加害者からの削除請求について (最終更新日平成24年5月17日)


インターネットの掲示板に他人の悪口を書いてしまいました、実名と前科を記載してしまいました、という相談が増えています。悪い事をしたと反省し、掲示板の管理者に対して削除依頼を出しても、利用規約を理由に削除に応じてくれないというのです。このような場合、どうしたら良いでしょう。

《 要 約 》

1、書き込みをしてしまった加害者の立場で、インターネットの掲示板への書き込みを削除する方法としては、
@ 「被害者との和解による、共同での削除手続」
A 「掲示板管理者に対する削除請求」
B 「プロバイダに対する削除請求」
という3つの方法が考えられます。これらの全てが奏効しなかった場合には、
C 検索サイト運営会社に対して、削除の要請(依頼)
をしていくことが考えられます。

2、  インターネットの掲示板に記載する行為も、一般社会での「言いふらし行為」「掲示行為」「落書き行為」も、媒体が異なるだけで、人の名誉を侵害する行為は、同様に法的に評価されます。民事上は、不法行為に基づく損害賠償請求や差止請求の対象となりますし、刑事上は、名誉毀損罪や信用毀損罪や業務妨害罪での刑事処分の可能性があります。あなたは、これらの手続の加害者になってしまうわけです。

3、  そこで、できるだけ速やかに掲示板から削除をする必要があります。あなたが書き込みをしたのですから、自分で削除の請求をすればよいようにも考えられますが、一般的に「一度書き込んだものは削除できない」ということが、利用規約として、掲示板の管理者と利用者との間で取り決めされています。この利用規約の妥当性や法的有効性の問題はありますが、書き込みをしたあなたから削除請求をしても拒否されることが多くなってしまいます。

4、  そのため、被害者からの削除請求が必要になります。名誉毀損の被害者は、実名と前科を記載された本人ですから、原則として、削除請求は、名誉毀損された被害者本人が行うことになります。書き込みをしてしまったあなたは、被害者と連絡を取り、謝罪し、被害者と協力して削除の手続を行うのが原則です。被害者と示談書や合意書を交わし、削除請求手続に掛かる費用を加害者であるあなたが負担して削除請求してもらうのが原則です。被害者との合意が一番大切です。

5、 他方、被害者の方の連絡先が不明な場合や、どうしても被害者が示談に応じてくれない場合、第三者によってインターネット上の名誉毀損記事がコピーされて別の掲示板に書き込みされてしまうおそれがあります。そうなると、被害者の損害が拡大してしまう事になります。このような場合には、加害者単独でも、掲示板の管理者に対して記事の削除請求をすることが考えられます。

6、 掲示板の管理者が削除に応じない場合、実際にWEBサーバーを運用しているインターネットサービスプロバイダ業者に対して送信停止措置を請求する手段が考えられます。

7、 掲示板の管理者も、プロバイダ業者も、削除請求や送信停止措置請求に応じない場合、例外的な措置ですが、インターネット検索サイト運営業者に対して、検索停止請求を行う手段が考えられます。


《 解 説 》

1、 (名誉毀損について)

(1)名誉棄損罪は、「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損」する犯罪です(刑法230条)。「名誉」とは、人の社会上の地位又は価値を言い(大審院大正5年5月25日判決)、「名誉を毀損する」とは、社会的評価を低下させる行為です。このような行為を公然と事実を摘示して行うという、「公然」とは不特定多数の人の視聴に達することの可能な状況(大審院大正12年6月4日判決)に置く事を意味し、「事実」とは具体的な事実とされています。

刑法230条(名誉毀損)公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。
2項 死者の名誉を毀損した者は、虚偽の事実を摘示することによってした場合でなければ、罰しない。

そこで、不特定多数人に対して口頭で告知(言いふらし)する行為であっても、不特定多数人の目に触れる場所にポスターや落書きなどで掲出する行為であっても、名誉毀損罪は成立しうるものですが、インターネットが普及した今日では、インターネット掲示板に他人の社会的評価を低下させるような事実を記載した記事を書き込みし、不特定多数の視聴に供する行為を行った場合でも、名誉毀損罪は成立しうることになります。判例も、インターネット上の名誉毀損事案について、他の事例と基本的に同様の基準で犯罪の成否を検討すべきであると判示しています。最高裁判所平成22年3月15日判決は、「インターネットの個人利用者による表現行為の場合においても、他の場合と同様に、行為者が摘示した事実を真実であると誤信したことについて、確実な資料、根拠に照らして相当の理由があると認められるときに限り、名誉毀損罪は成立しないものと解するのが相当であって、より緩やかな要件で同罪の成立を否定すべきものとは解されない」としています。

(2)名誉毀損行為は、民事上も違法な行為となりますので、民法709条の不法行為として、損害賠償請求や差止請求の対象となります。

但し、他人の社会的評価を低下させるような事実を公表したとしても、マスコミの他、一般私人であっても、専ら公益を図る目的で行われた行為であれば、正当行為として違法性が阻却され、刑事処分の対象とはなりません(刑法230条の2第1項)。

刑法230条の2(公共の利害に関する場合の特例)
 前条第一項の行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。
2項  前項の規定の適用については、公訴が提起されるに至っていない人の犯罪行為に関する事実は、公共の利害に関する事実とみなす。
3項  前条第一項の行為が公務員又は公選による公務員の候補者に関する事実に係る場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。
(3)過去の刑事事件については、最高裁判決昭和56年4月14日で「前科及び犯罪経歴は、人の名誉、信用に直接かかわる事項であり、前科等のある者もこれをみだりに公開されないという法律上の保護に値する利益を有する」と判示されておりますとおり、合理的な必要性もないのに不特定多数に情報を流布することは、違法性を阻却せず、刑事上も民事上も違法性を帯びる行為と解釈されています。従って、事件直後に新聞報道等には一定の合理性があるとしても、事件から何年も経過した場合には、この情報を流布することは法律上認められる行為ではありません。

また、刑事事件終了から一定期間が経過した場合は、法的に「刑の消滅」又は「刑の言渡しが効力を失った」状態に至っていることになります。この場合は、法的に、刑事処分の効力が消滅しているため、掲出行為の正当性を法的に基礎付けることが極めて困難と言えます。罰金刑の場合は、納付から5年、懲役刑の場合は執行を終えて10年、執行猶予の場合は猶予期間経過により、刑事処分の効力が消滅することになります。

刑法27条(猶予期間経過の効果)刑の執行猶予の言渡しを取り消されることなく猶予の期間を経過したときは、刑の言渡しは、効力を失う。

刑法第34条の2(刑の消滅)禁錮以上の刑の執行を終わり又はその執行の免除を得た者が罰金以上の刑に処せられないで十年を経過したときは、刑の言渡しは、効力を失う。罰金以下の刑の執行を終わり又はその執行の免除を得た者が罰金以上の刑に  処せられないで五年を経過したときも、同様とする。

(4)刑事訴訟終了後の刑事記録の取扱いについて定めた「刑事確定訴訟記録法」では、4条と6条で、刑事事件終結後3年を経過した場合は原則として閲覧させないこと、閲覧した者は「犯人の改善及び更生を妨げ、又は関係人の名誉若しくは生活の平穏を害する行為をしてはならない」ことが規定されています。刑事記録ではなくても、人の過去の刑事事件に関する事実を知った者には、被告人の権利を保護するために、同様の注意義務が求められていると言えるでしょう。

刑事確定訴訟記録法4条(保管記録の閲覧) 保管検察官は、請求があつたときは、保管記録(刑事訴訟法第五十三条第一項 の訴訟記録に限る。次項において同じ。)を閲覧させなければならない。ただし、同条第一項 ただし書に規定する事由がある場合は、この限りでない。
2  保管検察官は、保管記録が刑事訴訟法第五十三条第三項 に規定する事件 のものである場合を除き、次に掲げる場合には、保管記録(第二号の場合にあつては、終局裁判の裁判書を除く。)を閲覧させないものとする。ただし、訴訟関係人又は閲覧につき正当な理由があると認められる者から閲覧の請求があつた場合については、この限りでない。
一  保管記録が弁論の公開を禁止した事件のものであるとき。
二  保管記録に係る被告事件が終結した後三年を経過したとき。
三  保管記録を閲覧させることが公の秩序又は善良の風俗を害することとなるおそれがあると認められるとき。
四  保管記録を閲覧させることが犯人の改善及び更生を著しく妨げることとなるお それがあると認められるとき。
五  保管記録を閲覧させることが関係人の名誉又は生活の平穏を著しく害するこ ととなるおそれがあると認められるとき。
六  保管記録を閲覧させることが裁判員、補充裁判員、選任予定裁判員又は裁判員候補者の個人を特定させることとなるおそれがあると認められるとき。
3  第一項の規定は、刑事訴訟法第五十三条第一項 の訴訟記録以外の保管記 録について、訴訟関係人又は閲覧につき正当な理由があると認められる者から閲覧の請求があつた場合に準用する。
4  保管検察官は、保管記録を閲覧させる場合において、その保存のため適当と 認めるときは、原本の閲覧が必要である場合を除き、その謄本を閲覧させることができる。

第6条(閲覧者の義務) 保管記録又は再審保存記録を閲覧した者は、閲覧により知り得た事項をみだりに用いて、公の秩序若しくは善良の風俗を害し、犯人の改善及び更生を妨げ、又は関係人の名誉若しくは生活の平穏を害する行為をしてはならない。

2、 (被害者との和解と、被害者による削除請求)

名誉毀損のインターネット記事を書き込みしてしまった場合、あなたが自分自身で開設したホームページやブログであれば、あなたが自由に削除できます。しかし、管理者が管理している掲示板では、一度書き込みをすると削除はできないという約束になっていることが多いようです。その場合、書き込みをした人から削除の請求をしても拒否されるため、被害者である相手方本人が削除の請求をする必要があります。

従って、あなたが取るべき態度は、まず、本人に連絡を取り、謝罪し、削除依頼の手続を共同で行い、その費用負担は自分が行う事を提案する事になります。できれば、合意書、示談書を作成してから、手続すると良いでしょう。

合意書の内容は概ね次の通りです。

@ 事件の特定(インターネットURL、書き込み内容、書き込み日時)
A 加害者が謝罪し、被害者がこれを許す。
B 加害者は、被害者に賠償金を○○円支払う。
C 加害者と被害者は、今後協力して、インターネット記事の削除手続を行う。弁護士費用など必要経費は全て加害者が負担する。
D 示談が成立したので、被害者は刑事告訴など刑事手続はしない。
E 合意書に定める他、被害者と加害者の間には債権債務は一切存在しない。
    
名誉毀損罪は、親告罪(刑法232条)となっておりますので、被害者の刑事告訴 が無ければ刑事訴追を受けることはありません。合意書締結後に、削除請求の手続を進めると良いでしょう。

3、 (掲示板の管理者や、プロバイダに対する削除請求や送信停止措置請求。)

どうしても、被害者との示談ができない場合、被害者と連絡がつかない場合は、加害者であるあなたが、単独で、直接、掲示板の管理者やプロバイダに対して、削除の請求をおこなうことが考えられます。しかし、加害者であるあなたが、一体どのような法的根拠に基いて、削除の請求をすることができるのでしょうか。上級審判例などでは明確に加害者の削除権限を認めたものが見当たりませんので、試みに、法律構成(法律上の根拠)を考えてみたいと思います。

(1) 掲示板の管理者と、加害者であるあなたとの、書き込み契約の無効または解除を主張する方法。

インターネットの掲示板にデータを送信して、書き込み内容を公開することは、掲示板の管理者と、書き込み送信者との間の契約になります。この契約は、インターネットの情報公開という行為を目的とするものですので、所有権の移転など、何らかの法的効果を目的とする契約というより、事実行為を目的とした、準委任契約、または、民法典の典型契約には含まれない無名契約と評価することができます。

準委任契約というのは、本人に代わって一定の行為を代行することを依頼(事務の委託)する契約であって、契約締結など法的効果を発生させる代理行為以外の事実上の行為を目的とする契約です。民法656条は「この節の規定は、法律行為でない事務の委託について準用する」と規定しています。

無名契約というのは、民法に規定されていない、非典型契約のことです。社会経済の発展に従って、次から次へと新しいサービスや権利形態が発生しますので、従来の典型契約の枠組みをはみ出した契約形態も出現しています。こういう契約を非典型契約または無名契約と呼んでいます。無名契約を直接規定した民法の条文はありませんが、近代私法の大原則である「私的自治の原則」「契約自由の原則」にもとづいて認められる契約形態であり、民法91条では「法律行為の当事者が法令中の公の秩序に関しない規定と異なる意思を表示したときは、その意思に従う」と規定し、間接的な形で契約の効力が認められております。無名契約であっても、私人間の契約ですから、当然に、民法の適用があります。

「書き込み契約」の内容は、個別の掲示板によって異なりますが、概ね次のような内容を主眼とした契約になると思います。

あ)書き込み者は、違法な記事を送信しない。
い)書き込み者は、掲示板管理者に対して記事の著作権を放棄する。
う)掲示板管理者は、受信したデータをネットに公開する。
え)掲示板管理者は、都合によりネット公開を随時中止できる。
お)情報送信とネット公開について、双方無償の契約とする。

このような「書き込み契約」が成立し、情報送信され、ネットに公開された場合でも、契約の効力が無効である場合や、契約が解除された場合には、掲示板管理者は原状回復義務にもとづいて、記事の削除手続をとる必要があります。

契約の効力が無効となるのは、次のような場合が考えられます。

民法90条違反→「公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は無効とする。」名誉毀損の記事をネット公開し社会に流布させる行為は、違法な行為であり、公序良俗違反により、無効と評価することができます。

民法132条違反→「不法な条件を付した法律行為は、無効とする。不法な行為をしないことを条件とするものも、同様とする。」本条は、民法典及び裁判所が、不法行為に手を貸すことはできない、という事を明確化したものです。「どのような理由があっても削除要請には一切応じません(=不法な記事であっても送信されればそのままネット公開する)」というような条件が定められている「書き込み契約」の場合は、本条によって無効となると評価することができます。

契約の解除ができるのは、次のような場合が考えられます。

民法651条による解除→準委任契約にも民法651条が準用されますので、書き込み者の都合により随時契約解除ができると考える事ができます。契約解除は、相手方に対する意思表示により行います。内容証明郵便による通知書などの手段が考えられます。

民法651条(委任の解除)委任は、各当事者がいつでもその解除をすることができる。
2項 当事者の一方が相手方に不利な時期に委任の解除をしたときは、その当事者の一方は、相手方の損害を賠償しなければならない。ただし、やむを得ない事由があったときは、この限りでない。

契約が解除された場合は、民法545条により、各当事者は「原状回復義務」を負担することになります。ネットの書き込みがなされて記事が公開されている場合は、これを削除する義務を生ずることになります。前記の通り、契約が無効となる場合でも、同様に、書き込み削除を請求することができると考えられます。

民法545条(解除の効果)当事者の一方がその解除権を行使したときは、各当事者は、その相手方を原状に復させる義務を負う。ただし、第三者の権利を害することはできない。
2項 前項本文の場合において、金銭を返還するときは、その受領の時から利息を付さなければならない。
1. 解除権の行使は、損害賠償の請求を妨げない。

(2) プロバイダに対して、無効行為の対世効を主張する方法と、債権者代位権を行使する方法。

掲示板の管理者と、掲示板の送信者(インターネットプロバイダ)が異なる場合、次のような契約関係になります。

名誉毀損書き込みをしたあなた
↓↑「書き込み契約」
掲示板の管理者
↓↑「レンタルサーバー契約」
インターネットプロバイダ

この場合、あなたと、プロバイダの間には、直接の契約関係がありませんので、契約に基く請求権は主張することができないのが原則になります。しかし、例外的に、「無効行為の対世効」または「債権者代位権」については、あなたからプロバイダに対して、法的に権利主張することができます。

「無効行為の対世効」→前記の通り、掲示板管理者とあなたとの「書き込み契約」が民法90条の公序良俗に違反して無効となる場合、その法律行為は絶対的無効とされ、当事者間だけでなく、第三者との関係でも無効となると解釈されています。これを、無効行為の対世効と言います。社会的に不相当な行為として法律上の効力を否定されているわけですから、誰に対しても無効を主張できるというわけです。従って、無効な行為にもとづいて、名誉毀損という権利侵害の状態が継続している場合は、原契約当事者であるあなたから、情報発信者であるプロバイダに対して、情報発信の停止(記事の削除)を請求することが考えられます。

「債権者代位権」→前記の通り、あなたから掲示板管理者に対して、「記事の削除請求」ができる場合に、この権利を保全するために、掲示板管理者からプロバイダに対する削除請求権を代位行使する手段が考えられます。

民法423条(債権者代位権)債権者は、自己の債権を保全するため、債務者に属する権利を行使することができる。ただし、債務者の一身に専属する権利は、この限りでない。
2項  債権者は、その債権の期限が到来しない間は、裁判上の代位によらなければ、前項の権利を行使することができない。ただし、保存行為は、この限りでない。

債権者代位権は、通常、金銭債権の債権者が、債務者の資力が失われてしまうことを保全(責任財産の保全)するために、債務者に対して支払い義務のある第三債務者に対して直接の支払を求めるための権利ですが、金銭債権以外の債権であっても、債権の保全の必要性がある場合は「債権者代位権の転用事例」と言って、不動産登記の移転登記請求権の事例(最高裁昭和50年3月6日判決)などで認められています。

これらの権利主張は、裁判上確立した主張方法ではありません。加害者からの削除請求という事例自体が希少であり、まだまだ法律関係が明確になっていない部分があると思います。しかし、現実に、名誉毀損の記事のネット公開という不適切な状態が出現しているのであれば、加害者であるあなたからも最大限努力して、これを解消できるよう働きかけを行っていくべきでしょう。万一、後日、名誉毀損が刑事事件として立件されてしまった場合でも、これらの努力については、情状として斟酌されると考えられます。

4、(インターネット検索サイトの運営会社に対する検索停止請求)

(1)インターネットを通した、名誉毀損やプライバシー侵害の記事の閲覧は、様々な場面が考えられますが、最も一般的な手順は次の通りの経路を辿る事になります。

@名誉毀損サイトの管理者が、過去の新聞記事などを個人的に保存し、これを引用した名誉毀損記事を作成し、インターネットWEBサーバーにアップロードする。
A検索サイト運営会社のサーチエンジンがWEBクロールし、上記@の名誉毀損サイ トのテキストとURLを検索データベースに保存する。
B不特定多数の一般閲覧者が検索サイト運営会社のサイトの検索窓に「名誉毀損被害者の氏名」を入力し、検索ボタンをクリックする。
C検索サイト運営会社の検索エンジンが、検索データベースの内容と、検索ワード (名誉毀損被害者の氏名)を照合・検索し、検索結果画面に、検索データベースから抽出された上記@の名誉毀損サイトのテキスト抜粋とURL(ハイパーリンク付き=クリックすると当該サイトにジャンプできる)が表示される。
D不特定多数の一般閲覧者が、CのURLをクリックし、@のWEBサーバーからの情報が不特定多数の一般閲覧者の目前のPCにダウンロードされ、不特定多数の一般閲覧者の目前のPCに名誉毀損サイトの情報が表示される。

(2)従って、不特定多数の一般閲覧者の目前における名誉毀損サイトの表示に関し て、検索サイト運営会社にも不可欠の関与があると考えることができます。検索サイトの運営会社は、個別の記事の内容を確認できないことは当然ですが、一連の名誉毀損行為の一部の部分に、知らないうちに関与していることになるのです。一般的に、名誉毀損サイトの存在について、検索サイト運営会社は、名誉毀損被害者から通知を受けるまでは名誉毀損行為に関して故意過失は認められませんので、民法709条の不法行為は成立しませんが、名誉毀損被害者から検索サイト運営会社に対して通知がなされた後においては、名誉毀損サイトの表示に関して、検索サイト運営会社に不法行為責任が発生する可能性を生じると言えるでしょう。

(3)他方、あなたのような名誉毀損の加害者から、検索サイト運営会社に対して、法的な権利として、不法行為の差止請求や損害賠償請求をすることは、一般的に、極めて困難なことといわざるを得ません。不法行為に関する民法709条をはじめとする救済規定や判例も全て、被害者からの請求を前提とするものとなっているためです。

民法では、事務管理という制度があります。契約関係の無い当事者間でも、親切心で手助けをしたような場合は、委任の規定を準用し、当事者の権利義務を定めてこの行為を尊重しようというわけです。加害者であるあなたから、検索サイト運営会社に対して、事務管理として削除要請を行うことも考えられます。事務管理の典型例は、落し物を拾った人が、持ち主の所に届けてあげる行為などですが、名誉毀損の書き込みの削除にも適用することができる可能性があります。名誉毀損の立て看板を発見した通行人が、これを排除する行為をするような場合も、事務管理と解釈されていますから、ネット書き込みの削除を求める手続も、事務管理に含めると観念することができます。

民法697条(事務管理) 義務なく他人のために事務の管理を始めた者(以下この章において「管理者」という。)は、その事務の性質に従い、最も本人の利益に適合する方法によって、その事務の管理(以下「事務管理」という。)をしなければならない。
2項 管理者は、本人の意思を知っているとき、又はこれを推知することができるときは、その意思に従って事務管理をしなければならない。

民法698条(緊急事務管理) 管理者は、本人の身体、名誉又は財産に対する急迫 の危害を免れさせるために事務管理をしたときは、悪意又は重大な過失があるのでなければ、これによって生じた損害を賠償する責任を負わない。

(4)実務上又は判例上、加害者であるあなたから、検索サイト運営会社に対する削除請求の法的権限は未だ確立されているとは言えない状態です。法的な主張としてはどうしても困難が伴います。しかしながら、上記のように、「被害者との和解による、共同での削除手続」、「掲示板管理者に対する削除請求」、「プロバイダに対する削除請求」の全てが奏効しなかった場合に、名誉毀損の事実状態が継続することは好ましいことではありませんので、被害者という立場で無いとしても、事情を全て説明した上で、検索サイト運営会社に対して、削除の要請(依頼)をしていくことは可能と考えられます。困難な問題ですが、お困りの場合は、お近くの法律事務所にご相談なさり、連絡の仲介を依頼できるか、相談してみると良いでしょう。

≪条文参照≫

刑事訴訟法
第五十三条  何人も、被告事件の終結後、訴訟記録を閲覧することができる。但し、訴訟記録の保存又は裁判所若しくは検察庁の事務に支障のあるときは、この限りでない。
2項 弁論の公開を禁止した事件の訴訟記録又は一般の閲覧に適しないものとしてその閲覧が禁止された訴訟記録は、前項の規定にかかわらず、訴訟関係人又は閲覧につき正当な理由があつて特に訴訟記録の保管者の許可を受けた者でなければ、これを閲覧することができない。
3項 日本国憲法第八十二条第二項 但書に掲げる事件については、閲覧を禁止することはできない。


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