新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1210、2012/1/12 14:25

【民事・アダルトサイトへのアクセス・登録料、保管料の支払い義務はあるか・支払い請求のPC自動表示に対する対策・平成13年成立電子消費者契約法・平成23年7月13日施行コンピューターウイルスに関する罪】

質問:私は公務員ですが、携帯電話で費用について何も表示されていないアダルトサイトにアクセスしたところ、管理会社と名乗る相手から電話があり、登録料(入会金)として、3万円を請求され、支払ったところ、さらに依頼を受けた探偵社と名乗る者から「データ保管料として50万円振り込んでほしい。もし支払わないのであれば、職場、家まで事情を説明し取立に行く。」と言われました。支払う必要があるのでしょうか。何度も連絡があったので、一度は、「支払う。」と言ってしまいました。もし本当に家まで来たら、どのように対応したらいいでしょうか。最初アダルトサイトにクリックし、画面がダウンロードされたところ、急に、画面に「入会、登録ありがとうございます。3万円登録料です。お支払いください。」という表示が出ました。それから、何のアクセスもしないのに、PC画面に、料金支払いの請求文面が自動的に表示されるようになりました。この画面は何度消しても表示される仕組みのようでPCが事実上利用できません。「御意見がある方は管理会社に連絡がほしい」と表示されていたので、当該管理会社に連絡すると私の連絡先を確認され結局住所、電話番号を教えてしまいました。公務員でもあり3万円で済むと思い支払ったのですが、さらに請求が続いています。

回答:
1.絶対に支払いに応じてはいけません。今後貴方から相手方管理会社等に一切の連絡をしてはいけません。利益になることは一切ありません。このような契約は民法の一般理論により契約不成立か、錯誤(民法95条)、詐欺、脅迫(民法96条)、公序良俗違反(90条)で無効、取り消しになります。平成13年成立電子消費者契約法(後記)により効力が認められません。
2.PC画面の自動請求は、アダルトサイトのクリック、ダウンロードにより貴方のPCに不当ウイルスを挿入し相手の動揺を誘う手法であり不当、違法な方法です。この段階では、相手方管理会社は、貴方の連絡先を知ることができませんので、自動請求画面により貴方の動揺を誘い連絡先を確認するための手段と考えられます。直ちに貴方のPC管理者(又はPCソフト販売会社)と協議して違法ウイルス除去のソフト利用購入手続きをとる必要があります。その他、平成23年7月14日施行不正指令電磁的記録に関する罪、別名コンピュータ・ウイルスに関する罪の成立により、違法ウイルス作成の可能性があり、捜査機関と緊密な協議が必要です。事務所事例集コンピュータ・ウイルスに関する罪を参照してください。不正指令電磁的記録作成等罪の刑法第168条の2乃至3です。
3.一切の連絡を拒否し、直ちに最寄りの法的専門家にも相談し、警察署等捜査機関と協議したうえで詐欺罪(刑法246条),恐喝罪(刑法249条)、強要(223条)、名誉毀損(230条)、コンピューターウイルスの罪(刑法第168条の2乃至3)等の被害届、告訴等の刑事手続きを準備、遂行してください。
4.事例集検索:1180番916番274番255番224番参照。
5.この論文は、当事務所事例集274番を修正追加したものです。

解説:

1、(原則)
  貴方が、50万円を支払う義務があるかどうかは、アダルトサイトを運営している会社との契約関係がどのようなものであるかによって決まります。貴方が利用したアダルトサイトにアクセスした時点で、何らかの契約が成立したかどうかですが、契約は、申し込みと承諾によって成立します。申し込み、承諾の意思表示は、口頭、文書、携帯電話からのメール、アクセスによっても行うことができますから、アダルトサイトにアクセスした時点で、何らかの契約が成立しているものとも考えられます。業者はこの点を根拠にしているのでしょう。しかし、契約の成立には、契約内容が、確定していなければならず、貴方がアクセスした時点で、データ保管料50万円という内容がアダルトサイトに掲載されるか、明確にわかるように表示されていなければなりません。本件では、このアダルトサイトが、費用を明確な形で表示していませんので、契約は不成立であり、貴方に支払い義務は一切生じません。また、金額の点からも不法請求として、公序良俗に反し契約自体が無効(民法90条)であると考えることも出来ます(又は錯誤により無効、民法95条、詐欺により取り消し。民法96条)。日本は、法の支配の原理に基づく法治国家です。万が一費用請求の民事訴訟になった場合、裁判所はこのような請求を認めることはあり得ません。又、通常、自ら詐欺の主張を行うような訴えを提起し法廷に出廷することなど考えられません。

2、(支払い金額の取り戻し)
  本件は、保管料という名目ですが、「登録料」「利用料」「調査費用」「運営費用」 「損害金」「弁護士費用」「遅延損害金」「訴訟費用」のいかなる名目であっても同様です。本件のように登録料の名目で数万円請求し、さらに請求金額を上げていく手法がとられているようです。貴方が、一度「支払う。」といっても、元々支払う義務はなく、そのことを知らなければ(民法705条)、応ずる必要はありません。勿論、すでに支払ってしまった登録料などの支払い義務もありませんので、法律上は返還請求することができます(民法703、704条)。ただ、業者の所在等もつきとめることも難しい場合も多く、返還を受けるのは困難かもしれません。

3、(電子契約法)
  なお、このような事件の対策として、平成13年に電子消費者契約法が成立しました。事業者側が意思確認のための措置を執らない限り、重大な過失によってクリックしてしまっても、錯誤による無効(民法95条)を主張可能にした法律です。具体的な確認措置としては、そのボタンやURLが表示されている画面内に、サービス内容や利用料金などの契約内容が、分かりやすく明記され、そのボタンやURLをクリックすることで意思表示となることを明らかに確認できる画面とすること、あるいは、最終的な意思表示となるボタンなどのクリックの前に、申し込みの内容を表示し、そこで訂正の機会を与える画面を設置すること等が考えられます。本件では、以上の条件は満たされていませんので、錯誤無効を主張することができると思われ、この点からも、一切支払いに応じる必要はありません。

(コンピュータ・ウイルスに関する罪)
  尚、サイト管理会社等はあなたのPCの操作を困難にした点において、違法なウイルスを製造しダウンロード時に侵入させた疑いがあり、平成23年7月14日施行不正指令電磁的記録に関する罪、別名コンピュータ・ウイルスに関する罪の成立により、捜査機関と緊密な協議が必要です。現代社会では、コンピュータが広く普及して社会的基盤をなしている一方で、コンピュータに関連したサイバー犯罪の件数も激増しています。この犯罪はそうした現状に鑑み、コンピュータを安心して利用できる環境を維持することが重要課題であるとの認識に立ち、その実現のための施策の一環として、コンピュータ・ウイルスの作成行為等を取り締まろうとするものです。保護法益は「電子計算機のプログラムに対する社会一般の者の信頼」であるとされており、個人に対する具体的な被害の発生を想定していない、社会的法益に対する罪です。つまり、たとえばある会社のコンピュータをウイルスに感染させて業務を妨害したというような場合でなくとも(この場合には偽計業務妨害罪等が成立します)、それを可能とするウイルスを作成しただけでも処罰できるようにしています。具体的対策として直ちに貴方のPC管理者(又はPCソフト販売会社)と協議して違法ウイルス除去のソフト利用購入手続きをとる必要があります。

4、(具体例)
  このようなトラブルは、近時多くあるようです。これはアダルトサイトを利用したという利用者の恥ずかしさ、後ろめたさを逆手に取って不当、違法な請求を行い、金員をだまし取り、請求金額を次第に上積みしていく方式です。貴殿は、公務員ですからその点動揺があるかもしれません。契約内容を明確に確認し、冷静に対応することが必要です。一度払えば、請求が終了すると思うことは危険です。一度支払えば、必ずさらなる請求が来ると思って間違いありません。請求額は、さらにエスカレートします。毅然たる態度が必要です。

惑わされてはいけません。

「これで最後ですから。」
「家族にご連絡しますから。」
「登録を抹消しますから。」
「支払って頂ければ、利用サイトの名前をお教え致します。」
「訴訟となり、訴状を送ることになります。」
「クリックすると自動入会になってしまいますから。」
「支払わなければ社員がご自宅に伺いますから。」
「振込んでもらえればこれ以上請求しませんから。」
「今日支払えば、延滞金はつきませんから。」
「無料と書いてあっても、登録料は別です。」
「支払って頂ければ、退会できますから。」
「請求を依頼され調査している探偵社の者ですが。」
「依頼された法律事務所のもので弁護士ですが。」
「連絡をくれれば登録料の請求は致しません。」
「住所、電話番号を教えていただければ抹消手続きします。」
「PC画面の請求を削除したい方は至急ご連絡ください。手続きします。」

などの言動を安易に信じてはいけません。

5、(まとめ・対策)
  業者の違法請求は、詐欺罪(刑法246条)や恐喝罪(刑法249条)コンピューターウイルスに関する罪、にも該当し得る行為ですから、あまり脅迫するようであれば、警察署生活安全課にご相談ください。PCもソフト入れ替えが必要です。実際に自宅に来た場合は直ちに警察署に連絡して下さい(但し、もともと根拠に乏しい請求ですので、可能性は低いと思います)。警察署が「民事不介入」を主張し、対応が遅れるような場合は法律事務所に相談してください。弁護士を代理人に選任し代わって交渉してもらうこともできます。

≪条文参照≫

電子消費者契約及び電子承諾通知に関する民法の特例に関する法律
(平成十三年六月二十九日法律第九十五号)
(趣旨)
第一条  この法律は、消費者が行う電子消費者契約の要素に特定の錯誤があった場合及び隔地者間の契約において電子承諾通知を発する場合に関し民法 (明治二十九年法律第八十九号)の特例を定めるものとする。
(定義)
第二条  この法律において「電子消費者契約」とは、消費者と事業者との間で電磁的方法により電子計算機の映像面を介して締結される契約であって、事業者又はその委託を受けた者が当該映像面に表示する手続に従って消費者がその使用する電子計算機を用いて送信することによってその申込み又はその承諾の意思表示を行うものをいう。
2  この法律において「消費者」とは、個人(事業として又は事業のために契約の当事者となる場合におけるものを除く。)をいい、「事業者」とは、法人その他の団体及び事業として又は事業のために契約の当事者となる場合における個人をいう。
3  この法律において「電磁的方法」とは、電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法をいう。
4  この法律において「電子承諾通知」とは、契約の申込みに対する承諾の通知であって、電磁的方法のうち契約の申込みに対する承諾をしようとする者が使用する電子計算機等(電子計算機、ファクシミリ装置、テレックス又は電話機をいう。以下同じ。)と当該契約の申込みをした者が使用する電子計算機等とを接続する電気通信回線を通じて送信する方法により行うものをいう。
(電子消費者契約に関する民法 の特例)
第三条  民法第九十五条 ただし書の規定は、消費者が行う電子消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示について、その電子消費者契約の要素に錯誤があった場合であって、当該錯誤が次のいずれかに該当するときは、適用しない。ただし、当該電子消費者契約の相手方である事業者(その委託を受けた者を含む。以下同じ。)が、当該申込み又はその承諾の意思表示に際して、電磁的方法によりその映像面を介して、その消費者の申込み若しくはその承諾の意思表示を行う意思の有無について確認を求める措置を講じた場合又はその消費者から当該事業者に対して当該措置を講ずる必要がない旨の意思の表明があった場合は、この限りでない。
一  消費者がその使用する電子計算機を用いて送信した時に当該事業者との間で電子消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示を行う意思がなかったとき。
二  消費者がその使用する電子計算機を用いて送信した時に当該電子消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示と異なる内容の意思表示を行う意思があったとき。
(電子承諾通知に関する民法 の特例)
第四条  民法第五百二十六条第一項 及び第五百二十七条 の規定は、隔地者間の契約において電子承諾通知を発する場合については、適用しない。
第十九章の二 不正指令電磁的記録に関する罪
(不正指令電磁的記録作成等)
第百六十八条の二  正当な理由がないのに、人の電子計算機における実行の用に供する目的で、次に掲げる電磁的記録その他の記録を作成し、又は提供した者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
一  人が電子計算機を使用するに際してその意図に沿うべき動作をさせず、又はその意図に反する動作をさせるべき不正な指令を与える電磁的記録
二  前号に掲げるもののほか、同号の不正な指令を記述した電磁的記録その他の記録
2  正当な理由がないのに、前項第一号に掲げる電磁的記録を人の電子計算機における実行の用に供した者も、同項と同様とする。
3  前項の罪の未遂は、罰する。
(不正指令電磁的記録取得等)
第百六十八条の三  正当な理由がないのに、前条第一項の目的で、同項各号に掲げる電磁的記録その他の記録を取得し、又は保管した者は、二年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。

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