役員変更登記 (最終改訂、平成28年8月4日)

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 役員変更登記は、商業登記簿に登記された法人の役員(取締役、監査役、理事など)の任期が満了したり、新たに就任したときに、法務局に変更登記を申請する手続です。会社法915条1項で、変更を生じてから2週間以内に本店所在地において変更登記の申請をする必要があります。

 平成27年2月3日に商業登記規則等の一部を改正する省令が公布され、同月27日に施行されました。これにより、取締役・監査役等の就任及び代表取締役等の辞任に関する登記申請の際に添付する書類が変更され、また、商業登記簿の役員欄に婚姻により氏を変更した場合には、婚姻前の氏をも記録できるようになりました。


解説:

1 商業登記規則等の一部を改正する省令

「商業登記規則等の一部を改正する省令」は平成27年2月3日に公布され、同月27日に施行されました。

本省令における商業登記規則の大きな変更は以下の2点になります。
@ 役員変更登記の際の添付書類が追加されたこと
A 婚姻によって氏を変更した役員について、婚姻前の氏の併記も可能となったこと

 以上2点です。

2 役員変更登記の際の添付書類の追加

 @就任の登記

今回の改正により、設立の登記及び取締役等(監査役、執行役、一般社団法人、一般財産法人(公益法人含む)の理事、幹事、評議員)の就任(再任を除く)登記については、商業登記規則第61条2項又は4項の規定により就任承諾書に実印の押印と印鑑証明書の添付を要求されている取締役等を除いて、登記申請書に本人確認書類の添付が必要となりました。

従前の登記手続きにおいては、就任登記に際して法務局に商業登記規則第61条2項又は4項の規定により印鑑証明書を提出しない役員(平取締役など)の実在性について法務局が確認する手段がありませんでした。もちろん、弁護士や司法書士などの専門家に依頼した場合には、通常、本人確認書類の提示等を受けて役員の実在性を確認しますが、専門家に依頼せずに申請される登記についてはその役員の実在性が事実上ノーチェックであったという現状があります。つまり、登記法上は認印さえ用意できてしまえば就任登記が可能であったので、架空の名義の取締役が登記されていたり、家族経営の会社などであれば就任の意思の有無を確認されることもなく勝手に就任登記がなされ、役員となっていたということもあったでしょう。架空の人物や、承認を得ていない人物の就任承諾書を作成して登記申請をすることは、もちろん、私文書偽造罪(刑法159条)や公正証書原本不実記載罪(刑法157条)などの重罪にあたる行為ではありますが、法務局の登記審査が書面審査(商業登記法17条1項)となっているので、本人確認書類が添付書類として要求されていない場合は事実上不正登記を防止する手段が乏しかったのです。

今回の改正により、本人確認書類の添付が要求されましたので、本人実在性が担保(保証)されると共に、間接的に本人の就任意思をも再確認できるようになりました。

申請書に添付すべき本人確認書類としては住民票、戸籍の附票、印鑑証明書、住基カード又はパスポート又は運転免許証のコピー(裏表をコピーし、本人による「原本に相違ない」旨の記載及び記名押印が必要となります。)等、外国人の場合には、住所の記載のあるサイン証明書、宣誓供述書等(各国大使館で発行)になります。

また、役員の就任承諾書には本人確認書類上の住所を記載する必要があります。株主総会議事録を就任承諾書として援用することは従前どおり可能ですが、この場合にも議事録に住所を記載しておかれることをお勧めします。

なお、再任の場合には上記規則は適用されませんが、平成27年2月27日以降に就任の登記を申請する場合には改正後の規則が適用となりますので、それ以前に就任事由が生じていても本人確認書類の添付が必要になりますので注意が必要です。

A辞任の登記

代表取締役などの会社の印鑑を法務局に届け出ている代表役員(印鑑提出者)がその地位を辞任する場合には、その登記の申請には、個人の実印押印及び印鑑証明書の添付又は法務局届出印の押印のある辞任届を添付する必要があります(商業登記規則61条6項)。複数の代表取締役がいて、印鑑を法務局に届け出いていない代表取締役が辞任する場合には、従前どおり、自署又は認印による辞任届で足ります。

@の就任登記と同様、従前の辞任登記申請においては、印鑑提出をしている代表取締役でも辞任届は認印または自署で足りましたので、勝手に辞任届を書かれ、代表取締役の辞任と就任による変更登記を申請する際に、新たな会社印を届出印として登録されてしまうと、知らないうちに代表者の地位を失い、自分の持っている会社実印(法務局届出印)もただの印鑑になってしまった、ということが起こりうる危険をはらんでいました。今回の改正により、代表者の持っている個人の実印か会社実印が辞任登記の際には必要となりましたので、こういった虚偽の登記がされる危険性はなくなったものと思われます。

なお、本規則についても平成27年2月27日以降に申請される場合には、辞任がそれ以前の日付だったとしても適用となりますのでご注意ください。

3 婚姻前の氏の併記

 設立の登記や清算人、役員(取締役、監査役、執行役、会計参与、会計監査人)の就任の登記、あるいは、これらの者の氏の変更登記を申請する場合、申請をすれば婚姻前の氏に登記記録に併記することができるようになりました(商業登記規則第81条の2)。この申請があった場合には「併記」ですので、旧姓と新姓の両方が登記記録に記載されることになります。この申し出の際には、氏の変更を証明する為に戸籍謄本等の添付が必要です。これは近年、社会一般で既婚女性が仕事上は通称として旧姓を使い続ける事例が多いことから、商業登記の分野でもこれを公示して、女性の社会進出を促進させる趣旨で導入された制度です。

 一度婚姻前の氏が併記されますと、その者の再任登記が申請された場合には特に申し出のない限り再任登記にも自動的に婚姻前の氏が併記されます。以降の併記を希望しない場合には、その旨を登記申請書への記載をもって申し出る必要がありますので注意が必要です。

 現在既に就任の登記がされている役員については、平成27年8月27日までであれば、婚姻により氏を改めたことを証する戸籍謄本等を添付すれば、書面により併記を申し出ることができます。

 この変更は、持分会社の社員や一般社団法人、一般財団法人等の変更登記にも適用されます(同規則第88条の2)。

<参考条文>

商業登記規則
第61条
1〜4(略)
5設立の登記又は取締役、監査役若しくは執行役の就任(再任を除く。)による変更の登記の申請書には、設立時取締役、設立時監査役、設立時執行役、取締役、監査役、又は執行役(以下この項において「取締役等」という。)が就任承諾したことを証する書面に記載した氏名及び住所が記載されている市区町村長その他の公務員が職務上作成した証明書(当該取締役等が原本と相違がない旨を記載した謄本を含む)を添付しなければならない。ただし、登記の申請書に第二項(第三項において読み替えて適用される場合を含む。)又は前項の規定により当該取締役等の印鑑につき市区町村長の作成した証明書を添付する場合は、この限りではない。
6代表取締役若しくは代表執行役又は取締役若しくは執行役(登記所に印鑑を提出した者に限る。以下この項において「代表取締役等」という。)の辞任による変更の登記の申請書には、当該代表取締役等が辞任を証する書面に押印した印鑑につき市区町村長の作成した証明書を添付しなければならない。ただし、当該印鑑と当該代表取締役等が登記所に提出している印鑑とが同一であるときは、この限りではない。
(役員等の氏の記録に関する申出等)
第八十一条の二
設立の登記、清算人の登記、役員(取締役、監査役、執行役、会計参与又は会計監査人をいう。以下この条において同じ。)若しくは清算人の就任による変更の登記又は役員若しくは清算人の氏の変更の登記の申請をする者は、婚姻により氏を改めた役員又は清算人であって、その申請により登記簿に氏名を記録すべきものにつき、婚姻前の氏(記録すべき氏と同一であるときを除く。)をも記録するよう申し出ることができる。
2 前項の申出をするには、同項の登記の申請書に、次に掲げる事項を記載し、これらを証する書面を添付しなければならない。
一 婚姻前の氏を記録すべき役員又は清算人の氏名
二 前項の役員又は清算人の婚姻前の氏
3 第一項の申出があつた場合には、登記官は、同項の申請に係る登記をするときに、同項の申出に係る前項第二号に掲げる事項を記録するものとする。
4 登記官は、第二項第二号に掲げる事項が記録された役員の再任による変更の登記又は当該事項が記録された役員若しくは清算人の氏の変更の登記に申請があつた場合には、次に掲げるときに限り、その申請により登記簿に氏名を記録すべき役員又は清算人につき、当該事項を記録しないものとする。 
一 申請人から当該事項の記録を希望しない旨の申出があるとき。
二 当該事項と登記簿に記録すべき氏とが同一であるとき。
5 前項第一号の申出をするには、同項の登記の申請書に、第二項第二号に掲げる事項の記録を希望しない役員または清算人の氏名を記載しなければならない。

(社員等の氏の記録に関する申出等)
第八十八条の二
設立の登記、清算人の登記、社員の加入による変更の登記、清算人の就任による変更の登記、合名会社を代表する社員が法人である場合の当該社員の職務を行うべき者若しくは清算持分会社を代表する清算人が法人である場合の当該清算人の職務を行うべき者(以下この条において「職務執行者」という。)の変更(就任による変更を含む。)の登記又は社員、清算人若しくは職務執行者の氏の変更の登記の申請をする者は、婚姻によって氏を改めた社員、清算人又は職務執行者であつて、その申請により登記簿に氏名を記録すべきものにつき、婚姻前の氏(記録すべき氏と同一であるときを除く。)をも記録するよう申し出ることができる。


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