新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.541、2006/12/12 14:41

[民事・執行]
質問:知人にお金を貸しましたが返してくれませんので、裁判を起こし、知人の給与を差し押さえました。この後、知人の給与から支払いを受けるにはどうしたら良いでしょうか。取立権について、教えてください。

回答:
1、あなたは、知人が勤務先に対して有する、給与債権を差し押さえたのですから、取立権を行使して、今後、給与の支払期が到来する毎に、勤務先の会社から直接受け取るとよいでしょう。勤務先の会社が、そのような直接のやり取りでは心配だと主張するのであれば、取立訴訟を提起するか、執行供託を勧めてみると良いでしょう。以下、順番に説明します。
2、民事執行法155条、同156条で、差押債権者には、差押命令が債務者に送達されてから1週間を経過し、他の債権者からの差押も無いときは、取立権が発生し、直接、第三債務者(この場合は勤務先)から、給与の支払いを受け、債権の弁済に充てることが出来る旨規定されています。1週間の期間は、債務者からの異議申し立て(執行抗告、民事執行法10条、145条5項)手続きのために認められる期間です。
民事執行法155条1項 金銭債権を差し押さえた債権者は、債務者に対して差押命令が送達された日から一週間を経過したときは、その債権を取り立てることができる。
民事執行法156条2項 第三債務者は、次条第一項に規定する訴える訴状の送達を受ける時までに、差押にかかる金銭債権のうち差し押さえられていない部分を超えて発せられた差押命令、差押処分又は仮差押命令の送達を受けたときはその債権の全額に相当する金銭を、配当要求があった旨を記載した文書の送達を受けたときは差し押さえられた部分に相当する金銭を債務の履行地の供託所に供託しなければならない。
民事執行法10条1項 民事執行の手続に関する裁判に対しては、特別の定めがある場合に限り、執行抗告をすることができる。
同条2項 執行抗告は、裁判の告知を受けた日から1週間の不変期間内に、抗告状を原裁判所に提出してしなければならない。
民事執行法145条5項 差押命令の申立についての裁判に対しては、執行抗告をすることができる。
3、従って、まず、差押命令が債務者に送達されることが必要となります。強制執行を受けるような債務者の場合、なかなか、裁判所からの郵便物を受領しないことが考えられますが、そのような場合には、裁判所と協議し、「休日送達」「就業場所に対する送達」「付郵便送達」「公示送達」などを依頼する上申書を提出し、一刻も早く、送達して貰うことが必要です。(なお、本件では住所が特定されている前提となりますが、一般に、債務者の住所が不明なため債務名義を取得する段階で公示送達によって手続を行った場合には、公示送達によって債務名義が送達されたことを証する書面を債務名義が債務者に送達されてから一ヶ月以内に添付することにより、公示送達の上申書に添付すべき調査報告書等を省略することができ時間も短縮することができます。)
4、差押命令が、第三債務者(勤務先)と、債務者(知人)の両方に送達されると、差押債権者であるあなたのところに、裁判所から、「送達通知書」が送付されてきます。その、送達通知書に記載された、債務者に対する送達日(の翌日)から1週間を経過した日が、取立権発生の日です。この日までに、他の債権者による差押の競合が生じなければ、あなたは、取立権を行使して、直接、勤務先から、弁済を受ける法的地位を有します。
5、取立権が発生した場合、通常は、裁判所から送られてきた送達通知書又は、送達証明書を、第三債務者に提示・交付して、差し押さえた債権を直接受領することができますが、第三債務者としては、従来、債務者に対して主張できる抗弁を、差押債権者に対しても、主張することができます。たとえば、支払期日が月末であれば、月末まで支払いを待つ必要があります。順調に取り立てることができた場合は、領収書を発行し、裁判所には、「取立届」を提出することになります。請求債権が残っている場合は、執行正本(執行力のある債務名義=判決書正本など)の再度交付申立を行い、別の財産に対する再度の強制執行を検討することになります。
6、第三債務者が、送達通知書や送達証明書の記載だけでは、二重払いの恐れが第三債務者が、送達通知書や送達証明書の記載だけでは、二重払いの恐れがあり、支払いを為すべきか心配であるとして拒否する場合、第三債務者を被告として裁判(取り立て訴訟)を提起して回収することができますので、その旨告げて任意に支払うよう請求することになります。それでも支払わない場合は、執行供託(権利供託、民事執行法156条1項)をするよう要求してください。第三債務者としては、裁判をしても主張することがない以上執行供託をするものと考えられます。執行供託がされた場合は、裁判所に配当等の実施(弁済金交付手続)を依頼することになります。
民事執行法156条1項 第三債務者は、差押にかかる金銭債権(差押命令により差し押さえられた金銭債権に限る。次項において同じ。)の全額に相当する金銭を債務の履行地の供託所に供託することができる。
7、取立権が発生したにも関わらず、第三債務者が支払いを拒否する場合があります。差押命令と同時に、「第三債務者の陳述催告の申立書」を提出している場合は、「第三債務者の陳述書」が返送されてきますので、この内容を良く検討してみるとよいでしょう。
8、実務上良く見られるのが、「債務者は退職したので差押にかかる債権は存在しない」というものや、「債務者は役員であり従業員ではないので差押にかかる債権は存在しない」というものや、「債務者は会社に損害を与えたのでこれを相殺する合意が成立済なので差押にかかる債権は存在しない」というもの等です。このように、陳述書の「弁済の意思の有無」という欄に、「無し」と記載されていても、直ちに諦めてしまう必要はありません。第三債務者が、債務者と共謀して、強制執行逃れをしようとしている可能性があるからです。事実関係を良く調査する必要があります。たとえば、前記の理由に対しては、退職といっても同時に子会社に就職しているような場合で勤務実態に全く変更が無い場合は退職は無効であると主張することになりますし、役員報酬であるという主張に対しては従来の従業員賃金の部分が突然なくなっているのは合理的理由が無いので無効と主張しますし、相殺の主張に対しては労働基準法24条により相殺は禁止されていると主張することになります。
9、知人友人の関係などで、この陳述書に関する事実関係が間違いであることの証拠を集めることができる場合は、これらの証拠を元に、第三債務者に対して内容証明郵便を送付して交渉することになります。悪質な財産隠しであると主張できるような場合は、刑法96条の2「強制執行妨害罪」で刑事告発すると通知しても良いでしょう。交渉経過は、必ず書面に残しておいてください。
10、陳述書の記載が事実に反するのに、交渉してみても、どうしても弁済を得られない場合は、第三債務者を被告として取立訴訟(民事執行法157条)を提起することになります。取立訴訟は、債務者と第三債務者の間の債権の存否についても主張立証をしなければなりませんので、原告が被告に対して有する債権を理由に支払いを求める通常の訴訟よりも、証拠の収集が一般的に困難です。弁護士にご相談なさることを強くお勧め致します。
民事執行法157条 差押債権者が第三債務者に対し差し押さえた債権に係る給付を求める訴え(以下「取立訴訟」という)を提起したときは、受訴裁判所は、第三債務者の申立により、他の債権者で訴状の送達の時までにその債権を差し押さえたものに対し、共同訴訟人として原告に参加すべきことを命ずることができる。
11、以上、知人間の貸し借りや給与差押を題材に、債権差押の取立てについて説明しましたが、会社同士の債権の差押や取立てでも、事情はほとんど同じです。金額や債権の種類が異なるだけです。執行手続は民法などの実体法に比べ複雑で実際に弁済を得られるかどうか時間との勝負になったり、実務上の経験や知識が不足していると得られるはずの弁済を得られなくなったりするデリケートな分野といえます。強制執行を検討されている場合は、事前に経験のある弁護士にご相談になることをお勧め致します。

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