新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.668、2007/9/10 15:22

【不法行為・セクハラが原因による不倫・慰謝料請求権・相手方に資力がない場合の方法】

質問:私の妻は、派遣社員でしたが会社の直属の上司である男性Aと不倫関係に陥り、勝手に家を出て行きましたが現在は家に戻ってきています。戻ってきた妻の話によりますと、日頃から家内は会社内でその男性Aから「交際しないと派遣を打ち切るぞ」等と体を触られたり交際を求められ長期間にわたりセクハラを受けていましたが、忘年会の2次会のカラオケ店で2人きりになったときに抱きつかれ口付けされ、かなり酒に酔っていて帰り道強引にラブホテルに連れ込まれました。その後、妻は男性Aから執拗に誘いを断り切れず親しく付き合うようになりついにはAに言われるまま家出することになったというのです。その後男性とうまくいかず、数ヵ月後反省して家に戻って来ましたが、この問題は早く忘れたいといっています。セクハラされた家内とは是非やり直したいのですが、ワイセツ行為までして不倫し妻を奪った相手の男が許せないので、慰謝料を請求しようと思っています。この件で相手の男性は退職し現在は仕事もせずにブラブラしている状態で、財産がないどころか借金まであるようです。男の両親は多少お金があるようですが、両親に対して慰謝料を請求することはできませんか?また、その男に業者などからお金を借りさせて払わせるというのはどうでしょうか?

回答:
1.あなたの妻はセクハラが原因で男性と交際するようになり不倫関係となって数ヶ月間家出をしていますから夫であるあなたとしては民法709条不法行為としてによる精神的損害、すなわち慰謝料請求を求めたいのは当然のお気持ちです。しかし、本件は妻がAから長期間によりセクハラを受け、カラオケ店、ラブホテルでの猥褻行為を受け上司の地位を利用した執拗な誘いにより交際し家出しており夫としてこの点も含め慰謝料請求ができるか考えて見る必要があります。というのは、セクハラや、猥褻行為の被害者は妻であり互いに貞操保持義務を有する夫であっても独自に損害賠償できるか問題があるからです。

2.結論から申し上げますと、夫として損害賠償できるのは妻が自由意志で不倫関係になった部分のみに限られ、妻がセクハラ、ワイセツ行為を受けた被害については請求することができません。理由を説明いたします。配偶者が異性と不貞行為を行った場合、配偶者と不貞行為の相手方双方に慰謝料を請求することができます。その関係は不真正連帯債務と言われており、行為者は連帯して責任を負う上に、一方に対して慰謝料の総額を請求することができる関係になっています。このように考える理論的根拠ですが、不法行為が認められるためには要件として「違法な権利侵害」が必要であり不倫関係は間接的に夫の妻に対する貞操保持請求権という債権を侵害しているところに求めることができます。すなわち妻は夫に対して貞操保持義務がありますからこれを怠ったのは妻ですから妻だけが責任を負うように思いますが、不倫は一人ではできませんのでその不倫相手は妻の違法行為を教唆、幇助した関係になり共同して夫の貞操保持請求権を侵害したと評価されるところに違法な権利侵害が求められるのです(ホームページNO596参照)。

しかしながセクハラ、猥褻行為、地位利用による強要行為により妻が第三者から貞操権を違法に侵害されても、妻は夫に対する貞操保持義務を守らなかったことにはなりませんから夫の貞操保持請求権を侵害していませんし、第三者(本件ではA)も妻の貞操、性的の自由を犯したとしても妻と共同して夫の権利を侵害していることにはならないのです。妻が長期間性的嫌がらせを受けたのに夫が、損害賠償できないのはおかしいようにも思いますが、両性の本質的平等(憲法14条)を前提とする以上夫婦といえども権利関係は各々独立別個のものとして評価するのが基本ですからやむを得ません。

3.次に本件が、不倫なのか、セクハラ、猥褻行為なのか事実関係を整理する必要があります。妻の言うようにセクハラ猥褻行為により家出する羽目になったとすれば被害者は妻であり、夫は被害を受けていませんからAに慰謝料請求ができませんし、妻も今は家出を反省し、早くこの件は忘れたいと言っているので自らの損害、被害を請求しなけれ結局Aは何らの責任を負はないことになります。

しかし、妻を信じたいというあなたの気持ちは理解できるのですが、本件は、家出以降の妻の行為は不倫関係と認定できると思います。いくら上司が交際をしつこく求め関係を持ったといっても家出してまでAと関係を続けることは、妻の自由意志により交際があったと考えるのが自然です。それに、ご質問の趣旨からは、妻が強制わいせつ、強姦などで捜査機関に申告した事情も伺うことができません。カラオケで2人きりになり、酔ったとはいえホテルに行っていること等ある程度妻も上司に興味を持っていたと想像することができます。さらに家出して反省し、夫婦のよりを戻そうとする妻の言葉を安易に信用することはできません。

なぜなら、仮にほとんどがセクハラとなれば自分が被害者であり家出の責任も薄れますし、不倫、不貞行為ではありませんから夫に対する自らの慰謝料支払い義務もなく、万が一将来離婚の問題となったときにも離婚原因にもならないからです。それに不倫を認めてしまえば、反省して家に戻ることも困難になることは容易に想像がつくはずです。妻がセクハラ等で本当に悩んでいたのであれば家出以前にあなたに相談したはずです。相手Aとうまくいかなかったということで数ヶ月経過し帰宅後の言い訳ですから信憑性に問題が残ります。もっと悪く言えば妻はAから捨てられた可能性もあるわけです。本件一連の行為はきっかけとして当初セクハラ行為があったと思いますが、家出前後の行為から後は不倫関係と考えてよいと思います。従って、あなたは妻はもちろん、Aに対して慰謝料の損害賠償が可能です。金額としては100万円から400万円程度でしょう。

4.本件のように不倫があっても離婚しないような場合、御自身の配偶者に慰謝料を請求するよりも、不貞行為を行った相手方に慰謝料を請求したいというお考えになる方は多数おられます。しかし肝心のAは退職し無職状態ですから請求の実効性はありません。具体的な慰謝料の相場や請求の方法などについては当事務所のHPでも紹介しています。今回は、請求が可能であったとしても、相手方に資力がない場合の考え方についてご説明します。

まず結論から申し上げますと、ご質問のような方法は両方とも不可能です。(相手方が成人であることが前提ですが)民法は原則として個人主義を採用しており、法律上は「親だから」というだけの理由で子供の債務を負担する義務はありません。もちろん任意に保証契約を結んでもらえばよいのですが、現実的には難しいでしょう。また、第三者から借りてきて支払わせる、というのも不可能です。借入はあくまで契約であり、本人の意思に基づかずに金銭消費貸借契約を結ぶことは不可能です。確定した債権(慰謝料請求権)を取り立てる方法として不動産、動産、預金、給与などの差押がありますが、これはあくまでも債務者が現在有している財産が対称となります。「債権」というものは(慰謝料請求権も債権です)、常に債務者の無資力のリスクにさらされています。だからこそ多額の金銭を貸すときは「担保」を取るのです。債務者が破産してしまい、免責決定が出てしまえば、基本的には支払い義務がないことになってしまうのです。この点、設問のようなケースにおいては、不倫、浮気は一種の不法行為ですので、破産法上、免責が受けられない債権(非免責債権)とされる可能性があります。しかし、非免責債権といっても絵に描いた餅であり、債務者が実際に財産を有していなければ回収はできません。

以上のとおり、「慰謝料が請求できる」または「支払い義務がある」ということと、実際に「支払を受けられる」ということは大きく異なります。そのため、紛争の早期または円満な解決という観点からは、請求の時点から、相手の資力を考慮し、支払可能な額を見据えながら交渉、裁判を行う、確定した(一括請求が可能)慰謝料についても、分割での支払について交渉するなど、現実的な判断が必要になるケースが多々あります。特に設問のようなケースでは、お気持の問題もありますので、冷静かつ客観的な判断を御自身でされることはとても難しいと思われます。弁護士は常に「紛争をどのように解決することがいちばん依頼者のためになるか」を考えて活動しています。冷静かつ客観的な意見を参考にされると考え方が変わる場合もありますので、このようなケースにおいてもお気軽に弁護士にご相談されることをお勧めいたします。

≪参考条文≫

破産法
第二百五十三条  免責許可の決定が確定したときは、破産者は、破産手続による配当を除き、破産債権について、その責任を免れる。ただし、次に掲げる請求権については、この限りでない。
一  租税等の請求権
二  破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権
三  破産者が故意又は重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権(前号に掲げる請求権を除く。)
四  次に掲げる義務に係る請求権
イ 民法第七百五十二条 の規定による夫婦間の協力及び扶助の義務
ロ 民法第七百六十条 の規定による婚姻から生ずる費用の分担の義務
ハ 民法第七百六十六条 (同法第七百四十九条 、第七百七十一条及び第七百八十八条において準用する場合を含む。)の規定による子の監護に関する義務
ニ 民法第八百七十七条 から第八百八十条 までの規定による扶養の義務
ホ イからニまでに掲げる義務に類する義務であって、契約に基づくもの
五  雇用関係に基づいて生じた使用人の請求権及び使用人の預り金の返還請求権
六  破産者が知りながら債権者名簿に記載しなかった請求権(当該破産者について破産手続開始の決定があったことを知っていた者の有する請求権を除く。)
七  罰金等の請求権

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