新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.954、2010/1/21 16:46

【民事・サブリース契約の構造・サブリース会社の更新拒絶と転貸人の地位・信義誠実の原則】

質問:Aは所有する事業用ビル1棟を、ビルの賃貸・管理を業とするサブリース会社Bに期間20年で賃貸していました。わたし(C)は、雑貨店を経営するために、サブリース会社Bからビルの1室をテナントとして転借していました。ところが、このような転貸事業が採算に合わないことを理由に、サブリース会社Bは20年の期間満了の際にAとの賃貸借契約の更新をしませんでした。そこで、Aは、わたし(C)に対し所有権に基づいて本件転貸部分の明渡しを求めてきました。わたしは、本件転借部分をAに明け渡さなければならないのでしょうか。

回答:
1.サブリース契約とは、不動産事業者が建物を一括して借り受け、その各部分を転貸することを要素とする契約をいいます。
2.質問と同じようなケースにおいて、最判平成14年3月28日(民集56巻3号662頁)は、賃貸人は信義則上賃貸借契約の終了を転借人に対抗することはできないとしました。従って、あなたは、判例の要件に該当すれば、テナントを畳んで出ていく必要はないと考えられます。
3.上記判例によれば、転借人が保護されるためには、賃貸借契約締結段階において、サブリース契約特有要素である賃貸人の「加功」「作出」という要件が必要になってきます。「加功」「作出」とは、賃貸人が、転貸人と一体となって当該ビルの煩雑な賃貸借手続きの回避、賃料の安定的確保という目的達成のために、転貸借という法形式を利用して転貸借契約を遂行している場合です。但し、本判例の特殊事情もあり一般論として定着するまで時間がかかるかもしれません。事実、原審東京高裁では反対の判決が出ています。
4.サブリース契約において原賃貸借契約が合意解除された場合にも、特段の事情がない限り、あなたは保護されます。しかし、法定解除された場合には、争いがありますが転借人の保護が優先されるべきでしょう。
5. 法律相談事例集キーワード検索346番を参照してください。

解説:
1.(サブリース契約とは何か。契約の意義)  サブリース契約とは、賃貸人(建物所有者)が、賃借人(不動産業者)の知識・経験等を活用し、賃借人をしてビルを第三者に転貸し収益を上げさせることによって、賃貸人が自ら各室を個別に賃貸することに伴う煩わしさを免れるとともに、賃借人から安定的に賃料収入を得ることを目的とする契約のことをいいます。バブル経済最盛期に、高騰を続ける土地を手放さずに安定した収入を得たい土地所有者と、自ら土地を購入し建物を建てるよりはるかに少ない投資で管理委託手数料以上の収入を見込める不動産業者の双方の利益が一致したためにサブリース契約は普及しました。しかし、バブル経済が崩壊して賃料相場が下がると、不動産業者は、転借人からは相場程度の転借料しか取れないのに対して、不動産業者が賃貸人に払う賃料は、特約により下がらないか増加するため、場合によっては賃料の方が転貸料より高くなり、不動産業者は、長期にわたって巨額の赤字を抱えることになりました。そこで、質問にあるように、不動産業者が、賃貸人との賃貸借契約を更新しない事態が生じるようになったのです。

2.(転借人の地位)  それでは、テナントである転借人Cは、賃貸人Aからの明渡しに応じなければならないのでしょうか。賃貸人と転借人との間にはなんの契約もありませんから、賃貸人が建物の所有権に基づき建物の明け渡しを求めて来た場合、どのように反論できるのかという問題です。通常の一般的転貸借契約では、期間を更新するかしないかは原賃借人の自由であり、原賃貸借が期間更新されない以上、原賃借権を基礎にする転貸借も保護されないはずです。

3.(サブリース契約における転借人の保護)  しかしながら、原則としてサブリース契約の賃貸人は、転借人に対して更新拒絶を理由に信義誠実の原則から退去を求めることはできないものと考えるべきです。その理由ですが、
 @まず、サブリース契約は、法形式上は、通常の転貸借契約と同様の形をとっていますが、転貸借の実態はありません。転貸借とは、賃貸借権が元々有する利用権(賃貸物件を利用しようとする意思のある賃借権)の範囲内において、賃貸人の承諾のもとに利用権を再利用するものであり、基礎となる賃借権が当事者の契約内容により適法に解消された以上転借人も退去せざるを得ないのは当然のことです。また、転借人も原賃借権の存在を承知の上で契約しているはずです。
 しかし、サブリースにはその実態がありません。サブリースの目的は賃貸借による居住、利用ではありません。安定賃料収入の確保のため、賃借人募集、解約、立ち退き、原状回復、賃料増減等賃貸の手続き上の煩雑さを回避するために転貸という法形式を利用しているに過ぎません。別個の法主体に見える賃貸人と、転貸人は賃貸物の利用という面では実態的に同一人物とみることができます。サブリース会社の実態は、賃借人ではなく、むしろ賃貸ビルの総合管理人と同一であるとの評価が可能です。実質的な賃借人は転借人です。確かに賃借料を支払ってはいますが、実質は、転貸料から管理の費用を控除した転貸借料の送金手続きとなっています。
 従って、サブリース会社が更新を拒絶しても、賃貸の管理に関する賃貸人側の理由であり、実質的賃貸人が、賃借人の意見も聴くことなく契約を更新拒絶しているのと同様です。このような実体を伴わない法形式を利用して賃借人に不利益を与えることは法の理想から私的自治の原則に内在する権利濫用、信義則の一般原則(民法1条)から容認できません。
 A賃貸借関係の解釈は、資産を有する賃貸人と生活権の中心である居住権を有し、日々社会生活をする賃借人の実質的平等、公平を常に考慮しなければならす、賃貸人が自らの賃料の安定的収入の確保という利益のために、貸す側の優越的地位に基づき考えた転貸借という法形式により生じた理由により、何の落ち度もない転借人に不利益を課す解釈は借地借家法の居住権保護の理想から認められません。
 B賃借人に不利益な規定の無効という規定(借地借家法30条)の趣旨にも反します。

4.(最高裁平成14年3月28日判決)  質問と同じようなケースにおいて(但し、当該判例では通常のサブリース契約による転借人とは異なる特別の事情もあります。)、最高裁判所判決平成14年3月28日(民集56巻3号662頁。後記掲載参照)は、一定の条件のもとに賃貸人は信義則上賃貸借契約の終了を転借人に対抗することはできないとしました。信義則というのは、一般条項と言って形式上法律をあてはめると、正義公平に反するような結論になる場合、権利の行使は信義に従い誠実に行わなければならない、という私的自治の大原則(民法1条)です。賃貸人は、転借人とは契約をしていないので、法律を形式的に当てはめると所有権に基づき建物の明け渡しを請求できる権利があることになるのですが、賃貸人は、転貸を認めそれにより利益を得ていたのですから転貸人との間の契約が無くなったからと言って現に建物を利用している転借人を追い出すことは正義公平に反するから認めないということです。
 つまり、サブリース会社が第三者に転貸することは賃貸借契約締結の当初から予定されていたのであり、転借人も、このような目的で賃貸借契約が締結され転貸の承諾がなされていることを前提として、転貸借契約を締結していました。その結果として、転借人Cが現にその貸室を占有しているのです。このように、賃貸借契約の成立段階において、賃貸人が「転貸借の締結に加功し」「転借人による占有の原因を作出」したという事情が認められれば、賃貸借の終了をCに対抗できないということになるのです。

5.(最高裁判例の検討) 最高裁判決内容で、「転貸借の締結に加功し」「転借人による占有の原因を作出」内容を具体的にいえば、@賃貸人が、当該ビルを建築する以前から、賃料収入確保の目的のために実質的に賃借の意思がない設計、管理、建築を実質的に行うサブリース会社と一体となって協議し遂行してきたこと、A安定賃料収入の確保、賃貸の手続き上のわずらわしさ回避のために、賃借居住する意思のないサブリース会社を入れて転貸借という法形式をとっていること等を挙げています。さらに本件では、問題となっている転借人の転借権(再転貸借も承認)を事前に承認して、転借人に対してビル転貸借を条件にして転借人から当該ビルの一部敷地を買い取ったという事情がありますので転借人、再転借人を保護する必要性もあったと思います。従って、サブリース会社と契約して、期間更新をしない通常の場合とは多少事情が異なる点があります。判例後記参照。

6.(最高裁判例の適用範囲)  最判平成14年3月28日判決の射程範囲については、当該契約がサブリース契約と性質決定できるのであれば、転貸について前述の「加功」「作出」という要件を満たした場合には、この判決の射程が及ぶものと考えられます。従って、ビル建設後に、ある会社とサブリース契約を締結したという事情の場合には当該判例と少々事情が異なることを理解しておく必要があります。本件の原審である東京高裁判決平成11・6・29判決では、転借人は退去を命じられ保護されていません。

7.(そのほかの理由による解除)  最後に、この質問の事案と異なり、原賃貸借契約が合意解除又は法定解除により終了した場合にどうなるかについて、説明致します。

8.(合意解約の場合)  まず、サブリース契約ではない転貸借契約の合意解除については、合意解除することが信義、誠実の原則に反しないような特段の事由がない限り、転借人の権利は消滅しない(対抗できない)と判例上扱われており(最高裁判例昭和62年3月24日判決)、サブリース契約も同様に扱われます。通常の転貸借でも転貸借を承認した以上、賃貸人、賃借人のみの勝手な合意で第三者である、転借人の利益を不当に侵害することはできないからです。サブリースの場合は、賃借人は実態的に賃貸人側にある地位のものであり賃貸人側の一方的意思で転借人の居住権を侵害することになりますので、勿論対抗できません。当然の解釈です。

9.(法定更新の場合はどうか)  期間満了により契約が消滅する場合も賃借人が建物を使用していれば法定更新となりますから(借地借家法26条)、サブリースの場合、転借人が使用している限り、賃借人が使用していることになり法定更新となるのですから、建物所有者と不動産業者で法定更新しないということは合意で解除するということになります。

10.(債務不履行等法定解除の場合)  次に、法定解除(法律上、契当事者の一方に当然に解除権が発生する場合です。合意解除というのは双方の合意があって初めて解除ができることになります)については、争いがあります。一般には、原賃貸借が債務不履行によって法定解除された場合に、転貸借は、所有者に建物の使用する権利を対抗できないとされています(最判平成9年2月25日民集51巻2号398頁)。このような場合は賃借人に債務不履行があった以上原則通り、所有権に基づく明渡という権利の行使が、正義公平には反しないと考えられるからです。このような法定解除の場合に(例えば、転貸人である不動産業者が倒産して賃料を払えないため所有者、賃貸人がサブリース契約のもとになっている賃貸借契約を解除した場合です)サブリース契約がどうなるのかについては、裁判の例はまだないようです。

11.(法定解除の結論) サブリースの実質は、転貸借の実態を備わっていない点を考慮すれば、賃貸人側の内部の問題であり、適正に転貸料を支払い居住権を有する転借人に対しては主張できないと解釈するのが信義則、公平の原則に合致するものと考えられます。この点については、サブリース契約の場合、原賃貸借の終了原因の如何を問わず(法定解除の場合も)、信義則上、転借人の契約上は影響を受けないとする学説もあります。所有者は、当初から賃貸用の建物として賃料を得ていたわけですから、転借人が賃料を払える以上、転借人に対して建物の明け渡しを求めるのは、特別の事情がない限り、行き過ぎといえるでしょう。この場合の特別な事情とは転借人において、建物の使用の継続を認めるのが、建物所有者に酷であるという等具体的な事情となります。(具体的な事情の例としては転借人が暴力団事務所であった場合などが考えられます。)尚、転借人としては、自分の賃借権を保全するために、賃貸人に対して賃料の支払を提供し、受領を拒絶された場合は法務局に賃料供託をすることが考えられます。具体的な手続については、お近くの法律事務所に御相談なさると良いでしょう。

12.(最後に)  なお、所有者、賃貸人の立場で考えると、明渡が認められない場合でも、転借人との間に直接の契約関係がないことには変わりはありません。但し、賃料相当の損害金(不当利得、民法703条)という形で金銭の支払いは請求できるでしょう。ですから、サブリースをしていた不動産業者と契約が消滅した場合は、速やかに転借人と直接賃貸借契約を結ぶかあるいは、別の不動産業者を探して、転借人との法律関係を確実にしておく必要があります。

≪参考条文≫

民法
(基本原則)
第1条  私権は、公共の福祉に適合しなければならない。
2  権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。
3  権利の濫用は、これを許さない。
第541条  当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。

借地借家法
第三章 借家
    第一節 建物賃貸借契約の更新等
(建物賃貸借契約の更新等)
第二十六条  建物の賃貸借について期間の定めがある場合において、当事者が期間の満了の一年前から六月前までの間に相手方に対して更新をしない旨の通知又は条件を変更しなければ更新をしない旨の通知をしなかったときは、従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなす。ただし、その期間は、定めがないものとする。
2  前項の通知をした場合であっても、建物の賃貸借の期間が満了した後建物の賃借人が使用を継続する場合において、建物の賃貸人が遅滞なく異議を述べなかったときも、同項と同様とする。
3  建物の転貸借がされている場合においては、建物の転借人がする建物の使用の継続を建物の賃借人がする建物の使用の継続とみなして、建物の賃借人と賃貸人との間について前項の規定を適用する。
(強行規定)
第三十条  この節の規定に反する特約で建物の賃借人に不利なものは、無効とする。

≪参考判例≫

最高裁判所平成14年3月28日判決(建物明渡等請求事件)
判決内容
「原審は、上記事実関係の下で、被上告人のした転貸及び再転貸の承諾は、A及び京樽に対して訴外会社の有する賃借権の範囲内で本件転貸部分二を使用収益する権限を付与したものにすぎないから、転貸及び再転貸がされた故をもって本件賃貸借を解除することができないという意義を有するにとどまり、それを超えて本件賃貸借が終了した後も本件転貸借及び本件再転貸借を存続させるという意義を有しないこと、本件賃貸借の存続期間は、民法の認める最長の20年とされ、かつ、本件転貸借の期間は、その範囲内でこれと同一の期間と定められているから、A及び京樽は使用収益をするに足りる十分な期間を有していたこと、訴外会社は、その採算が悪化したために、上記期間が満了する際に、本件賃貸借の更新をしない旨の通知をしたものであって、そこに被上告人の意思が介入する余地はないことなどを理由として、被上告人が信義則上本件賃貸借の終了をA及び京樽に対抗し得ないということはできないと判断した。
3 しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
 前記事実関係によれば、被上告人は、建物の建築、賃貸、管理に必要な知識、経験、資力を有する訴外会社と共同して事業用ビルの賃貸による収益を得る目的の下に、訴外会社から建設協力金の拠出を得て本件ビルを建築し、その全体を一括して訴外会社に貸し渡したものであって、本件賃貸借は、訴外会社が被上告人の承諾を得て本件ビルの各室を第三者に店舗又は事務所として転貸することを当初から予定して締結されたものであり、被上告人による転貸の承諾は、賃借人においてすることを予定された賃貸物件の使用を転借人が賃借人に代わってすることを容認するというものではなく、自らは使用することを予定していない訴外会社にその知識、経験等を活用して本件ビルを第三者に転貸し収益を上げさせるとともに、被上告人も、各室を個別に賃貸することに伴う煩わしさを免れ、かつ、訴外会社から安定的に賃料収入を得るためにされたものというべきである。他方、京樽も、訴外会社の業種、本件ビルの種類や構造などから、上記のような趣旨、目的の下に本件賃貸借が締結され、被上告人による転貸の承諾並びに被上告人及び訴外会社による再転貸の承諾がされることを前提として本件再転貸借を締結したものと解される。そして、京樽は現に本件転貸部分二を占有している。
 このような事実関係の下においては、本件再転貸借は、本件賃貸借の存在を前提とするものであるが、本件賃貸借に際し予定され、前記のような趣旨、目的を達成するために行われたものであって、被上告人は、本件再転貸借を承諾したにとどまらず、本件再転貸借の締結に加功し、京樽による本件転貸部分二の占有の原因を作出したものというべきであるから、訴外会社が更新拒絶の通知をして本件賃貸借が期間満了により終了しても、被上告人は、信義則上、本件賃貸借の終了をもって京樽に対抗することはできず、京樽は、本件再転貸借に基づく本件転貸部分二の使用収益を継続することができると解すべきである。このことは、本件賃貸借及び本件転貸借の期間が前記のとおりであることや訴外会社の更新拒絶の通知に被上告人の意思が介入する余地がないことによって直ちに左右されるものではない。
 これと異なり、被上告人が本件賃貸借の終了をもって京樽に対抗し得るとした原審の判断には法令の解釈適用を誤った違法があり、この違法は判決に影響を及ぼすことが明らかである。」

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