新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.864、2009/5/12 17:48

【商事・新株予約権の発行の機能・ストックオプション・役員報酬の代替・買収に対する企業防衛のための新株予約権の是非・ポイズンピル】

質問:勤務している会社が、新株予約権を発行することになり、私ももらえることになりました。そもそも新株予約権とは何ですか。差止め請求についても教えてください。

回答:
1.貴方がいただくことになった新株予約権とは、権利者が予め定めてある期間内に、予め決められた価格を株式会社に振り込むことにより、会社から一定の新株(又は自己株式)を取得できる権利です(会社法2条1項21号、282条)。別名コール・オプションといいます。
2.平成13年の商法改正により独立して認められた権利であり(それまでは新株引受権という権利しかなかった)、平成17年会社法にも引き継がれています。本来社員の増加による資本の増加、資金調達の手段としてありますが、新株予約権付社債(会社法2条1項22号)のように、会社の負債の担保的機能も有します。しかしこのような機能は13年商法改正前の制度でもありましたので(新株引受権、新株引受権付き社債として認められています)、新たに新株予約権として規定した趣旨は会社の経営者、従業員の意欲向上の報酬(ストックオプション)、日本経済の成長に伴う企業買収に対する防衛の手段として新株予約権が機能する面に着目したことにあります。すなわち、会社の資金調達だけでなく適正な企業成長発展のための制度として位置付けることができると思います。貴方が取得する権利は、予約権を会社から与えられており、ストックオプション(報酬)と考えられます。
3.事務所事例集816番も参考にしてください。

解説:
1.新株予約権とは。
新株予約権とは、株式会社に対して行使することにより、当該株式会社の株式の交付を受けることができる権利をいいます(会社法第2条1項21号)。新株予約権者は、あらかじめ定められた一定の期間内に、あらかじめ定められた価格の払い込み、ないし対価が金銭以外である場合にはその財産を給付することにより、あるいは無償で(新株予約権者が株主である場合のみ 会社法第277条)、当該株式会社から、あらかじめ定められた種類と数の株式の交付を受けることができます(会社法第236条)。つまり、将来、ある会社の株式を特定の価格で購入することを予約する権利で、いわゆるコール・オプションのことを意味します。新株予約権の行使を受けた場合には、当該株式会社は、新株予約権者に対し、新たに株式を発行して交付することも、会社の有する自己株式を交付することもできます。また、新株予約権の権利を行使せずに、第三者に譲渡することも可能です(会社法第254条1項)。新株予約権者は、新株予約権を行使した日に株主となります(会社法第282条)。

@(新株予約権の趣旨)
平成13年商法改正により、どうして従来の「新株引受権」の他に、新株予約権という独立した権利を認めたのかというと、簡単にいえば株式会社の資金調達の多様性を認めるだけでなく、会社経営者、従業員のインセンティブ(意欲を引き出す動機、モチベーション)による会社の成長の刺激(ストックオプション)、不当な企業買収からの防衛策(ポイズンピル・ライツプラン)として、最終的に本来の所有者である株主を保護し、公正な企業運営をする制度として認識され、必要性が生じたからです。この基本的内容は平成17年会社法にも引き継がれています(会社法236条乃至294条。ただ、株式引受権という概念は規定上なくなりました。旧商法上は280条の2、1項5項、280条5の2に規定。)。

A(資金調達の基本的機能)
自由主義経済は、株式会社制度により成り立っており、株式会社の本質は所有と経営の分離にあり、株式という細分化された社員、所有者を表す権利により巨額の資金を集め経営は専門家に委任し、巨額の利益を目的として活動して最終的には公正な経済社会秩序を建設するという点にあるのですが、そのため株主、会社債権者、経営者の利害が錯綜するところに特色があります。しかし、新株予約権は、既存の株主以外に新たな株主が参入する問題ですので、会社所有者である既存の株主保護をどう保障するかという点が重要になります。物的会社の資金調達の方法は、金融機関からの借入、社債の他利息のかからない新株発行がありますが、将来性のある会社であれば株式の時価が高騰した時に予約権行使により時価との差額を手に入れることができる利点があり、資金調達が容易にすることができます。又、平成13年商法改正前からあった新株引受権付社債(又は、転換社債)と同じく、新株予約権付社債(旧商法341条の2、1項、4項。平成13年改正で規定。)が認められ、会社法成立により会社法2条1項22号により規定されています。会社が発展すれば予約権を行使して株主になれるので社債権者に有利ですし、会社は予約権が付いているので低利で発行でき資金調達が容易になります。すなわち、この場合の新株予約権は社債の担保としての機能を果たして資金を調達します。これと同じく、転換社債型新株予約権付社債等(会社法248条、CBといわれます。)があり、新株予約権付社債との違いは、予約権を行使すると社債自体が消滅してしまう点にあります(新株予約権付き社債は社債と予約権が互いの割合に応じて併存する)。従来の転換社債と同じなのでこの名称があります。

B(ストックオプションの機能)
平成13年商法改正(平成9年に)の主な趣旨は、新株予約権を新株引受権とは別の独立の権利として認めて役員等の報酬支払いの方法に利用し、会社経営、利益の拡大に生かそうとするものです。会社法にも引き継がれています。会社から委任された経営者、労働契約の使用人は定額の給料しか収入はないので、その意欲を刺激するため自らの働きによって将来の株価の上昇の利益を得るチャンス(新株引受権)を労務、労働報酬の一部として(無償または一部無償)事前に与え、利益を求める経営者等の意欲を高めて会社の利益をもさらに拡大しようとするものです。アメリカでは、業績連動型の報酬として利用されており、その制度を日本にも導入した形になっています。この方式は、発行価格が報酬に対する適正な対価であればむしろ既存の株主の利益につながるものであり、妥当な制度と思われます。発行価格の計算は、権利行使価額、取得する株式の時価、価格変動率、行使期間、行使までの金利等を考慮し、オプション価格算出計算式に基づき算出されることになっています。

C(敵対的企業買収に対する予防策としての機能、ポイズンピル、ライツプラン)
最近では、敵対的買収に対する防衛策として話題になっています。本来所有と経営の分離から導かれる投下資本の回収保障、株式譲渡自由の原則から言えば、企業買収、株式の大量取得も自由にできるはずです。しかし、自由資本主義、株式会社制度の最終目的は、株主の利益追求を超えて公正な経済社会秩序の建設にある以上、経営に興味のない一般株主、一般投資家の盲点を突き、巨大な国際金融資本等を後ろ盾に、表面上は業務提携、経営参加を求め装いながら、その実は対象とする会社の特殊な財産や権利、利益等を不当に取得することを企図し、又、株価の高騰を誘って売り抜けて取引社会の信義則に反する利益獲得を行い、結果として本来の株主、一般投資家の権利、利益を事実上侵害するような行為は、法の理想から到底許されません。そこで、その対策の1つとして考えられたのが新株予約権です。特に「ポイズンピル」と呼ばれる典型的方法は、前もって敵対的買収者が現れた場合には、行使価格を市場価格より安く設定した新株予約権を割り当てることを定めておいて(株主、第三者かを問わない)、敵対的買収者が現れ、株式の買い占めが進んだ場合には、新株予約権を行使して発行済み株式総数を増加させ、敵対的買収者の持ち株比率を事実上下げて、買収に多額の費用を要するようにして、買収を阻止します。しかし、以下の3に記載するとおり、既存株主の利益を損なう可能性が高いことから、『毒薬』とも表現されていますし、法的に認められるのか、差止め請求(会社法247条)の対象になるかどうかは別問題です(現にライブドア事件では差し止めされました)。このような新株予約権の発行が、法令定款に違反していなくても、会社法の制度趣旨から考えて「著しく不公正な方法による発行」に当たるかどうかは、最終的に敵対的買収の動機、内容経過から総合的に考えて対象会社の株主の正当な利益を侵害しないか、公正な経済秩序を侵害しないかが最終的な基準となると考えられます。この方法が用いられた、後記ライブドア事件、ブルドックソース事件が参考になります。

2.新株予約権のメリットのまとめ。
@当該株式が上場されている場合には、新株予約権の行使価格が市場価格を下回っているときに新株予約権を行使して株式を安く手に入れ、そのまま転売して市場価格と行使価格との差額分について利益を得ることができます。また、未上場の場合には、将来上場された場合には、多額の利益を得ることも予想されます。このように、株式の売買において、有利な取引をすることが可能とすることができるので資金調達が容易になります。
Aストックオプションの場合は、会社の業績が伸び会社発展の原因となること。
B敵対的企業買収の対抗手段として株主の利益を保護することが可能になります。
C資金があまりないが将来性のある会社が、通常の取引の対価として新株予約権を発行して会社の運営を図ることが他に考えられます。

3.新株予約権が発行されることのデメリットのまとめ。
@新株予約権の行使は、既存の株主に対して、募集株式の発行等と似たような影響を与えます。つまり、新株予約権の行使価格が適正な価格に設定されていなければ、株価の下落を招く要因になる可能性もありますし、A株主割当の方法以外の方法で発行された場合には、将来、新株予約権が行使されたときには、既存の株主の持ち株比率を下げることになります。Bまた、上記1に記載したような「ポイズンピル」として利用されるような場合には、一度に大量の株式が発行するため、一株当たりの利益が薄まることにもなります。

(手続上の対策)
そこで、会社法では、既存株主の権利や利益を保護するために、新株予約権を発行する際には、募集株式の発行等と同様の規定が設けられています。新株予約権を引き受ける者を募集して発行する場合には、その募集事項等の決定については、非公開会社においては、原則、株主総会の特別決議が必要とされています(会社法238条2項)。基本的には有利発行でなければ他の株主に不利益なことはなく資金調達の手段ですので取締役(又は取締役会)の業務執行に任せればいいのですが、将来の株価がどうなるか等有利かどうかの判断は微妙であり、株主の利害を保護するため公開会社でなければ取締役会、監査役(会社法326条2項。公開会社でなければ会社法成立前と異なり任意機関となっている)が存在しない場合もあり、取締役の恣意を防止して他の株主の利益を保護するため株主総会の決議を必要としています。公開会社においては、原則に戻り監査役等監視機関がいるので取締役会の決議によるものとして、特に有利な条件で発行する場合には、株主保護のため取締役会の決議ではなく、株主総会の特別決議を要するものとされています(会社法第240条1項)。また、株主割当により発行する場合にも、その決定内容が株主の利益を害するかどうか慎重に決める必要があり(実務上、発行価格は争いを避けるため外部の専門家に評価してもらうことになります)、原則は株主総会の特別決議により、募集事項等を決定します(会社法第241条3項、同法309条2項6号)が、例外的に株主の利益を侵害しないような監視機関及び、株主の意見が反映している定款がある場合には取締役会等に権限を認めています。すなわち@公開会社であれば、取締役会の決議で、A定款に別段の定めがある取締役会非設置会社の場合には、取締役の決定、B取締役会設置会社の場合には、取締役会の決議が必要です。

(新株予約権発行の基本的手続き)
@まず、会社は新株予約権発行の内容を明らかにして募集事項(238条1項、236条)について 株主総会の特別決議(309条2項6号)で発行決議を行いますが(238条2項、公開会社の場合は取締役会。240条)、募集事項の決定の委任も可能であり、株主総会において、その決議によって、募集事項の決定を取締役又は、取締役会に委任することができます(239条1項)。委任の決議において株主の意見は反映されており、株主の不利益はないからです。
Aその後、決定事項に関し株主など申し込みをしようとする者に対して通知します(242条1項)。
B株主又はそれ以外の者から引き受けの申込みをうけるか(242条2項)、又は、総数引受契約の締結をします(244条)。
C新株予約権を申込んだ者は割当の時に新株予約権者になります(会社法243条、245条。但し、権利行使の時又は払込期日までに払い込まない場合、失権します。)。貴方のように労働の報酬のインセンティブとして交付を受ける従業員は払い込みの必要性がありません。
D当該新株予約権の払込みは、原則として新株予約権の行使の前日までに払い込めばよく、払込期日等を定めた時だけ、その期日ないしは期間内に払わなければならない(会社法246条)。ただ、株主に対しては、新株引受権を無償で割当てすることができます(会社法277条乃至279条)。平等に割り当てが行われれば、結果として株主の利益が損なわれないからです。
E新株予約権者は、予約権を行使し定められた出資金、これに代わる財産(会社法236条1項2号)を支払った時に株主になります(会社法280条乃至283条)。

4.募集新株予約権の発行をやめることの請求。
株主に不利益が生じる可能性のある新株予約権の発行に対して、株主は、その発行を差し止めることができます(会社法第247条)。新株予約権の制度趣旨は、資金調達、インセンティブ報酬、企業防衛にしても最終的には企業の所有者である株主の保護、そして公正な経済社会秩序の維持発展にあるので募集新株予約権の発行をやめるように請求する権利は、条文上、以下の要件以下の要件が必要になります。
@法令又は定款に違反する場合(1号)
A著しく不公正な方法により行われる場合(2号)。
B株主が不利益を受けるおそれがあること
@は、具体的な法令又は定款違反をいい、例えば、募集事項の決定に当たり、株主総会の決議を要する場合に、当該決議において特別決議の要件を満たさなかった場合(会社法238条2項、同法247条3項4号、同法309条2項6号)や、発行価額その他発行条件の不均衡な発行(会社法238条5項)などがこれに該当します。Aは、不当な目的を達成する手段として新株予約権の発行が利用される場合をいいます。法令、定款に形式的に違反していなくとも公正な経済社会秩序維持という会社法の理想から信義則、公正の理念に反する新株予約権の発行は許されませんので、「著しく不公正な発行」とは、その発行目的が予約権発行の経緯、態様、当事者の立場等から考え全株主の利益という観点から不当性を有する場合です。例えば、取締役(経営者)が、株主総会での多数派工作のため自らのグループにのみ新株予約権を発行する場合などです。

5.ライブドア事件
@ 旧商法下で、ライブドアがニッポン放送に対して行った新株予約権発行差止仮処分命令申立事件(ライブドア対ニッポン放送、敵対的企業買収事件、保全異議申立事件、東京地方裁判所平成17年(モ)第3074号、平成17年3月16日決定。ニッポン放送側が取締役会決議により行った実質的経営者であるフジテレビに対する新株予約権発行の差止めをライブドアが求める仮処分に対する異議申立事件。保全抗告の東京高裁も同趣旨です。)においては、ライブドアは、上記@の要件について、特に有利な条件による発行であるのに株主総会の特別決議(旧商法280条の21第1項)がないため、法令に違反しているという理由と、著しく不公正な方法によるものであるという上記Aに関する理由の2つを主張しました。なお、この事件において、裁判所は、@の理由については、そもそも本件の新株予約権の発行が特に有利なる条件による発行にあたるとまでいえないとしてライブドアの主張を退ける一方で、Aの理由については、新株予約権発行が支配権を争う特定の株主の持ち株比率を低下させ、現経営陣(本件ではニッポン放送、フジテレビ)の支配権を維持することを主要な目的としてされたものであるときは、会社ひいては株主全体の利益の保護という観点からその新株予約権発行を正当化する特段の事情のない限り、不当な目的を達成する手段として新株予約権発行が利用される場合にあたるという原則論を示した上、結論としてライブドアの主張を認めました。差止請求権の制度趣旨から当然の結論と思います。

A東京高裁平成17年3月23日判決抜粋(保全抗告)、は敵対的買収者にたいする新株予約権発行の具体例を示しています。参考にしてください。
「例えば、株式の敵対的買収者が、〔1〕真に会社経営に参加する意思がないにもかかわらず、ただ株価をつり上げて高値で株式を会社関係者に引き取らせる目的で株式の買収を行っている場合(いわゆるグリーンメイラーである場合)、〔2〕会社経営を一時的に支配して当該会社の事業経営上必要な知的財産権、ノウハウ、企業秘密情報、主要取引先や顧客等を当該買収者やそのグループ会社等に移譲させるなど、いわゆる焦土化経営を行う目的で株式の買収を行っている場合、〔3〕会社経営を支配した後に、当該会社の資産を当該買収者やそのグループ会社等の債務の担保や弁済原資として流用する予定で株式の買収を行っている場合、〔4〕会社経営を一時的に支配して当該会社の事業に当面関係していない不動産、有価証券など高額資産等を売却等処分させ、その処分利益をもって一時的な高配当をさせるかあるいは一時的高配当による株価の急上昇の機会を狙って株式の高価売り抜けをする目的で株式買収を行っている場合など、当該会社を食い物にしようとしている場合には、濫用目的をもって株式を取得した当該敵対的買収者は株主として保護するに値しないし、当該敵対的買収者を放置すれば他の株主の利益が損なわれることが明らかであるから、取締役会は、対抗手段として必要性や相当性が認められる限り、経営支配権の維持・確保を主要な目的とする新株予約権の発行を行うことが正当なものとして許されると解すべきである。そして、株式の買収者が敵対的存在であるという一事のみをもって、これに対抗する手段として新株予約権を発行することは、上記の必要性や相当性を充足するものと認められない」

6. ブルドックソース事件(株主総会決議禁止等仮処分命令申立て却下決定に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件、最高裁判所第二小法廷平成19年(許)第30号、平成19年8月7日決定)では同じ新株予約権の発行(買収者を差別する無償割り当て)の問題でしたが一般株主保護の観点から企業防衛策として認められています。株主総会の特別決議により予約権発行の対象が全株主(買収者も入るが対価を支払う取得条項付きで結果的に予約権の行使はできない)で、買収者に公正な経営をできるような経歴、性格が認められない点で株主保護のための新株予約権発行と認定しています。ライブドア事件を参考に対策が取られたものと考えられます。後記最高裁判例参照。

【参照条文:会社法】
(定義)
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一〜二十一(略)
二十二 新株予約権付社債 新株予約権を付した社債をいう。
二十三〜三十四(略)
(新株予約権の内容)
第236条 株式会社が新株予約権を発行するときは、次に掲げる事項を当該新株予約権の内容としなければならない。
一 当該新株予約権の目的である株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)又はその数の算定方法
二 当該新株予約権の行使に際して出資される財産の価額又はその算定方法
三 金銭以外の財産を当該新株予約権の行使に際してする出資の目的とするときは、その旨並びに当該財産の内容及び価額
四 当該新株予約権を行使することができる期間
五 当該新株予約権の行使により株式を発行する場合における増加する資本金及び資本準備金に関する事項
六 譲渡による当該新株予約権の取得について当該株式会社の承認を要することとするときは、その旨
七 当該新株予約権について、当該株式会社が一定の事由が生じたことを条件としてこれを取得することができることとするときは、次に掲げる事項
イ 一定の事由が生じた日に当該株式会社がその新株予約権を取得する旨及びその事由
ロ 当該株式会社が別に定める日が到来することをもってイの事由とするときは、その旨
ハ イの事由が生じた日にイの新株予約権の一部を取得することとするときは、その旨及び取得する新株予約権の一部の決定の方法
ニ イの新株予約権を取得するのと引換えに当該新株予約権の新株予約権者に対して当該株式会社の株式を交付するときは、当該株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)又はその算定方法
ホ イの新株予約権を取得するのと引換えに当該新株予約権の新株予約権者に対して当該株式会社の社債(新株予約権付社債についてのものを除く。)を交付するときは、当該社債の種類及び種類ごとの各社債の金額の合計額又はその算定方法
ヘ イの新株予約権を取得するのと引換えに当該新株予約権の新株予約権者に対して当該株式会社の他の新株予約権(新株予約権付社債に付されたものを除く。)を交付するときは、当該他の新株予約権の内容及び数又はその算定方法
ト イの新株予約権を取得するのと引換えに当該新株予約権の新株予約権者に対して当該株式会社の新株予約権付社債を交付するときは、当該新株予約権付社債についてのホに規定する事項及び当該新株予約権付社債に付された新株予約権についてのヘに規定する事項
チ イの新株予約権を取得するのと引換えに当該新株予約権の新株予約権者に対して当該株式会社の株式等以外の財産を交付するときは、当該財産の内容及び数若しくは額又はこれらの算定方法
八 当該株式会社が次のイからホまでに掲げる行為をする場合において、当該新株予約権の新株予約権者に当該イからホまでに定める株式会社の新株予約権を交付することとするときは、その旨及びその条件
イ 合併(合併により当該株式会社が消滅する場合に限る。) 合併後存続する株式会社又は合併により設立する株式会社
ロ 吸収分割 吸収分割をする株式会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部を承継する株式会社
ハ 新設分割 新設分割により設立する株式会社
ニ 株式交換 株式交換をする株式会社の発行済株式の全部を取得する株式会社
ホ 株式移転 株式移転により設立する株式会社
九 新株予約権を行使した新株予約権者に交付する株式の数に一株に満たない端数がある場合において、これを切り捨てるものとするときは、その旨
十 当該新株予約権(新株予約権付社債に付されたものを除く。)に係る新株予約権証券を発行することとするときは、その旨
十一 前号に規定する場合において、新株予約権者が第二百九十条の規定による請求の全部又は一部をすることができないこととするときは、その旨
2 新株予約権付社債に付された新株予約権の数は、当該新株予約権付社債についての社債の金額ごとに、均等に定めなければならない。
(募集事項の決定)
第238条 株式会社は、その発行する新株予約権を引き受ける者の募集をしようとするときは、その都度、募集新株予約権(当該募集に応じて当該新株予約権の引受けの申込みをした者に対して割り当てる新株予約権をいう。以下この章において同じ。)について次に掲げる事項(以下この節において「募集事項」という。)を定めなければならない。
一 募集新株予約権の内容及び数
二 募集新株予約権と引換えに金銭の払込みを要しないこととする場合には、その旨
三 前号に規定する場合以外の場合には、募集新株予約権の払込金額(募集新株予約権一個と引換えに払い込む金銭の額をいう。以下この章において同じ。)又はその算定方法
四 募集新株予約権を割り当てる日(以下この節において「割当日」という。)
五 募集新株予約権と引換えにする金銭の払込みの期日を定めるときは、その期日
六 募集新株予約権が新株予約権付社債に付されたものである場合には、第678条各号に掲げる事項
七 前号に規定する場合において、同号の新株予約権付社債に付された募集新株予約権についての第118条第一項、第777条第一項、第787条第一項又は第808条第一項の規定による請求の方法につき別段の定めをするときは、その定め
2 募集事項の決定は、株主総会の決議によらなければならない。
3 次に掲げる場合には、取締役は、前項の株主総会において、第一号の条件又は第二号の金額で募集新株予約権を引き受ける者の募集をすることを必要とする理由を説明しなければならない。
一 第一項第二号に規定する場合において、金銭の払込みを要しないこととすることが当該者に特に有利な条件であるとき。
二 第一項第三号に規定する場合において、同号の払込金額が当該者に特に有利な金額であるとき。
4 種類株式発行会社において、募集新株予約権の目的である株式の種類の全部又は一部が譲渡制限株式であるときは、当該募集新株予約権に関する募集事項の決定は、当該種類の株式を目的とする募集新株予約権を引き受ける者の募集について当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議を要しない旨の定款の定めがある場合を除き、当該種類株主総会の決議がなければ、その効力を生じない。ただし、当該種類株主総会において議決権を行使することができる種類株主が存しない場合は、この限りでない。
5 募集事項は、第一項の募集ごとに、均等に定めなければならない。
(公開会社における募集事項の決定の特則)
第240条 第238条第三項各号に掲げる場合を除き、公開会社における同条第二項の規定の適用については、同項中「株主総会」とあるのは、「取締役会」とする。この場合においては、前条の規定は、適用しない。
2 公開会社は、前項の規定により読み替えて適用する第238条第二項の取締役会の決議によって募集事項を定めた場合には、割当日の二週間前までに、株主に対し、当該募集事項を通知しなければならない。
3 前項の規定による通知は、公告をもってこれに代えることができる。
4 第二項の規定は、株式会社が募集事項について割当日の二週間前までに証券取引法第四条第一項又は第二項の届出をしている場合その他の株主の保護に欠けるおそれがないものとして法務省令で定める場合には、適用しない。
(株主に新株予約権の割当てを受ける権利を与える場合)
第241条  株式会社は、第238条第一項の募集において、株主に新株予約権の割当てを受ける権利を与えることができる。この場合においては、募集事項のほか、次に掲げる事項を定めなければならない。
一 株主に対し、次条第二項の申込みをすることにより当該株式会社の募集新株予約権(種類株式発行会社にあっては、その目的である株式の種類が当該株主の有する種類の株式と同一の種類のもの)の割当てを受ける権利を与える旨
二 前号の募集新株予約権の引受けの申込みの期日
2 前項の場合には、同項第一号の株主(当該株式会社を除く。)は、その有する株式の数に応じて募集新株予約権の割当てを受ける権利を有する。ただし、当該株主が割当てを受ける募集新株予約権の数に一に満たない端数があるときは、これを切り捨てるものとする。
3 第一項各号に掲げる事項を定める場合には、募集事項及び同項各号に掲げる事項は、次の各号に掲げる場合の区分に応じ、当該各号に定める方法によって定めなければならない。
一 当該募集事項及び第一項各号に掲げる事項を取締役の決定によって定めることができる旨の定款の定めがある場合(株式会社が取締役会設置会社である場合を除く。) 取締役の決定
二 当該募集事項及び第一項各号に掲げる事項を取締役会の決議によって定めることができる旨の定款の定めがある場合(次号に掲げる場合を除く。) 取締役会の決議
三 株式会社が公開会社である場合 取締役会の決議
四 前三号に掲げる場合以外の場合 株主総会の決議
4 株式会社は、第一項各号に掲げる事項を定めた場合には、同項第二号の期日の二週間前までに、同項第一号の株主(当該株式会社を除く。)に対し、次に掲げる事項を通知しなければならない。
一 募集事項
二 当該株主が割当てを受ける募集新株予約権の内容及び数
三 第一項第二号の期日
5 第238条第二項から第四項まで及び前二条の規定は、第一項から第三項までの規定により株主に新株予約権の割当てを受ける権利を与える場合には、適用しない。
第247条 次に掲げる場合において、株主が不利益を受けるおそれがあるときは、株主は、株式会社に対し、第238条第一項の募集に係る新株予約権の発行をやめることを請求することができる。
一 当該新株予約権の発行が法令又は定款に違反する場合
二 当該新株予約権の発行が著しく不公正な方法により行われる場合
(新株予約権の譲渡)
第254条 新株予約権者は、その有する新株予約権を譲渡することができる。
2 前項の規定にかかわらず、新株予約権付社債に付された新株予約権のみを譲渡することはできない。ただし、当該新株予約権付社債についての社債が消滅したときは、この限りでない。
3 新株予約権付社債についての社債のみを譲渡することはできない。ただし、当該新株予約権付社債に付された新株予約権が消滅したときは、この限りでない。
(新株予約権無償割当て)
第277条 株式会社は、株主(種類株式発行会社にあっては、ある種類の種類株主)に対して新たに払込みをさせないで当該株式会社の新株予約権の割当て(以下この節において「新株予約権無償割当て」という。)をすることができる。
(株主となる時期)
第282条 新株予約権を行使した新株予約権者は、当該新株予約権を行使した日に、当該新株予約権の目的である株式の株主となる。
(株主総会の決議)
第309条 株主総会の決議は、定款に別段の定めがある場合を除き、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の過半数をもって行う。
2 前項の規定にかかわらず、次に掲げる株主総会の決議は、当該株主総会において議決権を行使することができる株主の議決権の過半数(三分の一以上の割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の三分の二(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上に当たる多数をもって行わなければならない。この場合においては、当該決議の要件に加えて、一定の数以上の株主の賛成を要する旨その他の要件を定款で定めることを妨げない。
一〜五(略)
六 第238条第二項、第239条第一項、第241条第三項第四号及び第243条第二項の株主総会
七〜十二(略)
第326条  株式会社には、一人又は二人以上の取締役を置かなければならない。
2  株式会社は、定款の定めによって、取締役会、会計参与、監査役、監査役会、会計監査人又は委員会を置くことができる。
(取締役会等の設置義務等)
第327条 次に掲げる株式会社は、取締役会を置かなければならない。
一  公開会社
二  監査役会設置会社
三  委員会設置会社
2  取締役会設置会社(委員会設置会社を除く。)は、監査役を置かなければならない。ただし、公開会社でない会計参与設置会社については、この限りでない。
3  会計監査人設置会社(委員会設置会社を除く。)は、監査役を置かなければならない。
4  委員会設置会社は、監査役を置いてはならない。
5  委員会設置会社は、会計監査人を置かなければならない。

(ブルドックソース敵対的買収事件)最高裁判所第二小法廷平成19年(許)第30号、平成19年8月7日決定
1 本件は、相手方の株主である抗告人が、相手方に対し、相手方のする株主に対する新株予約権の無償割当ては、株主平等の原則に反し、著しく不公正な方法によるものであるから、会社法(以下「法」という。)247条1号及び2号に該当すると主張して、これを仮に差し止めることを求める事案である。
2 記録によれば、本件の経緯は次のとおりである。
(1)相手方は、ソースその他調味料の製造及び販売等を主たる事業とする株式会社であり、その発行する株式を株式会社東京証券取引所市場第二部に上場している。平成19年6月8日(以下、月日のみ記載するときは、すべて平成19年である。)時点における相手方の発行可能株式総数は7813万1000株、発行済株式総数は1901万8565株である。
(2)抗告人は、日本企業への投資を目的とする投資ファンドであり、5月18日時点において、関連法人と併せ、相手方の発行済株式総数の約10.25%を保有している。また、A(以下「A」という。)は、アメリカ合衆国デラウェア州法に基づき、抗告人のために株式等の買付けを行うことを目的として設立された有限責任会社であり、抗告人がそのすべての持分を有している。
(3)Aは、5月18日、相手方の発行済株式のすべてを取得することを目的として、相手方の株式の公開買付け(以下「本件公開買付け」という。)を行う旨の公告をし、公開買付開始届出書を関東財務局長に提出した。当初、本件公開買付けの買付期間は同日から6月28日まで、買付価格は1株1584円とされていたが、6月15日、買付期間は8月10日までに変更され、買付価格も1株1700円に引き上げられた。なお、上記の当初の買付価格は、相手方株式の本件公開買付け開始前の複数の期間における各平均市場価格に抗告人において適切と考える約12.82%から約18.56%までのプレミアムを加算したものとなっている。
(4)相手方は、5月25日、Aに対する質問事項を記載した意見表明報告書を関東財務局長に提出し、これを受けて、Aは、6月1日、対質問回答報告書(以下「本件回答報告書」という。)を同財務局長に提出した。
(5)本件回答報告書には、〔1〕抗告人は日本において会社を経営したことはなく、現在その予定もないこと、〔2〕抗告人が現在のところ相手方を自ら経営するつもりはないこと、〔3〕相手方の企業価値を向上させることができる提案等を、どのようにして経営陣に提供できるかということについて想定しているものはないこと、〔4〕抗告人は相手方の支配権を取得した場合における事業計画や経営計画を現在のところ有していないこと、〔5〕相手方の日常的な業務を自ら運営する意図を有していないため、相手方の行う製造販売事業に係る質問について回答する必要はないことなどが記載され、投下資本の回収方針については具体的な記載がなかった。
 このため、相手方取締役会は、6月7日、本件公開買付けは、相手方の企業価値をき損し、相手方の利益ひいては株主の共同の利益を害するものと判断し、本件公開買付けに反対することを決議した。また、相手方取締役会は、同日、本件公開買付けに対する対応策として、〔1〕一定の新株予約権無償割当てに関する事項を株主総会の特別決議事項とすること等を内容とする定款変更議案(以下「本件定款変更議案」という。)及び〔2〕これが可決されることを条件として、新株予約権無償割当てを行うことを内容とする議案(以下「本件議案」という。)を、6月24日に開催予定の定時株主総会(以下「本件総会」という。)に付議することを決定した。本件定款変更議案のうち、新株予約権無償割当てに関する部分の概要は、「相手方は、その企業価値及び株主の共同の利益の確保・向上のためにされる、新株予約権者のうち一定の者はその行使又は取得に当たり他の新株予約権者とは異なる取扱いを受ける旨の条件を付した新株予約権無償割当てに関する事項については、取締役会の決議によるほか、株主総会の決議又は株主総会の決議による委任に基づく取締役会の決議により決定する。この株主総会の決議は特別決議をもって行う。」というものである。 
(6)本件総会において、抗告人は、本件公開買付けに対する対応策の内容、その実施に要する費用の総額、当該対応策が実施された場合における課税上の負担の有無、本件公開買付けが撤回された後に新たな株式の公開買付けが行われる場合の相手方の対応等について質問するにとどまった。そして、本件定款変更議案及び本件議案は、いずれも出席した株主の議決権の約88.7%、議決権総数の約83.4%の賛成により可決された。なお、本件総会において可決された新株予約権の無償割当て(以下、当該新株予約権を「本件新株予約権」といい、その無償割当てを「本件新株予約権無償割当て」という。)の概要は、次のとおりである。
ア 新株予約権無償割当ての方法により、基準日である7月10日の最終の株主名簿及び実質株主名簿に記載又は記録された株主に対し、その有する相手方株式1。株につき3個の割合で本件新株予約権を割り当てる
イ 本件新株予約権無償割当てが効力を生ずる日は、7月11日とする。
ウ 本件新株予約権1個の行使により相手方が交付する普通株式の数(割当株式数)は、1株とする。
エ 本件新株予約権の行使により相手方が普通株式を交付する場合における払込金額は、株式1株当たり1円とする。
オ 本件新株予約権の行使可能期間は、9月1日から同月30日までとする。
カ 抗告人及びAを含む抗告人の関係者(以下、併せて「抗告人関係者」という。)は、非適格者として本件新株予約権を行使することができない(以下「本件行使条件」という。
)。
キ 相手方は、その取締役会が定める日(行使可能期間の初日より前の日)をもって、抗告人関係者の有するものを除く本件新株予約権を取得し、その対価として、本件新株予約権1個につき当該取得日時点における割当株式数の普通株式を交付することができる。相手方は、その取締役会が定める日(行使可能期間の初日より前の日)をもって、抗告人関係者の有する本件新株予約権を取得し、その対価として、本件新株予約権1個につき396円を交付することができる(以下、これらの条項を「本件取得条項」という。)。なお、上記金額は、本件公開買付けにおける当初の買付価格の4分の1に相当するものである。
ク 譲渡による本件新株予約権の取得については、相手方取締役会の承認を要する。
(7)相手方取締役会は、6月24日、本件議案の可決を受けて、本件新株予約権無償割当ての要項を決議するとともに、税務当局に対する確認の結果、株主に対する課税上の問題から、非適格者である抗告人関係者から本件取得条項に基づき本件新株予約権の取得を行うことができないと判断される場合であっても、抗告人関係者の有する本件新株予約権の全部を、相手方として抗告人関係者に何らの負担・義務を課すことなく1個につき396円の支払と引換えに譲り受ける旨決議した(以下、この決議を「本件支払決議」という。
)。
3(1)抗告人は、本件総会に先立つ6月13日、本件新株予約権無償割当てには、法247条の規定が適用又は類推適用されるところ、これは株主平等の原則に反して法令及び定款(以下「法令等」という。)に違反し、かつ、著しく不公正な方法によるものであるなどと主張して、原々審に対し、本件新株予約権無償割当ての差止めを求める仮処分命令の申立て(以下「本件仮処分命令の申立て」という。)をした。
(2)原々審は、6月28日、株主に対して新株予約権の無償割当てをする場合においても、当該無償割当てが株主の地位に実質的変動を及ぼすときには、法247条の規定が類推適用され、株主平等の原則の趣旨が及ぶとした上で、本件新株予約権無償割当ては、株主平等の原則の趣旨に反して法令等に違反するものではなく、著しく不公正な方法によるものともいえないとして、本件仮処分命令の申立てを却下する旨の決定をした。
(3)抗告人は、原審に抗告したが、原審は、7月9日、本件新株予約権無償割当てが相手方の企業価値のき損を防止するために必要かつ相当で合理的なものであり、また、抗告人関係者がいわゆる濫用的買収者であることを考慮すると、これは株主平等の原則に反して法令等に違反するものではなく、著しく不公正な方法によるものともいえないとして、抗告を棄却した。
4 本件抗告の理由は、原決定が、本件新株予約権無償割当ては株主平等の原則に反して法令等に違反するものではないとし、著しく不公正な方法によるものともいえないとしたことを論難するものである。
(1)株主平等の原則に反するとの主張について
ア 法109条1項は、株式会社(以下「会社」という。)は株主をその有する株式の内容及び数に応じて平等に取り扱わなければならないとして、株主平等の原則を定めている。
 新株予約権無償割当てが新株予約権者の差別的な取扱いを内容とするものであっても、これは株式の内容等に直接関係するものではないから、直ちに株主平等の原則に反するということはできない。しかし、株主は、株主としての資格に基づいて新株予約権の割当てを受けるところ、法278条2項は、株主に割り当てる新株予約権の内容及び数又はその算定方法についての定めは、株主の有する株式の数に応じて新株予約権を割り当てることを内容とするものでなければならないと規定するなど、株主に割り当てる新株予約権の内容が同一であることを前提としているものと解されるのであって、法109条1項に定める株主平等の原則の趣旨は、新株予約権無償割当ての場合についても及ぶというべきである。
 そして、本件新株予約権無償割当ては、割り当てられる新株予約権の内容につき、抗告人関係者とそれ以外の株主との間で前記のような差別的な行使条件及び取得条項が定められているため、抗告人関係者以外の株主が新株予約権を全部行使した場合、又は、相手方が本件取得条項に基づき抗告人関係者以外の株主の新株予約権を全部取得し、その対価として株式が交付された場合には、抗告人関係者は、その持株比率が大幅に低下するという不利益を受けることとなる。
イ 株主平等の原則は、個々の株主の利益を保護するため、会社に対し、株主をその有する株式の内容及び数に応じて平等に取り扱うことを義務付けるものであるが、個々の株主の利益は、一般的には、会社の存立、発展なしには考えられないものであるから、特定の株主による経営支配権の取得に伴い、会社の存立、発展が阻害されるおそれが生ずるなど、会社の企業価値がき損され、会社の利益ひいては株主の共同の利益が害されることになるような場合には、その防止のために当該株主を差別的に取り扱ったとしても、当該取扱いが衡平の理念に反し、相当性を欠くものでない限り、これを直ちに同原則の趣旨に反するものということはできない。そして、特定の株主による経営支配権の取得に伴い、会社の企業価値がき損され、会社の利益ひいては株主の共同の利益が害されることになるか否かについては、最終的には、会社の利益の帰属主体である株主自身により判断されるべきものであるところ、株主総会の手続が適正を欠くものであったとか、判断の前提とされた事実が実際には存在しなかったり、虚偽であったなど、判断の正当性を失わせるような重大な瑕疵が存在しない限り、当該判断が尊重されるべきである。
ウ 本件総会において、本件議案は、議決権総数の約83.4%の賛成を得て可決されたのであるから、抗告人関係者以外のほとんどの既存株主が、抗告人による経営支配権の取得が相手方の企業価値をき損し、相手方の利益ひいては株主の共同の利益を害することになると判断したものということができる。そして、本件総会の手続に適正を欠く点があったとはいえず、また、上記判断は、抗告人関係者において、発行済株式のすべてを取得することを目的としているにもかかわらず、相手方の経営を行う予定はないとして経営支配権取得後の経営方針を明示せず、投下資本の回収方針についても明らかにしなかったことなどによるものであることがうかがわれるのであるから、当該判断に、その正当性を失わせるような重大な瑕疵は認められない。
エ そこで、抗告人による経営支配権の取得が相手方の企業価値をき損し、相手方の利益ひいては株主の共同の利益を害することになるという本件総会における株主の判断を前提にして、本件新株予約権無償割当てが衡平の理念に反し、相当性を欠くものであるか否かを検討する。
 抗告人関係者は、本件新株予約権に本件行使条件及び本件取得条項が付されていることにより、当該予約権を行使することも、取得の対価として株式の交付を受けることもできず、その持株比率が大幅に低下することにはなる。しかし、本件新株予約権無償割当ては、抗告人関係者も意見を述べる機会のあった本件総会における議論を経て、抗告人関係者以外のほとんどの既存株主が、抗告人による経営支配権の取得に伴う相手方の企業価値のき損を防ぐために必要な措置として是認したものである。さらに、抗告人関係者は、本件取得条項に基づき抗告人関係者の有する本件新株予約権の取得が実行されることにより、その対価として金員の交付を受けることができ、また、これが実行されない場合においても、相手方取締役会の本件支払決議によれば、抗告人関係者は、その有する本件新株予約権の譲渡を相手方に申入れることにより、対価として金員の支払を受けられることになるところ、上記対価は、抗告人関係者が自ら決定した本件公開買付けの買付価格に基づき算定されたもので、本件新株予約権の価値に見合うものということができる。これらの事実にかんがみると、抗告人関係者が受ける上記の影響を考慮しても、本件新株予約権無償割当てが、衡平の理念に反し、相当性を欠くものとは認められない。なお、相手方が本件取得条項に基づき抗告人関係者の有する本件新株予約権を取得する場合に、相手方は抗告人関係者に対して多額の金員を交付することになり、それ自体、相手方の企業価値をき損し、株主の共同の利益を害するおそれのあるものということもできないわけではないが、上記のとおり、抗告人関係者以外のほとんどの既存株主は、抗告人による経営支配権の取得に伴う相手方の企業価値のき損を防ぐためには、上記金員の交付もやむを得ないと判断したものといえ、この判断も尊重されるべきである。
オ したがって、抗告人関係者が原審のいう濫用的買収者に当たるといえるか否かにかかわらず、これまで説示した理由により、本件新株予約権無償割当ては、株主平等の原則の趣旨に反するものではなく、法令等に違反しないというべきである。
(2)著しく不公正な方法によるものとの主張について
 本件新株予約権無償割当てが、株主平等の原則から見て著しく不公正な方法によるものといえないことは、これまで説示したことから明らかである。また、相手方が、経営支配権を取得しようとする行為に対し、本件のような対応策を採用することをあらかじめ定めていなかった点や当該対応策を採用した目的の点から見ても、これを著しく不公正な方法によるものということはできない。その理由は、次のとおりである。
 すなわち、本件新株予約権無償割当ては、本件公開買付けに対応するために、相手方の定款を変更して急きょ行われたもので、経営支配権を取得しようとする行為に対する対応策の内容等が事前に定められ、それが示されていたわけではない。確かに、会社の経営支配権の取得を目的とする買収が行われる場合に備えて、対応策を講ずるか否か、講ずるとしてどのような対応策を採用するかについては、そのような事態が生ずるより前の段階で、あらかじめ定めておくことが、株主、投資家、買収をしようとする者等の関係者の予見可能性を高めることになり、現にそのような定めをする事例が増加していることがうかがわれる。しかし、事前の定めがされていないからといって、そのことだけで、経営支配権の取得を目的とする買収が開始された時点において対応策を講ずることが許容されないものではない。本件新株予約権無償割当ては、突然本件公開買付けが実行され、抗告人による相手方の経営支配権の取得の可能性が現に生じたため、株主総会において相手方の企業価値のき損を防ぎ、相手方の利益ひいては株主の共同の利益の侵害を防ぐためには多額の支出をしてもこれを採用する必要があると判断されて行われたものであり、緊急の事態に対処するための措置であること、前記のとおり、抗告人関係者に割り当てられた本件新株予約権に対してはその価値に見合う対価が支払われることも考慮すれば、対応策が事前に定められ、それが示されていなかったからといって、本件新株予約権無償割当てを著しく不公正な方法によるものということはできない。
 また、株主に割り当てられる新株予約権の内容に差別のある新株予約権無償割当てが、会社の企業価値ひいては株主の共同の利益を維持するためではなく、専ら経営を担当している取締役等又はこれを支持する特定の株主の経営支配権を維持するためのものである場合には、その新株予約権無償割当ては原則として著しく不公正な方法によるものと解すべきであるが、本件新株予約権無償割当てが、そのような場合に該当しないことも、これまで説示したところにより明らかである。
(3)したがって、本件新株予約権無償割当てを、株主平等の原則の趣旨に反して法令等に違反するものということはできず、また、著しく不公正な方法によるものということもできない。
5 以上のとおりであるから、論旨は理由がなく、本件仮処分命令の申立てを却下すべきものとした原審の判断は、結論において是認することができる。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

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