新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1231、2012/2/9 13:35

【民事・メールによる贈与は書面によらない贈与として撤回できるか・民法550条】

質問:私は趣味でギターを弾くのですが,家で使っているアンプが壊れてしまいました。このことを友人に話したところ,「ちょっと古いけど,全然使ってないのが家にあるから,今度お前にやるよ。」と携帯でメールをもらいました。私は,「よろしく」と同じく携帯のメールで返信をしました。しかし,一向にもらえる気配がありません。友人との携帯メールのやり取りは保存してありますが,単なる口約束のようなものとして友人からアンプをもらうことはできないのでしょうか?

回答:
1.友人との間に,贈与契約が成立していますので,友人に対しアンプを引き渡すよう請求することが可能です。しかし,書面によらない贈与として,友人はいつでも撤回可能な状況にあります。友人に,贈与契約の撤回をされる前に,贈与の意思を書面にしてもらう必要があるでしょう。
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解説:
1.本件における友人の「お前にやるよ」に対して,あなたの「よろしく」との返答により,贈与契約が成立しています。贈与とは,当事者の一方(贈与者)が相手方(受贈者)に無償で財産を与える契約のことをいいます(民法549条)。
  贈与は,諾成,不要式の契約です。つまり,契約時において物の交付は不要であり,意思表示のみで成立し,契約書などの書面でなされることも必要なく,口頭にて成立する契約だということです。そして,契約とは,意思表示の合致によって成立する法律行為であり,本件でいえば,「お前にやるよ」と「よろしく」がこれに当たります。贈与者が一方的に贈与をするということはできず,受贈者の受諾が必要とされます(受贈者の受諾なしに贈与契約が成立するとすれば大変です。大量のごみ等を贈与する者が現れるかもしれません。そもそも、契約は全て当事者双方の合意により成立するものです。)。

2.(1)贈与契約が成立すると,贈与者は,契約によって負担することとなった債務を履行しなければならなくなります。契約は守らなければならないとの原則です。しかし,贈与においては,次条550条に注意が必要です。すなわち,書面によらない贈与は,各当事者が撤回することができると規定されています。撤回とは,噛み砕いていえば,嫌だからやめる,ということです。これは贈与者に対して,無償で受贈者に財産権を移転する義務を負うということを自覚させて軽率な贈与を行わせないようにし,贈与者の意思を明確にし,後日の紛争を防止するとの趣旨で規定されたものです。
   ただし,履行の終わった部分については,もはや撤回することはできません(民法550条ただし書)。なぜならば,履行の終わった部分については,贈与者の意思が明確になったといえるからです。

 (2)本件において,贈与契約そのものが成立することは前述のとおりですが,書面によらない贈与として撤回可能であるのか,贈与契約が電磁的記録によってなされた場合に,書面による贈与といえるのかが問題となります。これはつまり,本件に即していえば,携帯メールが民法550条の「書面」に該当するのか否かという問題です。
   この点,民法550条の贈与者の意思を明確にし,後日の紛争を防止するとの趣旨からすれば,メールという電磁的記録として残る形で贈与がなされている場合には,贈与者の意思が明確になったといえ,書面による贈与となり,もはや撤回することはできないとも考えられます。

   この点、判例等はありませんし、メールの内容や送信された状況等によっても結論は異なると考えられます。その理由は、
  @民法550条の趣旨には,贈与者の意思を明確にして,後の紛争を回避することの他に,無償で受贈者に対し財産権を移転する義務を負うのだということを贈与者に自覚させ,軽率な贈与をさせないようにするということも含まれており、
  Aメールは,今日の簡便な通信手段として非常に多くの人々に利用され,特に携帯メールは,口頭に近い感覚で用いられることも多く,軽率な贈与を防止するとの効果はそれほど期待することはできないのではないかと考えられるからです。従って,質問のような内容の、携帯のメールによる合意のみでは,書面による贈与とはいえないものと解されます。
  B形式的にも,民法550条が「書面等」ではなく「書面」となっていること,民法には他の規定において,電磁的記録によりなされた場合に書面によってなされたものとみなす規定がありますが(民法446条3項参照),550条はそのような規定の仕方をしていないことから、電磁的記録は同条の書面には当たらないということも理由として挙げられます。

 (3)贈与義務が全く履行されていない本件においては,現状,友人はいつでも撤回可能な状態にあるということになりますので,撤回をされる前に,友人に贈与の意思を書面にしてもらうことが確実です。書面は,契約書のような形式を整える必要はありません。贈与するという贈与者の意思が書面に表れてさえすれば,どのようなものでも構いません。

3.最後に判例をご紹介したいところですが,残念ながら,本稿作成時点では判例雑誌などでメールでの贈与に関する判例は未だ出ていません。また,この点に関する学術議論も,メールも書面に当たるとする見解もあれば,メールは書面には該当しないとする見解もあり,どちらが有力な見解とはいえず,大きく割れている状況です。メールの内容や送信された具体的な事情により結論が異なることも考えられます。
  このようなこともあり,ここまで述べてきたことは,あくまで一見解として,ご参考に留めていただきたいと思います。裁判所の判断または法改正が待たれるところです。

【参照条文】

民法
(保証人の責任等)
第四百四十六条 保証人は、主たる債務者がその債務を履行しないときに、その履行をする責任を負う。
2 保証契約は、書面でしなければ、その効力を生じない。
3 保証契約がその内容を記録した電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。)によってされたときは、その保証契約は、書面によってされたものとみなして、前項の規定を適用する。
(贈与)
第五百四十九条 贈与は、当事者の一方が自己の財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって、その効力を生ずる。
(書面によらない贈与の撤回)
第五百五十条 書面によらない贈与は、各当事者が撤回することができる。ただし、履行の終わった部分については、この限りでない。

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