新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.255、2005/5/20 15:31

[民事・消費者]
質問:携帯電話にアダルトサイトの使用料及びその延滞料として3日以内に20万円支払えとのメールが送られてきました。以前にアダルトサイトを利用したことはあるのですが、そのサイトは無料でしたので、使用料を請求されることはないと思いますし、そもそも今回送られてきたメールがそのアダルトサイトからのものかどうかも分かりません。不審なメールですので下手に対応しない方が良いとは思うのですが、支払わない場合には法的手段に出るなどと記載されており、とても不安です。どうしたらよいのでしょうか。

回答:
架空請求の類だと思われますので無視して下さい。支払いをする、あるいは連絡を取るといったことはしないように気をつけて下さい。
解説:
1、近年、「オレオレ詐欺」(ないしその発展形)「架空請求」「フィッシング詐欺」などの被害に遭われる方が後を絶ちません。そこで、これらがどのようなものか解説するとともに、その対策についてご説明いたします。
2、「オレオレ詐欺」ないしその発展形について 
オレオレ詐欺とは、配偶者や子どものふりをして電話をかけ「オレだけど、事故を起こしちゃってお金が必要だから○○銀行の××口座にすぐに△△円振り込んでほしい」などと言って電話を受けた者の不安をあおり、口座にお金を振り込ませて金銭を騙し取る手法をいいます。最近ではその手口も巧妙化し、警察官役、医者役、弁護士役など役割分担して、かわるがわる電話に出て相手方を信用させ、お金を騙し取るという方法が主流になっているようです。これらの詐欺は「すぐにお金を振り込んでほしい」と主張するところに特徴があります。冷静になって考えられると不審であることがばれてしまうため、とにかく不安をあおって、すぐにお金をせしめようと考えているのです。これらの詐欺をはたらく者たちは、お金を振り込ませるために警察官や弁護士のふりをして「事故を起こしたため示談金が必要」「警察に捕まっているため保釈金が必要」などと口にすることがありますが、実際には事故を起こした直後、あるいは警察に捕まった直後に弁護士が親族らに直接会うなどして、依頼についての説明をすることもなく、いきなり多額の金銭を口座に振り込むよう要求することはありません。また、警察が直接示談に関わることはありませんので、警察官が示談金を振り込むよう求めることもありえませんし、当然、保釈金を要求することなどありません。このような電話がかかってきた場合には、とにかく一度電話を切り、あらためて配偶者なりお子さんなりに連絡を取り、事情を聞くことが何より重要です。そのためには、配偶者等ご家族の緊急連絡先を予めチェックしておき、すぐに連絡をとれるようにしておくことが大切であるといえます。もし警察等に連絡して確認をとる場合には、相手の告げた電話番号ではなく、必ず自分で調べた電話番号等を使うようにして下さい。
3、架空請求について
架空請求とは、あたかも真正な請求であるかのように装い、金銭的要求をしてくる詐欺の手法をいいます。「オレオレ詐欺」(ないしその発展形)や「架空請求」などは人を欺いて口座にお金を振り込ませる犯罪類型であることから、最近ではこれらをまとめて「振り込め詐欺」の総称で呼んでいます。架空請求の手法としては、はがき・封書による請求、メールによる請求、電話による請求、携帯・パソコン等の画面上に表示して請求するものなどがあります。
(1)まず、はがき・封書で請求してくるものについてですが、これについては「電子消費者未納利用料請求最終通達書」など、長くて小難しい題名をつけてくることが多いようです。送り主として法務省認可特殊法人××などという債権回収業者である旨記載されていることが多いのも特徴です(そもそも法務省認可特殊法人などというものは存在しません。詳しくは法務省のHPをご覧下さい)。これらのはがき等を受け取った場合、そこに書かれている連絡先には絶対に連絡しないこと。これが鉄則です。連絡先としては090等で始まる携帯電話の番号しか書かれていないことが多いですが、市外局番から始まっている場合でも安易に信用して電話をかけるのは危険です。まずは法務省や消費者センターなどに問い合わせるなどして、本当にその業者が実在するのかどうか、法務大臣の許可を受けた債権回収業者なのかどうか等について確認するようにして下さい(なお、法務大臣の許可を受けなければ債権回収業を行うことは出来ません。債権管理回収業に関する特別措置法参照)。最近では不当請求業者が実際に裁判所に申し立てを起こし、裁判所から通知が来る場合もあります。この場合には裁判所に出頭し、債務が存在しない旨主張しなくてはなりません。裁判所からの通知かどうかすら疑わしい場合にはその通知に記載されている連絡先を鵜呑みにせず、面倒でも電話帳等で裁判所の連絡先を確認し、本当に裁判所から来た通知なのかどうかもチェックするようにして下さい。
(2)次にメールによる請求の場合ですが、これについては無視するだけで問題が解決することがほとんどです。はがきなどと違い、メールの送信にはあまりお金がかからないことから、不特定多数人に向けて膨大な量の不当請求メールを送信し、その中から返信のあった人(ひっかかった人)に対して、しつこく請求を繰り返すというのがメールによる不当請求の常套手段です。メールによる請求の場合、相手方は無作為にメール送信をしているに過ぎず、こちらの情報(例えば氏名や住所、電話番号など)は全く知られていない可能性が高いので、無視すればそれ以上のことをしてくることはほとんどありません。仮に正当な請求であった場合には、後に裁判所などを通じて正式な請求が来るはずですので、メールで請求されているにすぎない段階で安易にその(身に覚えのない)請求に応じ、すぐに支払うという行為は避けるべきです。「最初の請求は少額だったため、わずらわしくなってつい支払ってしまった」という被害者の方も度々見かけます。しかし、一度支払いをしてしまうと、様々な理由をつけて際限なく、しかも次第にエスカレートしながら請求され続けるというのが実情です。つまり、一度でも支払いをしてしまうと、相手方に「こいつはカモだ」「ちょっと押せば金が出てくる」と思われてしまうのです。「しつこく電話やメールをされるくらいなら2〜3万円支払った方がましだ」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、その2〜3万円で事態が収拾することはまずありません。たとえ少額だとしても、絶対に支払わないようにして下さい。
(3)電話による請求についても、メールの場合と同様で、無視することが鉄則です。仮に電話に出てしまっても、すぐに切るようにして下さい。くれぐれも住所や自宅の電話番号、勤め先など新たな個人情報を相手方に提供しないように注意して下さい。着信拒否にしてしまうのが一番手っ取り早いですが、この手段をとっても電話番号を変えてかけてくる可能性は否定できません。あまりにも頻繁にかかってくるようでしたら、電話番号の変更も検討された方がよいかもしれません。電話での請求の場合、「家(会社)を探しだして、押しかける」「調査費用、出張費用も併せて請求する」などと脅しめいたことを言われる場合も多いようです。しかし、この手の架空請求をしてくる人は、「楽をして利益を上げる」ことを一番に考えているので、実際に家や会社を探しだして押しかけてくるといった手間のかかることは、まずしません。とにかく無視すること。これに尽きます。
(4)最後に携帯やPCの画面上に請求内容を表示するものについてですが、典型例は「ワンクリック詐欺」と呼ばれるものです。具体的には、アダルトサイト等で「入場する」あるいは「無料おためし」などのボタンをクリックした途端に「登録されました」「3日以内に○○円を支払って下さい」等の表示がされるというものです。「入場する」あるいは「無料おためし」などのボタンをクリックしただけでは、当該アダルトサイトを有料で使用する契約は成立しませんので、料金を支払う必要はありません(この点に関する詳しい説明は、当事務所HPの電子消費者契約法について記載されている箇所をご覧下さい)。「自動登録」がされた際に携帯電話の「固体識別番号」などの表示がされる場合がありますが、これによって識別できるのはせいぜい携帯電話の会社、機種までであり、携帯電話の電話番号やメールアドレスまでが相手方に伝わってしまうわけではありません(各携帯電話等のHPを参考にしてみて下さい。)携帯電話の会社や機種が相手方に分かっただけでは相手方としては何らこちらにアクセスをとることはできませんので、「固体識別番号」が相手に知られてしまったとしても何らあわてる必要はなく、また、これといった対処をする必要もありません。問題なのは、上記請求の表示とともに記載されていることが多い「退会したい場合には○○まで連絡して下さい(メールして下さい)」という表示に騙されて連絡してしまうことです。これに騙されて連絡をとってしまうと電話番号やメールアドレスが相手方に知られてしまうことになります。そもそも入会していないのですから、退会手続をとる必要もないのです。
4、フィッシング詐欺について
フィッシング詐欺とは、HPのアドレスを記載したメールを送信するなどして特定のHPにアクセスさせ、アクセス先のHP上で銀行口座やカード番号、パスワード等の重要情報を入力させて当該情報を詐取する手法をいいます。上述の「オレオレ詐欺」「架空請求」が直接的に金銭の詐取を目的としているのに対し、「フィッシング詐欺」は情報の詐取を目的としている点でいわゆる「振り込め詐欺」とは毛色の違う犯罪類型であるといえます。話を元に戻してフィッシング詐欺の概要についてご説明します。いかにも不審なHPで不用意に重要な情報を入力する方は少ないと思います。ところが、このフィッシング詐欺では、例えば「○×銀行」など大手の有名な銀行やカード会社等からのメールであるかのように装ってメールを送信し(メールアドレスも・・・@○×.ne.jpのように当該会社名らしきものがアドレスの中に入っていることが多い)、アクセス先のHPも、あたかも本物の○×銀行のHPであるかのような極めて精巧で手の込んだものを用意することで、HPにアクセスした人を信用させようとします。そのようにして本物の(当該会社の)HPであると誤信させた上で、住所・氏名の確認、銀行の口座番号あるいはカード番号、有効期限、パスワードの確認などという欄を設けてその欄に入力させ、重要情報を詐取するのです。フィッシング詐欺への対策としては「安易にパスワード等の重要情報を入力しないこと」です。銀行やカード会社が「パスワードの確認をしたいのでHPにアクセスして入力してくれ」などというメールを送ってくることは通常ありえません。もしそのようなメールが送られてきたら、即刻、当該銀行ないしカード会社等に連絡をして、そのようなメールを送った事実があるか否かの確認をとるべきです。そのような確認をとらずに不用意にHPにアクセスし、個人情報・重要情報を入力することのないよう、是非とも注意が必要です。
5、以上の解説を前提に今回の質問を見てみます。メールでのサイト使用料請求とのことですが、どこからの請求かも分からない状況ですので、支払う必要などないといえます。仮に正当な請求であれば、いずれ書面などによって正式に請求してくるでしょうし、最終的には裁判所を通じて法的手続きにのっとって請求してくるはずです。誰からの請求かも分からない現段階で支払いをするよりは、裁判所からの通知を待って請求に応じる方が安全であるといえます。ただ、正当な請求であった場合には、支払が遅延したことによる損害金を支払わなくてはならなくなる可能性はありますが、それは相手が主張する程高額ではないとお考え下さい。もっとも、本件では請求につき多少なりとも身に覚えがあるとはいえ、それは無料のアダルトサイトを使用したというものです。無料のアダルトサイトを利用した場合には、上記のように料金を請求されるいわれは全くありません。以上からすれば、本件では相手方からの請求に応じる必要性は全くありませんので、無視していただければ何の問題もないと思われます。

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