新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1332、2012/9/4 10:57 https://www.shinginza.com/idoushin.htm

【行政処分・医道審議会と代理人弁護士の役割・佐賀地方裁判所平成20年12月12日判決・最高裁判所昭和52年12月20日判決】

質問:医道審議会など、行政処分を受けるに当たって、弁護士に相談するメリットを教えてください。

回答:行政処分において弁護士に相談したり、代理人に選任するメリットは、
1 行政処分の前提として聴聞手続き等において、正しい手続きで行われているか否かをチェックできる。
2 行政処分の判断における処分の対象となっている者について、何が有利な事情かを判断し、有利な事情を主張できる。また、示談や贖罪寄付等の有利な事情を作り出すことができる。
3 行政訴訟を前提として、行政処分の妥当性、裁量の範囲について検討することができ、過度に重い行政処分を防ぐことができる。
等の点が挙げられます。以下解説で説明します。
4 医道審議会関連事例集論文1303番1144番1102番1085番1079番1042番1034番869番735番653番551番313番266番246番211番48番参照。

解説:
1 (行政処分の手続きの特色)
  行政処分には、運転免許の停止や取り消し、店舗等の営業権の停止剥奪から、公務員の懲戒や解雇、医師や教師の免許の停止、剥奪、などが考えられます。
  日本国憲法は、何人も,法律の定める手続によらなければ,その生命若しくは自由を奪はれ,又はその他の刑罰を科せられない(31条)と定めています。そして、これを受けて、行政手続法が規定され、基本的な手続の内容や、不服申し立ての方法などが定められています。したがって、行政処分を受ける場合でも、充分に手続保障がされていると、一応はいえます。しかし、必ずしもそうとはいえない場面が多数あります。これについて、一般的な刑事裁判と比較して検討してみます。

  まず、各種手続によって、根拠とする法令が様々です。一般的には、行政手続法が規定していますが、公務員の職務又は身分に関してされる処分については,同法3条1項9号により適用除外とされ、地方公務員法が規定しています。また、医師の免許剥奪や停止については、医師法がこれを規定しています。そして、処分の前に意見ないし弁明を聞く機会を与えるという点で、概ね同じではありますが、各種手続によって細かい点に大きな違いがあります。

  この点刑事裁判では、犯罪があれば、刑法が適用され、その処罰にいたる手続には、刑事訴訟法が適用されます。そして、ここが非常に重要なところですが、どのような立場の人でも、日本全国どこにいても、同じ手順で手続が進んでいくことです。これにより、事前にある程度今後の手続や処罰内容を予測することができますし、各種手続に対する対策を検討することもできます。刑事裁判を経験したことのない弁護士はほぼ存在しませんので、弁護士に相談して、手続きについて弁護を依頼することも比較的容易であり、国選弁護人など、被告人の権利もある程度充実しています。

  しかし、行政処分についてはまだその保障が不十分であるといえます。まず、自分がこれから受ける手続がどのようなもので、どの法律に基づくものなのか、自体が前述のようにわかりにくく、また、手続は原則非公開であるため、具体的な流れはほとんどわかりません。弁明を聞く機会が与えられる、といっても、具体的にいつ、どこで、どんなことをすればいいのか、どのようなことを聞かれるのか、書面は出していいのか、証拠は出していいのか、刑事裁判では当たり前のルールがどの程度通用するのか、という点がはっきりしません。各種行政処分について弁護活動を引き受ける場合、実際の経験として、一口に手続保障といっても、様々な手続があることを実感せざるを得ません。

2 (刑事事件との違い)
  刑事裁判では、裁判がはじまってから終わるまで、裁判所に足を踏み入れてから出るまで、ほぼ全ての事件で流れがきちんと決まっており、被告人も弁護士もその流れに従って、自身の権利を主張できます。また、裁判官はもちろん、書記官、事務官という手続に精通した職員の協力により、スムーズに手続が進みます。しかし、各種行政処分では、そこまで細かい手続がマニュアル化されていないため、場合によっては、担当職員の理解が不十分で充分な手続が保証されていなかったり、年度や、地方によって微妙に手続に差が出たりすることがあります。もちろん刑事裁判でも地方によって運用の差は多少ありますが、それほど大きな差ではなく、また法廷は公開なので事前に特色を調査することもできますが、行政手続にはそれがありません。医道審議会に関する事件でも、医師の居住する地域によって弁明聴取の手順に微妙な違いが見られます(それでも、ここ数年はだいぶ統一されてきていますが)。
  行政処分に対する対策を立てる上で、手続の具体的な流れを把握することは、非常に重要です。出したい証拠があるときに、いつどのタイミングで出せばよいか、また、職員が受け取りを拒否したときにどのように主張すればよいか、書面か口頭か、などの情報を知っているのといないのでは、活動に大きな差が出ます。そのため、手続きについて専門的な弁護士に相談、依頼することは、自身の権利を守るために重要だといえるでしょう。

3 (行政処分の裁量権とその逸脱の判断方法) 
  行政処分の結果に不服であるときは、異議申し立て、さらには行政訴訟という手続が保障されています。最終的には、行政訴訟で裁判所の判断を仰ぐこともできます。しかし、行政処分に関する裁判所のスタンスは、「著しい権限逸脱があるか」という判断基準を用いることが一般的で、行政庁には広い裁量が認められています。これだけでも、訴訟による逆転は難しいことがわかります。そして、この「権限逸脱」とは、当該行政庁に一般的に認められる権限があって、それを「逸脱」するか、の判断ですから、まず当該行政庁の権限を知らなければなりません。具体的には、過去の同様の事案との異同を検討することが必要です。同様の理由で、対象となっている処分内容が過去の事案に比べて不当に重ければ、権限逸脱の可能性が高くなるわけです。
  この点、刑事裁判は公開の法廷で行われ、裁判の結果は公開されます。裁判例は原則としてだれでも知ることができ、その情報の整理も進んでいます。すなわち、量刑相場、というものが予測できるわけです。しかし行政処分ではそれができません。過去の事例を調査することは容易ではありませんが全くできないわけではありません。この点でも、同様の事件についての経験豊富な弁護士を依頼するメリットがあるといえるでしょう。

4 刑事事件では、国選弁護人という制度があります。近時ではさらに拡充され、被疑者国選制度も始まりました。刑罰という不利益を受ける可能性がある場合に、早い段階から、専門家によるバックアップが受けやすくなっています。
  しかし、行政処分については、まだその保障は充分とはいえません。処分を受けるにあたり、手続の流れも、根拠となる法令も理解できている方は少なく、また、処分に関与する職員の手続に対する理解、意識が必ずしも充分とはいえないケースも見受けられました。「弁護士を依頼するなどけしからんことだ」という考えを示されることもあるかもしれません。
  しかし、不利益処分を受けるには、適正な手続が保障される。これは、わが国の全ての法の上に立つ、法の支配の根源たる憲法上の要請です。医師免許取り消し、公務員懲戒処分など、判例の言葉を借りれば「死刑判決に等しい」処分について、手続保障が充分でないのが実情です。
  また、国民の権利保護を使命とするのが弁護士ですが、行政処分については詳しい弁護士が少ないのも現実です。もし行政処分を受ける可能性がある場合、行政手続の経験のある弁護士に相談することが必要です。

《参考法令》

≪医師法≫
第七条  医師が,第三条に該当するときは,厚生労働大臣は,その免許を取り消す。
2  医師が第四条各号のいずれかに該当し,又は医師としての品位を損するような行為のあつたときは,厚生労働大臣は,次に掲げる処分をすることができる。
一  戒告
二  三年以内の医業の停止
三  免許の取消し
4  厚生労働大臣は,前三項に規定する処分をなすに当つては,あらかじめ,医道審議会の意見を聴かなければならない。
5  厚生労働大臣は,第一項又は第二項の規定による免許の取消処分をしようとするときは,都道府県知事に対し,当該処分に係る者に対する意見の聴取を行うことを求め,当該意見の聴取をもつて,厚生労働大臣による聴聞に代えることができる。
6  行政手続法 (平成五年法律第八十八号)第三章第二節 (第二十五条,第二十六条及び第二十八条を除く。)の規定は,都道府県知事が前項の規定により意見の聴取を行う場合について準用する。この場合において,同節 中「聴聞」とあるのは「意見の聴取」と,同法第十五条第一項中「行政庁」とあるのは「都道府県知事」と,同条第三項 (同法第二十二条第三項 において準用する場合を含む。)中「行政庁は」とあるのは「都道府県知事は」と,「当該行政庁が」とあるのは「当該都道府県知事が」と,「当該行政庁の」とあるのは「当該都道府県の」と,同法第十六条第四項 並びに第十八条第一項 及び第三項 中「行政庁」とあるのは「都道府県知事」と,同法第十九条第一項 中「行政庁が指名する職員その他政令で定める者」とあるのは「都道府県知事が指名する職員」と,同法第二十条第一項 ,第二項及び第四項中「行政庁」とあるのは「都道府県」と,同条第六項 ,同法第二十四条第三項 及び第二十七条第一項 中「行政庁」とあるのは「都道府県知事」と読み替えるものとする。
11  厚生労働大臣は,第二項の規定による医業の停止の命令をしようとするときは,都道府県知事に対し,当該処分に係る者に対する弁明の聴取を行うことを求め,当該弁明の聴取をもつて,厚生労働大臣による弁明の機会の付与に代えることができる。
12  前項の規定により弁明の聴取を行う場合において,都道府県知事は,弁明の聴取を行うべき日時までに相当な期間をおいて,当該処分に係る者に対し,次に掲げる事項を書面により通知しなければならない。
一  第二項の規定を根拠として当該処分をしようとする旨及びその内容
二  当該処分の原因となる事実
三  弁明の聴取の日時及び場所
13  厚生労働大臣は,第十一項に規定する場合のほか,厚生労働大臣による弁明の機会の付与に代えて,医道審議会の委員に,当該処分に係る者に対する弁明の聴取を行わせることができる。この場合においては,前項中「前項」とあるのは「次項」と,「都道府県知事」とあるのは「厚生労働大臣」と読み替えて,同項の規定を適用する。
14  第十二項(前項後段の規定により読み替えて適用する場合を含む。)の通知を受けた者は,代理人を出頭させ,かつ,証拠書類又は証拠物を提出することができる。
16  厚生労働大臣は,第五項又は第十一項の規定により都道府県知事が意見の聴取又は弁明の聴取を行う場合においては,都道府県知事に対し,あらかじめ,次に掲げる事項を通知しなければならない。
一  当該処分に係る者の氏名及び住所
二  当該処分の内容及び根拠となる条項
三  当該処分の原因となる事実
17  第五項の規定により意見の聴取を行う場合における第六項において読み替えて準用する行政手続法第十五条第一項 の通知又は第十一項 の規定により弁明の聴取を行う場合における第十二項 の通知は,それぞれ,前項の規定により通知された内容に基づいたものでなければならない。
18  第五項若しくは第十一項の規定により都道府県知事が意見の聴取若しくは弁明の聴取を行う場合又は第十三項前段の規定により医道審議会の委員が弁明の聴取を行う場合における当該処分については,行政手続法第三章 (第十二条及び第十四条を除く。)の規定は,適用しない。
【行政手続法】
(目的等)
第一条  この法律は,処分,行政指導及び届出に関する手続並びに命令等を定める手続に関し,共通する事項を定めることによって,行政運営における公正の確保と透明性(行政上の意思決定について,その内容及び過程が国民にとって明らかであることをいう。第四十六条において同じ。)の向上を図り,もって国民の権利利益の保護に資することを目的とする。
2  処分,行政指導及び届出に関する手続並びに命令等を定める手続に関しこの法律に規定する事項について,他の法律に特別の定めがある場合は,その定めるところによる。(処分の基準)
第十二条  行政庁は,処分基準を定め,かつ,これを公にしておくよう努めなければならない。
2  行政庁は,処分基準を定めるに当たっては,不利益処分の性質に照らしてできる限り具体的なものとしなければならない。
(不利益処分をしようとする場合の手続)
第十三条  行政庁は,不利益処分をしようとする場合には,次の各号の区分に従い,この章の定めるところにより,当該不利益処分の名あて人となるべき者について,当該各号に定める意見陳述のための手続を執らなければならない。
一  次のいずれかに該当するとき 聴聞
イ 許認可等を取り消す不利益処分をしようとするとき。
ロ イに規定するもののほか,名あて人の資格又は地位を直接にはく奪する不利益処分をしようとするとき。
ハ 名あて人が法人である場合におけるその役員の解任を命ずる不利益処分,名あて人の業務に従事する者の解任を命ずる不利益処分又は名あて人の会員である者の除名を命ずる不利益処分をしようとするとき。
ニ イからハまでに掲げる場合以外の場合であって行政庁が相当と認めるとき。
二  前号イからニまでのいずれにも該当しないとき 弁明の機会の付与
2  次の各号のいずれかに該当するときは,前項の規定は,適用しない。
一  公益上,緊急に不利益処分をする必要があるため,前項に規定する意見陳述のための手続を執ることができないとき。
二  法令上必要とされる資格がなかったこと又は失われるに至ったことが判明した場合に必ずすることとされている不利益処分であって,その資格の不存在又は喪失の事実が裁判所の判決書又は決定書,一定の職に就いたことを証する当該任命権者の書類その他の客観的な資料により直接証明されたものをしようとするとき。
三  施設若しくは設備の設置,維持若しくは管理又は物の製造,販売その他の取扱いについて遵守すべき事項が法令において技術的な基準をもって明確にされている場合において,専ら当該基準が充足されていないことを理由として当該基準に従うべきことを命ずる不利益処分であってその不充足の事実が計測,実験その他客観的な認定方法によって確認されたものをしようとするとき。
四  納付すべき金銭の額を確定し,一定の額の金銭の納付を命じ,又は金銭の給付決定の取消しその他の金銭の給付を制限する不利益処分をしようとするとき。
五  当該不利益処分の性質上,それによって課される義務の内容が著しく軽微なものであるため名あて人となるべき者の意見をあらかじめ聴くことを要しないものとして政令で定める処分をしようとするとき。
(不利益処分の理由の提示)
第十四条  行政庁は,不利益処分をする場合には,その名あて人に対し,同時に,当該不利益処分の理由を示さなければならない。ただし,当該理由を示さないで処分をすべき差し迫った必要がある場合は,この限りでない。
2  行政庁は,前項ただし書の場合においては,当該名あて人の所在が判明しなくなったときその他処分後において理由を示すことが困難な事情があるときを除き,処分後相当の期間内に,同項の理由を示さなければならない。
3  不利益処分を書面でするときは,前二項の理由は,書面により示さなければならない。
(聴聞の通知の方式)
第十五条  行政庁は,聴聞を行うに当たっては,聴聞を行うべき期日までに相当な期間をおいて,不利益処分の名あて人となるべき者に対し,次に掲げる事項を書面により通知しなければならない。
一  予定される不利益処分の内容及び根拠となる法令の条項
二  不利益処分の原因となる事実
三  聴聞の期日及び場所
四  聴聞に関する事務を所掌する組織の名称及び所在地
2  前項の書面においては,次に掲げる事項を教示しなければならない。
一  聴聞の期日に出頭して意見を述べ,及び証拠書類又は証拠物(以下「証拠書類等」という。)を提出し,又は聴聞の期日への出頭に代えて陳述書及び証拠書類等を提出することができること。
二  聴聞が終結する時までの間,当該不利益処分の原因となる事実を証する資料の閲覧を求めることができること。
3  行政庁は,不利益処分の名あて人となるべき者の所在が判明しない場合においては,第一項の規定による通知を,その者の氏名,同項第三号及び第四号に掲げる事項並びに当該行政庁が同項各号に掲げる事項を記載した書面をいつでもその者に交付する旨を当該行政庁の事務所の掲示場に掲示することによって行うことができる。この場合においては,掲示を始めた日から二週間を経過したときに,当該通知がその者に到達したものとみなす。
(代理人)
第十六条  前条第一項の通知を受けた者(同条第三項後段の規定により当該通知が到達したものとみなされる者を含む。以下「当事者」という。)は,代理人を選任することができる。
2  代理人は,各自,当事者のために,聴聞に関する一切の行為をすることができる。
3  代理人の資格は,書面で証明しなければならない。
4  代理人がその資格を失ったときは,当該代理人を選任した当事者は,書面でその旨を行政庁に届け出なければならない。
(参加人)
第十七条  第十九条の規定により聴聞を主宰する者(以下「主宰者」という。)は,必要があると認めるときは,当事者以外の者であって当該不利益処分の根拠となる法令に照らし当該不利益処分につき利害関係を有するものと認められる者(同条第二項第六号において「関係人」という。)に対し,当該聴聞に関する手続に参加することを求め,又は当該聴聞に関する手続に参加することを許可することができる。
2  前項の規定により当該聴聞に関する手続に参加する者(以下「参加人」という。)は,代理人を選任することができる。
3  前条第二項から第四項までの規定は,前項の代理人について準用する。この場合において,同条第二項及び第四項中「当事者」とあるのは,「参加人」と読み替えるものとする。
(文書等の閲覧)
第十八条  当事者及び当該不利益処分がされた場合に自己の利益を害されることとなる参加人(以下この条及び第二十四条第三項において「当事者等」という。)は,聴聞の通知があった時から聴聞が終結する時までの間,行政庁に対し,当該事案についてした調査の結果に係る調書その他の当該不利益処分の原因となる事実を証する資料の閲覧を求めることができる。この場合において,行政庁は,第三者の利益を害するおそれがあるときその他正当な理由があるときでなければ,その閲覧を拒むことができない。
2  前項の規定は,当事者等が聴聞の期日における審理の進行に応じて必要となった資料の閲覧を更に求めることを妨げない。
3  行政庁は,前二項の閲覧について日時及び場所を指定することができる。
(聴聞の主宰)
第十九条  聴聞は,行政庁が指名する職員その他政令で定める者が主宰する。
2  次の各号のいずれかに該当する者は,聴聞を主宰することができない。
一  当該聴聞の当事者又は参加人
二  前号に規定する者の配偶者,四親等内の親族又は同居の親族
三  第一号に規定する者の代理人又は次条第三項に規定する補佐人
四  前三号に規定する者であったことのある者
五  第一号に規定する者の後見人,後見監督人,保佐人,保佐監督人,補助人又は補助監督人
六  参加人以外の関係人
(聴聞の期日における審理の方式)
第二十条  主宰者は,最初の聴聞の期日の冒頭において,行政庁の職員に,予定される不利益処分の内容及び根拠となる法令の条項並びにその原因となる事実を聴聞の期日に出頭した者に対し説明させなければならない。
2  当事者又は参加人は,聴聞の期日に出頭して,意見を述べ,及び証拠書類等を提出し,並びに主宰者の許可を得て行政庁の職員に対し質問を発することができる。
3  前項の場合において,当事者又は参加人は,主宰者の許可を得て,補佐人とともに出頭することができる。
4  主宰者は,聴聞の期日において必要があると認めるときは,当事者若しくは参加人に対し質問を発し,意見の陳述若しくは証拠書類等の提出を促し,又は行政庁の職員に対し説明を求めることができる。
5  主宰者は,当事者又は参加人の一部が出頭しないときであっても,聴聞の期日における審理を行うことができる。
6  聴聞の期日における審理は,行政庁が公開することを相当と認めるときを除き,公開しない。
(陳述書等の提出)
第二十一条  当事者又は参加人は,聴聞の期日への出頭に代えて,主宰者に対し,聴聞の期日までに陳述書及び証拠書類等を提出することができる。
2  主宰者は,聴聞の期日に出頭した者に対し,その求めに応じて,前項の陳述書及び証拠書類等を示すことができる。
(続行期日の指定)
第二十二条  主宰者は,聴聞の期日における審理の結果,なお聴聞を続行する必要があると認めるときは,さらに新たな期日を定めることができる。
2  前項の場合においては,当事者及び参加人に対し,あらかじめ,次回の聴聞の期日及び場所を書面により通知しなければならない。ただし,聴聞の期日に出頭した当事者及び参加人に対しては,当該聴聞の期日においてこれを告知すれば足りる。
3  第十五条第三項の規定は,前項本文の場合において,当事者又は参加人の所在が判明しないときにおける通知の方法について準用する。この場合において,同条第三項中「不利益処分の名あて人となるべき者」とあるのは「当事者又は参加人」と,「掲示を始めた日から二週間を経過したとき」とあるのは「掲示を始めた日から二週間を経過したとき(同一の当事者又は参加人に対する二回目以降の通知にあっては,掲示を始めた日の翌日)」と読み替えるものとする。
(当事者の不出頭等の場合における聴聞の終結)
第二十三条  主宰者は,当事者の全部若しくは一部が正当な理由なく聴聞の期日に出頭せず,かつ,第二十一条第一項に規定する陳述書若しくは証拠書類等を提出しない場合,又は参加人の全部若しくは一部が聴聞の期日に出頭しない場合には,これらの者に対し改めて意見を述べ,及び証拠書類等を提出する機会を与えることなく,聴聞を終結することができる。
2  主宰者は,前項に規定する場合のほか,当事者の全部又は一部が聴聞の期日に出頭せず,かつ,第二十一条第一項に規定する陳述書又は証拠書類等を提出しない場合において,これらの者の聴聞の期日への出頭が相当期間引き続き見込めないときは,これらの者に対し,期限を定めて陳述書及び証拠書類等の提出を求め,当該期限が到来したときに聴聞を終結することとすることができる。
(聴聞調書及び報告書)
第二十四条  主宰者は,聴聞の審理の経過を記載した調書を作成し,当該調書において,不利益処分の原因となる事実に対する当事者及び参加人の陳述の要旨を明らかにしておかなければならない。
2  前項の調書は,聴聞の期日における審理が行われた場合には各期日ごとに,当該審理が行われなかった場合には聴聞の終結後速やかに作成しなければならない。
3  主宰者は,聴聞の終結後速やかに,不利益処分の原因となる事実に対する当事者等の主張に理由があるかどうかについての意見を記載した報告書を作成し,第一項の調書とともに行政庁に提出しなければならない。
4  当事者又は参加人は,第一項の調書及び前項の報告書の閲覧を求めることができる。
(聴聞の再開)
第二十五条  行政庁は,聴聞の終結後に生じた事情にかんがみ必要があると認めるときは,主宰者に対し,前条第三項の規定により提出された報告書を返戻して聴聞の再開を命ずることができる。第二十二条第二項本文及び第三項の規定は,この場合について準用する。
(聴聞を経てされる不利益処分の決定)
第二十六条  行政庁は,不利益処分の決定をするときは,第二十四条第一項の調書の内容及び同条第三項の報告書に記載された主宰者の意見を十分に参酌してこれをしなければならない。
(不服申立ての制限)
第二十七条  行政庁又は主宰者がこの節の規定に基づいてした処分については,行政不服審査法 (昭和三十七年法律第百六十号)による不服申立てをすることができない。
2  聴聞を経てされた不利益処分については,当事者及び参加人は,行政不服審査法 による異議申立てをすることができない。ただし,第十五条第三項後段の規定により当該通知が到達したものとみなされる結果当事者の地位を取得した者であって同項に規定する同条第一項第三号(第二十二条第三項において準用する場合を含む。)に掲げる聴聞の期日のいずれにも出頭しなかった者については,この限りでない。
【行政事件訴訟法】
(出訴期間)
第十四条  取消訴訟は,処分又は裁決があつたことを知つた日から六箇月を経過したときは,提起することができない。ただし,正当な理由があるときは,この限りでない。
2  取消訴訟は,処分又は裁決の日から一年を経過したときは,提起することができない。ただし,正当な理由があるときは,この限りでない。
3  処分又は裁決につき審査請求をすることができる場合又は行政庁が誤つて審査請求をすることができる旨を教示した場合において,審査請求があつたときは,処分又は裁決に係る取消訴訟は,その審査請求をした者については,前二項の規定にかかわらず,これに対する裁決があつたことを知つた日から六箇月を経過したとき又は当該裁決の日から一年を経過したときは,提起することができない。ただし,正当な理由があるときは,この限りでない。
【憲法】
第三十一条  何人も,法律の定める手続によらなければ,その生命若しくは自由を奪はれ,又はその他の刑罰を科せられない。

《参考判例》
最高裁判所昭和52年12月20日判決

裁量権の範囲の逸脱について
 公務員に対する懲戒処分は,当該公務員に職務上の義務違反,その他,単なる労使関係の見地においてではなく,国民全体の奉仕者として公共の利益のために勤務することをその本質的な内容とする勤務関係の見地において,公務員としてふさわしくない非行がある場合に,その責任を確認し,公務員関係の秩序を維持するため,科される制裁である。ところで,国公法は,同法所定の懲戒事由がある場合に,懲戒権者が,懲戒処分をすべきかどうか,また,懲戒処分をするときにいかなる処分を選択すべきかを決するについては,公正であるべきこと(七四条一項)を定め,平等取扱いの原則(二七条)及び不利益取扱いの禁止(九八条三項)に違反してはならないことを定めている以外に,具体的な基準を設けていない。したがつて,懲戒権者は,懲戒事由に該当すると認められる行為の原因,動機,性質,態様,結果,影響等のほか,当該公務員の右行為の前後における態度,懲戒処分等の処分歴,選択する処分が他の公務員及び社会に与える影響等,諸般の事情を考慮して,懲戒処分をすべきかどうか,また,懲戒処分をする場合にいかなる処分を選択すべきか,を決定することができるものと考えられるのであるが,その判断は,右のような広範な事情を総合的に考慮してされるものである以上,平素から庁内の事情に通暁し,部下職員の指揮監督の衝にあたる者の裁量に任せるのでなければ,とうてい適切な結果を期待することができないものといわなければならない。それ故,公務員につき,国公法に定められた懲戒事由がある場合に,懲戒処分を行うかどうか,懲戒処分を行うときにいかなる処分を選ぶかは,懲戒権者の裁量に任されているものと解すべきである。もとより,右の裁量は,恣意にわたることを得ないものであることは当然であるが,懲戒権者が右の裁量権の行使としてした懲戒処分は,それが社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し,これを濫用したと認められる場合でない限り,その裁量権の範囲内にあるものとして,違法とならないものというべきである。したがつて,裁判所が右の処分の適否を審査するにあたつては,懲戒権者と同一の立場に立つて懲戒処分をすべきであつたかどうか又はいかなる処分を選択すべきであつたかについて判断し,その結果と懲戒処分とを比較してその軽重を論ずべきものではなく,懲戒権者の裁量権の行使に基づく処分が社会観念上著しく妥当を欠き,裁量権を濫用したと認められる場合に限り違法であると判断すべきものである

佐賀地方裁判所平成20年12月12日判決
  そして,上記の意味での「飲酒運転」は,上記のとおり,違法行為である以上,前記で説示したとおり,これが地方公務員法29条1項1号及び3号に該当することは明らかであり,また教員については,児童生徒と直接触れ合い指導する立場にあるから,とりわけ高いモラルと法及び社会規範遵守の姿勢が強く求められているから,これを非違行為として,これに懲戒処分を科すこと自体は,社会通念上著しく妥当性を欠くとは到底いえないことも明らかである。
  しかしながら,他方,懲戒免職処分は,当該職員としての身分を失わせ,職場から永久に放逐するというものであり,停職以下の処分とは質的に異なり,公務員にとっていわば「死刑宣告」にも等しい究極の処分であるから,その選択が慎重にされるべきこともまた当然である。


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