新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.360、2006/2/20 15:01

[民事・契約]
質問:このたび弊社(A社)と大学教授(B教授)とで,新薬の開発を共同で行なうこととなりました。どのような体制・方法で進めていくのが良いでしょうか。

1、これまで,ご質問のような場合に@A社とB教授との間で個人的な契約(雇用契約,委任契約等)を結ぶAA社の従業員とB教授が共同出資し,それぞれ取締役になって,株式会社を作るBA社とB社での組合契約などが考えられました。しかし,@の場合,B教授は,出資をすることなく一定の報酬等を得られるというメリットがある一方,新薬が開発された際の特許権等は,A社のものになるのが原則であるということ,Aの場合,B教授は,報酬等の他,株主配当を得られますが,配当は原則出資比率によるので,新薬の開発が成功して,多額の利益を出すことになっても,配当はほとんどが,A社になされるという事態が想定できます。A社にとっては,@,Aのような形態をとった方が,B教授をコントロール下におけるという意味では有用とも言えるが,このような状況は,B教授の「モチベーション」という面からは問題があるといえるでしょう。また,Bの組合契約の場合,@,Aのような不都合はないにしても,組合員の無限責任を考えると,赤字覚悟の事業でもあることからリスクが大きいといえます。(これは合名・合資会社を新しく設立する場合にも同様のことがいえます。)

2、この点,平成17年8月から施行された「有限責任事業組合法」に基づく有限責任事業組合(LLP),あるいは平成18年4月の商法改正に伴い,新しく認められる合同会社(LLC)企業形態は,社員の有限責任を認めつつ,柔軟な損益分配が認められるので,ご質問のようなケースにおいて,上記のような不都合を回避する組織形態として検討に値するものと考えられます。例えば、A社が80%出資し、B教授が20%出資という形で、C合同会社あるいはCLLPを立ち上げ、損益分配についてはA社が40%、B教授が60%とすることによって、上記の不都合はある程度回避できるからです。

3、では,合同会社とLLPのどちらを選択すべきかということになりますが,結論としては,事案ごとの判断になるとしかいえません。
(1)構成員課税の適用・・LLPの課税は構成員課税(CLLPには課税されず,あくまで,A会社,B教授の段階で法人税あるいは,配当所得として課税される。)なのに対し,LLCの場合は法人課税となります。構成員課税の場合は,CLLPの損失をA会社,B教授の課税段階で通算できるというメリットがあるほか,法人課税の場合,構成員の段階でも課税がされることになり,二重課税の問題が生じることになります。ケースによって必ずしも,構成員課税が有利とも言い切れない場合はありますが,一般的にいうと税制面からはLLPでの起業の方が有利といえるでしょう。
(2)事業の将来像・・合同会社は「法人」なので,将来的に株式会社に組織変更することが可能です。LLPは「組合」なので,将来的に株式会社に変更し上場したいというような希望があったとしても,いったん解散して,新たに株式会社を設立するという手続きをとらざるをえないということになります。また,LLPの場合,損益を内部留保しておくことができないので,長期的・永続的な事業を考えている場合には合同会社の方が適しているということは言えると考えられます。
(3)合同会社形態で起業するか、LLPの形態で企業するかの選択については、(1),(2)のほか,事業規模や構成員数などの要素の総合判断となりますが、構成員課税の有無の側面からの検討は大きなウエイトを占めることになると思われます。本件のような新薬の開発のケースでは、新薬が開発されるまで、赤字が続くことは十分予想され、その間、LLPに適用される構成員課税によって損益を通算できるメリットは大きいものと考えられます。

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