新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1154、2011/9/15 16:10

【民事・遊技場が設けた子供部屋の安全配慮義務・過失相殺】

質問:私は、パチンコ店を経営しています。子供連れのお客がいることから、子どもが遊べるような部屋を設けています。先日、3歳の子供が、部屋から出て店内に置いてあった台車に乗って遊んでいて、転んで骨折してしまいました。子どもの親は、店の責任だと言って治療費と慰謝料を請求しています。私は、子供のけがは親の責任だと思うのですが、店に責任があるのでしょうか。

回答:
1.パチンコ店は、子どもが遊べる部屋などを用意して、幼児同伴の客の入店を積極的に容認していることなどから、幼児に対する安全配慮義務が生じると考えられます。したがって、店の内外において幼児に事故があった場合、事故の態様によっては損害賠償の責任が生じる可能性があります。もちろん、親の監督不行き届きということもありますから過失相殺が認められます。その割合は具体的な事情にもよりますが50%程度が基準になると考えられます。
2.安全配慮義務に関しては、法律相談事例集キーワード検索で1053番1035番1014番936番871番730番588番567番548番も参考にしてください。

解説:

1.パチンコ店の本来の業務は、パチンコという遊技を客に提供することにあります。パチンコ店は遊技場を提供し、客はパチンコ玉を購入する(借り受ける)ことにより、遊技契約(民法に規定がない無名契約であり有償、双務契約)が成立することになります。この無名契約の内容の一部として、遊技場がお子様を預かる行為を行っているので、委任に準じて民法の規定が準用され店舗側は、債務の履行について注意義務の内容としては高度な内容の善管注意義務(民法644条)を負うことになります。善管注意義務の内容は抽象的ですがお子様を預かる行為は、お子様の生命身体の自由を保護する趣旨も含まれることから、お子様を預かる基本的義務に付随して、契約によりパチンコ店は支配管理する店舗やその敷地、遊戯機などの設備によって生じる危険について、従業員や客などの生命・身体が害されることのないよう保護するといういわゆる信義則上の安全配慮義務を負うものと考えられます。

  善管注意義務は、委任契約に関する民法644条で規定される「善良な管理者の注意」の義務ですが、これは、判例上、無償受寄者の責任に関して規定された民法659条の「自己の財産に対するのと同一の注意」義務よりは重いものと解釈されています。管理を頼まれてこれを引き受ける約束をしたのだから、そのような約束をした当事者間に通常期待されるべき注意を払って管理して下さい、ということになります。勿論、その引き受け行為の対価・報酬の金額によって、責任の重さも変ってくることになります。具体的な事件における責任の程度は、当事者間の合意内容を基本として、裁判所が解釈によりケースバイケースで定めることになります。なお、安全配慮義務に関しては、当法律事務所法律相談事例集データベース936番にて詳細に説明しておりますので、ご一読ください。

2.しかし、客の連れてきた幼児の行動についてまで、パチンコ店が安全配慮義務を負うかという点については検討が必要です。そもそも、パチンコ店は風俗営業に当たり(風営法第2条8)18歳以下の未成年者の立ち入りが禁止されている場所であり、そのような場所での乳幼児の管理となるとやはりまずは親の責任が重視されると考えられるからです。親が遊ぶために子どもを連れてきた、といえるからです。

  ただ、この点については立ち入り禁止の場所への入場を認めていたパチンコ店にも責任はありますし、営業上子連れの客を営業上の理由により積極的に受け入れざるを得ないということもあり、入場を拒否しないばかりか、乳幼児や子供のための部屋を設けているパチンコ店も少なくありません。他方では、パチンコに熱中するあまり子どもを車内に置き去りにしたまま熱中症によって死亡させる事故が多発しているように、乳幼児を店内に連れて入れるという点が、子ども用の施設の設置のメリットであり、店が集客を期待するところなのです。とすると、本来は法律上未成年の立ち入りが禁止されているにもかかわらずあえて店舗側の判断(期待ともいえましょう)により乳幼児のパチンコ店への入場を拒否しないばかりか子ども用の施設を設置しているという点からすれば、これがあるがゆえに乳幼児同伴の客の入店を認めているといえる以上、パチンコによる遊技契約に付随して店内にいる乳幼児の監視、監督を十分に行うことで,その生命身体が害されることのないようにするという安全配慮義務が存在すると考えるのが自然ではないでしょうか。

3.ご相談と同様のケースについて(子ども用に部屋を設置しているパチンコ店)、パチンコ店に安全配慮義務として幼児の監護を補助すべき義務を認めた判例があります(福岡高裁平成21年4月10日判決)。

  裁判所がパチンコ店に安全配慮義務を認めた主な理由は、@未成年者の立ち入りが禁止されている場所に、子どもの受け入れが可能な設備を整えた休息室を設けていたことにありますが、A喫煙可能な休息コーナーを別に設け、子どもを受け入れる休息室を特に「キッズルーム」と称したことB親が自分の子をキッズルームに入れ、他の幼児がいることを幸いとして長時間放置する可能性があることを店舗側が認識できたこと、も理由として挙げられています。

  具体的にどのような安全配慮義務を負うか、ということについては具体的な事情によりますが、子ども用の部屋を用意する場合は、部屋の出入り口にカギをかけられるようにするなど乳幼児が自由に出入りできないよう、乳幼児の監視ができるようなテレビカメラの設置や従業員の配置、親への注意などが考えられます。
その他、パチンコ店舗内での危険物が乳幼児の手の届かないようにすることも必要です。  このほか、判決には「他店舗の中には、幼児らへの配慮をした預かり施設を設置している店もある」とあり、事案の舞台となった店舗のキッズルームの監護がずさんであったことを指摘するものになっています。

4.以上のとおり、本来乳幼児の立ち入りが禁止されているパチンコ店においては、乳幼児の監督を引き受ける施設を設置(監督を引き受けなくても乳幼児が遊べるような部屋を用意している場合は同様です)するのであれば十分な監督機能がなくてはならず、それを欠けば、事故が発生した際に安全配慮義務違反の責任を追及される可能性があるわけです。
  したがって、ご相談にもあるとおり、店内ではもちろんのこと、店外においても子どもに万一のことがあった際には、お店にも責任が生じうるといえます。もっとも、子どもの管理責任を店に押し付け、親はパチンコに夢中になっていいというわけではありません。具体的な事情によりますが、乳幼児を長時間、放置してパチンコに夢中になっていたのであれば、損害額の算定において5割程度の過失相殺の対象になると考えて良いでしょう。

(参考条文)

民法
(基本原則)
第一条  私権は、公共の福祉に適合しなければならない。
2  権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。
3  権利の濫用は、これを許さない。
(債務不履行による損害賠償)
第四百十五条  債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。
(損害賠償の方法及び過失相殺)
第七百二十二条  
2  被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる。

風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律
(年少者の立入禁止の表示)
第十八条  風俗営業者は、国家公安委員会規則で定めるところにより、十八歳未満の者がその営業所に立ち入つてはならない旨(第二条第一項第八号の営業に係る営業所にあつては、午後十時以後の時間において立ち入つてはならない旨(第二十二条第五号の規定に基づく都道府県の条例で、十八歳以下の条例で定める年齢に満たない者につき、午後十時前の時を定めたときは、その者についてはその時以後の時間において立ち入つてはならない旨))を営業所の入り口に表示しなければならない。

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