新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.366、2006/3/8 16:28

[刑事]
質問:警察署の留置所に入っていますが、同室の暴力団関係者から、怒鳴られたり物を投げつけられたりします。いまのところ怪我はないのですが、看守に伝えても取り合ってくれません。どうしたらいいでしょうか。

回答:
1、(1)未決・既決を問わず,在監実務としては同居房(法律上は雑居房といいます。監獄法16条)に入れられるのが通常です。このように他の囚人との相部屋を強いられること自体プライバシーの自由等に対する制約といえますが,部屋数に限りがある現状の下では同居房もやむをえないことではあります。また,諸外国の在監実務の実態もほぼ同様といえます(なお,イギリスでは原則として単独房ですが,イギリスの場合も日本と同じように大変受刑者の数が増加しており,単独房に二人収容するという事態も生じております。)。(2)ただ,このように相部屋を強制された場合,共同生活上口論やいじめ,暴行を伴ういざこざなど様々なトラブルが往々にして生じます。そして,上記相部屋の強制が是認されるとしても,相部屋の継続を強制することが一律に是認されるかは一応別個といえます。囚人間の関係が極度に悪化した場合や,一方が他方を完全に服従させ意思を制圧するような関係が形成された場合など共同生活の継続が不可能又は著しく困難あるいは著しく不当といえる場合もあるからです。かかる場合,囚人間を切り離さない限り当人ばかりでなくその他の囚人にも悪影響となり妥当とはいえません。
2、では,同居房の囚人間に上記トラブルが生じた場合,部屋の変更や単独房への変更といった措置が一切許されないのか,翻して言うと,監獄長に対して上記措置を義務付けられないか問題となります。(1)在監者の処遇全般については,監獄長(留置主任官)に判断権があります(監獄法施行規則9条等)。このことは,在監者の処遇全般については原則として監獄長の自由な裁量に委ねられることを意味するものです。(2)ただ,他方,監獄長の裁量も絶対無制約というわけではありません。監獄長の判断が裁量権を逸脱したと評価される場合,監獄法令に違反して違法となります。そして,在監関係の維持に支障が生じる相当の蓋然性があるのに放置黙認したような場合裁量権を逸脱して違法と考えられます。
3、(1)そこで,今まで述べてきたことを踏まえて本事例の検討を行います。(2)この点,前記のとおり未決の囚人の身柄の確保の方法として同居房によること自体は許されますが,同房内の生活環境を平穏に保つことは在監関係の秩序維持のための不可欠の前提といえます。なぜなら,例えば,同房内のトラブルにより,同房内の囚人あるいは看守者の生命身体に危険が生じた場合,同房内だけの問題として処理できるとしても在監関係維持のための措置の必要が生じるからです。また,さらに一つの同房内のトラブルが当該監獄全体の紛争にまで波及するということも経験上多いにありうるのであり,同房内のトラブルは未然に防止することが必要となるからです。したがって,同房内のトラブルにより客観的に同房内の環境を改善する必要性が高いと判断される場合,部屋の変更や単独房への変更といった措置をとるべき法的義務が監獄長に対して生じると考えられます。(3)次に本事例のような問題が生じた場合にとるべき筋道としては以下のことが考えられます。@ まず,担当の看守に対して他の囚人とのトラブルを申告し是正を求めるという方法が考えられます。ただ,本件のように相手が暴力団関係者という場合,看守から暴力団関係者が注意を受けることでさらに関係が悪化することなども考えられます。そうしますと本件では部屋の変更等現状の変更が必要と考えるべきです。A そこで,担当の看守に部屋の変更を申し出るという方法が次に考えられます。ただ、上記のとおり、在監者処遇の権限は監獄長にあり看守にはありません。したがって、看守に対し監獄長への部屋の変更の件の取り次ぎをお願いするというに過ぎません。そうすると,看守が監獄長に取次ぎをしない限り,現状が変更されることは困難といえます。本件では看守に伝えても取り合ってくれないのですからこの方法によることも出来ません。(2)そこで、監獄長に対する直接的な働きかけの方法が不可避となります。かかる直接的働きかけの方法としては,B在監者自ら部屋の変更を書面で申し出るということも可能ではあります。ただ、実際上,対立する同房者が同じ部屋にいる中でかかる書面を作成することは現実的に困難です。なお,他に法務大臣への請願(監獄法7条,監獄法施行規則4条)という方法もありますが,この方法も請願書の作成を要するわけですから,現実上の困難を伴います。(3)そこで、C在監者の代理人(弁護人)が監獄長に宛てて現状の変更を求めた上申書を提出するという方法をとるのが最も実効的です。なぜなら,弁護人は、依頼された被疑者(被告人)から接見の際に在監の実情を具体的に聴取します。したがって,かかる聴取によりいかに悪質な環境に在監者が置かれているのかといった現状を把握します。そしてかかる現状を冷静に見極め法律の専門家としての法的な判断を加味した書面を作成します。即ち,上記書面により現状を知りつつ監獄長が黙認・放置したことをもって,監獄長の消極的事後判断がなされたと評価し、かかる判断が裁量権を逸脱し違法であることと結びつけることで,国家賠償請求も辞さないとの強い口調で現状変更を訴えることも可能となるからです(なお,弁護人は監獄長が上記法的義務を負う場合でなくとも監獄長の裁量により現状の変更を求めることは言うまでもありません。)。このように現状の変更のためには判断権者である監獄長が現状を正確に把握することが不可欠でありそのためには接見により事情を確知する代理人弁護士による上申書の提出が最も実効性の高い手段であるということになるのです。
4、以上より,本事例のような事態が生じた場合には代理人弁護士に状況をできる限り詳細に説明して弁護士にかかる現状の変更に向けた監獄長への働きかけをお願いして下さい。

法律相談事例集データベースのページに戻る

法律相談ページに戻る(電話03−3248−5791で簡単な無料法律相談を受付しております)

トップページに戻る