新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.303、2005/10/12 17:40

[民事・契約]
質問:アパートの部屋を借りている者です。母子家庭で生活が苦しく,今まで,度々,家賃の支払が遅れてしまっていたのですが,一応,全額支払っておりました。しかし,先月分(1か月分)の支払をしないでいたところ,家主から,契約書に,「借家人が家賃の支払を1回でも怠った時は,契約は当然に終了する」という定めがあるので,部屋を明け渡してほしいと言われました。明け渡さなければならないのですか。

回答:
1,賃借人には,賃料支払義務がありますので,その不履行がある場合,賃貸人は,債務不履行に基づく解除ができるのが原則です。よって,法律上は,例え,1か月分の家賃の不払いであっても,賃貸人は,解除ができるのが原則です。しかし,借家は賃借人の生活の基盤であり,軽微な債務不履行で解除が認められてしまうと,賃借人にあまりに過酷な結果になる場合があります。そこで,判例は,賃貸借契約が,賃貸人と賃借人の継続的な信頼関係を基礎とする契約であることから,不払賃料の合計額(何か月分か),賃料不払の回数,遅延の事情等の一切の事情を考慮して,信頼関係が破壊されたと認められる場合に,賃貸人は,債務不履行に基づく解除ができると解釈しています。そして,判例の中には,例えば,2か月分の家賃の不払いで解除を認めた判例(最高裁昭和36年2月24日判決)もあれば,7か月分の家賃の不払いでも解除を否定した判例(神戸地裁昭和30年1月26日判決)もあります。よって,例え,1か月分の家賃の不払いの場合であっても,他の諸事情から,信頼関係が破壊されたと認められ,解除が認められる場合もあり得ます。
2,そして,判例は,例え,契約書に,「借家人が家賃の支払を1回でも怠った時は,契約は当然に終了する」という定めがある場合でも,信頼関係が破壊されたと認められる場合に,賃貸人は,債務不履行に基づく解除ができると解釈しています。
3,そこで,本件について検討しますと,今まで,度々,家賃の支払が遅れることはあったとしても,一応,全額支払をしていること,また,先月分(1か月分)の支払をしないでいるだけであること,さらに,遅延の事情も母子家庭故の生活の苦しさであることからしますと,今までの判例の傾向からしますと,信頼関係が破壊されたとまでは認められず,賃貸人の債務不履行に基づく解除は認められない可能性が高いと思われます。よって,部屋を明け渡す必要はないと思われます。

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