新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.688、2007/10/23 17:18

【民事・保全・強制執行】

質問:商売をやっている知人に200万円を貸し,借用書も書いてもらったのですが,他にも借金があり,かなり経済的に困っているようで,約束をしていた1年をすぎてもなかなか返してもらえません。200万円を貸す際に入金した銀行口座は,商売に使っているもののようでしたので,いくらか残高はあると思うのですが,どうしたらいいでしょうか。

回答:
1、あなたは,知人の方に200万円を貸したとのことですので,金銭消費貸借契約に基づく200万円の貸金債権を有しており,かつ,約束をしていた弁済期も経過しているとのことですので,元本の200万円はもちろん,弁済期後の遅延損害金(なお,利息を付していた場合は,利息についても請求できます。)の支払いを相手に求め,これを受領する法的権利を有しています。

2、そこで,任意に支払わない相手に対しては,貸金の返還を求める訴訟を起こすことが可能であり,その場合,借用書や入金の記録がある以上,勝訴判決を得られる可能性は高いといえます。

3、勝訴判決を得られれば,(通常は,仮執行宣言も得られるでしょうから),必要な手続書類を整えて,相手の財産に強制執行を行うことが可能です。あなたの場合は,残高があると見込まれる相手名義の預金債権を差し押さえて,そこから弁済を受けたり,預金債権そのものをあなた名義に移転させたりすることが考えられます。

4、しかしながら,通常,訴状を提出して訴訟提起してから勝訴判決を得るには,相手方が認めている場合であっても,通常,2か月前後の期間が必要になると思われます。そこで,あなたの場合のように,相手方の経済状態が悪い場合には,せっかく強制執行を行っても,既に預金が全額引き出されていて,弁済を受けられないおそれがあります。

5、このような場合には,本案訴訟(ここで説明する仮差押えなどの保全手続と区別して,これらの基となる訴訟を「本案訴訟」といいます。)を提起する前に,又は,本案判決を得る前に,相手方が財産を処分するのを防止し,将来の強制執行を保全する必要があり,これを仮差押えといいます。本案訴訟という言葉から分かるように、金銭を請求できる権利があるか否かを判断するには裁判所が公開の法廷で原告、被告双方の主張立証に基づき証拠により判断することが必要とされています。そのため、本案訴訟により判決が出るまでには最短でも訴状を提出してから3カ月、平均すると1年程度期間がかかるものとされています。この間に債務者の財産が散逸してしまうとせっかく裁判で勝訴判決を得ても強制執行ができないという事態になってしまいます。そこで、財産の散逸の危険性が認められる場合、仮に債務者の財産を押さえて散逸しないようにする制度が仮差押えの手続きで、保全処分と呼ばれています。このように仮差押えは,いまだ本案訴訟において十分な審理を尽くす前に,迅速な手続で財産処分を防止する決定を出すものですので,次のような要件が必要となります。

@ 被保全権利の疎明
本案訴訟で主張する金銭債権の存在を疎明する必要があります(「疎明」は,本案訴訟で勝訴判決を得るのに必要な「証明」ほどの立証は必要ではなく,「一応確からしい」といえる程度の立証でよいとされています。)。
A 必要性の疎明
本案判決を待っていては,強制執行をすることができなくなるおそれ,又は強制執行をするのに著しい困難を生ずるおそれがあることを疎明する必要があります。具体的には,財産が隠滅,浪費,廉売,隠匿などによって減少を来たすおそれのある場合や,不動産の処分や預金の引出しのように,換価されて補足が難しくなったり費消されたりするおそれのある場合をいいます。
B 担保の提供
本来,相手方(債務者)の主張が認められる事案であるのに,迅速な審理のため,仮差押えが認められてしまうと,相手方は,本来自由に処分できるはずの財産を処分できなかったことになり,これにより一定の損害を蒙る可能性があるので,仮差押えを申し立てる場合は,担保金が要求されます。請求債権額の10−20%程度でしょう。

6、以上のように,あなたの場合,被保全権利や必要性の疎明が可能な場合で,かつ,担保金を提供できる資力があれば,まず,相手方の預金債権に仮差押えの手続を行った上で,本案訴訟を提起する,という方法が妥当だと思われます。なお、仮差押えの場合は、債権者の申し立てがあれば、債務者を裁判所によびだすことなく債権者の主張と疎明資料を見て裁判所が判断しています。申し立てた当日裁判所に面談できるのが原則ですので、疎明資料の原本を用意して裁判所に行き、即担保を積めば、裁判所の命令がでます。詳しくは,弁護士にお尋ねください。

≪参考条文≫

民事執行法
(債務名義)
第二十二条  強制執行は、次に掲げるもの(以下「債務名義」という。)により行う。
一  確定判決
二  仮執行の宣言を付した判決
三  抗告によらなければ不服を申し立てることができない裁判(確定しなければその効力を生じない裁判にあつては、確定したものに限る。)
四  仮執行の宣言を付した支払督促
四の二  訴訟費用若しくは和解の費用の負担の額を定める裁判所書記官の処分又は第四十二条第四項に規定する執行費用及び返還すべき金銭の額を定める裁判所書記官の処分(後者の処分にあつては、確定したものに限る。)
五  金銭の一定の額の支払又はその他の代替物若しくは有価証券の一定の数量の給付を目的とする請求について公証人が作成した公正証書で、債務者が直ちに強制執行に服する旨の陳述が記載されているもの(以下「執行証書」という。)
六  確定した執行判決のある外国裁判所の判決
六の二  確定した執行決定のある仲裁判断
七  確定判決と同一の効力を有するもの(第三号に掲げる裁判を除く。)

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