新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.706、2007/11/27 15:58

【民事・建物建築の瑕疵と契約解除】

質問:私は、工事代金2000万円で近所の工務店に自宅の建築を注文し、今年の8月に完成、引き渡しを受け代金を全額支払いました。しかし、この家に住んでみると様々な不備が見つかり、その都度補修工事なり追加の工事をしてきたのですが、結局不具合が改善されることはありませんでした。そこで、第三者である建築士に頼んで、建物を調査したところ基礎や土台に問題があり、全部壊して新たに立て直さなければならないことが明らかになりました。私は、建築費全額を返還してもらおうと思い、工務店に請求したところ、工務店は、建物の請負工事の場合、家が出来上がっていれば契約の解除はできないこと、建物に欠陥があれば修理をするので連絡してほしいということで工事代金の返還には応じませんでした。私としては、この工務店には修理も頼むつもりはありません。解体の費用や支払った工事代金全額の返還請求はできないでしょうか。

回答:建物の瑕疵が著しく補修工事では完全な建物としての用途を果たせない場合は、工事代金全額並びに解体費用を損害金として請負人である工務店に対し請求できる、と考えられます。

解説:
1.建物の建築工事を工務店などに注文する場合を請負契約といいます。請負契約については民法632条から642条までに規定があります。これらの規定は任意規定といって当事者間の契約の内容が不明の場合の規定ですので、契約内容は原則として、契約当事者が自由に決めることができます。ここでいう請負契約とは、契約当時者の一方(請負人)がある仕事(たとえば家を建てる仕事)を完成することを約束して、他の一方が(注文者)がその仕事に対する報酬(工事代金)を支払うことを約束する契約です(民632条)。注文に応じて仕事をするという契約ですから、品物を売るという売買契約とは違う契約とされています。建物注文する請負の契約に似ている契約に、建売がありますが、これは出来上がっている建物を購入するという売買契約ですので、請負契約とは違うものとされています。

建物の請負契約においては契約書を作成することが役所の指導でおこなわれており、紛争が生じた場合はまずその契約書の定めに従って解決されることは、説明したとおりです。しかし、本件のように建物は一応完成したが、建て替えが必要な場合、工事代金全額の返還をすべきか否かという事態に対応するような契約条項は定められていないのが通常です。そこで、契約書にない場合は民法の条文に従って解決することになります。

2.民法の請負に関する条文として、本件に関して問題となるのは634条以下の請負人の瑕疵担保責任に関する規定です。請負人の瑕疵担保責任とは請負人が完成した仕事に何らかの瑕疵があった場合、請負人がどのような責任を負うかという問題です。請負契約においては、請負人は仕事を完成させるという債務を負っていますから仕事をしない場合は債務不履行責任を負うことになっています。しかし、仕事が完成した場合は請負人の債務は完了しており債務は履行されたことになります。しかし、仕事の結果に瑕疵、欠陥があった場合は債務不履行とはならないが、欠陥について請負人が一定範囲で責任を負う、としたのが請負人の瑕疵担保責任です。瑕疵があるのであれば仕事は完了していないと考えることもできますが、民法は請負人の債務としては仕事の面に着目し一応仕事が完了していれば、仕事の結果に瑕疵があっても債務不履行はないが、瑕疵担保責任というのを法律上負わせることにした、と解釈されています。請負契約というのは、仕事を完成することを目的としている契約ですから一応仕事が外形上完成した場合は債務としては完了したことになり債務不履行責任は負わないとされているのです。

このように、完成した仕事に欠陥があった場合は、債務の履行とは関係なく請負人に責任を負わせるのが、民法の定める「請負人の瑕疵担保責任」です。これは、結果責任ですから、瑕疵があった以上は、請負人は自分に責任がないとは言えません。報酬をもらって仕事をする以上は仕事の完成につい請負人が結果責任を負うことは当然であり、そのことを民法は明らかにしたと言えるでしょう。このように結果責任ですから、請負人は一生懸命仕事をしたので不可抗力により瑕疵が生じたなどという弁解はできません。そのため民法は、請負人に過度の結果責任、瑕疵担保責任を負わせることのないよう瑕疵担保責任の内容について詳しく定めているのです。

3.本件のような建物建築請負契約に関して瑕疵担保責任の内容が問題となるのは、635条です。635条は、仕事の目的物に瑕疵がありそのため、注文者が契約の目的を達することができない場合は注文者は契約を解除することができる、と規定していながら、但し書きで「建物その他と土地の工作物については、このかぎりでない。」と規定しています。つまり、建物の請負契約については、契約の目的を達せられないような瑕疵がある場合でも、契約の解除はできない、と規定されているのです。このことから、本件のように著しい欠陥がある住宅でも契約の解除は認められないことになります。そうすると、契約の解除ができないのであれば、解除をしたのと同様の結果となる工事代金全額費用の支払いを請求することもできないのではないか、という疑問が生じます。本件での工務店の代金を返還しないという主張もこのような理由に基づくものと考えられます。法律理論的には契約の解除の場合は、契約がなかったことになり、契約前の状態に戻す必要があることから代金2000万円の返還請求が認められるのに対し、損害賠償は契約の存在を前提に瑕疵を補修するための費用としての建て替え工事の金額を請求するので、同じ2000万円の請求といっても違う権利であることは明らかのです。そうすると、請負人は結果として契約が解除された場合と同じ責任を負うことになり、建て替えのための費用の全額賠償を認めることは請負人の責任を限定している民法635条の但し書きの趣旨に反しないか、問題となります。

4.この点について最高裁判所の判例があります。ご質問と同様の事案について判例は、「建物に重大な瑕疵があるため、これを建て替えざるを得ない場合には、・・・建物建て替えに要する相当額の損害賠償を請求することができる。」としています(最判平成14年9.24)。結論としては妥当な判断と考えられますが、民法635条但書との関係をどのように解するかという疑問については次のように解釈しています。

まず、635条但し書きが、建物の請負について契約の解除ができないとしている理由は、1 完成している建物について解除を認めると建物の撤去が必要となり社会的経済的な損失となること。2 契約の解除まで認めると、請負人に不測な多大な損害を負わせることになり酷であること、以上の理由から建物の瑕疵を理由とする解除を制限しているのである、と条文が制定された理由を説明し、そのような不都合がない場合は、解除を認めることはできないが、建て替え費用を損害賠償として認めたとしても不都合はなく、条文の趣旨に反しないと解釈しました。そして、具体的に事案に沿って検討し完成した建物の瑕疵が著しく建て替えもやむを得ないような場合は、そのような建物は存在自体危険な建物であり撤去しても社会経済的に大きな損失ということにはならないし、また、請負人にとってもそのような工事をしていたのであれば立て替え代金相当の金員の支払いを負担させても酷ではない、と判断しました。

結論としては、妥当な判断と考えられますが、具体的な裁判となると、建て替えが費用か否かについては、損害賠償を請求する注文者が主張立証する必要がありますので、その点建築の専門家の意見が必要となるでしょう。

≪参考条文≫

民法
(請負)
第六百三十二条  請負は、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。
(報酬の支払時期)
第六百三十三条  報酬は、仕事の目的物の引渡しと同時に、支払わなければならない。ただし、物の引渡しを要しないときは、第六百二十四条第一項の規定を準用する。
(請負人の担保責任)
第六百三十四条  仕事の目的物に瑕疵があるときは、注文者は、請負人に対し、相当の期間を定めて、その瑕疵の修補を請求することができる。ただし、瑕疵が重要でない場合において、その修補に過分の費用を要するときは、この限りでない。
2  注文者は、瑕疵の修補に代えて、又はその修補とともに、損害賠償の請求をすることができる。この場合においては、第五百三十三条の規定を準用する。
第六百三十五条  仕事の目的物に瑕疵があり、そのために契約をした目的を達することができないときは、注文者は、契約の解除をすることができる。ただし、建物その他の土地の工作物については、この限りでない。
(請負人の担保責任に関する規定の不適用)
第六百三十六条  前二条の規定は、仕事の目的物の瑕疵が注文者の供した材料の性質又は注文者の与えた指図によって生じたときは、適用しない。ただし、請負人がその材料又は指図が不適当であることを知りながら告げなかったときは、この限りでない。
(請負人の担保責任の存続期間)
第六百三十七条  前三条の規定による瑕疵の修補又は損害賠償の請求及び契約の解除は、仕事の目的物を引き渡した時から一年以内にしなければならない。
2  仕事の目的物の引渡しを要しない場合には、前項の期間は、仕事が終了した時から起算する。
第六百三十八条  建物その他の土地の工作物の請負人は、その工作物又は地盤の瑕疵について、引渡しの後五年間その担保の責任を負う。ただし、この期間は、石造、土造、れんが造、コンクリート造、金属造その他これらに類する構造の工作物については、十年とする。
2  工作物が前項の瑕疵によって滅失し、又は損傷したときは、注文者は、その滅失又は損傷の時から一年以内に、第六百三十四条の規定による権利を行使しなければならない。
(担保責任の存続期間の伸長)
第六百三十九条  第六百三十七条及び前条第一項の期間は、第百六十七条の規定による消滅時効の期間内に限り、契約で伸長することができる。
(担保責任を負わない旨の特約)
第六百四十条  請負人は、第六百三十四条又は第六百三十五条の規定による担保の責任を負わない旨の特約をしたときであっても、知りながら告げなかった事実については、その責任を免れることができない。
(注文者による契約の解除)
第六百四十一条  請負人が仕事を完成しない間は、注文者は、いつでも損害を賠償して契約の解除をすることができる。
(注文者についての破産手続の開始による解除)
第六百四十二条  注文者が破産手続開始の決定を受けたときは、請負人又は破産管財人は、契約の解除をすることができる。この場合において、請負人は、既にした仕事の報酬及びその中に含まれていない費用について、破産財団の配当に加入することができる。
2  前項の場合には、契約の解除によって生じた損害の賠償は、破産管財人が契約の解除をした場合における請負人に限り、請求することができる。この場合において、請負人は、その損害賠償について、破産財団の配当に加入する。

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