新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.559、2007/1/10 17:48

【民事 不誠実な交際相手とのデート、プレゼント代と返還請求】
質問:1年間ほど交際していた女性に二股をかけられていたことが発覚し,別れることになりました。二股をかけられていた間にあげたプレゼント代やデート費用などを返してもらうことはできますか。詐欺罪で訴えることはできますか。精神的苦痛に対する慰謝料も請求したいです。民事訴訟を起こして事件を公にし,社会的制裁を加えたいのですが引き受けてもらえませんか。

回答:
【1】最初に
悔しい思いをされたこととお察しいたします。しかし,ご相談の事件は法的な解決には親しまず,弁護士としてお手伝いすることはできません。事件についてお引き受けすることはできません。

【2】プレゼント代,デート費用の返済請求
まず,プレゼントをあげた行為は,法的には贈与契約の履行と評価することができますが,贈与を履行した以上,最早目的物の返還を請求することができません。したがって,目的物の対価としての金銭の返済も請求することができません。デート費用については,単純に彼女に対する金銭の贈与と捉えるか,あるいは,例えばデートで食事をした際に利用した飲食店に対する彼女の支払債務の第三者弁済と捉えるかといった複数の考え方があるでしょう。贈与と考えた場合はプレゼントと同様の理由により返済を請求できません。他方,第三者弁済と捉えた場合,一応,彼女に対してその分の返済を求める求償債権を取得したものと観念することができますが,支払いと同時に求償債務を免除した(求償債権を放棄した)ものと解さざるを得ないのではないかと思います。結局,プレゼント代は勿論,デート代を返せという主張もまず通らないでしょう。

≪参照条文≫
民法
(書面によらない贈与の撤回)
第550条
書面によらない贈与は、各当事者が撤回することができる。ただし、履行の終わった部分については、この限りでない。
(債権の免除)
第509条
債権者が債務者に対して債務を免除する意思を表示したときは、その債権は、消滅する。

【3】詐欺罪
詐欺罪とは,人を欺いて財物を交付させたか(法律用語で「1項詐欺」といいます。),財産上不法の利益を得るなどした(同じく「2項詐欺」といいます。)場合に成立する犯罪ですが,この罪が成立する可能性は極めて低いでしょう。詐欺罪における欺く行為(「欺罔行為」ともいいます。)といえるためには,それが財産上の処分行為に向けられたものでなくてはならず,他に男がいることを隠して交際していたことは,ここにいう欺く行為にはあたりません。もし,彼女が最初から貴方と交際するつもりがないのに,交際してあげるからと言って金品を要求したような場合であれば,金品を騙し取られたことについて,いわゆる結婚詐欺類似の事案として詐欺罪が成立する可能性がありますが,お聞きする限りそのような事案ではないようです。

≪参照条文≫
刑法
(詐欺)
第246条1項
人を欺いて財物を交付させた者は,十年以下の懲役に処する。
第246条2項
前項の方法により,財産上不法の利益を得,又は他人にこれを得させた者も,同項と同様とする。

【4】精神的苦痛に対する慰謝料
精神的苦痛に対する慰謝料が認められるためには,加害者の行為が民法上の不法行為にあたらなければなりません。男女交際は,自由恋愛が原則であり,二股をかけることが道義的には非難の対象となっても,法的には非難の対象とされていないのが日本の法律です。これに対して,男女関係が法的な保護に値すると解されているのは,婚姻関係,内縁関係(婚姻届を出していないため法的な婚姻関係はないものの,双方に婚姻意思があり,事実上は婚姻関係と同等であると評価できるもの),婚約(婚姻の約束をしている)関係に限られます。貴方の場合には,これらのいずれにもあたらないでしょう。婚約については主張の余地があるように思えるかもしれませんが,婚約指輪を渡した事実,双方の親族等に結婚の挨拶に行った事実,結婚式場を予約した事実,結納金を納めた事実,結婚することを具体的に約束した手紙などがなく,ただの口約束程度であれば,婚約の存在を立証することは困難です。したがって,彼女の行為は民法上の不法行為にあたらず,精神的苦痛に対する慰謝料を請求することはできません。

≪参照条文≫
民法
(不法行為による損害賠償)
第709条
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
(財産以外の損害の賠償)
第710条
他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。

【5】民事訴訟で事件が公になるか,社会的制裁を与えられるか
民事訴訟は,私人間の紛争について法律を適用することによる国が公権的に解決する制度です。したがって,法律を解釈適用することによって解決できる問題でなければ,裁判所は解決できません。そして,貴方のご相談について,裁判を通じて請求できるような法的権利・利益がないことは既にご回答したとおりです。裁判を起こしても,敗訴判決が出る可能性が極めて高いでしょう。また,民事訴訟を起こしたからといって事件が世間に公になるわけでもありません。確かに,裁判は原則として公開の法廷で行われますが,貴方が訴訟を起こしても,彼女の側は「答弁書」という貴方の訴えに対する反論の書面を出せば初回の期日に出頭する必要がありません(民事訴訟法158条)。そして,次回以降の期日については「弁論準備期日」という争点と証拠を整理するための手続になることが多いのですが,この期日は原則として非公開で行われます(民事訴訟法169条2項)。争点と証拠の整理を進める中でどうしても関係者の話を聞かなければならない事項が出てくれば,再び公開の法廷で「証人尋問」や「当事者尋問」をすることになりますが,必要がないと裁判所に判断されてしまえばそのような機会も与えられません(民事訴訟法181条1項)。貴方のご相談内容では,その可能性が十分に考えられます。判決言渡しも公開の法廷で行われますが,当事者が出頭する必要がないので,自由に欠席できてしまいます(民事訴訟法251条2項)。結局,「お金の問題ではない。彼女を法廷に引き摺り出して社会的制裁を与える!」みたいなことを期待しても期待はずれに終わるでしょうし,そもそも民事訴訟はそういう制度ではありません。

≪参照条文≫
民事訴訟法
(訴状等の陳述の擬制)
第158条
原告又は被告が最初にすべき口頭弁論の期日に出頭せず、又は出頭したが本案の弁論をしないときは、裁判所は、その者が提出した訴状又は答弁書その他の準備書面に記載した事項を陳述したものとみなし、出頭した相手方に弁論をさせることができる。
(弁論準備手続の期日)
第169条2項
裁判所は、相当と認める者の傍聴を許すことができる。ただし、当事者が申し出た者については、手続を行うのに支障を生ずるおそれがあると認める場合を除き、その傍聴を許さなければならない。
(証拠調べを要しない場合)
第181条1項
裁判所は、当事者が申し出た証拠で必要でないと認めるものは、取り調べることを要しない。
(言渡期日)
第251条2項
判決の言渡しは、当事者が在廷しない場合においても、することができる。

【6】なぜ引き受けられないか
まず,弁護士には事件の受任義務がありません。そして,依頼者と事件処理の方針が合わないときは,むしろ受任すべきではありません。なぜなら,プロとして仕事を引き受ける以上,報酬をいただきますが,十分協議しても方針が合わなければ,依頼者のために全力を尽くせず,却って依頼者の不利益となってしまう虞があるからです。さらに,弁護士には適正な法的権利・利益の適正な手続による実現が求められていると考えられ,何でもかんでも依頼者の言いなりになればよいというものではなく,その一方で,受任だけしておきながら依頼者の意思に反する活動をすることもできません。このような理由から受任をお断りするのです。どうかご了承ください。

【7】最後に
折角ご相談いただいたのに弁護士としてお力になれないことは残念ですが,僭越ながら,弁護士としてではなく単なる第三者として一つご助言申し上げるとすれば,二股をかけるような女性に拘泥することなく,どうか前向きな気持ちで新しい恋をお探しになってください。そして,別の法的問題が起こったり,起こりそうなときにまた弁護士にご相談いただければと存じます。

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