新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.507、2006/10/30 18:04

[行政]
質問:私はストーカーの被害に遭って困っていました。自宅を知られていて、待ち伏せなどの被害に遭って困っていたので、引越しをすることにしたのですが、住民票などからストーカーに引越し先を知られてしまうのではないかと不安です。何か対策はありませんか?

回答:
1、住民基本台帳の一部の写しの閲覧や、住民票の一部の写しの交付、戸籍謄本(附表)の写しの交付は、正当な理由があれば、誰にでも認められています。ただし、不当な目的がある場合には市町村長はこれを拒むことができるとされており、昨今の個人情報保護の流れに伴い、最近では他人の個人情報の入手は難しくなっています。しかし、DV(ドメスティックバイオレンス)にあっている場合、相手は配偶者であり、役所も親族には比較的簡単に写しの交付等をおこないます。また、債権者という立場があれば取得できること、本人または親族になりすまして取得するなど、DV,ストーカーに関して特別な保護が必要な場合もあります。そこで、DVおよびストーカー行為等の被害者については、さらに進んだ保護の措置が用意されています。
2、この措置は、DVおよびストーカー行為について、加害者が制度を不当に利用して、被害者の住所を探索することを防止し、もって被害者の保護を図ることを目的としており、加害者が被害者に関する情報の取得を請求してきた場合、不当な目的によることが明らかであるとして、これを拒むことができるものです。被害者とは、具体的には「配偶者暴力防止法第1条2項に規定する被害者であり、かつ、更なる暴力により、その生命または身体に危害を受けるおそれのある者」または「ストーカー規制法第7条に規定するストーカー行為等の被害者であり、かつ、更に反復してつきまとい等をされるおそれがある者」を指します。
3、これらの被害者は、市町村長に対して上記支援措置の実施を申し出ることができます。被害者と同一の住所を有するものについても、あわせて申し出ることができます。市町村長は、警察に対し、支援措置をとることが適切かどうかについて意見を聞きます。警察に対する意見の聴取の結果、支援措置を講ずることが適切だと判断された場合は、支援の必要性を確認してから一年間、支援措置がとられます。この期間は延長することもできます(一ヶ月前の申出により、再度必要性を確認の上延長する)。他の市町村に転出・転居した場合は、改めて申し出る必要があります。
4、支援の内容は、住民基本台帳の一部の写しの閲覧請求について、加害者からの請求の拒否、本人からの請求時の厳格な本人確認の実施、その他第三者からの請求時の請求者、請求事由の厳格な審査の実施等、または、支援対象者に関する記載を除外または抹消したものを閲覧に供する措置、住民票の写し等および戸籍の附表の写しについて、加害者からの請求の拒否、本人からの請求時の厳格な本人確認の実施、その他第三者からの請求時の請求者、請求事由の厳格な審査の実施等、になります。本人が自分で使うために取得するときも、手続が厳格になりますので注意しましょう。
5、この支援措置を受けるには、前述の通り、支援の必要性について警察の意見を聞くことになっています。すなわち、事前に警察に相談し、指導・助言を受けていることが前提となるのです。これをせずに上述の措置をとってもらおうと市役所に行ってもこのような措置はとってもらえません。このことは、DV,ストーカー関連にあらゆる手続に共通して言えることです。DVやストーカーについてお悩みの方は、まずは警察に相談することから始めてみましょう。

≪参考条文≫

住民基本台帳法
第十一条  何人でも、市町村長に対し、当該市町村が備える住民基本台帳のうち第七条第一号から第三号まで及び第七号に掲げる事項(同号に掲げる事項については、住所とする。以下この項において同じ。)に係る部分の写し(第六条第三項の規定により磁気ディスクをもつて住民票を調製することにより住民基本台帳を作成している市町村にあつては、当該住民基本台帳に記録されている事項のうち第七条第一号から第三号まで及び第七号に掲げる事項を記載した書類。以下この条及び第五十条において「住民基本台帳の一部の写し」という。)の閲覧を請求することができる。
2  前項の請求は、請求事由その他総務省令で定める事項を明らかにしてしなければならない。ただし、総務省令で定める場合には、この限りでない。
3  市町村長は、第一項の請求が不当な目的によることが明らかなとき又は住民基本台帳の一部の写しの閲覧により知り得た事項を不当な目的に使用されるおそれがあることその他の当該請求を拒むに足りる相当な理由があると認めるときは、当該請求を拒むことができる。
第十二条  住民基本台帳に記録されている者は、その者が記録されている住民基本台帳を備える市町村の市町村長に対し、自己又は自己と同一の世帯に属する者に係る住民票の写し(第六条第三項の規定により磁気ディスクをもつて住民票を調製している市町村にあつては、当該住民票に記録されている事項を記載した書類。以下同じ。)又は住民票に記載をした事項に関する証明書(以下「住民票記載事項証明書」という。)の交付を請求することができる。
2  何人でも、市町村長に対し、自己又は自己と同一の世帯に属する者以外の者であつて当該市町村が備える住民基本台帳に記録されているものに係る住民票の写しで第七条第十三号に掲げる事項の記載を省略したもの又は住民票記載事項証明書で同条第一号から第十二号まで及び第十四号に掲げる事項に関するものの交付を請求することができる。
3  前二項の請求は、請求事由その他総務省令で定める事項を明らかにしてしなければならない。ただし、総務省令で定める場合には、この限りでない。
4  市町村長は、特別の請求がない限り、第一項の住民票の写しの交付の請求があつたときは第七条第四号、第五号及び第九号から第十四号までに掲げる事項の全部又は一部の記載を省略した写しを、第二項の住民票の写しの交付の請求があつたときは同条第四号、第五号、第九号から第十二号まで及び第十四号に掲げる事項の全部又は一部の記載を省略した写しを交付することができる。
5  市町村長は、第一項又は第二項の請求が不当な目的によることが明らかなときは、これを拒むことができる。
6  第一項又は第二項の請求をしようとする者は、郵便その他の総務省令で定める方法により、これらの規定に規定する住民票の写し又は住民票記載事項証明書の送付を求めることができる。
第二十条  何人でも、市町村長に対し、当該市町村が備える戸籍の附票の写し(第十六条第二項の規定により磁気ディスクをもつて戸籍の附票を調製している市町村にあつては、当該戸籍の附票に記録されている事項を記載した書類。第五十条において同じ。)の交付を請求することができる。
2  第十二条第三項、第五項及び第六項の規定は、前項の請求について準用する。この場合において、同条第三項中「総務省令」とあるのは「総務省令・法務省令」と、同条第六項中「これらの規定に規定する住民票の写し又は住民票記載事項証明書」とあるのは「第二十条第一項の戸籍の附票の写し」と読み替えるものとする。

配偶者暴力防止法
第一条  この法律において「配偶者からの暴力」とは、配偶者からの身体に対する暴力(身体に対する不法な攻撃であって生命又は身体に危害を及ぼすものをいう。以下同じ。)又はこれに準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動(以下この項において「身体に対する暴力等」と総称する。)をいい、配偶者からの身体に対する暴力等を受けた後に、その者が離婚をし、又はその婚姻が取り消された場合にあっては、当該配偶者であった者から引き続き受ける身体に対する暴力等を含むものとする。
2  この法律において「被害者」とは、配偶者からの暴力を受けた者をいう。
3  この法律にいう「配偶者」には、婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含み、「離婚」には、婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にあった者が、事実上離婚したと同様の事情に入ることを含むものとする。

ストーカー行為等の規制等に関する法律
第二条  この法律において「つきまとい等」とは、特定の者に対する恋愛感情その他の好意の感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的で、当該特定の者又はその配偶者、直系若しくは同居の親族その他当該特定の者と社会生活において密接な関係を有する者に対し、次の各号のいずれかに掲げる行為をすることをいう。
一  つきまとい、待ち伏せし、進路に立ちふさがり、住居、勤務先、学校その他その通常所在する場所(以下「住居等」という。)の付近において見張りをし、又は住居等に押し掛けること。
二  その行動を監視していると思わせるような事項を告げ、又はその知り得る状態に置くこと。
三  面会、交際その他の義務のないことを行うことを要求すること。
四  著しく粗野又は乱暴な言動をすること。
五  電話をかけて何も告げず、又は拒まれたにもかかわらず、連続して、電話をかけ若しくはファクシミリ装置を用いて送信すること。
六  汚物、動物の死体その他の著しく不快又は嫌悪の情を催させるような物を送付し、又はその知り得る状態に置くこと。
七  その名誉を害する事項を告げ、又はその知り得る状態に置くこと。
八  その性的羞恥心を害する事項を告げ若しくはその知り得る状態に置き、又はその性的羞恥心を害する文書、図画その他の物を送付し若しくはその知り得る状態に置くこと。
2  この法律において「ストーカー行為」とは、同一の者に対し、つきまとい等(前項第一号から第四号までに掲げる行為については、身体の安全、住居等の平穏若しくは名誉が害され、又は行動の自由が著しく害される不安を覚えさせるような方法により行われる場合に限る。)を反復してすることをいう。
第七条  警察本部長等は、ストーカー行為又は第三条の規定に違反する行為(以下「ストーカー行為等」という。)の相手方から当該ストーカー行為等に係る被害を自ら防止するための援助を受けたい旨の申出があり、その申出を相当と認めるときは、当該相手方に対し、当該ストーカー行為等に係る被害を自ら防止するための措置の教示その他国家公安委員会規則で定める必要な援助を行うものとする。
2  警察本部長等は、前項の援助を行うに当たっては、関係行政機関又は関係のある公私の団体と緊密な連携を図るよう努めなければならない。
3  警察本部長等は、第一項に定めるもののほか、ストーカー行為等に係る被害を防止するための措置を講ずるよう努めなければならない。
4  第一項及び第二項に定めるもののほか、第一項の申出の受理及び援助の実施に関し必要な事項は、国家公安委員会規則で定める。
第八条  国及び地方公共団体は、ストーカー行為等の防止に関する啓発及び知識の普及、ストーカー行為等の相手方に対する支援並びにストーカー行為等の防止に関する活動等を行っている民間の自主的な組織活動の支援に努めなければならない。
2  ストーカー行為等に係る役務の提供を行った関係事業者は、当該ストーカー行為等の相手方からの求めに応じて、当該ストーカー行為等が行われることを防止するための措置を講ずること等に努めるものとする。
3  ストーカー行為等が行われている場合には、当該ストーカー行為等が行われている地域の住民は、当該ストーカー行為等の相手方に対する援助に努めるものとする。

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