No.1773|公務員の犯罪・懲戒免職・退職撤回問題

公務員が私文書変造、虚偽公文書作成罪等を犯した場合の対応

刑事|公務員が有印私文書変造・同行使罪、虚偽公文書作成罪、横領罪を犯した場合における刑事手続・懲戒手続への対応|公務員が私的な領収書の宛名を改ざんし学校の小口現金を流用した上、業者に内容虚偽の請書の作成を依頼した事案

目次

  1. 質問
  2. 回答
  3. 解説
  4. 関連事例集
  5. 参照条文

質問

関西方面の公立(市立)小学校で事務の仕事をしている地方公務員(公立学校事務職員)38歳です。この度、私の業務上の不祥事が原因で市より刑事告訴される事態となっています。詳細な事情は以下のとおりです。

私は、主として、学校内で必要となる物品の購入や施設修理にかかる手続事務、現金管理事務を担っていましたが、直近約3年間の間に、私が私的に購入した物品(主に生活用品)の領収証(宛名の記載がないもの)に学校で購入したかのように宛名を記載し、それを使って学校で保管している小口現金を持ち出す、という手口で総額約30万円の現金を持ち出していました。

また、施設修理費として設けられた予算が年度の途中で不足してきたことから、これを物品購入費として支出するため、業者に依頼して物品購入に応じるものであるかのような内容虚偽の請書を作成してもらい、その内容通りの物品購入を行う旨の報告書を作成、提出する、ということを繰り返していました。

これらが発覚したことにより、私は刑事告訴されるとともに、自宅待機を命じられました。同時に懲戒処分に向けた事情聴取も始まっており、担当者からは懲戒免職の可能性が高いと言われています。

今となって、軽率な行動であったと深く反省しています。今後の対応等について相談させて下さい。

回答

1 あなたには、少なくとも有印私文書変造罪(刑法159条2項)、同行使罪(161条1項)、業務上横領罪(刑法253条)、虚偽公文書作成罪(156条)が成立しており、1年以上15年以下の懲役に相当する刑事責任を負っていると考えられます(刑法54条1項後段、45条、47条)。

2 本件は公判請求となる可能性が高い事案類型であることに加え、被害額が約30万円と多額であること、関係書類の廃棄、改変や関係業者に対する働きかけや口裏合わせ等による罪証隠滅の客観的可能性も否定できないこと等からすれば、捜査機関が逮捕に踏み切る可能性が高いと考えられます。そのため、逮捕回避及び公判請求回避に向けた対応を早い段階から進めていく必要があります。

3 具体的には、市の事案調査への積極的な協力を前提とした被害弁償交渉が中心的な活動になってくると考えられます。本件は基本的に逮捕相当かつ公判請求相当事案であると考えられますが、必要な対応を尽くすことで、逮捕や公判請求を回避(不起訴処分を獲得)できる可能性も十分残されています。詳細について解説中で説明してありますので、ご参照ください。

4 本件では刑事手続の他に、懲戒処分との関係での対応も必要となってきます。非違行為の態様が悪質であること、被害金額が多額であること、職務に対する信用失墜の度合いが大きいこと、長期にわたり常習的に行われた不正であること等に照らせば、本件は基本的に懲戒免職相当の事案であると考えられます。

もっとも、懲戒処分の具体的な量定にあたっては、刑事手続の帰趨や非違行為後の対応等も含め、総合的に考慮の上判断されるため、調査協力や被害弁償等を含めた事後的な対応如何によっては懲戒免職処分を回避できる(退職金が支給される諭旨免職処分等への軽減ができる)可能性も残されていると思われます。あなたに有利な事情を可能な限り主張し、懲戒手続上も万全の態勢で臨みたいということであれば、弁護士に懲戒処分軽減のための意見書の作成や交渉等を依頼されると良いでしょう。

5 本件では、刑事手続上の対応と懲戒手続上の対応が重なる部分が多く、その処分内容が双方の手続きに影響するという事案の特殊性があります。したがって、弁護士を選任する際には、刑事手続と懲戒手続の双方に明るく、特に公務員による犯罪行為の事案の解決実績がある人物を選任することが望ましいと思われます。また、身柄拘束回避や事案調査への協力的姿勢を示すためには、早い段階から対応開始する必要がありますので、迅速な活動が可能な弁護士を選んで依頼されることをお勧めいたします。

解説

第1 成立罪名について

本件における対応を検討する前提として、あなたの置かれている法的状況について確認しておきたいと思います。お聞きした事情によれば、あなたには以下の各犯罪が成立していると考えられます。

1 有印私文書変造罪、同行使罪

有印私文書変造罪とは、「他人が押印し又は署名した権利、義務又は事実証明に関する文書又は図画」を「行使の目的で」「変造」することにより、同行使罪とは、これを「行使」することにより、それぞれ成立する犯罪です(刑法159条2項、161条1項)。

今回あなたが小口現金を持ち出すために使用した領収証は、店舗の「押印」があり、かつ、購入代金の授受という「事実証明に関する文書」に該当し、これに領収証の作成者が意図しない不法な変更(宛名欄への学校名の記載)を加えた行為は「変造」に、かかる学校を宛名とした領収証を内容が真実な文書として認識し得る状態に置こうとすることは「行使の目的」ないし「行使」に、それぞれあたることになります。

これらは、文書に対する公共の信頼を保護法益とする犯罪であり、法定刑は重く、いずれも3月以上5年以下の懲役と定められています。

2 業務上横領罪

業務上横領罪は、「業務上」「自己の占有する他人の物」を「横領」することにより成立する犯罪です(刑法253条)。

あなたが持ち去った学校所有の小口現金はあなたが管理していたものであることから「自己の占有する他人の物」に、現金を持ち去った行為は、不法両得の意思発現行為として「横領」に、それぞれ該当することになります。

また、「業務」とは、金銭その他の財物を委託を受けて保管することを内容とする職業もしくは職務をいうところ、あなたは職務上の地位に基づいて現金管理の事務を担っていたわけですから「業務」に該当し、単純横領罪(刑法252条1項)の加重類型である業務上横領罪が適用されることになります。

業務上の委託関係に基づく物の占有の場合、単純な委託信任関係の場合よりも高度の責任が課されていることから、本罪は単純横領罪の場合と比較して重い法定刑が定められており、10年以下の懲役と規定されています。

3 虚偽公文書作成罪

虚偽公文書作成罪は、「公務員が」「その職務に関し」「行使の目的で」「虚偽の文書若しくは図画を作成」することにより成立する犯罪です。

あなたが作成、提出した内容虚偽の報告書が公務所または公務員の印章若しくは署名がある形式の文書であることを前提とすれば、あなたには有印虚偽公文書作成罪として、1年以上10年以下の懲役の範囲内で処断され得ることになります(156条、155条)。

また、伺った事情のみでは判断できかねますが、内容虚偽の請書を作成した業者とあなたとの関係性や作成依頼の際のやり取り、経緯等によっては、業者に対して内容虚偽の請書の作成を依頼してこれを作成させた点についても虚偽公文書作成罪が成立する可能性が考えられるところです。

4 罪数の処理

以上より、あなたには少なくとも、有印私文書変造罪、同行使罪、業務上横領罪、虚偽公文書作成罪が成立しており、このうち有印私文書変造罪、同行使罪については犯罪の手段と結果の関係にあることから牽連犯(刑法54条1項後段)として一罪として扱われ、これらと業務上横領罪、有印虚偽公文書作成罪とは併合罪(刑法45条)の関係に立つ結果、本件については、1年以上15年以下の懲役の範囲内で処断されることになると考えられます(刑法47条)。

第2 予想される刑事手続

次に、伺った事情にかかるあなたの行為全てにつき告訴が受理され、刑事手続が開始していると仮定した場合の刑事手続の見通しについて説明いたします。

本件では、市のあなたに対する事情聴取が始まったばかりということで、告訴を受理した警察としても、犯罪事実やその背景事情の立証のための十分な証拠を把握しているわけではなく、まずは関係する会計書類や領収証等の資料の整理、収集、宛名空欄の領収証を発行した店舗への事情聴取、資料提供依頼、内容虚偽の請書を作成した業者への事情聴取、虚偽の報告書と実際の取引内容との照合等により、被疑事実に対する証拠上の裏付けを行おうとするものと考えられます。これらの捜査にある程度の時間を要するものと考えられますが、これらの証拠を固めた段階であなたの取調べを行うことになると考えられます。

捜査機関としては、あなたの取調べを行ったタイミングで、あなたに対する逮捕状の請求を検討することになるでしょう。刑事訴訟法上、捜査機関が被疑者を通常逮捕するためには、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由(逮捕の理由)に加え、明らかに逮捕の必要がない(被疑者の年齢及び境遇並びに犯罪の軽重及びその態様その他初犯の事情に照らし、被疑者が逃亡するおそれがなく、かつ、罪証隠滅するおそれがないこと等。刑事訴訟規則143条の3)とはいえないこと(逮捕の必要性)が必要とされています(刑事訴訟法199条2項)。

もっとも、本件では懲役1年ないし15年に相当する比較的重い事案であること、被害額も約30万円と大きいため、公判請求となる可能性が高いことからすれば、重罰を回避するために罪証隠滅を行う動機があると一般的に判断されうる事案と言えます。また、関係業者に対する懇願、威迫等による働きかけや口裏合わせ等による罪証隠滅の客観的可能性も否定できないことからすれば、罪証隠滅のおそれ(逮捕の必要性)があるものとして、逮捕状が発付される可能性が高いといえるでしょう。このように、本件は身柄拘束の危険性が高い事案であるということができます。

逮捕後は、48時間以内に送検の手続きがとられた上(刑事訴訟法203条1項)、10日間の勾留(逮捕に引き続き行われる比較的長期の身柄拘束処分)が決定され、捜査をさらに尽くす必要性が高い等の事情により検察官の勾留延長請求が認められた場合、更に10日間、勾留期間が延長されることになります(刑事訴訟法208条1項・2項)。これらの勾留期間内に検察官によってあなたに対する終局処分(起訴、不起訴)が決定されることになります。送検された上、検察官によって起訴、不起訴が決定されるのは、在宅での捜査の場合であっても同様です。

本件の法定刑は懲役刑のみですので、本件で刑事処分が行われる場合、必ず公判請求され、正式裁判を受けることになります(法定刑に罰金刑があり、罰金相当な場合は略式命令という手続きで公判は開かれません)。前述のとおり、被害額が大きいこと、長期間にわたって継続的に行われている犯行であること、領収証の変造等を手段とした巧妙な犯行であり、犯情が悪質であると考えられること等からすれば、本件は公判請求となる危険性が非常に高いと考えられます。

なお、仮に公判請求された場合であっても、初犯であれば、特段の事情がない限り執行猶予付きの判決となることが見込まれるでしょう。

第3 刑事手続上の対応

上記のように、本件は身柄拘束及び公判請求の可能性が非常に大きい事案であると考えられるため、①身柄拘束を回避し、②公判請求を回避するための対応として、以下で述べるような活動が必要となってきます。

1 被疑事実の範囲の把握

本件については、市が刑事告訴しているとのことですが、まず捜査機関が捜査の対象としている被疑事実の範囲を把握することが重要です。本件のように、犯罪行為が反復・継続して行われており、それら全てについての証拠上の裏付けに膨大な労力が必要となるケースの場合、犯罪の立証が容易かつ確実に行うことができる一部の行為に限って立件されることが多々あります。

本件でも、全ての横領行為(被害額約30万円)、変造等行為について立件された場合と、一部に限って(例えば、被害額約3万円の範囲)立件された場合とで、刑事手続の見通しは大きく異なってきます(具体的には、被疑事実の範囲が小さいほど、逮捕等の身柄拘束を回避できる可能性、不起訴処分を獲得できる可能性が高まることになります。)。そのため、被疑事実の範囲については、弁護人を通しての捜査官との折衝等により、早期に把握しておく必要があります。

2 身柄拘束の回避に向けた活動

逮捕の有無が、刑事訴訟法上の要件である逮捕の必要性(逃亡のおそれ、罪証隠滅のおそれ)を満たす事情の有無によって左右されることは前述のとおりです。したがって、逮捕を回避するためには、事後的ではあれ、これらを減殺するような事情を作り出すとともに、証拠化の上、捜査機関に提出することが必要となってきます。具体的には、以下のような対応が考えられます。

・市の事案調査への協力

本件では、市による事案調査と警察による捜査が並行して行われており、市で収集した証拠資料が捜査機関に提出される等連携していると考えられるため、市による事案調査に協力することは即ち捜査機関の捜査への協力的姿勢を示していることを意味します。事実を認めて捜査に協力する姿勢は、逃亡や罪証隠滅を図ろうとする姿勢と相容れないものであり、逮捕の必要性を低下させる事情となります。

当然ながら、「呼ばれたら出頭する」、「聞かれたら答える」といった受け身の姿勢では協力として不十分であり、あなたの側から積極的な行動を起こす必要があるでしょう。本件でいえば、各不正に至った動機、経緯、不正の具体的方法等を明らかにした詳細な顛末書の作成、提出や、不正の時期、具体的方法、購入した物品、損害を与えた金額等の対照一覧表の作成、提出などが考えられるでしょう。弁護人の協力の下、なるべく早期のタイミングで事案究明に資する資料等の提供を行い、捜査機関に対しても随時報告を行うことで、逮捕の必要性が認められないことを示し、逮捕状の請求を思い止まらせる必要があります。

・示談交渉

本件では、私的に購入した物品の代金相当額を横領したことにより、市に財産的損害を発生させているため、かかる損害の填補を含めた示談交渉を行う必要があります。横領罪のように被害者がいる犯罪の場合、被害者との示談の成立は、検察官による刑事処分の決定や起訴後の刑の量定の上で極めて有利な事情となりますので、厳重処罰を恐れて逃亡や罪証隠滅を図る動機が低減するという意味で、逮捕の必要性を低下させる事情となります。

当事務所の経験上、被害者として告訴した以上は、市(実際には市長)が示談の合意(示談書への署名等)に応じることはありませんので、実際にはあなたの反省の情を事実上受け入れて頂くとともに、被害弁償金を受け取って頂くための交渉が中心的な活動となります。

また、経験上、市のような公的機関は、被害弁償金を受け取って頂くことができたとしても、個人間の示談合意のような場合とは異なり、実損額以上の金額(謝罪金や解決金としての意味合いの金銭)を受け取ることはありませんので、被害弁償金を受け取って頂く前提として、被害額の確定作業が重要となってきます。

本件では、不正が多数回かつ長期間に及んでいるため、関係資料の照合作業や裏付け調査の必要性を考えると、損害額の確定には相当な時間を要するものと考えられます。弁護人を通じて、損害額確定のための資料を可能な限り準備、提供するとともに市の担当者と折衝を繰り返す中で、早期に被害弁償額を明らかにするための努力が必要でしょう。

不接近誓約書、身元引受書等の準備

逮捕の必要性低減との関係でのその他の対応として、不正に関与している業者等への連絡、接触等を行わない旨の誓約書の提出や、家族等による身元引受書(あなたに対する監督を誓約する書面)、弁護人を通じた謝罪と被害弁償の準備があることを示す書類(謝罪金の預り証や謝罪文等)等を予め捜査機関に提出しておくことが考えられるでしょう。

3 刑事処分の回避に向けた活動

前述したとおり、本件は基本的に公判請求相当事案と考えられます。もっとも、刑事事件として立件されている被疑事実の範囲が全体のごく一部であり、その部分のみを抜き取れば実害が大きいとはいえないような場合、経験上、不起訴処分を獲得できる可能性も考え得るところです。そのためには、最低限、十分な被害弁償と、事案解明のための協力を含めた反省の態度が不可欠でしょう。

まず、被害弁償については、前述のとおり、あなたの協力を前提とした事案解明と被害額確定作業が不可欠となります。検察官による刑事処分の決定に際して、被害弁償の事実を斟酌してもらうためには、検察官が処分を決定するまでに被害弁償が済んでいる必要があります。もっとも、市としては被疑事実の範囲に捉われることなく、損害額を含めた事案の全容が明らかにならない限り被害弁償金を受領しようとはしないのが通常ですから、あなたとしては弁護人の協力の下、早期の段階から真摯な態度で事案の全容解明に協力していく必要があります。

市の事案調査に協力していることは、それ自体あなたの反省の態度を示す事情となりますので、弁護人としては、事案の全容解明や被害弁償に向けた市との折衝の経過を詳細に検察官に報告すべきことになります。どの時点でどのような資料を提出し、どのように調査に協力したか等を報告書にまとめておく必要があるでしょう。

なお、業務上横領罪については被害者である市に対する賠償によって被害弁償が実現可能であるものの、有印私文書変造罪、同行使罪や虚偽公文書作成罪については、文書に対する信用という社会的法益に対する犯罪であることから、被害者や被害弁償というものがそもそも観念できません。

もっとも、本件で用いられた内容虚偽の領収証や請書、報告書等の文書に対する信頼を最も害されたのは市に他ならず、一連の不正の内容を詳らかにすることは、文書に対する信頼が害されたことによる実害を取り除く作業に他なりません。その意味で、事案調査への協力は、有印私文書変造罪、同行使罪、虚偽公文書作成罪との関係でも有利な情状として主張することが可能でしょう。また、弁護人による検察官との協議を踏まえて、必要に応じて被害弁償に準ずる措置として、贖罪寄付等の対応も検討する必要があるでしょう。

これらを踏まえて、弁護人において検察官と刑事処分回避に向けた交渉を進めていくことになります。あなたにとって有利な事情は不起訴処分を求める弁護人の意見書の形にまとめてもらい、検察官に本件が敢えて公判請求する必要まではない事案であると理解してもらうことが必要です。

上記以外の有利な事情としては、お聞きした限りの事情で言えば、あなたが今後、少なくとも懲戒免職処分等の重大な社会的制裁が見込まれることから、これに加えて敢えて刑事処分を科することは不相当であるとの主張や、虚偽公文書作成との関係では、費用の項目の記載が異なるだけで、これによる財産上の損害が発生しているわけではないとの主張が可能でしょう。

第4 懲戒手続への対応|論旨免職の可否

今回あなたが行った一連の不正は、刑法上の犯罪に該当するのみならず、地方公務員法上の懲戒事由に抵触することになります(地方公務員法29条1項各号参照)。各自治体で設けられている懲戒処分の指針(標準処分量定)では、業務上横領事案は免職相当と定められていることが多いと思われます。

あなたの場合、領収証の変造等の巧妙な手口を用いて金銭を横領するという非違行為の態様それ自体が悪質であること、被害金額が約30万円と大きいこと、現金管理の業務にあたる職員自身による不正であり職務に対する信用失墜の度合いが大きいこと、約3年間の長期にわたり常習的に行われた不正であること等に照らせば、あなたに対する懲戒処分としては、基本的に懲戒免職相当の事案であると考えられます。

もっとも、懲戒処分の具体的な量定にあたっては、司法の動向(刑事手続の帰趨)など社会的重大性の程度や非違行為後の対応等も含め、総合的に考慮の上判断されるため、事後的な対応如何によっては懲戒免職処分を回避できる可能性もあり得ます。ただし、上記のような事案の性質に照らして、処分を軽減できたとしても、諭旨免職程度は覚悟しておく必要があるでしょう。諭旨免職も、免職を内容とする処分である点では懲戒免職と同様ですが、懲戒免職の場合、退職金の支給が一切受けられないのが通常であるのに対し、諭旨免職の場合、退職金の全部または一部の支給を受けられることになるため、処分による影響が全く異なります。

上記のとおり、市の事案調査への協力や被害弁償等の活動は、刑事手続上の身柄拘束や刑事処分を回避する上で有利な事情となるのみならず、懲戒処分を軽減する上でも大きな意味を持つことになります。また、刑事処分の内容(基礎、不起訴の別)は社会的重要性の程度として懲戒処分の量定の上での考慮要素となるため、刑事処分回避のための活動は懲戒処分軽減のための活動としての意味合いを有することになります。

懲戒処分軽減のための交渉は通常の刑事弁護人の活動範囲からは外れますが、あなたに有利な事情を可能な限り主張し、懲戒手続上も万全の態勢で臨みたいということであれば、弁護士に別途、懲戒処分軽減のための意見書の作成や交渉等を依頼すると良いでしょう。

以上

関連事例集

  • その他の事例集は下記のサイト内検索で調べることができます。
参照条文

刑法

(併合罪)
第四十五条 確定裁判を経ていない二個以上の罪を併合罪とする。ある罪について禁錮以上の刑に処する確定裁判があったときは、その罪とその裁判が確定する前に犯した罪とに限り、併合罪とする。

(有期の懲役及び禁錮の加重)
第四十七条 併合罪のうちの二個以上の罪について有期の懲役又は禁錮に処するときは、その最も重い罪について定めた刑の長期にその二分の一を加えたものを長期とする。ただし、それぞれの罪について定めた刑の長期の合計を超えることはできない。

(一個の行為が二個以上の罪名に触れる場合等の処理)
第五十四条 一個の行為が二個以上の罪名に触れ、又は犯罪の手段若しくは結果である行為が他の罪名に触れるときは、その最も重い刑により処断する。

(公文書偽造等)
第百五十五条 行使の目的で、公務所若しくは公務員の印章若しくは署名を使用して公務所若しくは公務員の作成すべき文書若しくは図画を偽造し、又は偽造した公務所若しくは公務員の印章若しくは署名を使用して公務所若しくは公務員の作成すべき文書若しくは図画を偽造した者は、一年以上十年以下の懲役に処する。
2 公務所又は公務員が押印し又は署名した文書又は図画を変造した者も、前項と同様とする。
3 前二項に規定するもののほか、公務所若しくは公務員の作成すべき文書若しくは図画を偽造し、又は公務所若しくは公務員が作成した文書若しくは図画を変造した者は、三年以下の懲役又は二十万円以下の罰金に処する。

(虚偽公文書作成等)
第百五十六条 公務員が、その職務に関し、行使の目的で、虚偽の文書若しくは図画を作成し、又は文書若しくは図画を変造したときは、印章又は署名の有無により区別して、前二条の例による。

(私文書偽造等)
第百五十九条 行使の目的で、他人の印章若しくは署名を使用して権利、義務若しくは事実証明に関する文書若しくは図画を偽造し、又は偽造した他人の印章若しくは署名を使用して権利、義務若しくは事実証明に関する文書若しくは図画を偽造した者は、三月以上五年以下の懲役に処する。
2 他人が押印し又は署名した権利、義務又は事実証明に関する文書又は図画を変造した者も、前項と同様とする。
3 前二項に規定するもののほか、権利、義務又は事実証明に関する文書又は図画を偽造し、又は変造した者は、一年以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。

(偽造私文書等行使)
第百六十一条 前二条の文書又は図画を行使した者は、その文書若しくは図画を偽造し、若しくは変造し、又は虚偽の記載をした者と同一の刑に処する。

(横領)
第二百五十二条 自己の占有する他人の物を横領した者は、五年以下の懲役に処する。

(業務上横領)
第二百五十三条 業務上自己の占有する他人の物を横領した者は、十年以下の懲役に処する。

刑事訴訟法

第百九十九条 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるときは、裁判官のあらかじめ発する逮捕状により、これを逮捕することができる。ただし、三十万円(刑法 、暴力行為等処罰に関する法律及び経済関係罰則の整備に関する法律の罪以外の罪については、当分の間、二万円)以下の罰金、拘留又は科料に当たる罪については、被疑者が定まつた住居を有しない場合又は正当な理由がなく前条の規定による出頭の求めに応じない場合に限る。
○2 裁判官は、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があると認めるときは、検察官又は司法警察員(警察官たる司法警察員については、国家公安委員会又は都道府県公安委員会が指定する警部以上の者に限る。以下本条において同じ。)の請求により、前項の逮捕状を発する。但し、明らかに逮捕の必要がないと認めるときは、この限りでない。

第二百三条 司法警察員は、逮捕状により被疑者を逮捕したとき、又は逮捕状により逮捕された被疑者を受け取つたときは、直ちに犯罪事実の要旨及び弁護人を選任することができる旨を告げた上、弁解の機会を与え、留置の必要がないと思料するときは直ちにこれを釈放し、留置の必要があると思料するときは被疑者が身体を拘束された時から四十八時間以内に書類及び証拠物とともにこれを検察官に送致する手続をしなければならない。

第二百八条 前条の規定により被疑者を勾留した事件につき、勾留の請求をした日から十日以内に公訴を提起しないときは、検察官は、直ちに被疑者を釈放しなければならない。
○2 裁判官は、やむを得ない事由があると認めるときは、検察官の請求により、前項の期間を延長することができる。この期間の延長は、通じて十日を超えることができない。

刑事訴訟規則

(明らかに逮捕の必要がない場合)
第百四十三条の三 逮捕状の請求を受けた裁判官は、逮捕の理由があると認める場合においても、被疑者の年齢及び境遇並びに犯罪の軽重及び態様その他諸般の事情に照らし、被疑者が逃亡する虞がなく、かつ、罪証を隠滅する虞がない等明らかに逮捕の必要がないと認めるときは、逮捕状の請求を却下しなければならない。

地方公務員法

(懲戒)
第二十九条 職員が次の各号の一に該当する場合においては、これに対し懲戒処分として戒告、減給、停職又は免職の処分をすることができる。
一 この法律若しくは第五十七条に規定する特例を定めた法律又はこれに基く条例、地方公共団体の規則若しくは地方公共団体の機関の定める規程に違反した場合
二 職務上の義務に違反し、又は職務を怠つた場合
三 全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあつた場合