新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.513、2006/11/7 16:56

〔民事・身元保証人〕
質問:親戚の息子が大学を卒業し、就職することになりました。その就職に際し、私は、親戚の子供の身元保証人になってくれないかと頼まれました。もし身元保証人になった場合、いつまで責任を負うのでしょうか。途中で辞めることは出来ないのでしょうか。また、私が他界した場合、その責任は何も知らない相続人である息子達が負うのでしょうか。

回答:
1、近時、会社への就職に際しては、万が一、被用者が使用者に対し、損害を生じさせた場合に備え、その損害を賠償することを約した身元保証人を付けるよう要求される場合がほとんどです。他の契約の保証人は契約内容によって、その責任の範囲がある程度限られますが、身元保証人については、その保証の範囲が包括的であり、不測の損害が生じる可能性があるため、身元保証人の負う責任があまりにも拡大する恐れがあります。そのため、身元保証人については、「身元保証に関する法律」という特別法があり、名称の如何を問わず、被用者の行為により使用者の受けた損害を賠償することを約した身元保証人契約は、全てその適用を受けます。
2、それでは、あなたは、いつまで身元保証人として責任を負うのか検討してみます。身元保証人契約の定めによりますが、同法によると、新たに契約を締結する場合及び契約を更新する場合は、その期間は5年を超えることは出来ないこととなっております。また、5年以上の期間を定めた場合でも、5年に短縮されます。(身元保証ニ関スル法律、第2条)仮に、その期間を定めなかった場合でも、通常は3年、商工業見習者については、5年と定められています(同法、第1条)。
3、では、その期間内は身元保証人を辞めることができないかという問題ですが、この点、金銭消費貸借契約の保証人等については、原則として保証契約は、債権者と保証人との契約となりますので、通常、債権者の同意がなければ、保証人を下りることは出来ません。契約自由の原則からあなたが息子のために保証人となった以上その不利益は甘受しなければなりません。しかし、身元保証については、人の行為に起因する損害について保証するものですので、どのような環境等の事情の変化があった場合にも、その責任を負わなければならないとすると身元保証人にとって、酷な結果となります。そこで、同法は、使用者が、@被用者に業務上の不適任又は不誠実な事があり、そのため、身元保証人に責任を生じさせるおそれがあることを知った時、A被用者の任務又は任地を変更し、そのため、身元保証人の責任が加重し、または監督が困難になる時は、使用者は身元保証人に対し、遅滞無く通知する義務を定めています。(同法、第3条)そして、身元保証人がこの通知を受け、若しくは身元保証人自身が上記のような事情を知った時は、身元保証人は将来に向かい自由に身元保証契約を解除することが出来ます。(同法、第4条)従って、あなたが、仮に身元保証人となった場合でも、上記のような事情があれば、契約期間中でも解除し、身元保証人を下りることができます。しかしながら、この身元保証契約の解除は、あくまでも将来に向かって解除をするものであり、既に現実に被用者の行為により使用者に何らかの損害が生じてしまっている場合は、諸般の事情を斟酌し、身元保証人として責任を負う場合がありますので、ご注意下さい。
4、最後に、身元保証人が保証契約期間中に死亡した場合には、相続人に身元保証人たる地位が相続されるのでしょうか。この点、「身元保証ニ関スル法律」には具体的な規定はありません。しかし、身元保証契約はあくまでも信頼関係に基づき締結されたもので、当事者同士の一身尊属的なものと考えられるため、身元保証契約により負担する保証債務については、特別な事情がない限り、相続性は否定され、相続されることはないと考えられています(大判昭2.7.4 民集6−436、大判昭12.12.20 民集16−2019)。しかしながら、身元保証人の死亡前に既に被用者の行為により会社に対し何らかの損害を与え、身元保証人が使用者に対して損害賠償責任を負っている場合には、身元保証人の死亡時点で既にその損害賠償責任は具体化しているため、損害賠償債務そのものであると評価され、相続性を有すると考えられます(大判昭10・11・29 民集14−1934)。したがって、あなたが他界されても、既に身元保証人として使用者に損害賠償債務を負っている場合は別として、あなたの息子達に身元保証人の保証債務は相続されないと考えられます。

≪参考条文≫

【昭和八年法律第四十二号(身元保証ニ関スル法律)】
(昭和八年四月一日法律第四十二号)
第一条 引受、保証其ノ他名称ノ如何ヲ問ハズ期間ヲ定メズシテ被用者ノ行為ニ因リ使用者ノ受ケタル損害ヲ賠償スルコトヲ約スル身元保証契約ハ其ノ成立ノ日ヨリ三年間其ノ効力ヲ有ス但シ商工業見習者ノ身元保証契約ニ付テハ之ヲ五年トス
第二条 身元保証契約ノ期間ハ五年ヲ超ユルコトヲ得ズ若シ之ヨリ長キ期間ヲ定メタルトキハ其ノ期間ハ之ヲ五年ニ短縮ス
○2身元保証契約ハ之ヲ更新スルコトヲ得但シ其ノ期間ハ更新ノ時ヨリ五年ヲ超ユルコトヲ得ズ
第三条 使用者ハ左ノ場合ニ於テハ遅滞ナク身元保証人ニ通知スベシ
一 被用者ニ業務上不適任又ハ不誠実ナル事跡アリテ之ガ為、身元保証人ノ責任ヲ惹起スル虞アルコトヲ知リタルトキ
二 被用者ノ任務又ハ任地ヲ変更シ之ガ為、身元保証人ノ責任ヲ加重シ又ハ其ノ監督ヲ困難ナラシムルトキ
第四条 身元保証人前条ノ通知ヲ受ケタルトキハ将来ニ向テ契約ノ解除ヲ為スコトヲ得身元保証人自ラ前条第一号及第二号ノ事実アリタルコトヲ知リタルトキ亦同ジ
第五条 裁判所ハ身元保証人ノ損害賠償ノ責任及其ノ金額ヲ定ムルニ付被用者ノ監督ニ関スル使用者ノ過失ノ有無、身元保証人ガ身元保証ヲ為スニ至リタル事由及之ヲ為スニ当リ用ヰタル注意ノ程度、被用者ノ任務又ハ身上ノ変化其ノ他一切ノ事情ヲ斟酌ス
第六条 本法ノ規定ニ反スル特約ニシテ身元保証人ニ不利益ナルモノハ総テ之ヲ無効トス
附則 抄
○1本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム

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