新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.758、2008/2/20 12:07

【オレオレ詐欺・騙されて振り込んだ金員の取り戻し・犯罪被害財産等による被害回復給付金の支給に関する法律(振り込め詐欺被害回復分配金支払い法)】

質問:私の祖母が以前オレオレ詐欺の被害に遭い、指定された銀行口座に300万を振り込んでしまいました。警察に連絡し、その後銀行に、振り込んだお金を取り戻せないか問い合わせたところ、警察からの連絡で口座は取引できない状態にしてあるとのことでした。口座の持ち主、預金の状態、預金引出しの有無などについては、「警察からの依頼なので」ということで一切教えてもらえませんでした。その後、今まで約半年間、銀行からも警察からも連絡がありません。被害金を取り戻すために民事的手続きをすべきなのでしょうか?それとも、このまま警察からの連絡を待っていればいいのでしょうか?

回答:
1.オレオレ詐欺によって300万円を振り込んだ金員の民事上の取り戻し手続きについては既に当事務所ホームページ事例集bU94号、bV45号に分かりやすく詳しく説明されています。ご参照ください。
2.その他特別法である平成19年12月14日に、成立した「犯罪被害財産等による被害回復給付金の支給に関する法律(振り込め詐欺被害回復分配金支払い法)」により従来の民事上の法的手続きによることなく被害を回復することが出来ます。

解説:
1.オレオレ詐欺や振り込め詐欺は年々増えつづけており、平成19年1月から9月までの9ヶ月間で、認知されている件数で1万2千件に及び、その被害総額は約171億円にもなります。現実には、これよりはるかに多くの人が被害者となっていると考えられます。

2.振り込め詐欺に遭ったとき、騙されたとわかったらすぐに銀行から振り込んだお金を取り戻したいところですが、現実はそう簡単ではありません。銀行に振り込まれたお金は、銀行のものではなく、振込口座の名義人のものとなります。銀行は口座名義人に対して預金を返還するということができるのみであり、被害者が銀行に対して有する直接の請求権は存在しません。

3.警察に連絡しても、警察が扱うことができるのは刑事事件の捜査ですので、加害者がわからない段階では、捜査機関は銀行に対して被害者に被害金を返還するように言うことはできません。騙されて支払ってしまったお金については、加害者がわかってから、被害者が自分で民事的な手続きをとって加害者に請求するしかないのです。また、仮に訴えを起こすことができたとしても、加害者に財産がなければ、被害金を取り戻せないおそれもありますし、裁判になると費用も時間もかかります。従来は、犯罪口座の預金に、被害金が含まれていることを証明しなくてはいけなかったので、敗訴の可能性が非常に高かったのです。こうした状況で、銀行に停滞してしまっている預金は現在約80億円といわれています。

4.警察の捜査などで一旦閉鎖凍結された口座でも、今までの法律では、その口座に存在するお金をどのように被害者に返していくのか、ということが法律で規定されていなかったために、処理に手を焼いていました。特別の法律が無い場合は、原則に従って、訴訟を起し、強制執行により取り戻す他ありませんが、そもそも、振り込め詐欺は、その口座名義人が加害者と別名義であり又、架空名義であったり、電話をかけてきた加害者の所在が不明である場合が多いので、訴えを起こすことさえ困難なことが多かったのです。

5.それでは被害者は銀行にお金があることはわかっているのに、加害者がわからないということで泣き寝入りするしかないのでしょうか?

6.振り込め詐欺の被害者が、裁判により振込先口座から振込金相当額を取り戻すことを認めた最近の事例があります。東京地方裁判所平成17年3月30日判決をもとに説明いたします。振り込め詐欺は、本来支払うべき根拠がないにもかかわらず、被害者を誤信させたり畏怖させたりすることによって指定された銀行口座等へ振り込ませる行為ですので、不法行為にあたり損害賠償請求できますし、又、不当利得返還請求の対象にもなります。ただし、先ほども申し上げましたように、加害者の特定ができない場合には、救済は困難になってしまいます。

7.しかし、消費者が振り込むよう指定された銀行口座に預金が残っている場合には、預金口座の名義人に対して支払請求を行うという方法が考えられます。具体的には、銀行に対して当該預金口座の開設者について弁護士照会手続等により情報の開示を求めたうえで、口座名義人に対して請求します。ところが、預金開設者が偽名を用いたりしているために特定することができず、口座名義人に対する訴訟を提起することも困難となってしまいます。

8.本件は、そのようなケースについて、直接銀行に対する不当利得返還請求については、銀行は口座の所有者に対して払い戻す債務を負担しているとして否定しましたが、預金名義人に対する不当利得返還請求権を被保全債権として預金名義人の銀行に対する預金返還請求権に対する債権者代位権の行使を認め、消費者の請求を全額認容することによって、救済しました。もともと債権者代位権においては、第三債務者である銀行を被告とすることができるために、振り込め詐欺のように加害者の特定が困難な事例であっても、振込先銀行が特定できていれば訴訟を提起することができるということになります。

9.なお、債権者代位権を行使するためには、債務者がほかには無資力であることが必要とされていますが、本件の振り込め詐欺に関する事案では、加害者が不明であるために現行法制度上では債務名義取得の方法がないなど損害を回復する方法がないケースについて、加害者の財産と認められるものは証拠上振込口座についての預金払戻請求権以外の財産は見当たらないという事情に着目して保全の必要性を認めています。また、同じく振り込め詐欺の不当利得返還請求において、被害者が多数存在する可能性が高く、他多数の被害者に対して多額の不当利得返還債務を負っていると考えられることから加害者が無資力であると推認された事例もあります。(東京地裁平成17年3月29日判決)

10.条文を参照いたします。民法第703条 法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。民法第709条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。民法第423条 債権者は、自己の債権を保全するため、債務者に属する権利を行使することができる。ただし、債務者の一身に属する権利は、この限りでない。

11.このように、今までは裁判によって、被害者が債権者代位権に基いて不当利得返還請求訴訟をし、勝訴すれば、そこで初めてお金が戻ってくるという方法だったので、被害者の多くはリスクを感じ、結局は泣き寝入りするということがほとんどでした。

12.そこで、平成19年12月14日に、「犯罪被害財産等による被害回復給付金の支給に関する法律(振り込め詐欺被害回復分配金支払い法)」が成立しました。(被害回復分配金支払法第1条)

13.(条文参照)被害回復分配金支払法第1条 この法律は、預金口座等への振込みを利用して行われた詐欺等の犯罪行為により被害を受けたものに対する被害回復分配金の支払手続き等を定め、もって当該犯罪行為により被害を受けた者の財産的被害の迅速な回復等に資することを目的とする。

14.この法律により、被害金の回収方法はどのように変わるのでしょうか。まず、金融機関は捜査機関等から、犯罪に利用されている可能性が高い口座等の報告を受け、口座を凍結させます。この口座には、直接の振込先だけでなく資金の移動先口座も対象に含まれます。(被害回復分配金支払法第3条)そして、金融機関は預金保険機構に対して、その預金口座について被害回復分配金の手続きを開始したことを公告するように求めます。(同法第6条) この公告によって、60日以内に当該口座の名義人が名乗り出なかったときは、被害回復分配金の手続きを開始します。被害分配金の手続きの開始の公告は決定後60日以上とされており、被害者はその公告期間に銀行に被害額を届け出ます。(同法第8条) 被害についての証拠はその口座に振り込んだことが証明される振込票などがあれば足り、裁判のように難しい証明は求められません。これらの公告は、いずれもインタ−ネット上でされることになります。(同法第27条)口座の残金と被害額に応じて按分し、返還額が決定され被害者へ支払われるということになります。

15.(条文参照)
@ 被害回復分配金支払法第3条 金融機関は、当該金融機関の預金口座等について、捜査期間等から当該資金口座等の不当な利用に関する情報の提供があることその他の事情を勘案して犯罪利用預金口座等である疑いがあると認めるときは、当該預金口座等に係る取引の停止等の措置を適切に講ずるものとする。
A被害回復分配金支払法第3条2項 金融機関は、前項の場合において、同項の預金口座等に係る取引の状況その他の事情を勘案して当該預金口座等に係る資金を移転する目的で利用された疑いがあるほかの金融機関の預金口座等があると認めるときは、当該他の金融機関に対して必要な情報を提供するものとする。
B被害回復分配金支払法第6条 金融機関は、当該金融機関の預金口座等について、次に掲げる事由その他の事情を勘案して犯罪利用預金口座等であると疑うに足りる相当の理由があると認めるときは、速やかに、当該預金口座等について現に取引の停止等の措置が講じられていない場合においては当該措置を講ずるとともに、主務省令で定めるところにより、預金保険機構に対し、当該預金口座等に係る預金等に係る預金等に係る債権について、主務省令で定める書類を添えて、被害回復金の支払い手続きの開始に係る公告をすることを求めなければならない。
C被害回復分配金支払法第8条 金融機関は、対象犯罪行為による被害を受けたことが疑われる者に対し被害回復分配金の支払手続の実施等について周知するため、必要な情報の提供その他の措置を適切に講ずるものとする。被害回復分配金支払法第27条 この法律の規定による公告は、インターネットを利用して公衆の閲覧に供する方法でしなければならない。

16.上記のように、被害回復分配金支払法では、従来のような民法や民事訴訟法や民事執行法による裁判手続や強制執行手続を経ることなく、簡易な手続で被害金の分配を可能にしています。民事訴訟法や民事執行法は、当事者の公平や手続の適正安全を重視して制定されていますが、今日のような、オレオレ詐欺事案の増加による被害拡大は想定しておらず、被害回復が十分とは言えませんでしたので、事件の種類を限定して、簡易な手続を導入することにより、被害回復を促進し、全体として、民事訴訟法や民事執行法の目的である法秩序の維持を図ろうとしていると評価することができます。

17.あなたのおばあさんがオレオレ詐欺の被害に遭い、その後まだ警察から連絡がないのであれば、おそらく、まだ加害者が確定されていないと考えられます。この法律の施行により、警察等捜査機関から銀行に口座凍結の要請がされれば、その情報がインターネットに掲載されますので、あなたはおばあさんの振り込め詐欺事件の口座がこの法律に該当していないかどうか調べてあげてください。振込み票などがあれば、被害金の一部もしくは全部が返還される可能性がありますので、大切に保存しておきましょう。関係書類を用意してお近くの法律事務所に相談してみると良いでしょう。

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