新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.585、2007/2/26 18:10

【大学授業料返還請求】
質問:私は,数年前に大学受験をした際,いわゆる「滑り止め」で受験した私立大学に合格しましたが,その後,本命であった国立大学に合格したため,私立大学は入学を辞退しました。しかし,私立大学側は,入学手続要綱に入学金や授業料等は返還しない旨の規定があることを理由に,一度支払った入学金や授業料等を返してくれません。法律上,本当にこれらの返還請求は認められないのでしょうか。

回答:
1.入学辞退に伴う入学金,授業料等(以下併せて「学生納付金」といいます。)の返還請求については,これまでの下級審の裁判例において判断が分かれていましたが,平成18年11月27日に最高裁判所が以下のような統一的判断を示しました。

2.最高裁の判断(要旨)
(1)消費者契約法施行(平成13年4月)前の入試
合格者と大学との間の在学契約上の「学生納付金はいかなる理由があっても返還しない」旨の条項(以下「不返還特約」といいます。)は,原則として公序良俗違反(民法90条)とはいえず,有効である。したがって,前納金の返還請求は認められない。

(2)消費者契約施行後の入試
ア 入学金は,学生が当該大学に入学し得る地位を取得する対価としての性質を有するので,入学辞退(=在学契約の解除)の時期を問わず,返還請求は認められない。
イ 不返還特約のうち授業料等に関する部分は,入学辞退(=在学契約の解除)に伴う損害賠償額の予定又は違約金の性質を有するため,消費者契約法9条1号の適用を受け,「当該事業者(=大学)に生ずべき平均的な損害」を超える分は無効となる。

(ア)そして,一般に,各大学においては,一定の入学辞退者を見込んで合格者を決定したり,補欠合格(追加合格)等によって入学者を補充するなどの措置を講じたりしているのであり,このような実情のもとにおいては,3月31日までになされた入学辞退によっては,当該大学に損害が生じたと言うことはできない。したがって,入学辞退が3月31日までになされた場合は,消費者契約法9条1号により授業料等に関する不返還特約は,すべて無効となり,返還請求が認められる。
(イ)一方,入学辞退が4月1日以降になる場合には,当該大学が人的物的教育設備を縮小したり,支出すべき費用を減少させたりすること等はできないため,授業料等は,入学辞退(=在学契約の解除)に伴って当該大学に生ずべき平均的な損害ということができる。したがって,入学辞退が4月1日以降の場合は,不返還特約は,すべて有効となり,返還請求は認められない。

3.上記最高裁判例については,以下のように理解できますので,ご参考にしてください。
(1)一般に,私人間の取引においては,当事者間が自由に契約内容を定めることができ(これを「私的自治の原則」ないし「法律行為自由の原則」),ただ,契約の内容が公序良俗に反する場合(例えば,人倫・正義に反するもの,暴利行為,射倖的行為など)には,民法90条により,そのような契約は無効とされます。ただし,公の秩序に関する規定は,当事者間の合意よりも優先する強行規定とされており,消費者契約法9条の規定は,消費者保護の観点から,私的自治の原則(ないし法律行為自由の原則)を制限し,当事者の意思よりも優越する強行規定とされています。

(3)そして,最高裁は,不返還特約が公序良俗に反するとまではいえないとして,私的自治の原則(ないし法律行為事由の原則)どおり,特約を有効としつつ,消費者契約法成立後に関しては,同法9条を適用させることで,特約を無効とし,消費者保護を図っているといえます。
(4)したがって,最高裁の上記の判断は,時には相反する価値となる,私的自治と消費者保護のバランスをとったものといえ,基本的に妥当なものとして評価できると考えます。

4.以上の説明からお分かりのように,あなたの場合は,原則として
(1)消費者契約法施行(平成13年4月)前の入試であれば,入学金,授業料等の返還請求は認められない。
(2)消費者契約法施行(平成13年4月)後の入試であれば,
ア 入学金の返還請求は認められない。
イ 授業料等については,
(ア)3月31日までの入学辞退であれば,返還請求が認められる。
(イ)4月1日以降の入学辞退であれば,返還請求は認められない。
という結論になります。

返還請求が認められる場合は,内容証明による請求や訴訟提起などの方法が考えられますので,まずは,弁護士に相談することをお勧めします。

<参照条文>

・民法第90条(公序良俗)
公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は、無効とする。
・民法第91条(任意規定と異なる意思表示)
法律行為の当事者が法令中の公の秩序に関しない規定と異なる意思を表示したときは、その意思に従う。
・消費者契約法第9条(消費者が支払う損害賠償の額を予定する条項等の無効)
次の各号に掲げる消費者契約の条項は、当該各号に定める部分について、無効とする。
一 当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、当該条項において設定された解除の事由、時期等の区分に応じ、当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるもの 当該超える部分
二 当該消費者契約に基づき支払うべき金銭の全部又は一部を消費者が支払期日(支払回数が二以上である場合には、それぞれの支払期日。以下この号において同じ。)までに支払わない場合における損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、支払期日の翌日からその支払をする日までの期間について、その日数に応じ、当該支払期日に支払うべき額から当該支払期日に支払うべき額のうち既に支払われた額を控除した額に年十四・六パーセントの割合を乗じて計算した額を超えるもの 当該超える部分

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