中古車販売トラブル、中古品取引に関するトラブル(平成21年2月12日最終改訂)

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質問:知り合いの中古車販売業者から,中古車を購入したのですが,購入数1週間ほどして,突然ブレーキが故障し利かなくなり運転できなくなりました。私は業者に対し、直ちに修理するよう請求したのですが、故障するとは思わなかったと応じる気配は全くありません。このまま黙っているしかないのでしょうか?修理をしてもらうことはできませんか?それが駄目でも、別のところへ修理に出して、その修理費用を請求することはできないでしょうか?



回答
1. 本件の事情では、原則的にブレーキの故障の補修修理請求はできませんが瑕疵担保責任(民法570条)の追及が可能と思います。
2. ご質問の内容から本件契約は、いわゆる中古車販売における現状渡しという契約と考えられ保証期間がないことが特色となっていますが、このような免責特約は消費者契約法8条1項5号から無効です。
3. 一般的に、現状渡し契約は、価格において保証期間が付いている販売よりも低額になっているのが通常で、もともと取引にリスクがあるのですが価格がかなり低額であれば「隠れた瑕疵」といえない場合も考えられます。


解説

1. 中古車の販売形態は、大きく分けると2つに分かれます。@保証期間をつけてする一般的契約。通常引き渡し後3か月、走行5000キロ等の保証がつき販売価格も市場価格に近いものとなります。大手の中古車販売業者はこの契約を採用しています。A「現状渡し」契約で保証期間なし、アフタークレーム等を主張できない契約です。すなわち、瑕疵に対する免責特約付き契約ということになります。これは一般人によるインターネット販売などで行われていることが多いようですし、まともな販売店舗、修理工場設備がなくブローカー的な小さな業者などが用いる契約です。必ず販売の時文書等で表示されているのが通常ですし、市場価格より低額になっていることが多いようです。なぜなら販売のみを目的にする中古車業者の一番恐れることは額が特定できない買主の修理、損害賠償だからです。

2. 貴方のご質問からみると故障は1週間後に生じ業者が保証に応じていませんのでいわゆる「免責特約付き、現状渡し契約」と思われますのでそれを前提に回答します。

3. 現状渡しの契約の特色は、価格を低額にして、一切の車の故障の責任を買主に負わせる契約です。したがって、理論的には買主は基本的に、故障を修理するリスクを了解して契約していますので業者に対して修理、損害賠償請求が出来ないことになってしまいます。又業者にとっても修理自体に対応する設備がないのが通常です。

4. このような免責特約付き契約も、買主が不利益を承知で取引するので契約自由の原則により有効なように思われますが、このような契約は車の構造、内容の知識を持たず、理解できない買主にとっては著しく不利益な契約であり、他方売主が専門的知識を有する中古車販売業者ですから、契約自由の原則に内在する信義誠実の原則、公平の原則から修正する必要があります。そこで消費者契約法8条1項5号によりこのような免責特約は無効とされています。

5. 免責特約が無効であれば、次に買主は、購入した車がブレーキ故障しているので、債務不履行として(民法415条)修理の請求、損害賠償として修理費自体の請求、契約の解除ができるかどうか問題となります。

6. 結論から言うと、本件は中古車という特定物売買契約(当事者が目的物の個性に着目した売買。代替物でも個性に着目すると特定物になる。この車、この家、この馬等)であり、中古車業者に対し債務不履行責任を追及できませんが、瑕疵担保責任(民法570条)により損害賠償請求が可能です。

7. 法570条の瑕疵担保責任の性質ですが、条文上「売買の目的物」とは、特定物売買の目的物と解釈され特定物の売買において公平上法が認めた特別の法的責任とされています。

8. 特定物売買の目的物に隠れた瑕疵があれば、売主が瑕疵あるものを引き渡しているのですから、不特定物売買と同じように債務不履行(法415条)として完全なものを請求するか、その損害、瑕疵の補修費用を請求できるようにも思われます。理論的に言うと特定物売買では債務不履行はありません。特定物売買において,なぜ債務不履行、損害賠償、瑕疵修補請求が認められないのかというと,そもそも契約の当初から目的物の一部に瑕疵が存在する場合には,売買契約は,その瑕疵の部分については原始的に一部履行不能(もともと履行できない)で,無効となります。その部分については,契約の対象になっていませんから給付義務も発生せず,したがって,新しい物の請求、損害賠償、瑕疵修補請求権(民法415条)も認められないことになります。しかし、買主は本来瑕疵のない目的物に対する正当な代価を支払っていますので、私的自治の大原則である公平上、信義則の法理(民法1条)により,買主保護のため民法570条(566条)は,売主に特別の責任を負わせました。このように法律が当事者の公平上認めた特別の法的責任が瑕疵担保責任です(判例も同様で学説上法定責任説と呼ばれています)。買主は,隠れた瑕疵(目的物が通常有すべき性質・性能を持っていないこと)があれば公平の観点から契約の解除と損害賠償請求が認められるのです。

9. 570条瑕疵担保責任が、私的自治の原則に内在する公平、信義則の原則から法によって特に認められたものですから、「隠れた瑕疵」とは、解釈上買主の善意無過失が要求されることになります。すなわち買主は、瑕疵の存在について知らなかっただけでなく、取引上通常の注意をはらっても容易に瑕疵を発見できなかったことが必要なのです。

10. 本件でいえば、ブレーキの故障は1週間後に発生していますので、契約時から故障の原因があったものと考えられ、一般の人に中古車の車両内部については知識、状態を知ることは通常困難であり、善意無過失を認定しやすいと思います。従って、「隠れた瑕疵」に該当し損害場賠償請求ができるものと思われます。

11. 又、契約後の何らかの事情によりブレーキ故障が生じたとしても、商取引の信義則上、販売業者は、当該車両ブレーキの一切の故障歴、修理歴、販売業者が当該車両を取得したとき知ったブレーキの使用状況、損傷状況等もすべて買主に報告する義務を有することになりますので、そのような告知義務を少しでも怠っているようであれば、告知義務違反としての債務不履行責任、又は572条の趣旨(契約後の故障でも原始的瑕疵と差異を設けるのは公平の観点から妥当でないので)を類推し損害賠償法的責任を追及することが可能と思われます。

12. また,故障の程度により異なりますが,その故障が,契約の目的を達することができないほど重大で,かつ,修理が容易・低廉にできない場合には,売買契約を解除することも可能でしょう。

13. ただし、本件車両の価格が市場価格から考えかなり低額で、修理費用を控除しているようなものであれば、瑕疵自体付き中古車の売買となりますので、当事者の公平上「瑕疵ある目的物」という認定が難しくなると思います。

14. 自分でできないようであれば、お近くの法律事務所へご相談なさってみて下さい。

<参考条文>
民法
(基本原則)
第一条 私権は、公共の福祉に適合しなければならない。
2 権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。
3 権利の濫用は、これを許さない。
(種類債権)
第四百一条 債権の目的物を種類のみで指定した場合において、法律行為の性質又は当事者の意思によってその品質を定めることができないときは、債務者は、中等の品質を有する物を給付しなければならない。
2 前項の場合において、債務者が物の給付をするのに必要な行為を完了し、又は債権者の同意を得てその給付すべき物を指定したときは、以後その物を債権の目的物とする。
(債務不履行による損害賠償)
第四百十五条 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。
(売主の瑕疵担保責任)
第五百七十条 売買の目的物に隠れた瑕疵があったときは、第五百六十六条の規定を準用する。ただし、強制競売の場合は、この限りでない。
(地上権等がある場合等における売主の担保責任)
第五百六十六条 売買の目的物が地上権、永小作権、地役権、留置権又は質権の目的である場合において、買主がこれを知らず、かつ、そのために契約をした目的を達することができないときは、買主は、契約の解除をすることができる。この場合において、契約の解除をすることができないときは、損害賠償の請求のみをすることができる。
2 前項の規定は、売買の目的である不動産のために存すると称した地役権が存しなかった場合及びその不動産について登記をした賃貸借があった場合について準用する。
3 前二項の場合において、契約の解除又は損害賠償の請求は、買主が事実を知った時から一年以内にしなければならない。
(担保責任を負わない旨の特約)
第五百七十二条  売主は、第五百六十条から前条までの規定による担保の責任を負わない旨の特約をしたときであっても、知りながら告げなかった事実及び自ら第三者のために設定し又は第三者に譲り渡した権利については、その責任を免れることができない。
消費者契約法
(目的) 
第一条  この法律は、消費者と事業者との間の情報の質及び量並びに交渉力の格差にかんがみ、事業者の一定の行為により消費者が誤認し、又は困惑した場合について契約の申込み又はその承諾の意思表示を取り消すことができることとするとともに、事業者の損害賠償の責任を免除する条項その他の消費者の利益を不当に害することとなる条項の全部又は一部を無効とするほか、消費者の被害の発生又は拡大を防止するため適格消費者団体が事業者等に対し差止請求をすることができることとすることにより、消費者の利益の擁護を図り、もって国民生活の安定向上と国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。
(定義) 
第二条  この法律において「消費者」とは、個人(事業として又は事業のために契約の当事者となる場合におけるものを除く。)をいう。
2  この法律において「事業者」とは、法人その他の団体及び事業として又は事業のために契約の当事者となる場合における個人をいう。
3  この法律において「消費者契約」とは、消費者と事業者との間で締結される契約をいう。
4  この法律において「適格消費者団体」とは、不特定かつ多数の消費者の利益のためにこの法律の規定による差止請求権を行使するのに必要な適格性を有する法人である消費者団体(消費者基本法 (昭和四十三年法律第七十八号)第八条 の消費者団体をいう。以下同じ。)として第十三条の定めるところにより内閣総理大臣の認定を受けた者をいう。


第二節 消費者契約の条項の無効
(事業者の損害賠償の責任を免除する条項の無効)
第八条  次に掲げる消費者契約の条項は、無効とする。
一  事業者の債務不履行により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除する条項
二  事業者の債務不履行(当該事業者、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものに限る。)により消費者に生じた損害を賠償する責任の一部を免除する条項
三  消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為により消費者に生じた損害を賠償する民法 の規定による責任の全部を免除する条項
四  消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為(当該事業者、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものに限る。)により消費者に生じた損害を賠償する民法 の規定による責任の一部を免除する条項
五  消費者契約が有償契約である場合において、当該消費者契約の目的物に隠れた瑕疵があるとき(当該消費者契約が請負契約である場合には、当該消費者契約の仕事の目的物に瑕疵があるとき。次項において同じ。)に、当該瑕疵により消費者に生じた損害を賠償する事業者の責任の全部を免除する条項
2  前項第五号に掲げる条項については、次に掲げる場合に該当するときは、同項の規定は、適用しない。
一  当該消費者契約において、当該消費者契約の目的物に隠れた瑕疵があるときに、当該事業者が瑕疵のない物をもってこれに代える責任又は当該瑕疵を修補する責任を負うこととされている場合
二  当該消費者と当該事業者の委託を受けた他の事業者との間の契約又は当該事業者と他の事業者との間の当該消費者のためにする契約で、当該消費者契約の締結に先立って又はこれと同時に締結されたものにおいて、当該消費者契約の目的物に隠れた瑕疵があるときに、当該他の事業者が、当該瑕疵により当該消費者に生じた損害を賠償する責任の全部若しくは一部を負い、瑕疵のない物をもってこれに代える責任を負い、又は当該瑕疵を修補する責任を負うこととされている場合


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