道路用地の買収・土地収用
補償の内容と対応方法

2026年10月16日更新

「道路を広げるために土地を売ってほしいと言われた」「土地代だけでは店を移せない」「残った土地では今までどおりに営業できない」。道路用地の買収では、事業の段階と取得範囲を確認し、土地の価格だけでなく、建物・設備の移転、営業への影響、残地の利用、借地・借家の権利まで分けて検討することが大切です。土地所有者、店舗・工場の経営者、借地人・借家人の方に向けて、補償の考え方と対応の手順を説明します。

まず押さえておきたいこと

  • 任意の買収契約に、その場で応じる義務はありません。ただし、適法な収用手続が進めば、同意がなくても権利取得・明渡しに至る場合があります。
  • 補償は、買収部分の土地代だけとは限りません。建物移転、営業休止・廃止・規模縮小、借家人、残地などの補償を確認します。
  • 「路線価だから」「一律の基準だから」という説明だけで判断しないでください。採用した基準、評価時点、数量、単価、移転方法と除外項目を確認します。
  • 契約・調書への署名や裁決書の受領には、それぞれ異なる意味があります。不服申立て・訴訟・税務特例の期限も別々に管理します。

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1.任意買収・土地収用・都市計画事業の仕組み

(1)まずは契約による用地取得が検討されます

道路事業を進める国・自治体等を、土地収用法では「起業者」といいます。用地取得では、通常、事業説明、測量、土地・建物・営業の調査、補償額の提示、協議を経て、売買契約や物件移転補償契約を結びます。これが任意買収です。条件に納得できなければ直ちに契約する必要はありませんが、回答を放置せず、疑問点と必要な資料を具体的に伝えることが重要です。

事業認定の前から任意交渉が行われる場合も、認定後に交渉が続く場合もあります。事業説明会を受けたことや、都市計画道路の区域に入ったことだけで、直ちに所有権が失われるわけではありません。

道路整備に必要な土地をすべて任意買収によって取得できる場合には、土地収用法による事業認定や、都市計画法59条による都市計画事業の認可・承認を受けることなく、任意事業として道路整備を完成させる場合もあります。

(2)合意できない場合の土地収用

土地収用法は、公共事業(都市計画事業)に必要な土地等について、法律上の要件と手続に従って、所有者等の同意によらず権利を取得する制度を定めています。事業認定では、対象事業に当たること、起業者の遂行能力、土地利用の適正・合理性、収用の公益上の必要性などが審査されます(同法20条)。さらに、都道府県の収用委員会が、取得する権利、補償、取得時期や明渡しの期限等について裁決します。

都市計画事業を定める場合は、事前に都市計画案の公告・縦覧と住民等からの意見書提出の機会が設けられ(都市計画法17条)、都市計画審議会の審議・議決を経て、都道府県又は市町村が都市計画を決定します(同法18条・19条)。審議会では道路等の位置、区域、規模など、都市計画の妥当性が審議されます。

その後、都市計画事業の認可・承認を受けると、土地収用法上の事業認定があったものとみなされ、別途の事業認定を要せず収用手続に進むことができます(都市計画法69条・70条)。ただし、認可だけで土地所有権が移転するわけではなく、原則として収用委員会の裁決が必要です。

(3)都市計画事業とは―都市計画施設の整備を実際に実現するための公益事業

都市計画事業とは、都市計画審議会の議決を経て、都道府県知事もしくは国土交通大臣の認可又は承認(都市計画法59条)を受けて行う、都市計画施設の整備に関する事業と市街地開発事業です(同法4条15項)。道路、公園、下水道などを都市計画に位置付けることと、その計画に基づいて具体的な区域・期間を定めて事業を進めることは、別の段階です。都市計画区域内で行われる工事がすべて都市計画事業になるわけではなく、通常の開発許可(同法29条)を受けたことだけでも、都市計画事業にはなりません。

都市計画事業の二つの類型
類型主な内容
都市計画施設の整備都市計画に定められた道路、都市高速鉄道、駐車場、公園・緑地、上下水道、河川等の施設を整備する事業。都市施設の種類は都市計画法11条、都市計画施設の定義は4条6項に定められています。
市街地開発事業都市計画法12条1項の土地区画整理事業、新住宅市街地開発事業、工業団地造成事業、市街地再開発事業、新都市基盤整備事業、住宅街区整備事業、防災街区整備事業。各事業の対象・方法はそれぞれの法律に定められ、工業団地造成事業にも同項所定の法律によるものという限定があります。

都市計画事業は、市町村が認可を受けて施行するのが原則です。所定の事情がある場合には都道府県や国の機関が施行し、民間事業者等も法定の条件の下で認可を受けて施行することがあります(59条)。認可等では、申請手続の適法性に加え、事業内容の都市計画への適合、事業施行期間の適切さ、必要な他の許認可の状況等が審査されます(61条)。

都市計画決定・事業認可・用地取得の違い
段階内容と土地所有者への影響
都市計画決定道路の位置・区域等を計画に定める段階です。区域内では建築に許可が必要になるなどの制限があります(53条等)。決定だけで土地の所有権が移転したり、直ちに立ち退かなければならなくなったりするわけではありません。
事業認可・承認と告示具体的な事業計画について認可・承認を受け、施行者、事業の種類、事業施行期間、事業地等が告示されます(59~62条)。告示後は、事業の障害となるおそれのある土地の形質変更、建築、移動困難な物件の設置等に許可が必要になります(65条)。
任意買収又は収用裁決個々の土地・権利について契約による取得を進めます。合意できず収用する場合には、収用委員会の裁決等が必要です。事業認可が補償額や個々の明渡期限を決めるわけではありません。

土地収用との関係には、二つの重要な特則があります。第一に、都市計画法69条により、都市計画事業は土地収用法3条各号のいずれかに該当する事業とみなされます。第二に、都市計画法70条により、土地収用法20条の事業認定を別に行わず、都市計画法59条の認可・承認でこれに代え、同法62条1項の告示を土地収用法26条1項の事業認定の告示とみなします。したがって、「事業認定という名称の通知がないから収用できない」とは限りません。

もっとも、土地の整理・取得の方法は事業により異なります。土地区画整理では換地、第一種市街地再開発では権利変換など、個別法による仕組みが中心となるため、すべての都市計画事業を道路用地の現金買収と同じように考えることはできません。事業認可等の違法を争う問題と、個別の補償額を争う問題も分けて検討します。

都市計画道路の区域内と言われたら

自治体の都市計画窓口等で、①都市計画図上の区域、②事業認可等の有無と告示日、③認可された事業地・取得予定範囲、④事業施行期間と変更の有無を確認しましょう。長年計画されている道路でも、全区間が同時に事業化されるとは限りません。建替え・増築・造成を予定するときは、53条の制限と65条の制限のどちらが問題になる段階かを確かめることが重要です。

根拠・参考:都市計画法4・11・12・53・59~65・69・70条、千葉県・都市計画事業の解説。

(4)土地収用法3条の「収用適格事業」一覧

収用は、公共性があると言えばどの事業でも認められる制度ではありません。土地収用法3条は、土地を収用・使用することができる事業の種類を限定して列挙しています。これらは一般に「収用適格事業」と呼ばれます。道路だけでなく、交通、治水、電力・通信、教育・福祉など広い分野に及びます。

次の一覧は、2026年10月16日現在の施行条文について、枝番号を含む全ての号を分野別に整理した要約です。条文の全文ではありません。「学校」「病院」「住宅」等の名称だけで判断せず、各号に指定された法律、設置者・事業者、用途、規模等の条件をe-Gov掲載の3条本文で照合してください。

土地収用法3条各号の対象事業・施設(要約)
分野該当号対象の概要と主な限定
道路・駐車場1号道路法による道路、道路運送法による一般自動車道・一定の専用自動車道、駐車場法による路外駐車場。専用自動車道には、所定の旅客・貨物運送事業用という限定があります。
河川・治水・利水2号河川法の適用・準用を受ける河川その他公共の利害に関係する河川、その治水・利水のための堤防、護岸、ダム、水路、貯水池等。
砂防・地すべり・崖崩れ3号・3号の2・3号の3砂防法による設備・準用施設、国又は都道府県が設置する法定の地すべり防止施設、ぼた山崩壊防止施設、急傾斜地崩壊防止施設。
運河4号運河法による運河用の施設。
農業・土地改良5・6号国、地方公共団体、土地改良区等の所定の主体が設置する農業用道路、用排水路、堤防、ため池、防風林等。国、都道府県又は土地改良区が行う客土事業、土地改良に伴う用排水機・地下水源利用設備等。号により対象となる主体が異なります。
鉄道・索道・軌道7号・7号の2・8号鉄道・索道事業者が一般の需要に応じる事業に用いる施設、鉄道建設・運輸施設整備支援機構の鉄道・軌道施設、軌道法による軌道・同法が準用される無軌条電車用施設。
石油パイプライン8号の2石油パイプライン事業法による事業用施設。
バス・貨物運送・ターミナル9号・9号の2路線を定めて定期運行する一般乗合旅客自動車運送事業、特別積合せ貨物運送をする一般貨物自動車運送事業の施設、法定の許可を受けた自動車ターミナル事業用施設。
港湾・漁港・海岸・津波10号・10号の2・10号の3各根拠法による港湾施設、漁港施設、海岸保全施設、津波防護施設。
航路・航空11・12号航路標識、水路測量標、公共の用に供する飛行場・航空保安施設。
観測・通報13号気象、海象、地象、洪水その他これらに類する現象の観測・通報用施設。
郵便・電波監視13号の2・14号日本郵便の法定の郵便業務用施設、国が電波監視のために設置する無線方位・電波の質の測定装置。
電気通信・放送15号・15号の2・16号国・地方公共団体の電気通信設備、認定電気通信事業者の認定事業用施設(電気通信事業法により土地等を使用できるものを除く)、基幹放送事業者・基幹放送局提供事業者の基幹放送設備。
電気・ガス17号・17号の2一般送配電、送電、配電、特定送配電又は発電事業用の電気工作物、ガス事業法によるガス工作物。電力の小売事業というだけで17号の対象になるわけではありません。
上下水道18号水道事業・水道用水供給事業、工業用水道事業、公共下水道・流域下水道・都市下水路用施設。
消防・水防19・20号市町村が消防法によって設置する消防施設、都道府県又は水防管理団体の水防施設。
学校・研究・社会教育21・22号学校教育法1条の学校、これに準ずる教育・学術研究施設、社会教育法による公民館・博物館、図書館法による図書館。公民館類似施設・図書館同種施設は除かれます。21号は国公立学校だけに限定されていません。
福祉・更生保護・職業訓練23号社会福祉法による社会福祉事業、更生保護事業法による更生保護事業の施設、公共職業能力開発施設、職業能力開発総合大学校。
病院・保健・検疫24号国・地方公共団体、国立病院機構、条文所定の医療研究機関、国立健康危機管理研究機構、健康保険組合・共済組合等の列挙された主体が設置する病院・療養所・診療所・助産所、法定の保健所・公的医療機関、検疫所。一般の民間病院すべてが対象になるという規定ではありません。
火葬・衛生処理25・26号墓地埋葬法による火葬場、と畜場法によると畜場、法定の化製場・死亡獣畜取扱場。
廃棄物・公衆便所27号・27号の2地方公共団体又は法定の廃棄物処理センターが設置する廃棄物の処分・再生施設、地方公共団体の公衆便所、国が設置する原発事故由来の汚染廃棄物等の法定処理施設。一般の民間廃棄物処理業者の施設を一律に含むものではありません。
卸売市場28号卸売市場法による中央卸売市場・地方卸売市場。
自然公園・自然環境保全29号・29号の2自然公園法による公園事業、自然環境保全法による原生自然環境保全地域・自然環境保全地域の保全事業。
一定の一団地の住宅経営30号国、地方公共団体、都市再生機構又は地方住宅供給公社が、条文所定の住居系用途地域内で、自己居住用の住宅を必要とする者への賃貸・譲渡を目的として行う50戸以上の一団地の住宅経営。通常の民間マンション開発がそのまま該当するわけではありません。
庁舎等・公共施設31・32号国・地方公共団体が設置する庁舎、工場、研究所、試験所等の直接その事務・事業に用いる施設、公園、緑地、広場、運動場、墓地、市場等の公共用施設。
原子力・水資源・宇宙33号・34号・34号の2日本原子力研究開発機構の所定の業務用施設、水資源機構の水資源開発施設・愛知豊川用水施設、宇宙航空研究開発機構の所定の業務用施設。
高度専門医療・健康危機研究34号の3・34号の4国立がん研究センター等の条文所定の国立研究開発法人の指定業務用施設、国立健康危機管理研究機構の指定業務用施設。各機関の施設ならすべて対象というわけではありません。
事業に不可欠な関連施設35号前各号の事業に欠くことができない通路、橋、鉄道、軌道、索道、電線路、水路、池・井戸、土石の捨場、材料置場、職務上常駐が必要な職員の詰所・宿舎等。

30号の対象地域は、第一種・第二種低層住居専用地域、第一種・第二種中高層住居専用地域、第一種・第二種住居地域、準住居地域、田園住居地域です。また、5号と6号では主体の範囲が異なり、5号には独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構も含まれます。このように、各号の条件は細部まで同じではありません。

(5)一覧に載っていれば、直ちに収用できるのでしょうか

収用適格があることは、収用に向けた最初の要件です。通常の土地収用法による事業認定では、20条の①3条所定の事業に該当すること、②起業者に事業遂行の十分な意思と能力があること、③事業計画が土地の適正かつ合理的な利用に寄与すること、④土地を収用・使用する公益上の必要があること、という四つの要件をすべて満たす必要があります。その後も、個別の土地・権利の取得と補償について裁決等の手続が必要です。

逆に、民間会社が行う事業だから当然に対象外ともいえません。鉄道、電気、ガス、所定の通信事業等では、事業者が民間でも各号の要件を満たし得ます。確認すべきなのは、事業者が公か私かという点だけでなく、「3条の何号に該当するのか」「その号の事業者・用途等の条件を満たすか」「この土地をこの範囲で取得する必要があるか」です。

なお、3条の一覧だけで、他の法律も含めた収用可能性のすべてを判断することはできません。上記の都市計画法69条のように、別の法律によって収用適格を認める規定があるためです。都市計画事業では、20条の事業認定を別途受けるのではなく、都市計画法に基づく認可・承認の適法性を検討することになります。

根拠・参考:土地収用法3条・20条、都市計画法69・70条、北海道・土地収用法関係、国土交通省・土地収用。

2.「正当な補償」と判例の考え方

(1)公共事業の必要性と、個人の財産権を両立させる制度です

憲法29条は財産権を保障し、その3項で、私有財産を公共のために用いるには正当な補償を要すると定めています。道路整備に公益性があるとしても、その費用や損失を特定の土地所有者・営業者だけに負担させてよいわけではありません。収用の適法性と補償の適正さを、それぞれ検討する必要があります。

(2)最高裁昭和48年10月18日判決―土地収用では完全補償

最高裁第一小法廷昭和48年10月18日判決(昭和46年(オ)第146号、民集27巻9号1210頁)は、土地収用によって特定の所有者等に生じる特別の犠牲を回復するため、収用の前後で財産価値が等しくなるような完全な補償をすべきであるとしました。金銭補償については、近傍で同等の代替地等を取得できるだけの金額を要するという考え方を示しています。

この判決は改正前の土地収用法72条に関するものです。現行法では71条等を踏まえ、評価時点と算定方法を確認する必要があります。また、完全補償とは、希望する土地・建物の購入費や、主観的な愛着、将来の売上のすべてが無条件に支払われるという意味ではありません。客観的な財産価値と、収用に伴って通常生じる損失を、項目ごとに判断します。

(3)農地改革の判例を、そのまま道路用地に当てはめないこと

最高裁大法廷昭和28年12月23日判決(民集7巻13号1523頁)は、農地改革による買収について、当時の経済状態で合理的に算出された相当額の補償という考え方を示しました。しかし、制度全体を変える農地改革の事案と、個別の土地を道路のために収用する事案は背景が異なります。この判例だけを根拠に「道路用地は市場価値より安く買い取ってよい」と結論付けることはできません。

(4)具体的な補償項目を争った裁判例

東京地方裁判所平成27年1月22日判決(平成24年(行ウ)第372号)は、道路事業に伴う工場等の収用で、工作物の補償や得意先喪失補償などが争われた事案です。判決は、裁決の補償総額3億4572万754円を3億5037万2408円に変更し、差額465万1654円等の支払を命じる一方、その余の請求を棄却しました。提示額や裁決額が絶対に変更できないわけではありませんが、増額の根拠を個別に立証する必要があることを示す参考例です。この事案の金額が、他の店舗・工場の補償相場になるわけではありません。

参考:QA1455(最高裁判例の紹介)、東京地裁平成27年1月22日判決・全文PDF。

3.土地価格は「路線価だけ」で決まるのでしょうか

(1)正常な取引価格と税務上の評価を区別します

任意買収の土地価格は、公共用地の補償基準に基づく正常な取引価格を基本として検討されます。近隣の取引事例、公示価格、都道府県地価調査、不動産鑑定評価等を踏まえ、用途、位置、形状、間口、奥行き、接道、利用状況などの条件を比較します。

相続税路線価や固定資産税評価額は、それぞれ課税のための評価です。公共用地の取得価格そのものと同一ではありません。一方、担当者が「路線価」と呼んでいても、用地評価上の標準的な価格を意味していることがあります。何の路線価か、評価時点はいつか、対象地への補正はどう行ったかを確認しましょう。「相続税路線価を一定率で割れば必ず補償額になる」といった機械的な換算も適切ではありません。

(2)収用の場合は、事業認定告示時の価格が基礎になります

土地収用法71条は、近傍類地の取引価格等を考慮して算定した事業認定の告示時の相当な価格に、権利取得裁決までの物価変動に応じた修正率を乗じる仕組みを定めています。単に「現在の売出価格」で計算するものではありません。認定後の任意交渉にも補償基準上の特則があるため、価格の基準日を確認してください。

土地収用法88条の2の政令1条は、取引事例の事情・時期の補正、土地の条件の比較等を規定しています。当該事業による価格変動の扱いにも定めがあります。一般的な用途地域等の制限と、当該公共事業に伴う制限の影響を区別して評価することが大切です。

(3)不動産鑑定書・意見書を活用する場合

面積や接道条件の誤認、比較事例の不適切さ、残地の減価の見落としなどが疑われる場合は、不動産鑑定士による鑑定書や意見書が有用です。依頼前に、相手の算定資料と比較できるよう、評価時点、評価対象、前提条件、争点をそろえます。広告の売出価格や簡易査定は参考になりますが、それだけで提示額が誤りと決まるわけではありません。

根拠・参考:土地収用法71条、同法88条の2の政令1条、国土交通省・補償基準等、北海道開発局・補償金額の算定。

4.土地代以外も確認する―主な補償項目

次の表は道路用地取得で検討する主な項目です。すべてが一律に支払われるわけではなく、権利関係、移転の必要性、損失との因果関係、適用される基準によって判断します。同じ損失を重複して計上することもできません。

補償の種類と確認事項
補償の種類確認する内容主な根拠
土地・借地権等取得面積、権利の種類、評価時点、比較事例、個別補正土地収用法71条等
残地一部取得後の形状・接道・利用価値の低下、全体取得の必要性同法74~76条
残地の工事通路・排水・塀等の新設や改修、盛土・切土の必要性同法75条
建物・工作物・設備合理的な移転先・移転工法、数量、撤去・据付費、全部移転の必要性同法77~80条等
営業休止期間、固定費、収益減、顧客喪失、仮営業、廃止・規模縮小同法88条、政令20~22条
居住・借家・家賃収入仮住居、移転費、新規賃貸借の契約費用、家賃差額、賃貸料の損失同法88条、政令24・25条等
その他通常の損失動産移転、移転雑費、農業関係の損失など同法88条等

法律と政令は補償の法的根拠です。これに対し、公共用地の取得に伴う損失補償基準要綱は閣議決定、国土交通省の補償基準は訓令、用地対策連絡会の基準は同連絡会の決定であり、すべてを「政令」と呼ぶことはできません。自治体が採用する基準・細則や、その適用年度も確認します。

根拠・参考:土地収用法、同法88条の2の政令、国土交通省・補償基準等。

5.営業補償は、休止・仮営業・廃止・規模縮小に分けて考えます

「残った土地で営業できるので営業補償はない」と言われても、休業や仮移転が必要なのか、規模を維持できるのかを検討する必要があります。土地収用法88条は、営業上の損失を含む通常受ける損失の補償を定めています。営業補償は、土地の所有者だけでなく、賃借して店舗等を営業する方にも問題になります。

(1)営業を一時休止する場合

政令21条1項では、通常必要な休業期間中の固定的経費・従業員の休業手当相当額、収益の減少、一時的な顧客喪失、商品等の輸送中の減損、移転広告費などが対象になります。売上高をそのまま補償額にするのではなく、費用構造を踏まえた収益の減少等を検討します。休業期間も、本人が希望する期間ではなく、通常必要な移転・再開の工程に基づいて判断します。

工事日数だけでなく、機器の撤去・搬入・据付、許認可、試運転、在庫管理、営業再開の準備が必要な場合は、その内容と所要期間を工程表・業者見積り等で示すことが役立ちます。

(2)仮店舗・仮工場で営業を続ける場合

休止せず仮営業所で継続することが通常必要かつ相当と認められる場合には、政令21条2項に基づき、仮営業所の確保・使用に通常必要な費用、仮営業による収益減、一時的な顧客喪失等を検討します。単に営業者が仮店舗を希望するというだけでは足りず、取引の継続性、業種、顧客への影響、代替方法との比較が必要です。

(3)営業を廃止せざるを得ない場合

政令20条は、収用・使用に伴い営業の継続が通常不能となると認められる場合に、独立取引の慣習がある営業上の無形資産、機械や商品等の売却損、解雇予告手当等、通常必要な転業期間中の従前の収益相当額などを補償対象としています。

「この機会に引退したい」「移転が面倒」という事情だけで、営業廃止補償が認められるわけではありません。適切な移転先の有無、営業許可・用途規制、特殊設備、立地に依存する顧客構成等から、移転して継続することが客観的に可能かを検討します。候補地を探した記録、仲介業者の回答、許認可に関する資料等を残してください。将来の利益の全額や無期限の所得保障を当然に求められる制度ではありません。

(4)営業規模の縮小を余儀なくされる場合

政令22条は、営業規模を通常縮小しなければならない場合について、縮小に伴う資産・労働関係の通常の損失や、客観的な経営効率の低下に伴う損失を定めています。店舗面積や駐車場が減る場合、席数、生産能力、荷さばき、車両動線、顧客の利用状況等を整理します。面積が減った割合と同じ割合の利益が補償されるとは限りません。

飲食店の敷地の一部が道路になる場合の確認例

駐車場の減少により来店客を受け入れられない、厨房・客席を従来どおり配置できない、搬入経路を確保できないといった場合は、取得前後の配置図を比較します。残地内での移転、他所への移転、仮営業、規模縮小、廃止の各案を、法令上・技術上・経済上の実現可能性から検討します。担当者の「営業できる」という想定が具体的に成立するのかを、資料に基づいて確認することが大切です。

根拠:土地収用法88条、政令20~22条。関連事例:QA1455。

6.一部だけ買収される場合―残地の価値と使い方を確認します

(1)残地補償と工事費用の補償

同一所有者の一団の土地の一部が取得され、残りの土地の価格が下がる等の損失が生じる場合は、残地補償が問題になります(土地収用法74条)。土地が細長くなる、間口が狭くなる、出入口が使いにくくなる、建物配置が制限されるなど、取得前後の条件を比較します。通路・排水・塀などの工事が必要になる場合は、同法75条の工事費用の補償も検討します。

(2)残地全部の収用を請求できる場合

一部を収用することによって、残地を従来の目的に利用することが著しく困難になる場合は、土地所有者は残地全部の収用を請求できます(同法76条1項)。単に「残りも一緒に売りたい」という希望だけで認められるものではありません。再建築の可能性、形状、接道、従来の利用の継続可能性を具体的に示す必要があります。任意交渉での残地買収の扱いと、同条に基づく法的請求は区別します。

また、同法90条は、一団の土地の一部を収用・使用する場合に、当該事業によって残地の価格が上がる等の利益があっても、これを収用等による損失と相殺してはならないと定めています。「道路が便利になるから、その分の補償は不要」という説明は、この規定との関係でも確認が必要です。

根拠:土地収用法74~76条・90条。

7.建物移転、借地人・借家人、生活再建への対応

(1)新築費が全額支払われるとは限りません

建物等については、通常妥当な移転先と移転方法を想定し、必要な移転料を算定するのが基本です(土地収用法77条、政令17条)。再築、曳家、改造等のどの工法が合理的か、建物の構造・経過年数・利用状況、移転先の条件を確認します。新築同等の建物に買い替える費用が無条件で全額補償されるわけではありません。

一部取得により建物等が分割され、全部を移転しなければ従来の目的に利用することが著しく困難となる場合は、全部の移転料の請求が問題になります。設備・配管・外構等の見落としがないかも確認します。解体時の石綿調査・除去等が必要な場合は、調査範囲や算定方法を担当者に確認し、判明後の追加対応を契約前に協議しておくことが大切です。

(2)借地人・借家人にも独立した検討が必要です

土地を借りて建物を所有する借地人、店舗・住居を借りる借家人にも、権利や移転に関する補償が問題になります。土地所有者、建物所有者、営業者が別人なら、誰のどの損失かを整理します。家主が補償契約を結んだからといって、借家人の補償のすべてが当然に解決するわけではありません。

政令25条は、賃借の継続が通常不能となる借家人について、従前に照応する物件を借りるための通常の契約費用や、居住・営業を安定させるため通常必要な期間の家賃差額等を定めています。実際の適用には、賃貸借の内容、移転先の相当性、補償基準を確認します。家賃差額が永久に補償される制度ではありません。

借家人が営業している場合は、借家人補償と営業補償を分けて検討します。民間の貸主による明渡請求の「立退料」と公共事業の補償は、根拠・要件・請求相手が異なります。

(3)替地・仮住居・生活再建支援

損失補償は金銭が原則ですが(土地収用法70条)、同法82条等には替地による補償の制度があります。ただし、希望する土地を起業者が必ず探して提供する義務がある、という制度ではありません。替地の提供、移転先の紹介、仮住居、移転資金の貸付等が利用できるかは、自治体・事業・対象者の要件ごとに確認してください。

根拠・参考:土地収用法70・77・82条等、政令17・24・25条、東京都・用地と補償等の案内。

8.交渉と契約の進め方―総額よりも算定の中身を確認します

  1. 事業と手続の段階を確認する。事業名、起業者、取得予定図、認定・認可の有無、希望する契約日・明渡日を確認します。
  2. 補償項目の内訳を求める。土地、建物、設備、営業、借家、残地等に分け、適用基準、数量、単価、期間、移転工法、補償対象外とした理由の説明を求めます。
  3. 現状と移転後を資料で比較する。現況写真、図面、権利関係、会計資料を整理し、漏れや前提の違いを特定します。必要に応じて鑑定士・建築士・税理士等の意見を得ます。
  4. 争点ごとに再調査・再検討を求める。「総額が足りない」という主張にとどめず、例えば「設備撤去費がない」「営業再開準備の期間を見ていない」など、理由と資料を対応させます。
  5. 支払・移転条件を確認して契約する。登記、担保権の抹消、前払・残金、解体、引渡し、追加費用、精算条項まで読み、移転先の取得・資金手当との順序を確認します。
相談・交渉に役立つ資料
分野用意したい資料
通知・条件買収申出書、補償提示書・明細、事業説明資料、契約書案、裁決書、届いた封筒、担当者との連絡記録
土地・建物登記事項証明書、公図・測量図、取得範囲図、建物図面、現況写真、賃貸借契約書、融資・担保関係の資料
営業複数年の確定申告書・決算書、月別売上・費用、固定資産台帳、従業員関係資料、営業許可、顧客構成・取引の資料
移転候補地の条件、物件を探した記録、建築・設備・引越しの見積書、工程表、移転後の配置図・収支見通し

用地買収契約を結ぶと、原則としてその合意に拘束されます。「後で不足分を収用委員会に決めてもらえる」と思い込まず、どの補償項目まで解決する契約かを確認してください。将来判明する事情への対応を残す必要がある場合は、対象と手続を具体的に合意しておくことが重要です。

9.収用手続に進んだ場合―調書、意見書、裁決と期限

(1)土地調書・物件調書を確認します

土地調書・物件調書は、土地や物件の現状、権利関係等を記録するものです。署名押印は売買契約への同意や補償額の承諾と同じではありませんが、記載事項の真否を後から争うことには土地収用法38条の制限があります。数量や構造、所有者などに誤りがある場合は、同法36条3項の異議の付記等を検討します。署名を拒否するだけで手続が止まるわけではありません。

(2)収用委員会に意見と資料を提出します

収用委員会は、土地の権利取得に関する「権利取得裁決」と、建物移転等の補償や明渡期限に関する「明渡裁決」を行います(同法48・49条)。申請書等の縦覧、意見書、審理等の機会に、希望額だけでなく算定根拠を示します。補償については当事者等が申し立てた範囲を超えて裁決できないという制限もあるため、請求項目・金額・資料の整理を早めに行ってください。

(3)何に不服があるかによって、争う方法が違います

通常の収用裁決に対する主な不服の方法
争う内容方法・相手方原則の期間
損失補償の金額等損失補償に関する訴え。土地所有者・関係人から訴える場合は起業者を被告とする(133条2・3項)裁決書の正本の送達を受けた日から6か月以内
補償以外の裁決の違法等国土交通大臣への審査請求(129・130条)。補償への不服を理由とすることはできない(132条2項)正本の送達を受けた日の翌日から起算して30日以内
補償以外の裁決の取消し収用委員会の所属する都道府県を被告とする取消訴訟等(133条1項)正本の送達を受けた日から3か月の不変期間内

補償額だけの不服は、通常、収用委員会や都道府県を被告とする取消訴訟ではなく、起業者との間の訴訟で争います。なお、測量・調査等による損失についての同法94条の裁決には、送達から60日以内という別の出訴期間があります。事業認定そのものや都市計画事業認可を争う場合も、対象処分、申立先、起算点・期間が異なります。裁決書等の教示と現行法を確認し、例外や経過措置を含めて弁護士に相談してください。

(4)不服申立てや受領拒否だけでは、効力は止まりません

訴訟を提起しただけで裁決の効力が当然に停止するものではありません(土地収用法134条)。事業・明渡しを止める必要がある場合は、対象となる処分と執行停止等の要件を別に検討します。補償金の受領を拒んでも、起業者が法定の要件に従って供託し、手続が進むことがあります。逆に、金銭を受け取る際にも、裁決に基づく受領か、別途の和解・清算合意を伴うかで意味が異なるため、書面の内容を確認しましょう。

根拠:土地収用法36・38・48・49・94・95・97・129~134条等。自治体の手続案内と表現が異なる場合は、現行条文と個別の教示を照合してください。

10.補償金はすべて非課税、というわけではありません

個人が一定の公共事業のために土地・建物を譲渡した場合、要件を満たせば、譲渡所得から最高5,000万円を控除する特例や、代替資産を取得した場合の課税繰延べの特例を利用できます。ただし、補償金が一律に5,000万円まで非課税になる制度ではありません。

5,000万円特別控除には、固定資産であること、原則として最初の買取り等の申出から6か月を経過した日までに譲渡すること、最初に申出を受けた者等が譲渡することなどの要件があります。同じ年の対象資産に関する代替資産の特例との選択や、同一事業で複数年にまたがる場合の制限にも注意が必要です。「交渉を長引かせても不利益はない」とは言い切れません。買取り申出日を確認し、税務面も含めて判断してください。

土地代等の対価補償、休業等の収益補償、移転補償では所得区分や計算が異なります。営業の収益補償金を土地代と同じように扱うことはできません。補償明細・証明書・移転費の領収書を保管し、契約前から税理士や税務署に確認しましょう。法人の特例は個人とは別に検討します。

参考:国税庁No.3552・収用等の特例、No.3555・各種補償金の所得区分、No.5650・法人の課税の特例。

11.よくある質問

Q.公共事業なので、最初の提示額から増額はできないのでしょうか。

補償基準は公平な取扱いのためのものですが、個別の事実認定や算定が必ず正しいとは限りません。数量の漏れ、利用状況の誤認、移転工法、営業損失の評価など、根拠のある問題点について再調査・再検討を求める余地があります。増額できるかは具体的な資料によります。

Q.反対し続ければ、強制収用を避けられますか。

任意契約を拒否することはできますが、適法な事業認定・裁決等により収用される可能性があります。事業の必要性を争うのか、取得範囲や補償を争うのかを明確にし、それぞれの手続と期限に対応してください。

Q.工事の騒音や振動、通行規制による売上減も、用地補償に含まれますか。

土地取得・移転に伴う通常の損失と、工事の施工や完成後の施設による騒音・振動等の損害は区別されます。後者は事業損失への費用負担、工事上の対策、場合によっては損害賠償等を別途検討する問題です。売上が下がったというだけで当然に補償されるわけではなく、原因、期間、被害の程度、根拠となる制度を確認します。

Q.転居先が見つからないまま、明渡日を決めてもよいでしょうか。

移転先の確保、許認可、工事、資金調達との整合を先に確認してください。期限までに移れないことが予想されるなら、その理由と必要期間を資料で示して協議します。契約後や裁決後に一方的に期限を延ばせるわけではありません。

Q.弁護士費用や鑑定費用も、すべて補償されますか。

依頼した費用が当然に全額補償されるとは限りません。必要性、費用対効果、回収の見通しを依頼前に確認してください。まず提示資料の点検を行い、争点を絞ってから鑑定等を依頼する方法もあります。

12.新銀座法律事務所への無料相談

「提示額で移転できるか不安」「営業補償を認めてもらえない」「残地が使えなくなる」「調書や契約書への署名を求められている」「裁決書が届いた」という場合は、新銀座法律事務所へご相談ください。事業名、お持ちの権利、提示額の内訳、現在の手続、回答・契約・明渡しの期限をお知らせいただくと、検討の方向を整理しやすくなります。

弁護士による無料電話法律相談

受付:平日9:00~21:00/土日祝日9:00~18:00
電話:0120-48-5791 代表:03-3248-5791

電話・LINE・メールで受け付け、弁護士が電話で5分程度を目安に一般的な見解をご案内します。相談方法・受付条件は下記の案内をご確認ください。

電話・LINE・メールの無料相談案内 弁護士費用

弁護士に依頼する場合は、補償項目や契約条件の検討、起業者との交渉、専門家との連携、収用委員会への対応、訴訟等について、必要な範囲を相談できます。資料を詳しく確認する来所・オンライン相談や代理人としての活動は無料相談と別であり、受任の可否・業務範囲・費用をご説明します。裁決書等が届いている場合は、最初に受領日と期限をお知らせください。

14.参照条文・公的資料・PDF

主要条文(引用)

次は条文の引用です。その他の本文中の法令説明は、特記のない限り要約です。

日本国憲法29条

財産権は、これを侵してはならない。

2 財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。

3 私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。

土地収用法71条(土地等に対する補償金の額)

収用する土地又はその土地に関する所有権以外の権利に対する補償金の額は、近傍類地の取引価格等を考慮して算定した事業の認定の告示の時における相当な価格に、権利取得裁決の時までの物価の変動に応ずる修正率を乗じて得た額とする。

土地収用法88条(通常受ける損失の補償)

第七十一条、第七十二条、第七十四条、第七十五条、第七十七条、第八十条及び第八十条の二に規定する損失の補償の外、離作料、営業上の損失、建物の移転による賃貸料の損失その他土地を収用し、又は使用することに因つて土地所有者又は関係人が通常受ける損失は、補償しなければならない。

法令・制度・補償基準

本記事は一般的な制度説明です。実際の補償額・手続・期限は、事業の種類、権利関係、適用される基準、通知内容、経過措置等により異なります。個別事件への対応は、資料を示して弁護士にご相談ください。

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