新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.636、2007/6/4 13:54

[民事・金銭消費貸借・利息・担保]

質問:私は知人に対して100万円を貸そうと考えているのですが、どのような書面を作成すべきでしょうか?借用書でよいですか?借用書を作成すれば、返済がないときに知人の財産を差し押さえることはできますか?また、知人の同居している家族に対しても返済を請求できますか?

回答:
1.100万円を貸すことは、法律的には金銭消費貸借契約(民法587条)といいます。この金銭消費貸借契約に基づく貸金返還請求権を証明するために証拠書類を作成することになります。その際に、正式には金銭消費貸借契約書を作成すべきですが、簡易に借主の返済意思を確認させるために借用書を作成することも可能です。そして、金銭消費貸借契約書を作成する場合、そこに記載すべき事項としては、まず、金銭消費貸借契約に基づく貸金返還請求権を基礎付ける要件事実を記載する必要があります。具体的には、@金銭の授受の事実、A金銭の返還の合意です。Aとして、一般的には金銭の返還の時期を定める必要がありますが、期限を定めない契約も認められていますので(民法591条)、必要的な記載事項ではありません。さらに、当事者及び契約の特定のために必要な事項を記載すべきです。本件契約書で証明する金銭消費貸借契約に基づく貸金返還請求権が誰と誰の間のいつのどの契約に基づくものかを明確にするために、当事者、契約を特定する必要があります。具体的には、当事者の特定として、住所、氏名を記載して、捺印をすべきです。印鑑は、実印である必要はなく、認印、銀行印などでかまいません。契約の特定としては、契約の成立した日を明記すると良いです。

契約書の冒頭に、「金銭消費貸借契約証書」という表題を記載することも良いと思います。尚、相手方が知人ですが、利息をつける場合は合意の上記載しておく事が必要です。記載しておかないと後日紛争が起きたときに証拠がないということで請求できない恐れがあります。一般生活では貸与金額が高額の場合他人に無利息で金銭を貸し与える事はすくないと思いますが金銭消費貸借は貸したものを返してもらうという契約ですから利息はその要件ではありません。但し、利息をつける場合借りる人の弱い立場を考慮して利息制限法、出資法という法律がありあまり高利をつけると無効または場合によっては刑事罰の対象になりますから注意が必要です。100万円の場合年15%が上限です。貸したお金が返してくれない場合の取り決めも契約書に記載する必要があります。上限は15%の1.45倍すなわち年約22%までです。年109.5%以上の利息を取ると刑事罰の対象となります。以上が正式な金銭消費貸借契約書の記載事項ですが、実務上は、より簡易に借用書の作成で代用されることが多いです。借用書は、簡易な書類ですが、最低限借主の金銭の受領の事実、返済の意思の確認を記載し、借主の署名、捺印は必要です。

2.他人の財産に対して差押等強制執行をする場合には、執行力のある債務名義が必要です。本件借用書は金銭消費貸借契約に基づく貸金返還請求権を証明するための証拠としては有効ですが、執行力のある債務名義ではありませんので、この借用書をもとに強制執行をすることはできません。強制執行をするためには、原則として、借用書を証拠として、借主を被告に貸金返還請求の民事訴訟を提起して、勝訴の確定判決をとる必要があります。確定判決は執行力のある債務名義ですので、強制執行が可能です。ただ、裁判には費用と時間がかかるという問題があります。そこで、そのような不都合を回避するためには、借用書を執行証書として作成すると良いでしょう。執行証書とは、一定額の金銭の支払い又はその他の代替物若しくは有価証券の一定の数量の給付を目的とする請求について作成された公正証書のうち、債務者が直ちに強制執行に服する旨の陳述の記載のあるものをいいます(民事執行法22条5号)。執行証書には、執行力が認められていて、裁判手続きを経ずに債務名義を取得でき、強制執行が可能となります。執行証書を作成するためには、お近くの公証役場に赴く必要があります。基本的には、契約者双方の出頭が必要ですが、委任状で代えることも可能です。詳細な必要書類、費用については、公証役場にお問い合わせください。文案を用意して、1週間程度前に予約したい旨の電話連絡をすれば、日程調整することができます。双方出頭の場合、写真付の身分証明書(運転免許証かパスポート)及び認印で、通常は作成することができます。

3.次に、借主の家族に対して請求ができるかという質問についてですが、原則として借主の家族に対して請求をすることはできません。これは同居していても異なりません。現行民法では、個人主義が採用され、家族であっても別個独立した法人格と考えられており、他人の債務について責任を負うことはありません。家族に対して請求できるようにするためには、あらかじめ借主の家族を借主の保証人として保証契約を結んでおく必要があります。保証契約を結べば、借主の家族も保証債務の履行をする責任が発生します。また、借主が死亡して、家族が相続をしている場合にも請求することができます。

4.上記の通り、貸金の返済を得られない可能性もありますので、金銭を貸し渡す場合は、無担保で契約することはお勧めできません。担保を取ることを検討してください。人的担保として、保証人や連帯保証人があり、物的担保として、抵当権や質権や、譲渡担保権があります。それに、相手は知人ですから通常は利息、違約金をつけないような場合でも、利息、違約金の特約を定め期限までに返済した場合は利息を放棄又は元本に充当するとの契約書を作成すると事実上の返済の担保になるでしょう。勿論、これらの担保を複数組み合わせることも可能です。担保の設定や契約書の作成などについて、不明な点があれば、弁護士等の専門家にご相談なさると良いでしょう。

≪参照条文≫

民法587条 消費貸借は、当事者の一方が種類、品質及び数量の同じ物をもって返還をすることを約して相手方から金銭その他の物を受け取ることによって、その効力を生ずる。
民法591条 当事者が返還の時期を定めなかったときは、貸主は、相当の期間を定めて返還の催告をすることができる。
2 借主は、いつでも返還をすることができる。
民法446条 保証人は、主たる債務者がその債務を履行しないときに、その履行をする責任を負う。
2 保証契約は、書面でしなければ、その効力を生じない。
3 保証契約がその内容を記録した電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。)によってされたときは、その保証契約は、書面によってされたものとみなして、前項の規定を適用する。
民事執行法22条 強制執行は、次に掲げるもの(以下「債務名義」という。)により行う。
1.確定判決
2.仮執行の宣言を付した判決
3.抗告によらなければ不服を申し立てることができない裁判(確定しなければその効力を生じない裁判にあつては、確定したものに限る。)
4.仮執行の宣言を付した支払督促
4の2.訴訟費用若しくは和解の費用の負担の額を定める裁判所書記官の処分又は第42条第4項に規定する執行費用及び返還すべき金銭の額を定める裁判所書記官の処分(後者の処分にあつては、確定したものに限る。)
5.金銭の一定の額の支払又はその他の代替物若しくは有価証券の一定の数量の給付を目的とする請求について公証人が作成した公正証書で、債務者が直ちに強制執行に服する旨の陳述が記載されているもの(以下「執行証書」という。)
6.確定した執行判決のある外国裁判所の判決
6の2.確定した執行決定のある仲裁判断
7.確定判決と同一の効力を有するもの(第3号に掲げる裁判を除く。)
利息制限法
(昭和二十九年五月十五日法律第百号)
最終改正:平成一八年一二月二〇日法律第一一五号
(利息の最高限)
第一条  金銭を目的とする消費貸借上の利息の契約は、その利息が左の利率により計算した金額をこえるときは、その超過部分につき無効とする。
元本が十万円未満の場合          年二割
元本が十万円以上百万円未満の場合     年一割八分
元本が百万円以上の場合          年一割五分
2  債務者は、前項の超過部分を任意に支払つたときは、同項の規定にかかわらず、その返還を請求することができない。
(利息の天引)
第二条  利息を天引した場合において、天引額が債務者の受領額を元本として前条第一項に規定する利率により計算した金額をこえるときは、その超過部分は、元本の支払に充てたものとみなす。
(みなし利息)
第三条  前二条の規定の適用については、金銭を目的とする消費貸借に関し債権者の受ける元本以外の金銭は、礼金、割引金、手数料、調査料その他何らの名義をもつてするを問わず、利息とみなす。但し、契約の締結及び債務の弁済の費用は、この限りでない。
(賠償額予定の制限)
第四条  金銭を目的とする消費貸借上の債務の不履行による賠償額の予定は、その賠償額の元本に対する割合が第一条第一項に規定する率の一・四六倍を超えるときは、その超過部分につき無効とする。
2  第一条第二項の規定は、債務者が前項の超過部分を任意に支払つた場合に準用する。
3  前二項の規定の適用については、違約金は、賠償額の予定とみなす。
出資法
(高金利の処罰)
第五条  金銭の貸付けを行う者が、年百九・五パーセント(二月二十九日を含む一年については年百九・八パーセントとし、一日当たりについては〇・三パーセントとする。)を超える割合による利息(債務の不履行について予定される賠償額を含む。以下同じ。)の契約をしたときは、五年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。当該割合を超える割合による利息を受領し、又はその支払を要求した者も、同様とする。

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