新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1131、2011/7/13 16:24

【失踪宣告取消しの申立て・必要書類及び審理審判手続・民事・不在者・自然人の権利能力】

質問:私は,20年前,経営する会社が行き詰ってしまい,家を出ざるを得なくなり,その後,家族と音信不通になっていました。
しばらくして,私に対する失踪宣告がされました。しかし,私は実際に生きており,このままだと不都合も多いため,生きていることを法律上認めてもらいたいのですが,どのようにすればよいのでしょうか。

回答:
1.失踪宣告を受けた者が生存していた場合には,失踪者本人は,失踪者本人が現実に居住している地を管轄する家庭裁判所に対して,当該失踪宣告の取消しを申し立てることができます

2.失踪宣告取消し申立書には,申立ての趣旨と申立ての実情を記載します。この申立ての実情には,@不在者の生存状態,A不在者本人であることの同一性を認めるに足りる事情,B申立ての動機・経緯等について,可能な限り詳細に記載します。
また,申立書には,@失踪者の戸籍謄本,A住民票,B取消事由を証明する資料,C失踪者の写真3枚を添付します。

3.申立て後の審理・審判手続
  失踪宣告取消しの申立て後は,失踪者自身や親族を対象に,事実確認のための審問や,家庭裁判所調査官の調査が行われます。これらによって失踪者の生存が確認されれば,失踪宣告取消しの審判がなされます。失踪者は,失踪宣告取消審判確定後10日以内に,市区町村役場へ,審判書謄本に確定証明書を添付して失踪宣告取消届を提出します(戸籍法94条・63条1項)。これによって,失踪宣告事項が消除され,戸籍の末尾に従前と同じ身分事項欄が移記されて戸籍が回復されます。

4.以上の手続は,失踪者本人あるいは利害関係人でも行えます。家庭裁判所とも相談しながら,ご自分で手続を進めていかれることは可能だと思います。もっとも,失踪宣告取消しに伴う法律上の効果も発生しますので,そういった点も含めて,一度弁護士にご相談されると安心かもしれません。

5.尚,家庭内の事情は不明ですが,年齢からして配偶者が再婚していた場合は,前婚が復活するかについて考え方が分かれますが,いずれにしろ縁りを戻すことはできないでしょう。再婚していない場合でも,関係修復には時間が必要となります。

解説:
1.失踪宣告
  不在者の生死が7年間明らかでないときは,利害関係人の申立てによって,家庭裁判所は,失踪の宣告をすることができます(民法30条1項)。失踪宣告の法律効果は不在者の死亡擬制であり,その後は不在者の死亡を前提とした法律関係が形成されていきます(同法31条)。すなわち,不在者とは住所,または居所を去って容易に帰る見込みのないものを言います。時折手紙が着ても帰る見込みがなければ不在者です。

  次に,音信不通となりこの不在者の生死が不明になると「失踪」ということになり,通常7年間が経過すると死亡の扱いになります。法は,不在者,失踪者の財産関係や身分関係に関して規定を設けて発生する種々の法律関係に対応しています(民法25条以下)。
  まず,失踪すなわち死亡が明らかでないのに,どうして死亡を擬制しなくてはならないのでしょうか。それは,失踪者と第三者の財産関係や身分関係をある時点で明らかにして法的安定性を確保し,適正な社会秩序を維持するためです。例えば,配偶者が生死不明であれば,いつまでも再婚はできませんし(3年以上生死不明であれば離婚の裁判は可能ですが,訴訟をする必要があります。民法770条1項3号。),管理人を置かないで失踪した場合,残された財産をどう保存,管理,処分するか決めることもできません。関係する第三者の身分,財産関係をいつまで経ても整理することができなくなります。

  そこで,失踪者を死亡として取り扱い一定の時点を境に,とりあえず法律関係を整理解決してしまうのが失踪宣告制度です。失踪宣告は,失踪者に関係する法律関係を整理するために死亡を擬制したに過ぎませんので,生存が明らかになれば,このような擬制は勿論取り消されることになります。取り消されることになると,遡って失踪者は生存していたことになり,失踪宣告後死亡を前提に形成された法律関係はどうなるかという問題が生じます。法32条1項後段,32条2項は一定の範囲で善意(生存を知らなかった)の第三者を保護し調整しています。法32条1項後段は,「失踪の宣告後その取消し前に善意でした行為の効力に影響を及ぼさない」と規定しますが,判例で,この「善意」については,財産処分行為の当事者双方が善意であったことが必要と解釈されています(大審院判決昭和13年2月7日)。

  失踪宣告後に再婚した者は重婚関係になり,前婚は離婚事由(3年以上生死不明なので),後婚は取消し事由(重婚なので732条,744条)になると考えられていますから,いずれにしろ前婚は解消されるでしょう。むしろ,再婚が当事者双方とも善意であれば,取り消されても婚姻は復活しないという考え方が,条文に忠実で家庭内の法的安定性の維持につながりますし,貴方のように経済的理由により長期間音信不通であった失踪者の不利益もやむをえないでしょう。ただ,戦争の場合などは少し酷かもしれません。相続で取得した財産(例えば遺族年金も同様でしょう。)は,残っている範囲で失踪者に返還すればいいことになっています。御質問では家庭内の事情がわかりませんので参考にしてください。この点は少し難しいので専門家に相談してください。 

2.失踪宣告の取消し
  失踪宣告によって死亡が擬制されている状態では,権利能力主体として法律上の利益を享受することができず,不都合です。この不都合を解消するため,失踪者が生存していた場合には,失踪宣告の取消しを申し立てることができます(民法32条1項前段)。この場合,申立てができるのは失踪者本人か利害関係人であり(同条項),申立てをすべき管轄裁判所は,失踪者本人が現実に居住している地を管轄する家庭裁判所となります(家事審判規則38条)。

3.申立て必要書類
(1)申立書
  申立書には,申立ての趣旨と申立ての実情を記載します。まず,申立ての趣旨には,「00家庭裁判所が平成00年0月0日にした,平成00年(家)第000号事件の失踪者00に対する失踪宣告を取り消す。との審判を求める」旨を記載します。失踪宣告についての宣告裁判所や宣告日,事件番号等で,取消しを求める対象となる失踪宣告を特定する必要があります。
  次に,申立ての実情としては,@不在者の生存状態,A不在者本人であることの同一性を認めるに足りる事情,B申立ての動機・経緯等について,可能な限り詳細に記載します。また,申立人が失踪者以外の者である場合には,C申立人の利害関係についても記載します。

(2)添付書類
   また,申立には,@失踪者の戸籍謄本,A住民票,B取消事由を証明する資料,C失踪者の写真3枚を添付する必要があります。申立人が失踪者以外の利害関係人である場合には,以上に加え,D申立人の戸籍謄本,E申立人の利害関係を証明する資料がさらに必要になります。
   このうち,B取消事由を証明する資料とC失踪者の写真については,「失踪者が生存することの証明」(民法32条1項前段)をするために必要となります。B取消事由を証明する資料としては,当該失踪宣告申立事件の申立人による,失踪者が生存している旨の申述書があれば一番望ましいとされます。ただ,利害が対立するためそのような申述書の入手が困難であれば,他の方法によることも勿論考えられます。いずれにしろ,失踪者が失踪宣告の日には生存していたことが納得できる証拠が必要です。

   また,C失踪者の写真3枚については,名刺の大きさ程度のものが望ましいとされています。この写真を用いて失踪宣告された本人か否かを確認してもらうことになります。E申立人の利害関係を証明する資料については,申立人が,配偶者・父母・親権者・後見人である場合であれば,当然に利害関係が認められるように考えられますが,直接申立てをすることとなった経緯(失踪宣告者本人が申立てない理由)を証明する資料を添付するのが望ましいとされます。そのような資料としては,申立人の報告書を作成することになるでしょう。報告書には失踪者を発見した経緯や,失踪者の生活状況,失踪宣告の取消についての申立をすることについて失踪者本人との話し合いの状況等を具体的に記載する必要があります。

4.申立て後の審理・審判手続
  失踪宣告取消しの申立て後は,失踪者の親族・知人らに失踪者の写真を用いての書面照会がなされ,家庭裁判所調査官が調査をします。事案によっては,調査官の調査だけで,裁判所が審判をすることになります。また,不明の点がある場合には,失踪者自身や親族に対して,裁判所へ出頭させて審問によって事実確認が行われる場合もあります。この点,弁護士に依頼して必要な調査が十分行われていれば,審問が行われない場合が多いと考えられます。これらの調査の目標は,失踪者の生存及び同一性を明らかにすることです(失踪者生存の場合)。具体的には,不在に至った経緯・不在になった後の生活の様子・現在の生活状況等を調査します。

  以上の調査・審問によって失踪者の生存が確認されれば,失踪宣告取消しの審判がなされます。この審判は,申立人及び失踪者に告知されます(家事審判法13条)。失踪宣告取消しの審判が確定すると,裁判所書記官によって直ちに官報公告手続と失踪者の本籍地の戸籍事務管掌者(市区町村長)への戸籍通知がなされます(家事審判規則44条)。そして,失踪宣告取り消しの申立人または失踪者本人は,失踪宣告取消審判確定後10日以内に,市区町村役場へ,審判書謄本に確定証明書を添付して失踪宣告取消届を提出します(戸籍法94条・63条1項)。これによって,失踪者の従前の戸籍の身分事項欄に「失踪宣告取消の裁判確定」と記載され,失踪宣告事項が消除されて,戸籍の末尾に従前と同じ身分事項欄が移記されて戸籍が回復されます。

5.失踪宣告の効果により,所有していた不動産や預貯金などが「相続」によって名義移転していたり,処分されている場合は,不当利得返還請求(民法703条)をして取り戻すことができます。現在の名義人の協力を得ることができれば,登記も元に戻せるでしょう。

6.以上の手続は,弁護士を頼まずに失踪者あるいは利害関係人本人でも行えます。家庭裁判所の手続は,裁判所とも相談しながら,ご自分で手続を進めていかれることも十分可能だと思います。他方,財産の取り戻し手続については,現在の名義人が返還を拒むことも予想されますので,一度弁護士にご相談されると良いでしょう。

≪参照条文≫

民法
(失踪の宣告)
第三十条 不在者の生死が七年間明らかでないときは,家庭裁判所は,利害関係人の請求により,失踪の宣告をすることができる。
2 戦地に臨んだ者,沈没した船舶の中に在った者その他死亡の原因となるべき危難に遭遇した者の生死が,それぞれ,戦争が止んだ後,船舶が沈没した後又はその他の危難が去った後一年間明らかでないときも,前項と同様とする。
(失踪の宣告の効力)
第三十一条 前条第一項の規定により失踪の宣告を受けた者は同項の期間が満了した時に,同条第二項の規定により失踪の宣告を受けた者はその危難が去った時に,死亡したものとみなす。
(失踪の宣告の取消し)
第三十二条 失踪者が生存すること又は前条に規定する時と異なる時に死亡したことの証明があったときは,家庭裁判所は,本人又は利害関係人の請求により,失踪の宣告を取り消さなければならない。この場合において,その取消しは,失踪の宣告後その取消し前に善意でした行為の効力に影響を及ぼさない。
2 失踪の宣告によって財産を得た者は,その取消しによって権利を失う。ただし,現に利益を受けている限度においてのみ,その財産を返還する義務を負う。

家事審判法
第十三条 審判は,これを受ける者に告知することによつてその効力を生ずる。但し,即時抗告をすることのできる審判は,確定しなければその効力を生じない。

家事審判規則
第三十八条 失跡に関する審判事件は,不在者の住所地の家庭裁判所の管轄とする。
第四十四条 失踪の宣告をする審判が確定したときは,裁判所書記官は,遅滞なく,その旨を公告し,かつ,失踪者の本籍地の戸籍事務を管掌する者に対し,その旨を通知しなければならない。
2 前項の規定は,失踪の宣告を取り消す審判が確定した場合について準用する。

戸籍法
第六十三条 認知の裁判が確定したときは,訴を提起した者は,裁判が確定した日から十日以内に,裁判の謄本を添附して,その旨を届け出なければならない。その届書には,裁判が確定した日を記載しなければならない。
2 訴えを提起した者が前項の規定による届出をしないときは,その相手方は,裁判の謄本を添付して,認知の裁判が確定した旨を届け出ることができる。この場合には,同項後段の規定を準用する。
第九十四条 第六十三条第一項の規定は,失踪宣告又は失踪宣告取消の裁判が確定した場合においてその裁判を請求した者にこれを準用する。この場合には,失踪宣告の届書に民法第三十一条の規定によつて死亡したとみなされる日をも記載しなければならない。

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