などにより、個人の行為と組織の問題を具体的に明らかにします。患者への対応を優先し、記録の改変や関係者との口裏合わせを行わず、適法に資料を保存してください。

看護職の方針は、2016年12月14日改正「保健師助産師看護師に対する行政処分の考え方」(PDF)を参照できます。近年の審議例として、2025年8月19日の看護倫理部会では、諮問された33名のうち22名を行政処分、11名を行政指導(厳重注意)とする答申がなされています。処分と指導の区別にも注意が必要です。

解説5.意見聴取・弁明の手続と、準備する資料

処分を決める前に、事実と事情を伝えます

薬剤師法8条、保健師助産師看護師法15条等には、処分前に本人の意見・弁明を聴く手続が定められています。免許取消しでは聴聞又はこれに代わる意見の聴取、業務停止では弁明の機会の付与又はこれに代わる弁明の聴取などが問題となります。処分の種類と実施方法によって手続が異なるため、まず通知書を確認してください。

厚生労働大臣が都道府県知事に聴取を求める場合のほか、法律所定の場合に審議会委員が弁明を聴く方法もあります。准看護師には知事の処分に対応した別の規定があります。「医道審議会の委員全員の前で本人が話す手続」と一律に理解することは正確ではありません。

  1. 通知を確認:予定される処分、根拠条文、原因事実、期日、提出先・期限を確認し、封筒と受領日も記録します。
  2. 資料と争点を整理:認める事実、争う事実、追加説明が必要な事情を分けます。閲覧等が認められる資料と申請方法は、手続の種類に応じて確認します。
  3. 意見書・弁明書と証拠を準備:口頭説明だけに頼らず、経緯と根拠資料を対応させます。弁護士を代理人とすることも検討できます。
  4. 聴取と審議・処分:聴取結果等が報告され、必要な審議等を経て、処分権者が判断します。聴取の場で述べた希望が、そのまま処分内容になるわけではありません。
相談・弁明に向けて用意したい資料
資料確認する内容
行政からの書類通知書、照会書、提出済みの回答、処分書、受領日、担当部署との連絡記録。
刑事事件の資料判決・略式命令、確定の状況、不起訴の通知等、入手可能な関係記録。刑事弁護人とも対応を整理します。
事実関係の資料時系列表、職務内容、業務手順、報告・照会記録、勤務体制、事故調査資料。患者情報等の持出しは適法性を確認します。
被害への対応謝罪・示談・賠償の経過と資料。被害者への接触が不適切な場合は、直接連絡せず弁護士と相談します。
再発防止策研修受講、具体的な業務改善、監督・点検体制、交通安全対策、必要な治療や支援の継続など、既に実施した内容。

反省文は、形式的な謝罪や「仕事を失うと困る」という事情だけでなく、原因の理解と実行可能な改善を説明する資料です。事実を争う場合には、安易に事実と異なる自認をせず、法的評価と改善への姿勢を区別して整理します。免許・勤務への影響が大きいため、刑事事件の段階から行政上の問題も見据えることが役立ちます。

解説6.行政の裁量と判例――重い処分は争えるか

最高裁昭和63年7月1日第二小法廷判決

医師の医業停止に関する判決です。最高裁は、対象行為の性質・違法性、動機、影響、処分歴、反省等の事情を踏まえる判断について、厚生大臣の合理的な裁量を認めました。その一方、社会観念上著しく妥当性を欠き、裁量の目的を逸脱・濫用する処分は違法となる枠組みを示しています(昭和61年〔行ツ〕第90号)。

薬剤師や看護職の事件そのものについての判決ではありませんが、資格への行政処分を考える際の参考となります。職種ごとの法律、行為、業務への影響を確認して検討します。QA1569に判決の紹介と関連解説があります。

東京地裁平成18年2月24日判決

抗がん剤の過剰投与による死亡事故をめぐる医師の行政処分について、裁判所は、刑事責任の評価とは区別して、医師の能力や注意義務、事故への関与等を検討し、取消請求を棄却しました。刑事の量刑や他の関係者の処分との比較だけで結論が決まらないことを示す例です。判決全文(裁判所PDF)。当時の法令による事案であり、判決中の停止期間を現在の法定上限にそのまま当てはめることはできません。

違法性を検討する際の具体的な観点

  • 処分の前提となった事実を誤って認定していないか。
  • 被害への対応や再発防止策など、考慮すべき重要な事情を見落としていないか。
  • 同種事案との相違を説明できない、不合理に重い判断となっていないか。
  • 予定された処分や原因事実が適切に通知され、必要な手続・理由提示が行われたか。

行政事件訴訟法30条は、裁量権の範囲を超え又は濫用がある場合の取消しを定めています。「同じ罪名で軽い処分の人がいる」ことだけで違法になるわけではありません。具体的な事情と判断過程を比較する必要があります。

解説7.処分後の不服申立て・取消訴訟・執行停止

処分を受けた場合は、処分書の理由、処分開始日、不服申立先・期間等の教示を直ちに確認します。一般的な期間は次のとおりですが、適用される特則や正当な理由の有無、審査請求後の出訴期間等を個別に確認してください。

手段原則となる期間・効果
審査請求処分を知った日の翌日から3か月以内。原則として処分の日の翌日から1年という制限もあります(行政不服審査法18条)。違法・不当な点を具体的に示します。
取消訴訟処分を知った日から6か月以内。原則として処分の日から1年という制限もあります(行政事件訴訟法14条)。適法な審査請求をした場合等には裁決を基準とする特則があります。
執行停止審査請求又は取消訴訟を起こすだけでは処分の効力は止まりません。必要な場合、別途、執行停止を申し立て、その要件を満たす事情を示します(両法25条)。

執行停止では、重大な損害を避ける緊急の必要性、回復の困難さ、公共の福祉への影響、本案の見込み等が問題となります。失職や診療・調剤体制への影響を具体的な資料で説明する一方、患者の安全に関する事情も検討します。申立てをしただけで業務を続けてよいわけではありません。

停止期間が短い事件でも、放置すると実際に業務停止が始まってしまいます。弁護士への相談や行政への問い合わせだけで期限が延びることもありません。通知・処分書を受け取った日が分かる資料を持参してください。

解説8.再教育・復職・再免許

戒告・業務停止を受けた人や再免許を受けようとする人に対し、薬剤師法8条の2、保健師助産師看護師法15条の2に基づく再教育研修が命じられることがあります。職種に応じた倫理・知識・技能の研修、修了の報告・登録等を確認します。准看護師については都道府県知事による制度です。

業務停止の終了、再教育の修了・登録、管理者の要件、勤務先の人事判断は別々の問題です。研修が未修了でも何も問題がないと考えず、命令内容と必要な手続を確認しましょう。薬剤師では、再教育未修了の場合、業務停止期間の経過後も行政処分情報の公表が続く取扱いがあります(厚生労働省の薬剤師資格確認検索)。

免許取消し後の再免許は、取消理由がなくなったことやその後の事情等から、再び免許を与えることが適当と認められるかの判断を要します。罰金以上の刑、業務上の犯罪・不正、品位を損なう行為を理由とする取消しには、取消日から5年を経過していない人を除く規定があります。5年経てば当然に再免許される、という意味ではありません。

主な法令・公的資料・PDF

旧稿の2007年の処分事例集に代え、現行条文、改正された処分方針、近年の公表資料を参照できるよう整理しました。公表資料は匿名の概要であり、個別の処分結果を予測する一覧表ではありません。

通知・判例の年月日は資料の作成・判断時点を示しています。古い罪名等の表記が残る資料は、その時点の法令に基づくものとして参照してください。

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