最終改訂(平成16年5月31日、令和7年9月4日追記)
1、親権(民法818条)には、財産上の管理権と、身分上の監護権とが含まれます。前者は法定代理人としての財産管理権であり、後者は同居して現実に養育・教育をしていく権限です。両親が結婚中は、夫婦が共同で親権を行使しますが、離婚する場合は、どちらか一方を親権者に決めて、離婚届に記入しなければなりません。
2、両親が離婚する場合、親権のうち、「同居して懲戒・教育する」という権限だけを「監護権」として分離させることができます。民法766条で規定されています。但し、戸籍や住民票の記載事項ではありませんので、市役所に届け出をすることはできません。監護権者を決める場合は、家庭裁判所の調停で調停調書を作成するか、弁護士に協議離婚合意書の作成を依頼するなどの手続が必要です。
3、親権や監護権を決める話し合いがまとまらないときは、家庭裁判所に調停を申し立てて、裁判所で話し合いをします。それでもどうしてもまとまらない場合は、家事審判や離婚裁判で強制的に裁判所に決めてもらいます。
4、親権者を決めるにあたって重要なポイントは子供の年齢です。実務の考え方では子供は母親のもとで育てられた方が保育学上子供の福祉にかなうと考えられています。判断の分岐点として13才前後であれば子供に自由意思ありとして子供の意思を尊重する判断が下りやすく、逆にその年齢以前であれば母親を親権者とする判断が下されやすいです。お子さんが2人以上いる場合も同じです。
5、親権や監護権を持たない方の親は、1ヶ月~3ヶ月に1回程度子供と面会することを要求できます。これを面接交渉権といいます。権利といっても,具体的に条文に記載されているわけではなく,解釈上,親子という身分関係から当然発生する自然権であるとか,監護に関連する権利であるなどといわれています。裁判手続きとしては,家事審判法9条乙類4に規定する子の監護に関する事項として扱われていると考えられます。したがって,親権や監護権者を決める場合は、あわせて面接交渉の頻度や方法についても取り決めをしておくと良いでしょう。約束が守られなかった場合の違約金を決めることもあります。面接交渉についての話し合いがまとまらないときも、調停や審判により裁判所に決めてもらうことができます。
6、子供の引渡について、調停や審判で認められた権利がある場合には、裁判所の強制執行で引渡を請求することができますが、相手が応じない場合には間接強制と言って1日数万円の支払いを命ずることしかできません(民事執行法172条)。間接強制のお金については給料差し押さえなどで強制的に弁済を得ることができます。
7、子供を取り返す方法として、人身保護法に基づいて、地方裁判所に人身保護請求の申立をする方法もあります。この手続は、緊急の場合に認められる手続ですから、両親が離婚する前は、義務教育が受けられないなど特殊な事情がない限り認められません。人身保護請求の申立が認められると、指定日時に裁判所に出頭するように命令が下ります。命令に従わない拘束者は拘引し、命令に従うまで勾留し、1日ごとに過料を課すことがあります(法18条)。申立後1週間以内に審問期日が開かれ(法12条)、審問から5日以内に判決言い渡しされる(規則36条)など、迅速な手続となっています。弁護士にご相談になると良いでしょう。
8、厚生労働省が発表している人口動態調査統計(H12.5.10)に基づく、親権者割合はこちら。その1、その2。
9、最高裁が発表している司法統計年報(H15.7.10)から、調停・審判における親権者・監護権者の指定状況はこちら。
※注(令和7年9月4日追記)令和6年5月に改正民法(令和6年法律第33号)が成立し、令和8年5月までに共同親権を定める改正民法が施行予定です。改正後の手続きについて、本稿とは異なる場合がありますので、別途弁護士に御相談下さるようお願い致します。
法務省の解説パンフレット本改正は、離婚後も子の利益を最優先に確保する観点から、親の責務の明確化、親権・養育費・親子交流・財産分与・養子縁組等の実務ルールを総合的に見直すものです。
【親の責務の明確化】
父母は婚姻や親権の有無にかかわらず、子を養育・扶養する責務を負い、子の意見に耳を傾け人格を尊重します。生活保持義務(親と同程度の生活水準の維持)を確認し、父母は互いの人格尊重・協力義務を負います。親権は常に子の利益のために行使します。
【離婚後の親権】
従来の「単独親権のみ」から、父母双方の合意または家庭裁判所の判断で「共同親権」も選択可能になります。もっとも、虐待やDVのおそれ、その他共同行使が困難な事情があるときは必ず単独親権とされます。既に単独親権の定めがある事案は自動で共同に変わりませんが、子本人や親族の申立てにより家裁が変更を判断し得ます(不当な養育費不払い等がある場合は共同化が認められにくいと示されています)。認知された子でも父母双方を親権者とできます。
【共同親権の運用】
原則は共同行使ですが、①監護教育に関する日常の行為(食事・服装の決定、短期間の観光目的の旅行、心身に重大な影響を与えない医療行為、通常のワクチン接種、習い事の決定、高校生の放課後アルバイトの許可など)、②子の利益のため急迫の事情がある場合は一方で単独行使が可能です。意見対立がある特定事項については、家裁が「親権行使者」を指定できます。離婚時に「監護の分担」や「監護者」を定めた場合、監護者は日常に限らず居所・職業・教育等の決定を単独で行えます。なお、こどもの転居、進路に影響する進学先の決定(例:高校に進学せず就職する等の重大判断を含む)、心身に重大な影響を与える医療行為の決定、財産の管理(例:預金口座の開設など)、未成年者のパスポート申請の同意などは原則通り共同行使です。
【養育費の確保】
合意の実効性を高めるため、養育費債権に先取特権が付与され、債務名義がなくても父母間の合意文書に基づく差押申立てが可能になります(適用範囲は省令で定まる予定、施行前の取決めは施行後に生ずる分から適用)。さらに、離婚時に取決めがなくても請求できる「法定養育費」を新設しました(離婚の日から毎月末払、①父母が取決め②家裁審判確定③子が18歳到達のいずれか早い時まで。生活保護受給等で支払不能・著しい窮迫を立証すれば拒否可。施行後離婚に限る)。手続の利便性として、地方裁判所への一括申立てで、財産開示→市区町村への給与情報提供命令→給与差押命令までを連続して申し立て可能となります。
【親子交流】
家裁手続中に「試行的実施」を促す制度を設け、実施状況を踏まえて調停・審判に活かします。婚姻中別居の交流については、協議または審判で定め、子の利益を最優先にします。祖父母・兄弟姉妹等との交流も、子の利益のため特に必要があるときは家裁が定め得て、祖父母・兄弟姉妹・過去に監護した親族は一定の場合に申立て可能です。
【財産分与】
請求期間を離婚後2年→5年に延長。考慮要素を明確化し、取得・維持への寄与は家事・育児を含め原則2分の1ずつと位置づけます。財産情報の開示命令等も整備されます。
【養子縁組】
縁組後の親権者を明確化(普通養子は養親のみ、連れ子養子は養親とその配偶者である実親が共同)。父母双方が親権者で意見が割れる場合、家裁が親権行使者を指定できる手続を新設します。
【その他】
夫婦間契約の一方的取消し規定を削除。強度の精神病を裁判離婚事由とする規定も削除しています。
施行前の離婚には法定養育費は不適用です。先取特権は施行後に発生する養育費に限り適用されます。DV・虐待の恐れや合理性を欠く不払いがある場合は共同親権が制限・困難となる点が明示されています。
※参照条文
(令和6年5月改正前民法)
(親権者)
第八百十八条 成年に達しない子は、父母の親権に服する。
2 子が養子であるときは、養親の親権に服する。
3 親権は、父母の婚姻中は、父母が共同して行う。ただし、父母の一方が親権を行うことができないときは、他の一方が行う。
(離婚又は認知の場合の親権者)
第八百十九条 父母が協議上の離婚をするときは、その協議で、その一方を親権者と定めなければならない。
2 裁判上の離婚の場合には、裁判所は、父母の一方を親権者と定める。
3 子の出生前に父母が離婚した場合には、親権は、母が行う。ただし、子の出生後に、父母の協議で、父を親権者と定めることができる。
4 父が認知した子に対する親権は、父母の協議で父を親権者と定めたときに限り、父が行う。
5 第一項、第三項又は前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所は、父又は母の請求によって、協議に代わる審判をすることができる。
6 子の利益のため必要があると認めるときは、家庭裁判所は、子の親族の請求によって、親権者を他の一方に変更することができる。
(令和6年5月改正民法、共同親権導入後)
(親の責務等)
第八百十七条の十二 父母は、子の心身の健全な発達を図るため、その子の人格を尊重するとともに、その子の年齢及び発達の程度に配慮してその子を養育しなければならず、かつ、その子が自己と同程度の生活を維持することができるよう扶養しなければならない。
2 父母は、婚姻関係の有無にかかわらず、子に関する権利の行使又は義務の履行に関し、その子の利益のため、互いに人格を尊重し協力しなければならない。
(親子の交流等)
第八百十七条の十三 第七百六十六条(第七百四十九条、第七百七十一条及び第七百八十八条において準用する場合を含む。)の場合のほか、子と別居する父又は母その他の親族と当該子との交流について必要な事項は、父母の協議で定める。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない。
2 前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所が、父又は母の請求により、同項の事項を定める。
3 家庭裁判所は、必要があると認めるときは、父又は母の請求により、前二項の規定による定めを変更することができる。
4 前二項の請求を受けた家庭裁判所は、子の利益のため特に必要があると認めるときに限り、父母以外の親族と子との交流を実施する旨を定めることができる。
5 前項の定めについての第二項又は第三項の規定による審判の請求は、父母以外の子の親族(子の直系尊属及び兄弟姉妹以外の者にあっては、過去に当該子を監護していた者に限る。)もすることができる。ただし、当該親族と子との交流についての定めをするため他に適当な方法があるときは、この限りでない。
(親権)
第八百十八条 親権は、成年に達しない子について、その子の利益のために行使しなければならない。
2 父母の婚姻中はその双方を親権者とする。
3 子が養子であるときは、次に掲げる者を親権者とする。
一 養親(当該子を養子とする縁組が二以上あるときは、直近の縁組により養親となった者に限る。)
二 子の父母であって、前号に掲げる養親の配偶者であるもの
(離婚又は認知の場合の親権者)
第八百十九条 父母が協議上の離婚をするときは、その協議で、その双方又は一方を親権者と定める。
2 裁判上の離婚の場合には、裁判所は、父母の双方又は一方を親権者と定める。
3 子の出生前に父母が離婚した場合には、親権は、母が行う。ただし、子の出生後に、父母の協議で、父母の双方又は父を親権者と定めることができる。
4 父が認知した子に対する親権は、母が行う。ただし、父母の協議で、父母の双方又は父を親権者と定めることができる。
5 第一項、第三項又は前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所は、父又は母の請求によって、協議に代わる審判をすることができる。
6 子の利益のため必要があると認めるときは、家庭裁判所は、子又はその親族の請求によって、親権者を変更することができる。
7 裁判所は、第二項又は前二項の裁判において、父母の双方を親権者と定めるかその一方を親権者と定めるかを判断するに当たっては、子の利益のため、父母と子との関係、父と母との関係その他一切の事情を考慮しなければならない。この場合において、次の各号のいずれかに該当するときその他の父母の双方を親権者と定めることにより子の利益を害すると認められるときは、父母の一方を親権者と定めなければならない。
一 父又は母が子の心身に害悪を及ぼすおそれがあると認められるとき。
二 父母の一方が他の一方から身体に対する暴力その他の心身に有害な影響を及ぼす言動(次項において「暴力等」という。)を受けるおそれの有無、第一項、第三項又は第四項の協議が調わない理由その他の事情を考慮して、父母が共同して親権を行うことが困難であると認められるとき。
8 第六項の場合において、家庭裁判所は、父母の協議により定められた親権者を変更することが子の利益のため必要であるか否かを判断するに当たっては、当該協議の経過、その後の事情の変更その他の事情を考慮するものとする。この場合において、当該協議の経過を考慮するに当たっては、父母の一方から他の一方への暴力等の有無、家事事件手続法による調停の有無又は裁判外紛争解決手続(裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律(平成十六年法律第百五十一号)第一条に規定する裁判外紛争解決手続をいう。)の利用の有無、協議の結果についての公正証書の作成の有無その他の事情をも勘案するものとする。
(親権の行使方法等)
第八百二十四条の二 親権は、父母が共同して行う。ただし、次に掲げるときは、その一方が行う。
一 その一方のみが親権者であるとき。
二 他の一方が親権を行うことができないとき。
三 子の利益のため急迫の事情があるとき。
2 父母は、その双方が親権者であるときであっても、前項本文の規定にかかわらず、監護及び教育に関する日常の行為に係る親権の行使を単独ですることができる。
3 特定の事項に係る親権の行使(第一項ただし書又は前項の規定により父母の一方が単独で行うことができるものを除く。)について、父母間に協議が調わない場合であって、子の利益のため必要があると認めるときは、家庭裁判所は、父又は母の請求により、当該事項に係る親権の行使を父母の一方が単独ですることができる旨を定めることができる。
(監護者の権利義務)
第八百二十四条の三 第七百六十六条(第七百四十九条、第七百七十一条及び第七百八十八条において準用する場合を含む。)の規定により定められた子の監護をすべき者は、第八百二十条から第八百二十三条までに規定する事項について、親権を行う者と同一の権利義務を有する。この場合において、子の監護をすべき者は、単独で、子の監護及び教育、居所の指定及び変更並びに営業の許可、その許可の取消し及びその制限をすることができる。
2 前項の場合には、親権を行う者(子の監護をすべき者を除く。)は、子の監護をすべき者が同項後段の規定による行為をすることを妨げてはならない。
(子に代わる親権の行使)
第八百三十三条 父又は母が成年に達しない子であるときは、当該子について親権を行う者が当該子に代わって親権を行う。