新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.546、2006/12/26 14:50

【民事・老人の商取引・株価指数オプション取引】
質問:私の母親は75歳になりますが、若いときから株式投資をしていました。ところが、昨年から証券会社から勧められ、株価指数(日経平均)オプションの取引を始めたのですが、5000万円ほど損失が出ています。母から相談されて、証券会社の担当者に事情を聞いたのですが、何回説明されてもオプション取引というものが理解できませんでした。このような複雑な取引を75歳の高齢者にすすめ、損失を負わせることは納得できません。損失について証券会社の責任を追及することはできないのでしょうか。なお、母親は、ずっと専業主婦で、父は10年前に死亡しています。取引に使ったお金は、父の財産を相続したものの一部でした。

回答:
株価指数オプションはオプション取引の一種で、証券取引所の上場商品として取引されており、それ自体は違法なものではありません。しかし、取引の判断には深い知識と経験が必要となること、リスクが大きく特に売り取引は無限大に近い損失を被る危険性があることから、証券会社の営業には規制があり、取引にふさわしい知識、経験、財産状況を備えた顧客以外には取引を勧めることは違法とされています。また、商品に対しても十分な説明をする義務が証券会社には課せられています。そして、証券会社がこのような義務に違反した場合は、民法上不法行為となり損害賠償責任を負うことになっています。あなたのお母さんの場合、75歳以上の寡婦で専業主婦ということですから、これまで株の取引をしていたとしても、株価指数オプション取引をするには不適当と考えられます。従って、損失については証券会社に対して損害賠償責任を追及することが可能です。

解説:
1、オプションとは、「あらかじめ定められた期日に、あらかじめ定められた価格(権利行使価格)で、特定の商品(原資産)を、売りつける、または買い付ける権利」です。 また、オプション取引とは、この権利(オプション)を売買する取引をいいます。なお、詳しいオプション取引の説明についてはホームページの203、を参考にしてください。このオプション取引のうち、株価指数オプション取引(日経平均オプション取引とも呼ばれています)と言うのは、あらかじめ定められた特別清算指数算出日に、自分が選択した権利行使価格で、日経平均を、売り付けたり買い付けたりする権利の売買のことを言います。このような商品は、証券取引のうち特殊なものでリスクを回避する商品として商品価値はありますが、多くの個人投資家には必要のない商品とされています。また、必要がないばかりかリスクも大きいことから、一般投資家にとっては有害なものと考えられます。従って、このような株価指数オプションを経験も知識もない顧客に販売することは証券会社の不法行為となります。
2、次に、証券会社がなぜ不法行為責任を負うことになるかについて説明します。証券会社の不法行為責任については主に、「証券取引における適合性原則」違反と、「説明義務」違反が根拠とされています。
(1)適合性原則とは、証券取引法43条で定められている証券会社の守るべき原則で、オプション取引については顧客の知識、経験及び財産の状況に照らして不適当と認められる勧誘を行って投資者の保護に欠けることのないように業務を営むこととされており(同条1号)、証券会社はこの原則の遵守義務を負っています。これは証券取引法に定められた義務ですが、この義務に著しく違反した場合は民法上も違法な行為として不法行為が成立すること判例、学説争いのないところです。但し、著しく違反した場合と限定がありますから事例に添った検討が必要になります。なお、適合性原則に著しく違反する場合についてはオプション取引だけでなく、商品先物取引、ワラント取引その他さまざまな金融デリバティブ商品の取引についても不法行為が成立することになります。本件の場合、お母様はこれまで株式の取引をされていたということですが、高齢であること、これまで専業主婦であったこと、投資の原資が老後の資金であったことなどを考えるとオプション取引をするにふさわしい顧客であったとは言いがたいと考えられます。とすると、証券会社の適合性原則違反は肯定されることになると思われます。また、その違反が著しいものであることも肯定できると思われますが、その点については、さらに、証券会社の担当者の対応や、取引に至った経緯など具体的な事情も検討する必要がると考えられます。なお、オプション取引のうち「売り取引」については、無限大に近い損失が生じる可能性があることから、そのようなリスクを限定しまたは回避するための知識、経験、能力を有するものだけが取引に適合する顧客とされています。従って、お母様の取引に「売り取引」がある場合は、適合性原則に著しく違反することは明らかで証券会社の不法行為責任が認められることになります。
(2)次に、証券会社の説明義務違反について説明します。証券会社は専門家として、顧客に対し商品を販売するわけですから、その商品について顧客が取引の意思決定をするについて不可欠な要素については事前に説明すべき義務があるとされています。これは、証券会社と特別な契約をしなくても、証券会社に負わされている信義則上の義務とされています。従って、証券会社に説明義務違反があれば、損害賠償責任が生じることになりますが、問題はどのような説明義務があるかということになります。この点は、適合性原則違反との関係もあり、具体的にどこまで証券会社に説明義務があるのか検討が必要となります。そもそも証券取引はリスクを伴う投資家の自己責任においてなされるもので、あまりに、証券会社に説明義務を負わせることは、極端に言えばその取引をやめるように説明する義務を負わせることにもなってしまうからです。説明義務の内容については、「その商品について顧客が取引の意思決定をするについて不可欠な要素」について説明すべき義務があるとされていますから、それを前提に具体的に検討することになります。そして、本件のようなオプション取引の場合は、その商品の内容はきわめて複雑で、リスクも高いことから証券会社は重い説明義務を負っていると考えられますから、それを前提に担当者がどのような説明をして説明義務を果たしたといえるかが、問題となります。
3、以上のとおり、お母様が投資した株価指数オプション取引については、問題があり損失について証券会社に対して損害賠償を請求することは可能と思われます。ただ、その請求には専門的な知識が必要となりますので、弁護士に相談するのが良いと思われます。

≪参考条文≫

証券取引法
第四十三条  証券会社は、業務の状況が次の各号のいずれかに該当することのないように、業務を営まなければならない。
一  有価証券の買付け若しくは売付け若しくはその委託等、有価証券指数等先物取引、有価証券オプション取引若しくは外国市場証券先物取引の委託又は有価証券店頭デリバティブ取引若しくはその委託等について、顧客の知識、経験及び財産の状況に照らして不適当と認められる勧誘を行つて投資者の保護に欠けることとなつており、又は欠けることとなるおそれがあること。
二  前号に掲げるもののほか、業務の状況が公益に反し、又は投資者保護に支障を生ずるおそれがあるものとして内閣府令で定める状況にあること。

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