2026年10月2日更新
離婚時の年金分割は、婚姻期間中の厚生年金の記録を分け、将来の年金額に反映させる制度です。相手が受け取る年金総額の半分を、そのまま受け取れる制度ではありません。2026年4月からの請求期限の改正、合意分割と3号分割、必要書類、裁判所で割合を決めた後の手続まで、順を追って説明します。
1 2026年改正:請求期限は離婚日によって異なります
令和7年法律第74号による改正で、年金分割の請求期限が延長されました。2026年4月1日以後の離婚等は原則5年以内、それより前の離婚等は原則2年以内です。起算は離婚等をした日の翌日からです。以前に離婚した方の期限が一律に5年へ延びるわけではありません。
| 離婚等の日 | 原則の請求期限 |
|---|---|
| 2026年3月31日以前 | 離婚等をした日の翌日から起算して2年以内 |
| 2026年4月1日以後 | 離婚等をした日の翌日から起算して5年以内 |
期限内に必要なのは、原則として年金事務所等への分割請求です。離婚協議書に書いた、情報通知書を取った、相手へ連絡した、というだけでは完了しません。合意分割・3号分割のいずれも、早めに窓口で期限と書類を確認しましょう。
2 何を分ける制度ですか
分ける対象は、年金額を計算する基礎となる標準報酬月額・標準賞与額の記録です。婚姻期間に対応する記録を改定し、その後は各自の記録に基づいて年金を計算します。元配偶者から毎月送金を受ける仕組みではありません。
| 種類・期間 | 取扱いの基本 |
|---|---|
| 厚生年金の報酬比例部分 | 婚姻期間中の対象記録を分割します。双方が会社員等だった期間も検討します。 |
| 国民年金の老齢基礎年金 | この年金分割では分けません。自分の加入・納付記録を別途確認します。 |
| 婚姻前・離婚後の記録 | 当該婚姻の年金分割の対象には原則として入りません。一定の事実婚期間の扱いは確認が必要です。 |
| 公務員等の加入期間 | 共済組合等が関わる記録を含め、加入歴を窓口へ伝えて確認します。旧共済年金の給付すべてを一律に半分にするものではありません。 |
| 企業年金・個人年金・退職金等 | 公的年金の分割と同じ手続で当然に分けられるものではありません。制度・契約・積立時期・評価額を調べ、財産分与の問題として別途検討します。厚生年金基金の代行部分等は区別が必要です。 |
妻から夫への分割もあり、現在の収入だけではどちらが分割を受ける側か決まりません。婚姻中の双方の年金記録を確認します。自営業中心で国民年金のみの期間が長い場合も、過去に厚生年金の加入期間がなかったかを確かめてください。
3 合意分割と3号分割の違い
| 項目 | 合意分割 | 3号分割 |
|---|---|---|
| 基本的な対象 | 2007年4月1日以後の離婚等。婚姻期間中の双方の対象記録 | 2008年5月1日以後の離婚等。2008年4月1日以後の婚姻期間中の第3号被保険者期間に対応する記録 |
| 割合 | 情報通知書に示される範囲内で定めます。上限は0.5 | 対象記録を2分の1ずつ |
| 相手の合意 | 合意または裁判手続で按分割合を定める必要があります | 相手の合意や割合を定める裁判手続は不要です |
| 請求 | 必要な証明書類を整え、当事者の一方からも請求できます。合意書の形式によって双方の来所等が必要です | 第3号被保険者であった方から請求します |
第3号被保険者とは、厚生年金加入者等に扶養される20歳以上60歳未満の配偶者で、国民年金法上の要件を満たす方です。「専業主婦だった」という呼び方だけでは判断できず、実際の資格記録を確認します。
3号分割は自動処理ではありません。また、2008年3月以前の期間や、自身も厚生年金に加入していた期間まで、3号分割だけで処理できるわけではありません。婚姻が長い方は、合意分割も必要か確認してください。合意分割を請求し、その婚姻期間に3号分割の対象期間が含まれる場合は、3号分割の請求もあったものとみなされます。
分割される側が障害厚生年金の受給権者で、対象期間がその年金額の基礎となっている場合には、3号分割が認められない扱いがあります。障害年金受給中の方は、一般的な説明だけで判断せず窓口で確認してください。
参照:日本年金機構・3号分割。
4 「50%」の意味と具体的な計算例
合意分割の按分割合とは、双方の対象記録の合計に対する、分割を受ける側の分割後の持分割合です。「相手の現在の年金振込額×50%」ではありません。
仕組みを理解するための簡略例
婚姻期間中の対象期間標準報酬総額を、夫6,000万円、妻2,000万円と仮定します。合計8,000万円について按分割合を0.5とすれば、双方4,000万円相当となるよう、夫から妻へ2,000万円相当の記録を移す考え方です。夫の6,000万円の半分である3,000万円を、そのまま妻へ移す計算ではありません。
ここで示した金額は年金記録の説明用の仮定であり、現金の支払額でも、毎年受け取れる年金額でもありません。実際の記録改定・年金計算では、期間や再評価などの法定の取扱いがあります。
実際の増減額は、対象期間、双方の加入記録、受給開始時期等で異なります。年金定期便の総額を単純に半分にせず、情報提供制度で見込額を確認しましょう。年金分割で増える見込額が分かっても、離婚直後の生活資金は別途必要です。
5 まず「年金分割のための情報通知書」を取得します
情報通知書には、対象期間、双方の対象期間標準報酬総額、按分割合を定められる範囲等が示されます。合意分割の検討や裁判手続の出発点となる資料です。情報提供の請求と、分割を実施する請求は別です。
情報提供は離婚前でも請求でき、一方だけでも行えます。離婚前に一方のみが請求した場合は請求者のみに、離婚後であれば原則として双方に情報通知書が交付されます。DV等で連絡先や送付先の安全に配慮が必要な場合は、請求前に窓口へ事情を伝えてください。
情報提供請求書、基礎年金番号またはマイナンバーの確認書類、婚姻期間を確認する戸籍等を準備します。書類の発行時期、事実婚を証明する資料、代理人の委任状等は公式様式に沿って確認してください。家庭裁判所への離婚後の申立てでは、離婚後に交付された情報通知書の原本が必要と案内されています。提出前に控えを保管します。
日本年金機構は、50歳以上の方または障害年金の受給権者が希望した場合に、分割後の年金見込額を提供すると案内しています。自分が利用できる試算の範囲を年金事務所等に確認し、分割前後の見込額を比較すると、他の財産分与も含めた生活設計がしやすくなります。
資料をそろえる段階から弁護士へ相談する意義
情報通知書を取得した段階で法律相談を受けると、合意分割と3号分割のどちらを利用するか、対象期間に漏れがないか、請求期限までにどの手続が必要かを整理できます。弁護士は、通知書や婚姻・離婚の経緯を確認し、財産分与、退職金、離婚後の生活費等も含めて、交渉の方針や追加で必要な資料を検討します。通知書がまだなくても相談は可能です。特に期限が近い場合や、DV等で相手との連絡に不安がある場合は、資料が全部そろうまで待たずにご相談ください。年金記録や見込額の確認は年金事務所等で行い、その結果を踏まえた権利の確保や離婚条件の検討について弁護士の助言を受けることが大切です。
6 合意できる場合:公正証書等を整えて請求します
情報通知書を確認し、年金分割を行うことと按分割合を明確に合意します。「財産を半分にする」という抽象的な文言だけで済ませず、年金分割として必要な事項を定めてください。
- 公正証書・認証済み私署証書:年金分割の合意と割合を証する書類として利用します。公正証書は謄本・抄本等、窓口指定の形式で提出します。
- 年金機構の合意書を使う方法:当事者双方(それぞれ代理人も可)がそろって年金事務所に持参する方法があります。本人確認、委任状、印鑑登録証明書等の要件を事前に確認します。
- 調停・裁判で定めた場合:調停調書、審判書と確定証明書など、決まり方に応じた書類を提出します。
電子公正証書については、公証役場から交付された出力書面等の要件を確認してください。電子データを自分で印刷しただけのものは、有効な添付書類とは扱われない旨が日本年金機構から案内されています。
公正証書を作った時点で分割が完了するわけではありません。誰がいつ請求するか、必要書類をどう受け渡すかまで決めておくことが大切です。
署名する前に、弁護士による合意内容の確認を
合意ができそうな場合でも、署名・押印する前に法律相談を受け、年金分割の対象や按分割合、提出する書面の形式、請求期限、相手の協力が必要な事項を確認しておくことが重要です。弁護士に依頼すれば、相手方との交渉、離婚協議書・公正証書案の作成、公証役場との調整など、合意を実行できる形に整える支援を受けられます。特に、財産分与と引換えに年金分割を求めない条件や、今後一切請求しないという清算条項がある場合は、将来の生活への影響も検討してから判断してください。弁護士への依頼時には、書面作成だけか、その後の分割請求に必要な準備・期限管理まで含むか、担当する範囲を明確にしておくと手続の漏れを防ぎやすくなります。
7 合意できない場合:家庭裁判所の調停・審判
相手が拒否する場合や話合いができない場合は、家庭裁判所に年金分割の割合を定める調停または審判を申し立てます。離婚前は離婚調停の中で割合について話し合うこともできます。離婚訴訟では、按分割合について附帯処分を求める方法があります。
| 項目 | 公式案内の内容 |
|---|---|
| 調停の申立先 | 相手方住所地、または当事者が合意で定める家庭裁判所 |
| 審判の申立先 | 申立人または相手方住所地、または当事者が合意で定める家庭裁判所 |
| 費用 | 収入印紙1,200円分と郵便料等。審判では確定証明申請手数料として150円分の印紙も案内されています。 |
| 主な資料 | 申立書、情報通知書、照会回答書等。必要に応じ追加資料を提出します。 |
裁判所は、保険料納付に対する寄与などの事情を踏まえて割合を判断します。年金分割は不貞・暴力への制裁金ではないため、慰謝料の請求とは分けて整理します。専業主婦・主夫で給与収入がなかったというだけで、協力がなかったと決まるものではありません。
裁判所で割合が決まっても、その後の年金事務所等への請求が必要です。「裁判所が年金の手続も済ませてくれる」と考えて放置しないでください。
調停・審判では弁護士の関与が重要です
家庭裁判所の手続はご本人でも利用できますが、相手が分割を拒否する、対象期間や割合を争う、他の離婚条件と一括して解決を求める場合には、早い段階で弁護士に法律相談をすることが重要です。弁護士は、申立ての選択、申立書・主張書面の作成、資料の整理、相手方の主張への反論、調停での交渉等を支援し、受任した範囲で代理人として対応します。年金分割の申立てを適切に行い、成立・確定後の分割請求まで見通して進めることが、期限の徒過や請求漏れの防止につながります。裁判所で割合が決まった後も、必要な調書・確定証明書等と年金事務所等への請求期限を弁護士と確認してください。新銀座法律事務所の無料相談もご利用いただけます。
8 裁判が長引いた場合・分割前に相手が亡くなった場合
原則の期限が来るまでに調停・審判を申し立て、その成立・確定が原則期限後、または原則期限の直前6か月以内となった場合などには、成立・確定の日の翌日から6か月まで請求できる特例があります。離婚訴訟で按分割合を定めた判決・和解についても、所定の特例があります。
これは「誰でも期限が過ぎてから6か月間請求できる」という制度ではありません。申立日、成立・確定日、決定の内容を確認する必要があります。離婚調停や財産分与の交渉をしているだけで年金分割の期限も保全されるとは考えず、年金分割の申立ての有無を確認してください。
また、按分割合の合意・裁判上の決定後、分割請求前に当事者の一方が亡くなったときは、死亡日から1か月以内の請求という特別な取扱いがあります。原則の5年・2年が残っていると思って待たず、直ちに窓口と弁護士へ相談してください。
9 年金事務所等へ提出する書類と手続の流れ
- 加入歴と期限を確認:婚姻・離婚の日、厚生年金・共済・第3号の期間を整理します。
- 必要な場合に情報通知書を取得:合意分割の対象期間と割合の範囲を確かめます。
- 合意分割の割合を確定:協議・公正証書等、または調停・審判等で整えます。3号分割だけの場合は割合の合意は不要です。
- 分割請求:離婚後に標準報酬改定請求書と添付書類を年金事務所等へ提出します。
- 処理結果の確認:交付される通知で対象期間等を確認し、控えを保管します。将来の老齢年金の受給手続も別途確認します。
主な添付書類は、基礎年金番号等の確認書類、婚姻・離婚の期間が分かる戸籍等、双方の生存確認書類、合意分割では割合を証明する書類です。戸籍等は請求前6か月以内、生存確認用は請求前1か月以内など、用途により条件が異なります。マイナンバー記入による省略、代理人、秘匿決定がある場合等の追加書類も確認します。
審判・判決では謄本等に加えて確定証明書、調停・和解では調書の謄本等が基本となります。必要書類がそろわないときは、期限前に窓口へ相談してください。公務員等の期間がある方は、年金事務所・各共済組合・私学事業団の窓口で、加入歴に応じた取扱いを確認できます。
公式の現行様式:離婚時に年金分割をするとき。書類の発行時期や省略の可否は、提出時点の案内を優先してください。
10 いつから受け取れますか・受給中の場合はどうなりますか
分割を受けても、自分自身の受給資格と支給開始年齢を満たす必要があります。相手が既に年金を受け取っている場合でも、若い側が直ちに受け取れるわけではありません。受給資格期間は、自分の加入・納付等の記録で確認します。
既に老齢厚生年金を受給している場合は、原則として年金分割の請求をした月の翌月分から年金額が変更されます。離婚した日にさかのぼって、過去の年金が当然にまとめて支払われるわけではありません。
分割を実施した後は、自分の記録に基づく年金となるため、分割した元配偶者が死亡しても、そのことだけで分割を受けた方の年金がなくなるものではありません。これは、分割請求前の死亡に関する前項の問題とは区別してください。
11 裁判例の位置付けと財産分与との関係
現在の年金分割は厚生年金保険法の特別な制度です。財産分与と合わせて離婚時に検討すべき問題ですが、預貯金や不動産の財産分与と同じ手続ではありません。「財産分与はすべて解決した」とだけ定める前に、年金分割の扱いを明確にしてください。
制度導入前には、年金を離婚後の給付や財産分与の中でどう評価するかが争われました。新銀座法律事務所の事例781では、次の裁判例を紹介しています。
- 仙台地裁平成13年3月22日判決:退職共済年金と妻自身の年金等を考慮し、夫から妻への各支払期の金銭給付を命じた例。
- 東京地裁平成12年9月26日判決:年金を他の財産関係とともに考慮し、一時金での財産分与を認めた例。
これらは、現在の「年金記録を改定する制度」が導入される前の裁判例です。今日の分割請求の代わりとして、そのまま同じ金銭給付を求められるという意味ではありません。現行の合意分割・3号分割を先に確認し、なお生活保障が必要か、企業年金等をどう扱うかを別途検討します。
婚姻中の預貯金、不動産、退職金、保険、借入金、慰謝料、養育費と併せた全体の生活設計が大切です。年金分割で将来の収入を確保しても、受給までの住居費・医療費等が不足する場合は、扶養的財産分与も検討します。
12 新銀座法律事務所の無料相談
「相手が年金分割に同意しない」「3号分割だけで足りるか分からない」「離婚から時間がたっている」「調停が終わったが次の手続が分からない」といった場合は、ご相談ください。
受付:平日9:00~21:00/土日祝日9:00~18:00
電話・LINE・メール等で受け付け、弁護士が電話で5分程度を目安に一般的な見解を無料で回答する案内です。既に弁護士へ依頼中の案件のセカンドオピニオンも受け付けています。
相談時は、婚姻日・離婚日、双方の加入制度、第3号期間、情報通知書、公正証書・調停調書等の有無、手続の期限をお知らせください。具体的な年金額や記録は年金事務所等で確認し、割合の争い、離婚条件、財産分与との調整について弁護士が検討します。詳しい資料検討・書面作成・代理交渉・裁判手続等の費用は別途ご案内します。
14 参考法令・公的資料・図解PDF
- e-Gov:厚生年金保険法(78条の2以下・78条の13以下)
- 厚生労働省:令和7年年金制度改正法
- 日本年金機構:2026年4月からの請求期限改正
- 日本年金機構:合意分割
- 日本年金機構:3号分割
- 日本年金機構:離婚時の年金分割制度のお知らせ(改正対応・図解PDF)
- 日本年金機構:現行の請求書・合意書・委任状・記入例一覧
- 日本年金機構:年金分割のための情報提供請求書(PDF)
- 日本年金機構:標準報酬改定請求書(PDF)
- 裁判所:年金分割の割合を定める審判・調停と申立書
- 裁判所:家庭裁判所で手続をとられた方へ(2026年4月改訂PDF)
- 匝瑳市:離婚時の年金分割制度
- 東京都職員共済組合:離婚時の年金分割
情報確認日:2026年10月2日。PDFや様式は改訂されるため、提出時は上記の公式案内ページで最新版を確認してください。裁判例は制度の経緯を理解するためのものと現行制度を区別しています。