新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1623、2015/08/01 19:05

【民事、民法95条の錯誤を第三者は債権者代位権の行使の過程で主張することができるか、最高裁昭和45年3月26日判決】

偽ブランド品について売主の売主に責任追及する方法


質問:
 私には、趣味で腕時計を収集している友人がいるのですが、高級腕時計を買いたいと思って探していると相談したところ、1本安く譲っても良いと言ってくれました。通常であればもっと高価なもののようですが、300万円で譲ってもらいました。
 私は全くの素人ですが、最近、模造品も多いと聞くので、その点を確認したところ、腕時計のコレクター仲間がおり、ときどきその人との間で売り買いし合うことがあるが、眼は確かな人だし、これまで偽物だったことはない、今回の腕時計も最近そのコレクター仲間から購入したものだから心配するなというので、この言葉を信じて、友人から購入をしました。
 しかし、購入後、どうにも不安になり、専門家に見てもらったところ、非常に精巧に作られてはいるが、偽物であるということが分かりました。このことを友人に告げ、支払ったお金を返して欲しいと言ったところ、偽物だったことは本当に申し訳ないと思っているが、自分だって偽物だと分かっていれば買っていないし、そのことはいつもコレクター仲間と話している。ただ、今さら偽物だったからとコレクター仲間にお金を返せなどとは言えないし、自分には返すお金も、代わりに差し出す腕時計もないと言います。
 聞くと、友人は過度の収集のため借金がかさみ、所有していた腕時計は全て処分し、私が支払ったお金も借金の返済へ充ててしまっていて、すでに手元にないということでした。
 友人に腕時計を売ったコレクターの人は資産家の人ですので、コレクターの人からお金を返してもらうことができるでしょうか。



回答:

1 あなたは、コレクターの人に対して友人が支払った腕時計の代金全額をあなた自身に対して支払うよう請求できます。

2 ご相談の場合、民法上問題となるのは、動機の錯誤による無効主張ができるか否か、また、第三者が動機の錯誤による無効を主張できる、コレクターに対してあなたに対して直接支払うよう請求できるかという点ですがいずれも肯定されると考えられます。


解説:

1(1)ご相談のケースでは、コレクター仲間と友人との間で売買(以下、第一売買といいます。)された腕時計を、友人とあなたとの間でさらに売買(以下、第二売買といいます。)の二つの売買契約があります。腕時計が偽物であったことが問題なのですが、友人も、あなたも、偽物だと分かっていたら、購入していないと言っていますので、二つの売買契約において買主は錯誤による無効を主張して、売買代金の返還を請求ができます(民法95条)。
    
 (2)民法95条にいう「錯誤」とは、表示行為(厳格に言うと表示から判断され\る効果意思これを表示上の効果意思といいます。)対応する内心的効果意思が存在せず、表意者がこれを知らないことをいいます。

    意思表示とは、一定の法律効果の発生を欲する意思を外部に表示する行為を言います。意思表示の理論的構成ですが、意思表示というのは、ある動機によって導かれることによって、内心的効果意思、表示意思、表示行為(表示上の効果意思)という三段階を経て成立するものであるとされています。

    例えば、喉が渇いたので、喫茶店でアイスコーヒーを注文する場合を例にとると、喉が渇いた(動機)→アイスコーヒーを買う(内心的効果意思)→「アイスコーヒーをください」と言おう(表示意思)→声に出して「アイスコーヒーをください」と言う(表示行為)、との過程をたどるということです。

   典型的例は、契約書に100ドルと書こうとして誤って100ユーロと書いた場合です。内心的効果意思は、100ドルと書く意思ですが、表示上は100ユーロなので食い違いがあるので錯誤となります。

 (3)ただ、先ほど、民法95条の規定を見たとおり、民法95条の錯誤というためには、単に錯誤があるというだけでは足りず、「法律行為の要素に錯誤があったとき」を要するとされています。

    「法律行為の要素」について、要素の錯誤とは、意思表示の重要な部分に錯誤があることを意味し、その錯誤がなかったなら、表意者だけでなく、通常一般人においてもその意思表示をしなかったであろうと認められる場合であることが必要だとされています。この点について判断した判例があります。(大判大正3年12月15日民録20輯1101頁。以下、大正3年判例といいます。)。

   要素の錯誤が無効であるという理論的根拠は、意思表示者の保護です。民法における私的自治の原則は契約時自由の大原則により成り立っていますが、契約をする意思(内心的効果意思)以外の意思表示(表示上の効果意思)をしてしまったのですからこれを無効にするのは当然のことです。取引の主要要素についての食い違いですからなおさらです。しかし、契約自由の原則は、公正な取引秩序の維持、発展のための手段的制度ですから当然、取引における相手方第三者の利益保護が必要であり、そのため、「要素」という制限、「重過失」という条件を加えて当事者の利益の調整を図っています。


   2(1)ご相談のケースにおいては、友人も、あなたも、問題の腕時計が本物であると信じて購入をしています。この本物であると信じたことは、先に見た意思表示理論によれば、「この時計を買う」という効果意思と「この時計を買います」という表示行為により意思表示が成立しますから、本物の時計を買うという点は、意思表示の外側にある動機にあたるものです。

    これも先に見たとおり、錯誤とは、表示行為に対応する内心的効果意思が存在せず、表意者がこれを知らないことをいいますから、腕時計を買いたいと思って(内心的効果意思)、腕時計を買いたいと言っている(表示行為)ご相談のケースにおいては、意思と表示の間に不一致はなく、民法上の錯誤とはいえないことになります。いわゆる動機の錯誤の場面と呼ばれるものです。動機の錯誤とは、サラブレットと思いだたの馬を購入したというもので、この馬を買うという点では、内心的効果意思と表示上の効果意思に食い違いはなく、馬を買う動機の点に食い違いが生じているだけです。従って取引は有効なのですが、取引上当事者にサラブレットを買う動機が表示され両当事者も了解している場合は、この馬を買うという取引でも要素の錯誤として無効としています。錯誤の理論的根拠が、意思表示当事者の利益保護にある以上、動機を知っている相手方を保護する必要がなくなるからです。この場合動機の錯誤無効を理論的に説明するため、そもそも錯誤とは、表示上の効果意思(馬を買う)と真に意図するところ(サラブレットを買う)に食い違いがあることとするする考え方がありますが錯誤理論を統一的に説明しており妥当な見解と思われます。

    この動機の錯誤の場面について判例は以下のように判示しています。

    「意思表示をなすについての動機は表意者が当該意思表示の内容としてこれを相手方に表示した場合でない限り法律行為の要素とはならないものと解するを相当とする。」(最高裁昭和29年11月26日判決民集8巻11号2087頁。以下、昭和29年判例といいます。)。

    つまり、動機の錯誤というのは、本来、法律行為の要素に錯誤がある場合とはいえないため、原則として、無効主張は認められないけれども、例外的に動機について相手方に表示している場合は、民法95条の錯誤として、要素の錯誤と認められる可能性があるということです。

    そして、この昭和29年判例と先の大正3年判例を読み合わせれば、その動機が意思表示の内容となって(相手方もその動機を知っていることが必要)、そこに錯誤が存在し、その錯誤が意思表示の重要な部分についてのもの、すなわち要素の錯誤である場合に、民法95条の適用があるということになります。

 (2)ア ご相談のケースについて、まず、第一売買について見てみますと、友人とコレクター仲間とは、ときどき売り買いし合う間柄であり、普段から偽物である場合は買わないことを互いに確認し合っています。

      これは、本物の腕時計を売買することが、契約の最も重要な部分になっているといえ、実際には腕時計は偽物であったということですから、要素に錯誤があるものといえると考えます。

    イ 第二売買について見てみると、あなたは、最近、模造品が多いと聞いているということで、この点を友人に確認しています。そうしたところ、友人から、コレクター仲間の眼は確かであり、これまで偽物であったことはないから心配しないよう言われため、腕時計が本物であると信じて購入を決めています。

      腕時計が本物であると信じたことは、売買の動機ではありますが、これらの事情からすると、動機が売買契約の内容となり(この場合の内心的効果意思は本物の時計を買う意思であり、契約書上の表示行為は当該偽物の時計を買うことですから内心的効果意思に対応する表示行為(表示上の効果意思)に食い違いがあるので錯誤となるわけです。)、しかもそれが契約の重要な部分になったといえるものと考えます。したがって、第二売買についても、要素の錯誤に当たるものと考えます。

3(1)法律行為の要素に錯誤があることが認められても、表意者に重大な過失がある場合には錯誤無効の主張をすることはできません(95条ただし書き)。

    民法95条の規定は、表意者を保護するために認められたものであるところ、その表意者に重大な過失のある場合については、保護に値しないことがその根拠となっています。

 (2)この点、ご相談のケースにおいて、第一売買について見てみると、友人とコレクター仲間とは一般素人以上の腕時計に関する知識は有していると考えられます。そして、友人とコレクター仲間とは、ときどき腕時計を売り買いし合う間柄であり、これまでコレクター仲間から偽物を買わされたことはないことから、友人は今回も問題ないと考え、腕時計を購入しています。

    確かに、友人は、一般素人以上の腕時計に関する知識を持っていると考えられ、もう少し慎重に取引すべきといえそうですが、専門家ではないようですし、それらの事実のみから、直ちに友人に重大な過失があるとはいえないと考えます。

    したがって、第一売買につき、友人は、錯誤による無効主張をすることが可能であると考えます。

 (3)第二売買について見ると、あなたは腕時計に関して全くの素人であるということですが、模造品でないかをきちんと確認しています。そうしたところ、腕時計のコレクターである友人から、今回対象となる腕時計は腕時計のコレクター仲間から購入したものであること、そのコレクター仲間とはたびたび腕時計を購入し合っているが、これまで偽物だったことは一度もないことを告げられ、これを信じて友人から購入したというのですから、あなたに重大な過失があったとまではいえないと考えます。

    したがって、第二売買につき、あなたは、錯誤による無効主張をすることが可能であると考えます。

4(1)このような状況にあるわけですから、本来であれば、あなた、友人とコレクターの三者で協議して偽物の時計をコレクターに返し、コレクターが受け取った代金はあなたに返し、返還されたお金が少なければ残額について友人からあなたに返還して清算して解決となるはずです。しかし、友人はコレクター仲間に対して代金を返して欲しいというつもりがないということですので、あなたとしては友人の代わりにコレクターに対して時計の代金の返還を請求する必要があります。その方法としては債権者代位権の行使という方法が考えられますが、その前提として友人のした意思表示が錯誤により無効であることを意思表示をした本人以外の人が主張できるかという問題があります。というのは、錯誤の理論の根拠は意思表示者の保護であり第三者は意思表示をしていないからです。

    表意者に錯誤無効を主張する意思がない場合については判例は、原則として、第三者から錯誤無効の主張をすることはできないと解しています。

    以下、判旨をご紹介します。

    「原判決は、民法九五条の律意は瑕疵ある意思表示をした当事者を保護しようとするにあるから、表意者自身において、その意思表示に何らの瑕疵を認めず、錯誤を理由として意思表示の無効を主張する意思がないにもかかわらず、第三者において錯誤に基づく意思表示の無効を主張することは、原則として許されないと解すべきである、と判示している。
    右原審の判断は、首肯できて、原審認定の事実関係のもとで上告人の所論抗弁を排斥した原審の判断に所論違法はない。」(最高裁昭和40年9月10日判決民集19巻6号1512頁)。

    これは本来、無効というのは、初めから何の効果も生じていないものであり、いつでも、誰からでも、誰に対しても主張ができるものなのですが、民法95条が錯誤による意思表示を無効としている趣旨が、表意者を保護することにあることに鑑みて、錯誤による意思表示の無効主張をなしうるのは、表意者のみに限られるのだ、との考えが根底にあるからだと思われます。

 (2)もっとも、最高裁は、ご相談のケースと類似の事案において、原則として表意者以外の第三者は錯誤無効を主張できないが、例外的に第三者であっても1.当該第三者において表意者に対する債権を保全するために必要がある場合。2.表意者が意思表示の瑕疵を認めているとき、は錯誤無効を主張し得る場合があることを認めるに至っており、次のように判示しています。

    「意思表示の要素の錯誤については、表意者自身においてその意思表示に瑕疵を認めず、錯誤を理由として意思表示の無効を主張する意思がないときは、原則として、第三者が右意思表示の無効を主張することは許されないものであるが(最高裁判所昭和三八年(オ)第一三四九号同四〇年九月一〇日第二小法廷判決、民集一九巻六号一五一二頁参照)、当該第三者において表意者に対する債権を保全するために必要がある場合において、表意者が意思表示の瑕疵を認めているときは、表意者みずからは当該意思表示の無効を主張する意思がなくても、第三者たる債権者は表意者の意思表示の錯誤による無効を主張することが許されるものと解するのが相当である。
    これを本件についてみるに、Xは、Aに対する売買代金返還請求権を保全するため、Aのした意思表示の錯誤による無効を主張し、AのYに対する売買代金返還請求権を代位行使するものであって、しかも、A自身においてもその意思表示に瑕疵があつたことを認めているのであるから、Aみずからが意思表示の無効を主張する意思を有すると否とにかかわらず、XがAの意思表示の無効を主張することは許されるものというべきである。」(最高裁昭和45年3月26日判決民集24巻3号151頁。以下、昭和45年判例といいます。)。

    この判例の事案の概要としては、とある画家の油絵が、YからA、AからXと売買されましたが、その油絵が贋作だったため、XがYに対して、YからA、AからXの売買契約はいずれも意思表示の要素に錯誤があり無効だとして、XのAに対する売買代金返還請求権を保全するため、AのYに対する錯誤による意思表示の無効主張をして、AのYに対する売買代金返還請求権を代位行使した(423条)、というものでした。

    この昭和45年判例のいう「債権を保全するために必要がある場合」というのは、債権者代位権(423条)を行使するための要件の一つですが、債務者が無資力であることと解されています。そして、無資力というのは、すべての債務を弁済するだけの財産がないことと解されています。この判例がこのような結論をとったのは、Aが無資力であるにもかかわらず、AY間の売買の無効主張をして代金の返還を求めないことは、XA間の売買の無効によりAの負う代金返還債務を事実上免れることになるだけでなく、AY間の売買の無効によりYの負うことになる代金返還債務を生じさせないことで、Yに不当に利益を与え、Xに不当に損害を与えるものである、ということで、AY間の売買につき、Xは表意者ではない第三者ではあるけれども、例外的に錯誤無効の主張を認めたということです。

    錯誤による無効を認めるのは表意者の保護が根拠にあることから、表意者がその保護を求めない場合は第三者が錯誤無効を主張できないとしても、表意者が無資力で返済ができないにもかかわらず自分の権利を行使せず債権者に迷惑をかけているという状態で、しかも表意者が意思表示の瑕疵を認めているという事実関係のもとでは第三者に錯誤による無効の主張を認めても表意者の保護に欠けるところがないと言えるからです。

 (3)ご相談のケースについてみますと、友人は、自分には返すお金も、代わりに差し出す腕時計もない、過度の収集のため借金がかさみ、所有していた腕時計は全て処分し、あなたが支払ったお金も借金の返済へ充ててしまっていて、すでに手元にないという状況であり、友人は無資力であるといえるでしょう。

    そして友人は、偽物だったことは本当に申し訳ないと思っている、自分だって偽物だと分かっていれば買っていないし、そのことはいつもコレクター仲間と話していると言っていますが、これは自己の意思表示に瑕疵があったことを認めているといって良いと考えられます。しかし、そのような状況を認めているにもかかわらず、今さら偽物だったからとコレクター仲間にお金を返せなどとは言えないなどと、友人自らは、錯誤による意思表示の無効を主張する意思がありません。

    したがって、あなたは、友人・コレクター仲間間の第一売買に関しては第三者の立場ではありますが、上記最高裁判例の例外の場面に該当し、あなたは友人の意思表示の錯誤による無効を主張することが許されるものと解されます。

5(1)あなた、友人、コレクター仲間の三者による交渉で話がまとまるのであれば、それが最も良いと思われますが、どうしても応じてもらえないとなると、最終的には債権者代位訴訟を提起するしかないと思われます。

    その場合注意すべきは、昭和45年判例が問題としているのは、Xによって、Aの錯誤による意思表示の無効を代位権の行使として主張する点ではないことです。つまり、ご相談の事案でいえば、あなたが自分自身の主張として錯誤無効を主張するのであって、友人の錯誤無効の主張をあなたが代位権の行使によって代わって行うのではありません。代位行使するのは、その無効主張の結果生ずる友人の知人に対する不当利得返還請求権としての売買代金返還請求権であるということです。錯誤による無効はそもそも法的効果が生じていないので代位権の対象となる権利そのものがないからです。

    訴訟を行う場合は、友人とコレクター仲間を被告として訴えることになるでしょう。その場合の請求の趣旨としては、「被告○○(友人)は原告に対して300万円を、被告○○(コレクター仲間)は原告に対して○○円を各支払え」との判決を求めることになります。

    そして、第二売買については、錯誤の要件に該当し無効であり代金返還請求権を有することを、第一売買については、錯誤の要件に該当し無効であること、したがって友人はコレクター仲間に対して代金返還請求権を有すること、友人はこれを自ら行使しない上、無資力であるから、あなたの友人に対する代金返還請求権を保全するため、友人に代位してコレクター仲間に対して友人のコレクター仲間に対する代金返還請求権を行使する旨を請求原因の中で明らかにすることになるでしょう。

    ご相談の事案では第一売買の代金が不明ですが、転売事例ですので、第二売買よりも代金が大きいということはないと思われます。この場合、コレクター仲間に対して、友人が支払った売買代金の全額をあなた自身に支払うよう求めることができます。

    もし、第二売買の代金のほうが小さいという場合には、300万円の限度でコレクター仲間に対して支払うよう求めることができ、残りは友人に支払われることになるでしょう。

 (2)ご相談の事案では、友人は意思表示に瑕疵があることを認めているといって問題ないと思われますが、仮に友人が瑕疵を認めていない、あるいは瑕疵があることを認めているとはみられないと判断される場合には、上記最高裁判例にいう例外の要件を欠くこととなり、あなたは自己の主張として第一売買についての錯誤無効の主張はできないことになってしまいます。

    下級審では、債権者代位権の行使により錯誤無効の主張を認めたものが古くから存在しますが(東京高判昭和26年10月25日判タ21号53頁、東京高判昭和28年8月10日下民集4巻8号1121頁)、最高裁の立場は不明です。

    先に見たとおり最高裁は、債権保全の必要性があり、表意者が意思表示の瑕疵を認めているという許容性があるときに、例外的に債権者固有の錯誤無効の主張を認めています。このことからすると、表意者が意思表示の瑕疵を認めているという要件を充たしていなければ債権者代位権の行使による錯誤無効の主張は、最高裁は認めないと思われます。

 (3)また、ご相談の場合民法上の詐欺の問題も考えられるところではあります。詐欺によって行われた意思表示は取り消すことができます(96条1項)。詐欺とは、欺罔によって人を錯誤に陥れることであり、相手方または第三者の欺罔行為によって、表意者が錯誤に陥り、その錯誤によって意思表示を行うことで成立します。これらの間にはすべて因果関係が必要で、詐欺者の故意も必要となります。

    詐欺者の故意は相手方を欺罔して錯誤に陥らせるという故意と、その錯誤によって意思表示をさせようとする故意の2つの故意が必要だと解されています(二段の故意)。

    また、欺罔行為は、信義則に反する程度の違法性があることが必要だと解されています。

    ご相談のケースにおける第二売買については、友人はこれまでコレクター仲間との取引で偽物だったことはない、偽物だったらそもそも売買していないということですから、本物だと思って第二売買を行っており、欺罔行為自体が存在せず、詐欺による取消しは難しいかもしれません。

    第一売買については、友人・コレクター仲間間の売買はこれまで偽物だったことはないということですが、今回の取引に限ってはコレクター仲間は偽物だと分かっていた上で、友人を騙して取引をした可能性はあります。そのような場合であれば、友人は詐欺によるものとして、第一売買を取り消すことができることになるでしょう。

    この場合についても、友人が自分で詐欺による取消しを主張しないであろうと言う状況は、錯誤の場面と同様と考えられますから、あなたが友人の詐欺による取消権を代位行使可能かが同じように問題になってきます。詐欺による取消権の行使は表意者の権利行使の意思表示が必要ですから、錯誤無効の主張のように第三者が自ら主張するということはできないと考えられます。そこで錯誤とは異なり、債権者代位権の行使により代位して詐欺による取り消しを主張することになります。代位権の客体には、取消権などの形成権も含まれるものと解されています。詐欺の場合の判例が存在しないようなので、不明ではありますが、詐欺取消しが認められているのは錯誤と同様、表意者を保護することにありますので、表意者への不当な干渉とならないよう、昭和45年判例の示したのと同じ要件の下で、取消権の代位行使が認められるのではないかと考えます。

    ただ、学説上は、取消権の代位行使については、特にそのような制限を設けることなく、代位行使を認めるという見解が一般的ではあるようです。しかし、具体的な訴訟においては詐欺行為の立証が必要になり意思表示の瑕疵を表意者が認めていることは必要になると考えられます。

    一度、お近くの法律事務所へご相談なさってみてください。


<参照条文>
民法
(基本原則)
第一条 私権は、公共の福祉に適合しなければならない。
2 権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。
3 権利の濫用は、これを許さない。
(錯誤)
第九十五条 意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする。ただし、表意者に重大な過失があったときは、表意者は、自らその無効を主張することができない。
(詐欺又は強迫)
第九十六条 詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
2 相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知っていたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。
3 前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意の第三者に対抗するができない。
(債権者代位権)
第四百二十三条 債権者は、自己の債権を保全するため、債務者に属する権利を行使することができる。ただし、債務者の一身に専属する権利は、この限りでない。
2 債権者は、その債権の期限が到来しない間は、裁判上の代位によらなければ、前項の権利を行使することができない。ただし、保存行為は、この限りでない。
(不当利得の返還義務)
第七百三条 法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。
(悪意の受益者の返還義務等)
第七百四条 悪意の受益者は、その受けた利益に利息を付して返還しなければならない。この場合において、なお損害があるときは、その賠償の責任を負う。


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