新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.476、2006/9/21 13:34

[民事・契約]
質問:私は、ある紛争について、A弁護士に依頼して交渉、訴訟を行っています。実は、A弁護士に依頼をする前に、B弁護士にこの件について相談をしました。しかし、B弁護士は「忙しいし、この種類の事件はあまり得意ではないので請けたくない」と断られてしまいました。弁護士は仕事の依頼を断ることができるのでしょうか。また、A弁護士は依頼を受けてくれたのですが、やる、やるといいながらなかなか訴訟を提起してくれません。どうなっているのか問い合わせをしても、いつも不在で話もできません。一度依頼してしまった以上、A弁護士に頼み続けるしかないのでしょうか。

回答:
1、依頼者は、原則として弁護士と委任契約(民法643条)を締結し、法律事務を依頼することになります。委任とは、委任者(依頼者)が、自己の一定の範囲の法律行為について、受任者(この場合は弁護士)に代理権を与え、法律行為を自己の名で行わせることをいいます。以下、相談者の質問について、委任契約の性質から検討します。
2、まず、B弁護士が受任を断ったことについてですが、委任は、委任者が申込みをし、受任者がこれを承諾することによって成立します(643条)。契約自由の原則から、契約を結ぶか否かは自由ですから、委任契約の締結の申し込みを受けても、弁護士は承諾する義務はありません。また、立場上受任できない場合もあります。利益相反(依頼者と利益が相反する者の依頼を受けること、弁護士法25条)、双方代理(対立当事者双方の代理人になること)などにあたる場合です。もちろん弁護士は困っている人を助け、社会正義を実現することを使命としていますから、正当な理由もなく依頼を断ることは好ましくないでしょう。しかし、業務の状況や、弁護士によっては得意・不得意な分野があるのも事実ですし、場合によっては訴訟による解決になじまない事案もあります。弁護士法29条など(不受任の場合の通知義務)から、受任しない場合でも、誠意をもった対応が求められているのは確かですが、依頼者の利益の観点から、依頼をお断りせざるを得ない場合もあります。逆に、相談の内容もろくに吟味せずに費用の話を始めるような弁護士の方が注意が必要かもしれません。
3、次に、A弁護士になかなか連絡が取れず、仕事をやってくれているのか不安だ、という点ですが、当然ながら、依頼を受けた以上、受任者は委任者に対して、誠実に委任事務を行う義務を負います(民法644条。また、弁護士法1条2項)。また、委任者から請求があるときは、いつでも委任事務の処理の状況を報告し、委任が終了した後は、遅滞なくその経過および結果を報告しなければならない(645条)とされています。もちろん、弁護士は大抵多忙な日々を送っていますので、連絡がつきにくいことはままあります。しかし、これがあまりにひどくて、依頼者を不安にさせるようでは、委任契約上の受任者としては、職務を全うしているとは言えないでしょう。
4、法律上は、委任は、各当事者がいつでもその解除をすることができる(651条)とされています(ただし、同条2項。正当な理由無く相手に不利な時期に解除をしたときは、損害を賠償する義務が生じます)。これは、委任契約が双方の信頼関係に基づいて締結されるものであり、信頼関係が維持できなければ委任契約も維持できない、という考え方によるものです。したがって、一度弁護士に頼んだからといって、その弁護士に頼み続けなければならないということはありません。信頼できないということであれば、解約することは原則として可能です。ただし、もちろん突然一方的に解約するというのは、お互いにあまり好ましいことではないでしょう。十分に話し合い、信頼関係が回復できないかを模索するべきだと思います。これは、弁護士、依頼者双方に言えることです。着手金、報酬金など、費用については、上記とは異なる考え方が必要です。民法上は、委任契約における報酬は特約(別途の約束)によるべきという定めがある程度です。費用については、最初に契約した内容に従うという結論がほとんどでしょう。そして、途中で終了する場合にも費用は返還されない、というような特約が付いている場合が多いと思われます。
5、以上は、弁護士と依頼者は通常委任契約を結んでいるという観点からの、原則を示したものです。個々の契約時に、これと異なる約束をしている場合には、結論が異なる可能性はあります。弁護士を依頼する際には、最初の契約時に説明をよく聞き、疑問を残さないようにして契約を締結することをお勧めいたします。なお、依頼している弁護士の業務内容に不安がある、依頼を解除したいが応じてもらえない、などの問題でどうしても当事者間で話し合いが出来ない場合は、その弁護士が所属している弁護士会に相談されることをお勧めいたします。弁護士会には、紛議調停などのシステムが用意されていますので、弁護士と依頼者のトラブルに対応することができます。

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