新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.445、2006/7/27 10:58

[民事・契約]
質問:会社員をしていた40歳の夫が先日,脳梗塞で亡くなったのですが,その後,夫の勤務先会社が夫にかけていた団体生命保険の保険金5000万円を受領していたことが発覚しました。この保険金は,私たち遺族のものではないのでしょうか。

回答:
1、会社が従業員にかけた団体生命保険を従業員の遺族が受け取れるかどうかについては,これまで,高等裁判所段階で判断が分かれていましたが,平成18年4月11日判決をもって最高裁判所が統一的判断を示し,結論としては,遺族側の請求を認めませんでした。
2、上記判決の原審で,遺族側の主張を認めていた高等裁判所がその理由としていたのは,次の2点です。
@団体定期保険の主たる目的は,保険契約者である企業において,その受領した保険金を従業員に対する福利厚生制度に基づく給付に充てることにあり,保険契約者がその本来の目的と異なる目的又は方法で団体定期保険契約を利用することは,公序良俗に違反するものとして許されず,公序良俗に違反しないというためには,従業員の死亡保険金を受領した企業が,保険金の全部又は一部,少なくとも,死亡時給付金として社会的に相当な金額に満つるまでの額を,遺族補償として支払う必要があること,
A(当該事案において)保険契約者(会社側)は,団体定期保険の締結に当たり,契約申込書等に契約の趣旨として福利厚生制度との関連を明示するとともに,保険会社との間で協定書等を取り交わすことにより,団体定期保険契約の目的を明確にし,保険金の全部又は一部を社内規定に基づいて遺族等に支払う給付に充当することを確約する取扱いとなっており,保険契約者(会社側)が,保険会社との間で保険金を被保険者(従業員)の遺族に対する給付として充当することを合意した趣旨であると解されること,の2点をその理由としていました。
3、しかし,最高裁は,上記判決において,会社側が,被保険者である各従業員の死亡につき6000万円を超える高額の保険を掛けながら,社内規定に基づく退職金等として従業員の遺族らに実際に支払われたのは各1000万円前後にとどまること,会社側は,生命保険各社との関係を良好に保つことを主な動機として団体定期保険を締結し,受領した配当金及び保険金を保険料の支払に充当するということを漫然と繰り返していたにすぎないというような運用が,従業員の福利厚生の拡充を図ることを目的とする団体定期保険の趣旨から逸脱したものであるとしたものの,高等裁判所の上記@Aに対して以下のような判断をし,結論としては,遺族の請求を認めませんでした。
@団体定期保険契約は,保険金目当ての犯罪を誘発したり,いわゆる賭博保険として用いられるなどの危険性があることから,商法は,これを防止する方策として,被保険者の同意を要求することとしているものの(674条1項),金銭的に評価の可能な被保険利益の存在を要求するとか,保険金額が被保険利益の価額を超過することを許さないといった観点からの規制は採用していない。そして,死亡時給付金として第1審被告から遺族に対して支払われた金額が,本件各保険契約に基づく保険金の額の一部にとどまっていても,被保険者の同意があることが前提である以上,そのことから直ちに本件各保険契約の公序良俗違反をいうことは相当でない。
Aまた,会社側が,団体定期保険の本来の目的に照らし,保険金の全部又は一部を社内規定に基づく給付に充当すべきことを認識し,そのことを本件各生命保険会社に確約していたからといって,このことは,社内規定に基づく給付額を超えて死亡時給付金を遺族等に支払うことを約したなどと認めるべき根拠となるものではない。
3、したがって,上記最高裁判決に照らせば,あなたご主人のケースで保険金を遺族が取得するのは難しいといえます。

法律相談事例集データベースのページに戻る

法律相談ページに戻る(電話03−3248−5791で簡単な無料法律相談を受付しております)

トップページに戻る