債権者からの破産申立てへの対応

破産|債務整理|債権者破産への対応|民事再生の申し立て等

目次

  1. 質問
  2. 回答
  3. 解説
  4. 関連事例集
  5. 参照条文

質問:

当社は,数年前から資金繰りが厳しくなり,現在,複数の債務者への支払いが滞ってしまっております。先日,そのうち特定の債権者から,裁判所に破産の申立てをされてしまいました。

当社としては,出来ることならば破産を回避して,会社を存続させたいのですが,手を尽くしても回避できないのであれば,破産はやむを得ないと考えております。

今後の手続きについて教えてください。

回答:

1 破産手続開始の申立ては,債務者のみならず,債権者もすることができますが(破産法18条1項),実務上はそのほとんどが債務者申立てによるものです。しかし,稀に債権者から債権回収や損金処理のために申立てがなされることがあります。

2 破産を回避するためにあなたが採り得る手段としては,まず,①破産手続きの中で,破産手続開始の原因となる事由を欠くという主張を行い,破産手続開始決定の阻止を目指すことが考えられます。債権者申立の場合,裁判所は,債権者及び債務者への双方審尋を行う運用をとっており(破産法13条,民事訴訟法87条2項),まずは当該審尋の中で破産手続開始決定の阻止を試みることになります。その後,開始決定が出た場合は,当該決定に対して即時抗告をすることが出来ますので(破産法9条),その中で破産手続開始の原因となる事由を欠くことを主張することになります。

これに加えて,②民事再生への切り替えを目指して,再生手続開始の申立てを行うことも考えられます。破産手続きと民事再生手続きが競合する場合,再生手続きが優先することになります。再生計画案が可決される可能性があるのであれば,民事再生の申立てを行うことで,会社の消滅を前提とする破産を阻止できる可能性が出てきます。迅速性のある私的整理の申し込みも方法として考えられます。

3 債権者申立てに際して,債権者は高額な予納金を納付しなければならず,それでも破産申立てに至ったということは,多額の負債の支払いが滞っていることが推測されます。そのため,破産を回避するのは簡単なことではありません。しかし,上記の活動で破産を免れることが出来る場合もありますので,破産に強い抵抗がある場合は,一度弁護士に相談してみると良いでしょう。

4 その他の関連事例集は下記のサイト内検索で調べることができます。

Yahoo! JAPAN

解説:

第1 債務整理の概要

債務超過状態に陥ってしまった場合には,期限内に全ての債務の弁済を行うことは困難となります。このような場合,債務整理が必要となるわけですが,債務の圧縮,分割弁済等の方法で会社の再建を図っていく再建型の債務整理と,会社が保有している財産を債権者に平等に分配して会社を終結させるという清算型の債務整理のいずれかを選択することになります。

また,債務整理は,裁判所を介して行うか否かによって,任意整理と法的整理に分類されます。法的整理のうち,再建型債務整理が民事再生や会社更生,清算型債務整理が破産手続ということになります。

まずは各債権者との間の任意の交渉により分割弁済の合意を取り交わす,任意整理を検討することになります。任意整理が期待できない場合は,法的整理を検討することになり,収益を生み出す基礎となる財産を維持しつつ,債務者を経済的に再建する民事再生手続をとるか,それも難しいほどにまで債務が多大で財産が僅少である場合には,破産手続をとることになります。

第2 破産の申立権者

裁判所が申立てにより破産手続開始決定を発令するのは,債務者が「支払不能」にあるときです(破産法15条1項)。

破産手続開始の申立ては,債務者のみならず,債権者もすることができます(破産法18条1項)。上記のとおり,債務整理は,基本的に債務者側が債務超過の問題に直面することで検討することになるため,実務上はそのほとんどが債務者申立てによるものですが,稀に債権者から破産申立てがされることもあります。

債権者申立ては,多くの場合,①債権回収を図る目的,②税務上損金処理(貸倒損金算入)を行う目的のいずれかで利用されているようです。本件もそのような理由から債権者による破産手続開始の申立てがなされたと考えられます。

第3 債務者側の対抗手段

では,債権者から破産手続開始の申立てがなされた場合,債務者である会社が破産を回避する手段はないでしょうか。

通常,債権者がわざわざ高額な予納金を納付してまで破産の申立てをするとなると,多額の債務の支払いが滞っていることが強く予想され,破産を回避するのは簡単ではありません(予納金の金額は、裁判所、負債の金額、債権者の数等によって異なります。一般的に50人程度の債権者で、負債が数億円という場合は100万円程度と考えておいてよいでしょう。債権者申立の場合は、50万円程度高くなるようです。債権者は予納金の他弁護士の費用も負担しなくてはなりませんし、予納金は破産の手続きで優先的に回収できますが、弁護士の費用は破産手続きでは回収できません。また、債権があることを明らかにする必要があり一般的には勝訴判決等の債務名義が必要になりますから、勝訴判決得るための弁護士費用も必要になります。)しかし,事情次第では,破産を回避するための手段がないわけではありません。

1 破産の要件を争う方法

⑴通常の債務者申立の破産の場合は,書面審理のみで破産手続開始決定が発令されるのですが,債権者申立の場合には,通常,裁判所は,申立債権者及び債務者への双方審尋を行う運用となっています(破産法13条,民事訴訟法87条2項)。これは,債権者申立てが債務者の意に反して行われることが多い点に鑑み,裁判所としても,その判断を慎重にする必要があるという配慮によるものです。また、債権者申立の場合は、支払停止や債務超過を主張立証することは困難ですので、一般的には支払停止(破産法15条2項)を主張立証して支払不能が推定されるという理由で申し立てることが多いので、推定に対する債務者の反論が必要になります。

破産手続きは,債務者が支払不能(破産法2条11号)の状態と認められる場合に開始することになります。

債務者としては,審尋の際に,支払不能の要件を満たさないとの主張を行い,あるいは債権の存在自体を争う等して,自己に破産手続開始の原因となる事実が存在しない旨の反論を行うことが考えられます。

⑵ 破産手続開始決定後

仮に破産手続開始決定が発令された場合,債務者は当該決定に対して即時抗告を行うことができます(破産法9条)。即時抗告期間は,破産手続開始決定が官報に公告された日から起算して2週間です(同条)。

ただし,破産手続開始決定に対する即時抗告の申立てには執行停止効がありません。そのため,破産手続開始決定と同時に選任された破産管財人は,即時抗告の申立てがなされても,通常どおり管財業務を行うことが出来てしまいます。具体的には,破産財団に属する財産の価値が劣化するのは防ぐために,換価処分できる財産がある場合には換価処分を進めていくことになります。

抗告審で破産開始の事由が存在しないことを主張しつつ,管財人との間でも,可能な限り,手続きを待ってもらうよう交渉をしていく他ありません。

2 民事再生への切り替えを狙う方法

⑴ 概要

破産手続開始の原因となる事実が存在しないという消極的な防御活動に加え,再建型債務整理である民事再生への切り替えを狙うという積極的防御活動も考えられます。

民事再生手続きでは,民事再生を申し立てた再生債務者(通常は会社の代表者)が会社財産の管理権を持ったまま,事業の再生を目指すことができます。会社を維持したままで再生を目指せる点が,破産との大きな違いです。

ここで,破産手続きと民事再生手続きが競合するとどうなるのかという疑問が生じます。この点については,再生手続開始決定が出ると,以後,破産手続の申立てをすることはできなくなり,既に係属している破産手続は当然に中止することになります(民事再生法39条1項)。すなわち,破産手続きと民事再生手続きが競合する場合,再生手続きが優先することになります。再生計画案が可決される可能性があるのであれば,民事再生の申立てを行うことで,会社の消滅を前提とする破産を阻止できる可能性が出てきます。

なお,民事再生の申立てに際しては,弁済禁止の保全処分命令の申立ても併せて行うのが通常です。弁済禁止の保全処分とは,民事再生を申し立てた再生債務者に対して,民事再生申立ての前日までに発生した借金等の返済を禁止して,債務者の財産が減ることを防ぐためのものです。これにより,借金の返済を一時停止することが可能となり,再生計画にしたがった弁済に向けて余裕を持ちながら準備を進めることが可能となります。

⑵ 民事再生手続きの流れ

民事再生の手続きの流れは以下のとおりです。

民事再生の申立て(再生手続開始申立書,弁済禁止の仮処分命令申立書の提出,予納金納付),②裁判所による監督委員の選任,③債権者説明会の開催(債権者に対して再建の方針を説明),④裁判所による民事再生手続開始決定,⑤各債権者からの再生債権の申し出(債権届の提出),⑥再生債務者からの財産状況の報告(会社の財産目録や貸借対照表等の提出),⑦再生債務者からの債権認否書の提出(負債総額の確定),⑧再生債務者による再生計画案の作成,⑨債権者集会における再生計画案の決議(債権者集会に出席した議決権者の過半数の同意に加え,議決権者の議決権の総額の2分の1以上の議決権を有する者の同意(民事再生法172条の3第1項)),⑩裁判所による再生計画の認可,⑪再生計画の遂行(監督委員による3年間の監督)と整理できます。

⑶ 民事再生を利用する前提条件

民事再生の利用を検討する前提として,①会社が継続して収益を上げる見込みがあること(そうでないと再生計画が実現できない),②一定の費用(予納金,監督委員の報酬,弁護士費用等で総額数百万円,さらに当面の運転資金)を準備できること,③再生計画案との関係で,一般債権者への返済資金を十分に確保できる見込みがあること(税金や給与・退職金等の優先債権の支払いが圧迫していないこと),④再生計画案の可決に至る見込みが存在すること(民事再生法172条の3第1項により,債権者数の過半数の同意に加え,負債総額の過半数の同意が必要)がそれぞれ必要といえます。

なお,事業承継などができるスポンサーがいるケースでは,事業が滞ったり収益性が下がったりする懸念を回避することができるので,再生計画案も可決されやすいと言えるでしょう。

これらを踏まえた上で,本件で民事再生の利用可能性があると判断できる場合は,民事再生への切り替えを目指すのも一つの選択肢でしょう。

以上

【参照条文】

以上

関連事例集

その他の事例集は下記のサイト内検索で調べることができます。

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参照条文

● 破産法●
(定義) 第二条 この法律において「破産手続」とは,次章以下(第十二章を除く。)に定めるところにより,債務者の財産又は相続財産若しくは信託財産を清算する手続をいう。
2 この法律において「破産事件」とは,破産手続に係る事件をいう。
3 この法律において「破産裁判所」とは,破産事件が係属している地方裁判所をいう。
4 この法律において「破産者」とは,債務者であって,第三十条第一項の規定により破産手続開始の決定がされているものをいう。
5 この法律において「破産債権」とは,破産者に対し破産手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権(第九十七条各号に掲げる債権を含む。)であって,財団債権に該当しないものをいう。
6 この法律において「破産債権者」とは,破産債権を有する債権者をいう。
7 この法律において「財団債権」とは,破産手続によらないで破産財団から随時弁済を受けることができる債権をいう。
8 この法律において「財団債権者」とは,財団債権を有する債権者をいう。
9 この法律において「別除権」とは,破産手続開始の時において破産財団に属する財産につき特別の先取特権,質権又は抵当権を有する者がこれらの権利の目的である財産について第六十五条第一項の規定により行使することができる権利をいう。
10 この法律において「別除権者」とは,別除権を有する者をいう。
11 この法律において「支払不能」とは,債務者が,支払能力を欠くために,その債務のうち弁済期にあるものにつき,一般的かつ継続的に弁済することができない状態(信託財産の破産にあっては,受託者が,信託財産による支払能力を欠くために,信託財産責任負担債務(信託法(平成十八年法律第百八号)第二条第九項に規定する信託財産責任負担債務をいう。以下同じ。)のうち弁済期にあるものにつき,一般的かつ継続的に弁済することができない状態)をいう。
12 この法律において「破産管財人」とは,破産手続において破産財団に属する財産の管理及び処分をする権利を有する者をいう。
13 この法律において「保全管理人」とは,第九十一条第一項の規定により債務者の財産に関し管理を命じられた者をいう。
14 この法律において「破産財団」とは,破産者の財産又は相続財産若しくは信託財産であって,破産手続において破産管財人にその管理及び処分をする権利が専属するものをいう。 (不服申立て) 第九条 破産手続等に関する裁判につき利害関係を有する者は,この法律に特別の定めがある場合に限り,当該裁判に対し即時抗告をすることができる。その期間は,裁判の公告があった場合には,その公告が効力を生じた日から起算して二週間とする。

(民事訴訟法の準用) 第十三条 破産手続等に関しては,特別の定めがある場合を除き,民事訴訟法の規定を準用する。 (破産手続開始の原因) 第十五条 債務者が支払不能にあるときは,裁判所は,第三十条第一項の規定に基づき,申立てにより,決定で,破産手続を開始する。
2 債務者が支払を停止したときは,支払不能にあるものと推定する。

(破産手続開始の申立て) 第十八条 債権者又は債務者は,破産手続開始の申立てをすることができる。
2 債権者が破産手続開始の申立てをするときは,その有する債権の存在及び破産手続開始の原因となる事実を疎明しなければならない。

●民事再生法●
(他の手続の中止等) 第三十九条 再生手続開始の決定があったときは,破産手続開始,再生手続開始若しくは特別清算開始の申立て,再生債務者の財産に対する再生債権に基づく強制執行等若しくは再生債権に基づく外国租税滞納処分又は再生債権に基づく財産開示手続の申立てはすることができず,破産手続,再生債務者の財産に対して既にされている再生債権に基づく強制執行等の手続及び再生債権に基づく外国租税滞納処分並びに再生債権に基づく財産開示手続は中止し,特別清算手続はその効力を失う。
2 裁判所は,再生に支障を来さないと認めるときは,再生債務者等の申立てにより又は職権で,前項の規定により中止した再生債権に基づく強制執行等の手続又は再生債権に基づく外国租税滞納処分の続行を命ずることができ,再生のため必要があると認めるときは,再生債務者等の申立てにより又は職権で,担保を立てさせて,又は立てさせないで,中止した再生債権に基づく強制執行等の手続又は再生債権に基づく外国租税滞納処分の取消しを命ずることができる。
3 再生手続開始の決定があったときは,次に掲げる請求権は,共益債権とする。
一 第一項の規定により中止した破産手続における財団債権(破産法第百四十八条第一項第三号に掲げる請求権を除き,破産手続が開始されなかった場合における同法第五十五条第二項及び第百四十八条第四項に規定する請求権を含む。)
二 第一項の規定により効力を失った手続のために再生債務者に対して生じた債権及びその手続に関する再生債務者に対する費用請求権
三 前項の規定により続行された手続に関する再生債務者に対する費用請求権
4 再生手続開始の決定があったときは,再生手続が終了するまでの間(再生計画認可の決定が確定したときは,第百八十一条第二項に規定する再生計画で定められた弁済期間が満了する時(その期間の満了前に再生計画に基づく弁済が完了した場合又は再生計画が取り消された場合にあっては弁済が完了した時又は再生計画が取り消された時)までの間)は,罰金,科料及び追徴の時効は,進行しない。ただし,当該罰金,科料又は追徴に係る請求権が共益債権である場合は,この限りでない。

(再生計画案の可決の要件) 第百七十二条の三 再生計画案を可決するには,次に掲げる同意のいずれもがなければならない。
一 議決権者(債権者集会に出席し,又は第百六十九条第二項第二号に規定する書面等投票をしたものに限る。)の過半数の同意
二 議決権者の議決権の総額の二分の一以上の議決権を有する者の同意
2 約定劣後再生債権の届出がある場合には,再生計画案の決議は,再生債権(約定劣後再生債権を除く。以下この条,第百七十二条の五第四項並びに第百七十四条の二第一項及び第二項において同じ。)を有する者と約定劣後再生債権を有する者とに分かれて行う。ただし,議決権を有する約定劣後再生債権を有する者がないときは,この限りでない。
3 裁判所は,前項本文に規定する場合であっても,相当と認めるときは,再生計画案の決議は再生債権を有する者と約定劣後再生債権を有する者とに分かれないで行うものとすることができる。
4 裁判所は,再生計画案を決議に付する旨の決定をするまでは,前項の決定を取り消すことができる。
5 前二項の規定による決定があった場合には,その裁判書を議決権者に送達しなければならない。ただし,債権者集会の期日において当該決定の言渡しがあったときは,この限りでない。
6 第一項の規定にかかわらず,第二項本文の規定により再生計画案の決議を再生債権を有する者と約定劣後再生債権を有する者とに分かれて行う場合において再生計画案を可決するには,再生債権を有する者と約定劣後再生債権を有する者の双方について第一項各号に掲げる同意のいずれもがなければならない。
7 第百七十二条第二項(同条第三項において準用する場合を含む。)の規定によりその有する議決権の一部のみを再生計画案に同意するものとして行使した議決権者(その余の議決権を行使しなかったものを除く。)があるときの第一項第一号又は前項の規定の適用については,当該議決権者一人につき,同号に規定する議決権者の数に一を,再生計画案に同意する旨の議決権の行使をした議決権者の数に二分の一を,それぞれ加算するものとする