新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.533、2006/11/28 15:10

[民事・契約]
質問:友人に、50万円貸したのですが返してもらえません。借用証(借用書、証文)はないのですが返してもらうことは出来ますか。

回答:
借用書が無くても、証人や会話録音など他の証拠で立証できる場合は、裁判を起こして請求することができます。
1、お金を貸して、後で返してもらう契約を金銭消費貸借契約といいます。わが国の民法では、この金銭消費貸借契約は、消費物の受け渡しと返還の約束をすることによって成立すると定めています。契約書など特定の書式を必要としていません。近代民事法の原則である、私的自治・契約自由の原則から導かれると考えられています。民法587条 消費貸借は、当事者の一方が種類、品質及び数量の同じ物をもって返還することを約して相手方から金銭その他の物を受け取ることによって、その効力を生ずる。手形小切手や、遺言や、婚姻届など、決められた方式・書式を守らなければ法律効果を生ぜず、法的保護も受けられない行為を、「要式行為」と言います。今回の金銭の貸し借りは、「不要式行為」ですので、金銭の受け渡しと、返還の約束さえ立証できれば、返還請求をすることができます。
2、契約書は必要とされていませんが、上記の、@お金の受け渡し、A返還の約束、B弁済期の定め、C利息・損害金の定め、などを立証するために、最も簡単な方法は、やはり、契約書を作成することです。本屋さんなどで売っている「金銭消費貸借契約書」又は「金銭借用証書」の定型書式を使ったり、弁護士さんや行政書士さんに依頼して契約書を作成してもらったり、公証役場に行って公正証書に残したりすることが、やはり、よいと思います。
3、契約書は、契約締結後(金銭の受け渡し後)でも作成することができます。「この前のお金だけど、やっぱりきちんとした借用書を残しておきたいからサインしてください」と提案して、契約書を取ることもひとつの手段です。
4、それでは、契約書が無い場合に裁判をするには、どうしたらよいでしょうか。契約書以外の手段を使って、上記の、@お金の受け渡し、A返還の約束を立証すればよいのです
5、Bの弁済期の定めが無い場合、または立証ができない場合は、法律により、次のように規定されています。
民法412条3項 債務の履行について期限を定めなかったときは、債務者は履行の請求を受けたときから遅滞の責任を負う。
民法591条1項 当事者が返還の時期を定めなかったときは、貸主は相当の期間を定めて返還の催告をすることができる。したがって、立証できた方が、遅延損害金の請求などで有利ですが、返済期の約束をしていなかったり、約束はしたがどうしても立証が困難な場合は、返済期限の約束は、主張、立証しなくても貸金返還請求すること自体は可能です。
6、Cの利息・損害金の定めが無い場合、または立証ができない場合も、法律により、次のように規定されています。
民法404条 利息を生ずべき債権について別段の意思表示がないときは、その利率は、年5分(5パーセント)とする。
民法419条1項 金銭の給付を目的とする債務の不履行については、その損害賠償の額は、法定利率(年5パーセント)によって定める。
商法513条1項 商人間において金銭の消費貸借をしたときは、貸主は、法定利息を請求することができる。
商法514条 商行為によって生じた債務に関しては、法定利率は、年6分(6パーセント)とする。
民法上、金銭消費貸借契約と利息を支払う合意は別の契約とされ、利息の特約は必ずつけなければならないものではありません。ただ、利息を支払う旨の特約をしなければ、利息の請求をすることはできません。したがって、利息を支払うことの約束をしたのであれば、特約を主張、立証した方が有利ですが、どうしても立証が困難な場合は、利息についての特約は、立証しなくても、利息を請求することはできませんが、貸金返還請求すること自体は可能です。 「利息を支払う」という特約さえ立証できれば、具体的な利率を特定できなくても、民法404条により5パーセントの利息を請求することができます。なお、商人間の取引であれば、消費貸借(金銭借用)契約を締結しただけで、「利息の支払い(商法513条1項)」と「法定利率6パーセント(商法514条)」を主張することができます。
7、@のお金の受け渡しを立証するには、領収書や、銀行振り込みの記録などが理想的な証拠です。手渡しの場合は、困難ですが、受け渡しの現場を見ていた証人の証言は得られないでしょうか。また、後日、当事者の会話録音などで金銭の授受を認めていれば、これを裁判所に提出することもできると思います。他の手段として考えられるのは、貸主の銀行口座から、金銭が引き出された記録や、借主の口座に入金された記録や、貸し金の使途となった商品などの購入記録や、支払い先の入金記録などです。その他、借金を求められたときの手紙など、間接的に、金銭の授受を立証することができる事情があれば、それらも提出できると思います。
8、Aの返還の約束について立証するには、「返済遅れて申し訳ありません」という内容の手紙や、電話録音や、証人などの証拠が考えられます。また、「○年○月○日に貸した○○円を早急に返済してください。異議がある場合は2週間以内に申し出て下さい。」という文面で、内容証明郵便による通知書を送付しておく手段も考えられます。このような通知が届いたのに返事をしないので、事実を認めたものである、と主張するわけです。今まで、1円も返済が無く、当初から連絡も取れなくなってしまったような場合は、通知書に詐欺罪での刑事告訴を検討すると記載しても良いかもしれません。裁判になった場合は、相手方が、「お金は貰ったものだ」という主張をしてくることがあります。その場合でも、引き続き返還の約束を補強する資料を提出し、贈与契約の成立は無いと主張し、当時の当事者の関係や、状況を示す証拠を提出し、贈与をするような状況ではなかった、金銭消費貸借契約が成立した、と主張することになります。被告の贈与の主張と、原告側の消費貸借の主張は両立しませんので、被告の主張は、「積極否認・理由付け否認」(民事訴訟規則79条3項)となり、原告としては、返還の約束について立証責任(立証できないときの不利益)を引き続き負担することになります。従って、貸し金か贈与かどちらか不明、どちらともいえると言う場合は、貸し金とは認められず原告が敗訴することになります。
9、このように、借用書が無いからと言って、すぐに諦めてしまう必要はありませんが、立証手段が乏しい場合は、代理人弁護士の介入や、裁判所への提訴の前に、当事者同士の手紙のやり取りや、会話録音や、第三者の立会いなどが重要になってきます。裁判になると、相手が警戒し、全面否認し、不用意な発言などを控える恐れもあります。証拠の収集を開始する前の段階も重要ですので、一度弁護士に相談なさることをお勧め致します。

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