新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.924、2009/10/15 16:34

【民事事件・復讐屋・別れさせ屋・自力救済禁止について】

質問:インターネットで「復讐屋」「復讐代行」「恨み屋」「示談屋」というサイトを見つけました。「違法行為はしません!完全に合法的です!」というキャッチフレーズがあります。また、東京都公安委員会の許認可番号も記載されています。この業者は信用しても良いのでしょうか。依頼しても良いのでしょうか。「別れさせ屋」についても、教えて下さい。

回答:
1.「復讐屋」「示談屋」は、安易な利用は絶対にやめて下さい。「法の支配」「法治主義」の理念が確立した我が国では、「自力救済」は禁止されています。「復讐」が何を意味するのかわかりませんが、「合法的な自力救済」というものは、法が認める一定の場合を除き(正当防衛、緊急避難、民法720条、刑法35条乃至37条)あり得ませんし、弁護士法違反の問題になります。場合によっては、刑事事件に発展する可能性があります。「別れさせ屋」については、一部合法の可能性もありますので、詳説致します。
2.事務所ホームページ、「法の支配と民事訴訟実務入門、総論1、訴訟制度の意義、法の支配、自力救済禁止について」以下をお読み下さい。

解説:
1.探偵業者・興信所の一部で、調査業務の他、「別れさせ屋」などを標榜している業者があります。また、「復讐代行」なども標榜している業者があります。これらの業者で、公安委員会の許認可番号を記載している場合がありますが、それは主に、次のようなものです。「復讐業」の許認可番号ではありません。
警備業法4条の認定番号・・・ガードマンの仕事をするために、罰金刑に処せられて5年未満でないなどの条件(警備業法3条各号)を満たした事を、公安委員会に認定してもらった番号。
探偵業法4条3項の届出証明書番号・・・探偵業の仕事をするために、公安委員会に届出をしたことを証明する書類の番号。

ちなみに、警備業法に定められた、警備業の定義は、次の通りです。
(1)事務所、住宅、興行場、駐車場、遊園地等(以下「警備業務対象施設」という。)における盗難等の事故の発生を警戒し、防止する業務
(2)人若しくは車両の雑踏する場所又はこれらの通行に危険のある場所における負傷等の事故の発生を警戒し、防止する業務
(3)運搬中の現金、貴金属、美術品等に係る盗難等の事故の発生を警戒し、防止する業務
(4)人の身体に対する危害の発生を、その身辺において警戒し、防止する業務

探偵業法に定められた、探偵業の定義は、次の通りです。
「他人の依頼を受けて、特定人の所在又は行動についての情報であって当該依頼に係るものを収集することを目的として面接による聞込み、尾行、張込みその他これらに類する方法により実地の調査を行い、その調査の結果を当該依頼者に報告する業務をいう。」

2.従って、上記の業務の範囲であれば、合法的に仕事をする可能性は勿論あります。しかし、その仕事を「別れさせ屋」と呼ぶべきかどうかは、疑問が残ります。相手の行動を調査し、自分の身辺警護をしてもらう事を「別れさせ屋」と呼ぶなら、合法的に行いうると思います。しかし、相手に対して、交際を終了すべき事を通知し、そのことに関して、交渉することは、これらの業者にはできないと思います。

交際終了通知に関しては、郵便法及び信書便法に違反する可能性がありますし、交際終了の交渉に関しては弁護士法に違反する可能性があります。
郵便法4条2項 郵便事業株式会社以外の者は、何人も、他人の信書(特定の受取人に対し、差出人の意思を表示し、又は事実を通知する文書をいう。以下同じ。)の送達を業としてはならない。
信書便法2条8項 この法律において「特定信書便事業」とは、信書便の役務を他人の需要に応ずるために提供する事業であって、その提供する信書便の役務が特定信書便役務のみであるものをいう。
同9項  この法律において「特定信書便事業者」とは、特定信書便事業を営むことについて第二十九条の許可を受けた者をいう。

相手に手紙を届ける業務であっても、普通の民間業者であれば、いわゆる「バイク便」などと同様の許認可を取らなければなりませんし、正式なバイク便業者であっても、書類を届けることしかできません。
弁護士法72条(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止) 弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、異議申立て、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。

相手方と法律問題について示談交渉をすることは、原則として弁護士しか業務として行うことはできません。家族が無報酬で相手方に連絡することは業務には当たらず可能ですが、家族でも無い他人が、報酬を受け取って交渉することはできません。恋愛問題だから法律問題ではないのでは?と感じるかもしれませんが、「円満に交際を解消する」という約束をして書面に残す場合、「今後一切相互に慰謝料などを請求しない」という清算条項が入ることが普通ですので、損害賠償請求事件に関する示談交渉として、弁護士以外の者が行うことができないのです。

3.上記の郵便法・信書便法・弁護士法はいずれも、国民の権利を保護するための法律です。何度も国会で審議され、可決し、制定されたものです。手紙を安心確実に通信の秘密を保持しながら相手に届けることや、国民の権利義務が不当に侵害されないよう保護するために、特定の業者・資格者のみ、業務に関与させることとしたものです。困った問題があったとしても、法律に則って解決するように努力することが、社会人として求められる姿勢だと思います。違法業者に依頼すると、かえって、「違法行為が相手にばれた」などと言われ、解決金を要求されたりする被害もあると聞きます。「復讐屋」「復讐代行」「恨み屋」なども、原則として違法です。我が国の民法では、相手方から違法な損害行為を受けた場合は、法律上の損害賠償請求という形式を取る必要があります。金銭賠償の原則を法律が定めております。
民法第709条(不法行為による損害賠償)故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
第710条(財産以外の損害の賠償)他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。
第722条(損害賠償の方法及び過失相殺)第417条の規定は、不法行為による損害賠償について準用する。
第417条(損害賠償の方法)損害賠償は、別段の意思表示がないときは、金銭をもってその額を定める。

無味乾燥な条文の様に読めるかもしれませんが、上記の法律は、「自力救済禁止」「金銭賠償の原則」を定めたものです。精神的な苦痛を受けて慰謝料を要求したい場合でも、裁判所に訴えて、合法的に賠償請求して下さい、賠償請求は、金銭で請求して下さい、と言う意味です。決して、相手に「復讐」することはできません。このような法律の規定を、「回りくどいな」「面倒だな」と感じるかも知れませんが、私達が安心して毎日を暮していくためにとても大切な原理原則です。詳しいことは、当事務所の「法の支配に関する考察」、「法の支配と民事訴訟実務入門、総論1、訴訟制度の意義、法の支配、自力救済禁止について」以下をお読み下さい。https://www.shinginza.com/ruleoflaw.htm

<参考条文>

警備業法第1条(目的)この法律は、警備業について必要な規制を定め、もつて警備業務の実施の適正を図ることを目的とする。
第2条(定義)この法律において「警備業務」とは、次の各号のいずれかに該当する業務であつて、他人の需要に応じて行うものをいう。
1.事務所、住宅、興行場、駐車場、遊園地等(以下「警備業務対象施設」という。)における盗難等の事故の発生を警戒し、防止する業務
2.人若しくは車両の雑踏する場所又はこれらの通行に危険のある場所における負傷等の事故の発生を警戒し、防止する業務
3.運搬中の現金、貴金属、美術品等に係る盗難等の事故の発生を警戒し、防止する業務
4.人の身体に対する危害の発生を、その身辺において警戒し、防止する業務
2 この法律において「警備業」とは、警備業務を行なう営業をいう。
3 この法律において「警備業者」とは、第4条の認定を受けて警備業を営む者をいう。
4 この法律において「警備員」とは、警備業者の使用人その他の従業者で警備業務に従事するものをいう。
5 この法律において「機械警備業務」とは、警備業務用機械装置(警備業務対象施設に設定する機器により感知した盗難等の事故の発生に関する情報を当該警備業務対象施設以外の施設に設置する機器に送信し、及び受信するための装置で内閣府令で定めるものをいう。)を使用して行う第1項第1号の警備業務をいう。
6 この法律において「機械警備業」とは、機械警備業務を行う警備業をいう。
第3条 次の各号のいずれかに該当する者は、警備業を営んではならない。
1.成年被後見人若しくは被保佐人又は破産者で復権を得ないもの
2.禁錮以上の刑に処せられ、又はこの法律の規定に違反して罰金の刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなつた日から起算して5年を経過しない者
3.最近5年間に、この法律の規定、この法律に基づく命令の規定若しくは処分に違反し、又は警備業務に関し他の法令の規定に違反する重大な不正行為で国家公安委員会規則で定めるものをした者
4.集団的に、又は常習的に暴力的不法行為その他の罪に当たる違法な行為で国家公安委員会規則で定めるものを行うおそれがあると認めるに足りる相当な理由がある者
5.暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(平成3年法律第77号)第12条若しくは第12条の6の規定による命令又は同法第12条の4第2項の規定による指示を受けた者であつて、当該命令又は指示を受けた日から起算して3年を経過しないもの
6.アルコール、麻薬、大麻、あへん又は覚せい剤の中毒者
7.心身の障害により警備業務を適正に行うことができない者として国家公安委員会規則で定めるもの
8.営業に関し成年と同一の行為能力を有しない未成年者。ただし、その者が警備業者の相続人であつて、その法定代理人が前各号のいずれにも該当しない場合を除くものとする。
9.営業所ごと及び当該営業所において取り扱う警備業務の区分(前条第1項各号の警備業務の区分をいう。以下同じ。)ごとに第22条第1項の警備員指導教育責任者を選任すると認められないことについて相当な理由がある者
10.法人でその役員(業務を執行する社員、取締役、執行役又はこれらに準ずる者をいい、相談役、顧問その他いかなる名称を有する者であるかを問わず、法人に対し業務を執行する社員、取締役、執行役又はこれらに準ずる者と同等以上の支配力を有するものと認められる者を含む。)のうちに第1号から第7号までのいずれかに該当する者があるもの
11.第4号に該当する者が出資、融資、取引その他の関係を通じてその事業活動に支配的な影響力を有する者
第4条(認定)警備業を営もうとする者は、前条各号のいずれにも該当しないことについて、都道府県公安委員会(以下「公安委員会」という。)の認定を受けなければならない。

探偵業法
第一条(目的) この法律は、探偵業について必要な規制を定めることにより、その業務の運営の適正を図り、もって個人の権利利益の保護に資することを目的とする。
第二条(定義) この法律において「探偵業務」とは、他人の依頼を受けて、特定人の所在又は行動についての情報であって当該依頼に係るものを収集することを目的として面接による聞込み、尾行、張込みその他これらに類する方法により実地の調査を行い、その調査の結果を当該依頼者に報告する業務をいう。
2  この法律において「探偵業」とは、探偵業務を行う営業をいう。ただし、専ら、放送機関、新聞社、通信社その他の報道機関(報道(不特定かつ多数の者に対して客観的事実を事実として知らせることをいい、これに基づいて意見又は見解を述べることを含む。以下同じ。)を業として行う個人を含む。)の依頼を受けて、その報道の用に供する目的で行われるものを除く。
3  この法律において「探偵業者」とは、第四条第一項の規定による届出をして探偵業を営む者をいう。
第三条(欠格事由) 次の各号のいずれかに該当する者は、探偵業を営んではならない。一  成年被後見人若しくは被保佐人又は破産者で復権を得ないもの
二  禁錮以上の刑に処せられ、又はこの法律の規定に違反して罰金の刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなった日から起算して五年を経過しない者三  最近五年間に第十五条の規定による処分に違反した者
四  暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律 (平成三年法律第七十七号)第二条第六号 に規定する暴力団員(以下「暴力団員」という。)又は暴力団員でなくなった日から五年を経過しない者
五  営業に関し成年者と同一の能力を有しない未成年者でその法定代理人が前各号のいずれかに該当するもの
六  法人でその役員のうちに第一号から第四号までのいずれかに該当する者があるもの
第四条(探偵業の届出)  探偵業を営もうとする者は、内閣府令で定めるところにより、営業所ごとに、当該営業所の所在地を管轄する都道府県公安委員会(以下「公安委員会」という。)に、次に掲げる事項を記載した届出書を提出しなければならない。この場合において、当該届出書には、内閣府令で定める書類を添付しなければならない。
一  商号、名称又は氏名及び住所
二  営業所の名称及び所在地並びに当該営業所が主たる営業所である場合にあっては、その旨
三  第一号に掲げる商号、名称若しくは氏名又は前号に掲げる名称のほか、当該営業所において広告又は宣伝をする場合に使用する名称があるときは、当該名称
四  法人にあっては、その役員の氏名及び住所
2  前項の規定による届出をした者は、当該探偵業を廃止したとき、又は同項各号に掲げる事項に変更があったときは、内閣府令で定めるところにより、公安委員会に、その旨を記載した届出書を提出しなければならない。この場合において、当該届出書には、内閣府令で定める書類を添付しなければならない。
3  公安委員会は、第一項又は前項の規定による届出(同項の規定による届出にあっては、廃止に係るものを除く。)があったときは、内閣府令で定めるところにより、当該届出をした者に対し、届出があったことを証する書面を交付しなければならない。
民法
(正当防衛及び緊急避難)
第七百二十条  他人の不法行為に対し、自己又は第三者の権利又は法律上保護される利益を防衛するため、やむを得ず加害行為をした者は、損害賠償の責任を負わない。ただし、被害者から不法行為をした者に対する損害賠償の請求を妨げない。
2  前項の規定は、他人の物から生じた急迫の危難を避けるためその物を損傷した場合について準用する。
刑法
第七章 犯罪の不成立及び刑の減免
(正当行為)
第三十五条  法令又は正当な業務による行為は、罰しない。
(正当防衛)
第三十六条  急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。
2  防衛の程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。
(緊急避難)
第三十七条  自己又は他人の生命、身体、自由又は財産に対する現在の危難を避けるため、やむを得ずにした行為は、これによって生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場合に限り、罰しない。ただし、その程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。
2  前項の規定は、業務上特別の義務がある者には、適用しない。

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