団体職員の刑事事件(最終更新平成25年7月1日)

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公益社団法人や独立行政法人など団体職員が万引き事案などで逮捕されてしまったという刑事事件については、どのように考えるべきでしょうか。公務員と同じ様に考えるのでしょうか、それとも民間企業の職員と同じ様に考えるのでしょうか。懲戒免職の可能性については、どのように考えるべきでしょうか。


概説:

1、 公益社団法人の職員であっても、労働契約を締結した労働者であることに変わりはありませんので、労働契約に付随して、企業秩序遵守義務を負担し、これに違反する行為があった場合は、懲戒処分の対象となります。

2、 勤務先からの懲戒処分の有効性については、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当なものとして是認することができないとき」には、懲戒権の濫用として、無効となると解釈されています(懲戒権濫用法理、または懲戒法理)。この基準は、普通解雇における解雇権濫用法理(解雇法理)と同様の基準となっています。懲戒解雇も普通解雇も、労務者にとって生活の基盤である労働契約上の地位を奪うという結果は同じですので、同様に、客観的合理性と社会通念上相当性が要求されているのです。

3、 他方、国家公務員や地方公務員の場合は、懲戒法理は適用されません。公務員の任用関係は、私人間の労働契約関係ではなく、公益目的を達するため各種公法の規制を受ける公法上の任用関係だからです。独立行政法人の場合は、特に公益性の高いものとして法令で指定された「特定独立行政法人」の職員については、国家公務員法の適用がありますので、懲戒法理の対象とはなりません(独立行政法人通則法51条)が、特定独立行政法人以外の独立行政法人については非公務員の扱いになり、懲戒法理の適用があります。公務員の懲戒処分について、判例では、懲戒権者の裁量行為であるが、「社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権を濫用したと認められる場合に限り」違法無効になると解釈されています。

4、 万引き行為は、刑法の窃盗罪に該当する行為です。他人の財物を窃取してしまうという行為態様ですから、私有財産制を基礎とする資本主義経済国家の根底を否定する犯罪であり、国民全体の奉仕者として公共の利益のために勤務することをその本質的な内容とする勤務関係の見地において,公務員としてふさわしくない非行に該当し懲戒解雇(免職)処分が下される可能性は低くはありません。従って、有罪判決が確定した場合に、懲戒解雇(免職)処分が下されてしまった場合は、その処分が有効とされてしまう可能性が非常に高いことになります。これは、懲戒法理が適用される一般の労働契約であっても、公務員の懲戒処分であっても同じです。

5、 他方、窃盗罪の構成要件に該当する行為があったとしても、被害店舗との示談が成立するなどして、微罪処分や不起訴処分となり、有罪判決確定しなかった場合は、事実関係の存否について刑事裁判を経たわけではありませんし、当事者間の民事トラブルも債権債務が一切存在しない状態となっていますので、懲戒権者にとって、懲戒処分の根拠となる事実関係が明確であるとは言い切れない状態ですので、懲戒解雇を回避する可能性があります。

6、 万引きについて弁護人と以下の点を協議する必要があります。@今回は、ご自分で手続きしていますが、被害店舗との交渉により被害届け、告訴の取消、又は、提出回避の要請(事案上迅速性が要請されます)。さらに謝罪の上被害者から有利な上申書の取得。刑事処分、懲戒処分でもこれが重要です。A通常は、公務員と同様捜査機関から職場への犯罪事実の連絡がなされることが多いでしょうが、これを事前に阻止することがとても重要です。弁護人が連絡阻止の要請書を出してくれます。B窃盗の内容、動機、態様について刑事処分による確定が終わるまで上司に確定的説明を保留する。捜査機関が職場に連絡するとしても証拠等詳細は伝えることができないので違法性、責任の程度についてすべての処分が終了するまで予断を与えないようにする必要があります。懲戒処分の対象となった場合、上司は立場上貴方の責任追及する責務があり、貴方の利益を擁護しません。貴方の味方は家族と弁護人だけです。日ごろお世話になっていても上司を頼っては絶対にいけません。不安になり、取調べ中の警察署から身元引受けを要請したり、逮捕されても上司の接見を求めてはいけません。C先例を調査して公平、平等な懲戒処分を要請する。D安易に退職願いを出さない。刑事責任と退職は基本的に別個の問題です。家族の生活がかかっています。まだ結論はでていません。


解説:

1、 公益社団法人の職員であっても、労働契約を締結した労働者であることに変わりはありませんので、労働契約に付随して、企業秩序遵守義務を負担し、これに違反する行為があった場合は、懲戒処分の対象となります。このような懲戒処分を行うことができる権限を懲戒権と言います。

最高裁判所昭和52年12月13日判決「そもそも、企業秩序は、企業の存立と事業の円滑な運営の維持のために必要不可欠なものであり、企業は、この企業秩序を維持確保するため、これに必要な諸事項を規則をもつて一般的に定め、あるいは具体的に労働者に指示、命令することができ、また、企業秩序に違反する行為があつた場合には、その違反行為の内容、態様、程度等を明らかにして、乱された企業秩序の回復に必要な業務上の指示、命令を発し、又は違反者に対し制裁として懲戒処分を行うため、事実関係の調査をすることができることは、当然のことといわなければならない。」


2、 勤務先からの懲戒処分の有効性については、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当なものとして是認することができないとき」には、懲戒権の濫用として、無効となると解釈されています(懲戒権濫用法理、または懲戒法理)。この基準は、普通解雇における解雇権濫用法理(解雇法理)と同様の基準となっています。懲戒解雇も普通解雇も、労務者にとって生活の基盤である労働契約上の地位を奪うという結果は同じですので、同様に、客観的合理性と社会通念上相当性が要求されているのです。

最高裁判所平成18年10月6日判決「使用者の懲戒権の行使は,企業秩序維持の観点から労働契約関係に基づく使用者の権能として行われるものであるが,就業規則所定の懲戒事由に該当する事実が存在する場合であっても,当該具体的事情の下において,それが客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当なものとして是認することができないときには,権利の濫用として無効になると解するのが相当である。」

これは、懲戒権濫用法理と呼ばれるもので、判例が集積したものが、労働契約法15条に明記されるに至っております。

労働契約法15条 使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。

具体的にいうと、「あらかじめ、就業規則において懲戒種別及び事由が規定されていること」、「従業員による懲戒事由行為が客観的に存在すること」、「法令及び社内規則に則った懲戒手続の存在」などにより、懲戒処分が有効になると解釈されています。

 参考のために、解雇法理も説明します。解雇法理は、労働契約が労働者の生活基盤を形成する重要な契約であることに鑑みて、民法上は制限が加えられていない労働契約の解除について、使用者側の一方的な解雇に一定の制限を加える考え方です。使用者側の解約の申し入れに合理的な理由が無い場合は解雇権の濫用として解雇が無効であるという判例(「使用者の解雇権の行使も、それが客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当として是認することができない場合には、権利の濫用として無効になる」(日本食塩製造事件 昭和50年4月25日)など)が集積され、法改正により労働契約法16条に規定されるに至っています。

労働契約法16条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

ここで、「客観的に合理的な理由」というのは、一般に、「就業規則における解雇事由の存在」、「従業員の服務違反行為の存在」、「法令及び社内規則に則った解雇手続の存在」などにより解雇処分が相当であると根拠付けられることを意味します。

公益社団法人も、法人(一般社団法人法及び一般財団法人法3条)として、職員と労働契約を締結していますから、公益社団法人の職員についても懲戒権濫用法理は適用されることになります(公益社団法人の雇用契約に解雇法理が適用された参考事例=東京地裁平成21年1月26日判決など)。


3、 公務員の場合は、民法が適用される私法上の労働契約ではなく、国家公務員法や地方公務員法や人事院規則などの公法的規制を受ける公法上の任用関係になりますので、前記の私法上の「客観的合理性及び社会通念上相当性」の基準(懲戒権濫用法理)の適用は受けないことになります。

東京高等裁判所平成19年11月28日判決は、非常勤地方公務員の再任用拒否の事案において、次の様に判断しています。「行政処分の画一性・形式性を定めた現在の関係法令を適用する限りは、当事者双方の合理的意思解釈によってその内容を定めることが許されない行政処分にこの考え方を当てはめるのは無理があると考えられ、現行法上は、解雇権濫用法理を類推して、再任用を擬制する余地はないというほかない。」

独立行政法人の場合は、特に公益性の高いものとして法令で指定された「特定独立行政法人」の職員については、国家公務員法の適用がありますので、懲戒権濫用法理の適用対象とはなりません(独立行政法人通則法51条)。国家公務員と同様に処理されることになります。

特定独立行政法人は、独立行政法人のうち、その業務の停滞が国民生活又は社会経済の安定に直接かつ著しい支障を及ぼすと認められるものの他当該独立行政法人の目的、業務の性質等を総合的に勘案して、その役員及び職員に国家公務員の身分を与えることが必要と認められるものとして個別法で定められたものです(独立行政法人法通則法2条2項)。関係する法律が随時制定されるますので一定しませんが、平成24年3月30日現在で、次の8法人が指定されています(人事院規則16−0別表2の2)。

1)独立行政法人国立公文書館
2)独立行政法人駐留軍等労働者労務管理機構
3)独立行政法人統計センター
4)独立行政法人造幣局
5)独立行政法人国立印刷局
6)独立行政法人国立病院機構
7)独立行政法人農林水産消費安全技術センター
8)独立行政法人製品評価技術基盤機構

公務員の懲戒処分については、最高裁判所昭和52年12月20日判決で次の様に判断されています。

「懲戒権者は、懲戒事由に該当すると認められる行為の原因、動機、性質、態様、結果、影響等のほか、当該公務員の右行為の前後における態度、懲戒処分等の処分歴、選択する処分が他の公務員及び社会に与える影響等、諸般の事情を考慮して、懲戒処分をすべきかどうか、また、懲戒処分をする場合にいかなる処分を選択すべきか、を決定することができるものと考えられる」

 「公務員に対する懲戒処分は,当該公務員に職務上の義務違反,その他,単なる労使関係の見地においてではなく,国民全体の奉仕者として公共の利益のために勤務することをその本質的な内容とする勤務関係の見地において,公務員としてふさわしくない非行がある場合に,その責任を確認し,公務員関係の秩序を維持するため,科される制裁である。ところで,国公法は,同法所定の懲戒事由がある場合に,懲戒権者が,懲戒処分をすべきかどうか,また,懲戒処分をするときにいかなる処分を選択すべきかを決するについては,公正であるべきこと(七四条一項)を定め,平等取扱いの原則(二七条)及び不利益取扱いの禁止(九八条三項)に違反してはならないことを定めている以外に,具体的な基準を設けていない。したがつて,懲戒権者は,懲戒事由に該当すると認められる行為の原因,動機,性質,態様,結果,影響等のほか,当該公務員の右行為の前後における態度,懲戒処分等の処分歴,選択する処分が他の公務員及び社会に与える影響等,諸般の事情を考慮して,懲戒処分をすべきかどうか,また,懲戒処分をする場合にいかなる処分を選択すべきか,を決定することができるものと考えられるのであるが,その判断は,右のような広範な事情を総合的に考慮してされるものである以上,平素から庁内の事情に通暁し,部下職員の指揮監督の衝にあたる者の裁量に任せるのでなければ,とうてい適切な結果を期待することができないものといわなければならない。それ故,公務員につき,国公法に定められた懲戒事由がある場合に,懲戒処分を行うかどうか,懲戒処分を行うときにいかなる処分を選ぶかは,懲戒権者の裁量に任されているものと解すべきである。」

「裁判所が右の処分の適否を審査するにあたっては、懲戒権者と同一の立場に立って懲戒処分をすべきであったかどうか又はいかなる処分を選択すべきであったかについて判断し、その結果と懲戒処分とを比較してその軽重を論ずべきものではなく、懲戒権者の裁量権の行使に基づく処分が社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権を濫用したと認められる場合に限り違法であると判断すべきものである。」

このように、公務員の懲戒免職処分について、判例は、任命権者の広範な裁量を認め、社会通念上著しく妥当性を欠いた事例についてのみ、裁量権を濫用したものとして、例外的に無効となりうると判断しています。


4、 万引き行為は、刑法の窃盗罪に該当する行為であり、他人の財物を窃取してしまうという行為態様ですから、有罪判決が確定した場合に、懲戒解雇(免職)処分が下されてしまった場合は、その処分が有効とされてしまう可能性が非常に高いことになります。これは、懲戒権濫用法理が適用される一般の労働契約であっても、公務員の懲戒処分であっても同じです。

公務員の場合は、国家公務員法99条と地方公務員法33条で規定されている信用失墜行為の禁止規定にも違反することになってしまいます。私企業や公益法人等においても、就業規則において同様の規定が整備されているのが一般的です。

国家公務員法第99条(信用失墜行為の禁止)職員は、その官職の信用を傷つけ、又は官職全体の不名誉となるような行為をしてはならない。
地方公務員法第33条(信用失墜行為の禁止)職員は、その職の信用を傷つけ、又は職員の職全体の不名誉となるような行為をしてはならない。

この信用失墜行為というのは、「健全な社会通念に照らし、その職の信用を損ない若しくは職全体の不名誉と見られるような行為である限り、職の内外をとわず、また、犯罪にあたるか否かを問わず」該当しうるものと解釈され、かつ、信用失墜行為違反を根拠として懲戒免職処分をもなし得ると解釈されています(大阪地裁平成2年8月10日判決、最高裁昭和59年5月31日判決参照)。従って、公務員の場合、任命権者が窃盗罪で有罪確定したことを根拠として懲戒免職処分を下した場合は、行為態様にもよりますが裁量行為の違法性を主張して法的に争うことは極めて困難となってしまいます(窃盗罪で略式命令を受けた県立高校教員の懲戒免職処分を有効とした、平成19年8月6日宮崎地裁判決など)。

他方、任命権者の懲戒処分は裁量行為ですから、勿論、万引きで窃盗罪の有罪が確定した場合であっても、事情によって、任命権者が懲戒免職を選択しないという可能性もあります。前記最高裁判所昭和52年12月20日判決では次のような事情が斟酌されると判示されています。

「懲戒権者は、懲戒事由に該当すると認められる行為の原因、動機、性質、態様、結果、影響等のほか、当該公務員の右行為の前後における態度、懲戒処分等の処分歴、選択する処分が他の公務員及び社会に与える影響等、諸般の事情を考慮」するとされています。

前記の平成19年8月6日宮崎地裁判決では、認定された事実として、次のような対比事例がありました。

-----判決引用開始
 窃盗に及んだ公務員に関する処分例
 窃盗に及んだ公務員に対する懲戒処分について、次のような事例が見られる。
 (ア) 停職処分又は減給処分にとどまった事例
  a 農業改良普及センター職員がATMに置き忘れられた現金9万円を窃取した事案につき、停職6か月とされた事例(〔証拠省略〕)
  b 県職員がワイシャツ1枚(1980円相当)を万引きした事案につき、停職6か月とされた事例(〔証拠省略〕)
  c 警視庁公安部の課長(警視)が塗料2本(合計800円相当)を万引きした事案につき、停職1か月とされた事例(〔証拠省略〕)
  d 男性刑務官が職員のロッカーから現金25万円を窃取し、その後の調査で、以前にも別の職員の現金10万5000円を着服していたことも発覚した事案につき、減給100分の20(3か月)とされた事例(〔証拠省略〕)
  e 航海士が海上保安庁の巡視船内で現金28万円を窃取した事案につき、停職12か月とされた事例(〔証拠省略〕)
 (イ) 懲戒免職処分とされた事例
  a 宮崎県庁の臨時職員が他の職員の財布(現金約3万5000円在中)を窃取した事案(〔証拠省略〕)
  b 県立高校図書館の司書であった臨時職員が店舗で衣類等8点(合計約1万4000円相当)を万引きし、同事実につき罰金20万円の略式命令を受けた後、その1週間後に再び缶詰等7点(合計約1800円相当)を万引きして逮捕された事案(〔証拠省略〕)
  c 小学校の校長が店舗で衣類等(合計3万円相当)を万引きした事案(〔証拠省略〕)
  d 小学校の教諭が2回万引きをし、いずれの捜査の機会においても、その職業を偽っていた事案(〔証拠省略〕)
  e 中学校の教諭が書店でDVDソフトや写真集を万引きした事案(〔証拠省略〕)
  f 小学校の教諭が二度にわたって女性用下着を万引きし、逮捕、起訴された事案(〔証拠省略〕)
  g 中学校の教諭がホームセンターで日用品11点(合計1万1645円相当)を万引きした事案(〔証拠省略〕)
-----判決引用おわり

懲戒免職処分を回避した事例には、それぞれ個別事情があって、任命権者により免職は相当でないという判断がなされたものと思われます。弁護士が公務員の勤務先の懲戒処分に関する代理手続きを行う場合は、当該公務員に有利な特別事情を主張して、適切な裁量権の行使を求めるという方針で弁護活動を行うことになります。窃盗有罪でも懲戒免職を回避した事例を示して、国家公務員法27条の平等取扱いの原則、及び、同74条1項の「すべて職員の分限、懲戒及び保障については、公正でなければならない」という規定を根拠として、公平処分を求めるという法律的主張も必要です。

国家公務員の懲戒手続は、人事院規則12−0に定められた手続に従って進められます。地方公務員の場合も、各条例において人事委員会の懲戒手続が定められています。


5、 他方、窃盗罪の構成要件に該当する行為があったとしても、被害店舗との示談が成立するなどして、微罪処分や不起訴処分となり、有罪判決が確定しないことになった場合は、事実関係の存否について、刑事裁判を経たわけではありませんし、当事者間の民事トラブルも和解合意成立(和解合意書には債権債務が一切存在しないことを確認する清算条項が入るのが一般的です)により互いの債権債務が一切存在しない状態となっていますので、懲戒権者にとって、懲戒処分の根拠となる事実関係が明確であるとは言い切れない状態ですので、懲戒解雇を回避する可能性があります。

刑事裁判を経て事実認定されるということは、検察側と被告側の主張立証や反対尋問のテストを経て裁判官による公的な事実認定を受けたことを意味するのであり、これが確定したということは、控訴審及び上告審の審理を受けて二重三重の司法審査を受けたか、もしくは、当事者が事実を認めて上訴を断念したということであり、刑事裁判で確定した事実は、処分対象者としても、(再審請求などの例外を除いて、)その存否を争うことが極めて困難な事実ということになります。労働契約の使用者や、公務員の任命権者の立場から見て、刑事裁判が確定した場合には、刑事裁判で確定した事実関係を根拠として懲戒処分をすることは、事実の存否に関してトラブルになる可能性が低いということになり、懲戒処分を下しやすい条件となってしまいます。

これに対して、刑事裁判を経ていない状態は、裁判手続上「事実が確定したとは言えない」状態にあるということになり、労働契約の使用者や、公務員の任命権者の立場から見て、事実関係が不確定の状態であり、独自の調査に基づいて事実認定を行う必要があり、独自の事実認定を根拠として懲戒処分をすることは、後日、事実の存否に関して法的な紛争になる可能性をはらんでいることになり、手続きに慎重な姿勢を取らざるを得ないことになります。

国家公務員の場合は、国家公務員法85条「懲戒に付せらるべき事件が、刑事裁判所に係属する間においても、人事院又は人事院の承認を経て任命権者は、同一事件について、適宜に、懲戒手続を進めることができる」という規定を反対解釈して、当該事案が刑事裁判に掛けられることなく終結しているので懲戒手続きを進めるべきではない、ということを主張する必要もあるでしょう。勤務先上司から、万引き事案について調査をすると通告されているような場合には、懲戒権者や人事院や各自治体の人事委員会の調査・弁明聴取に対する対応も含めて、弁護士に代理手続きを依頼することを検討されると良いでしょう。


<参考条文>

※独立行政法人通則法
第2条(定義) この法律において「独立行政法人」とは、国民生活及び社会経済の安定等の公共上の見地から確実に実施されることが必要な事務及び事業であって、国が自ら主体となって直接に実施する必要のないもののうち、民間の主体にゆだねた場合には必ずしも実施されないおそれがあるもの又は一の主体に独占して行わせることが必要であるものを効率的かつ効果的に行わせることを目的として、この法律及び個別法の定めるところにより設立される法人をいう。
第2項  この法律において「特定独立行政法人」とは、独立行政法人のうち、その業務の停滞が国民生活又は社会経済の安定に直接かつ著しい支障を及ぼすと認められるものその他当該独立行政法人の目的、業務の性質等を総合的に勘案して、その役員及び職員に国家公務員の身分を与えることが必要と認められるものとして個別法で定めるものをいう。
第51条(役員及び職員の身分) 特定独立行政法人の役員及び職員は、国家公務員とする。

※国家公務員法
第17条 (人事院の調査)人事院又はその指名する者は、人事院の所掌する人事行政に関する事項に関し調査することができる。
第2項 人事院又は前項の規定により指名された者は、同項の調査に関し必要があるときは、証人を喚問し、又調査すべき事項に関係があると認められる書類若しくはその写の提出を求めることができる。
第3項 人事院は、第一項の調査(職員の職務に係る倫理の保持に関して行われるものに限る。)に関し必要があると認めるときは、当該調査の対象である職員に出頭を求めて質問し、又は同項の規定により指名された者に、当該職員の勤務する場所(職員として勤務していた場所を含む。)に立ち入らせ、帳簿書類その他必要な物件を検査させ、又は関係者に質問させることができる。
第4項 前項の規定により立入検査をする者は、その身分を示す証明書を携帯し、関係者の請求があつたときは、これを提示しなければならない。
第5項 第三項の規定による立入検査の権限は、犯罪捜査のために認められたものと解してはならない。
第27条(平等取扱の原則) すべて国民は、この法律の適用について、平等に取り扱われ、人種、信条、性別、社会的身分、門地又は第三十八条第五号に規定する場合を除くの外政治的意見若しくは政治的所属関係によつて、差別されてはならない。
第74条(分限、懲戒及び保障の根本基準) すべて職員の分限、懲戒及び保障については、公正でなければならない。
第2項 前項に規定する根本基準の実施につき必要な事項は、この法律に定めるものを除いては、人事院規則でこれを定める。
第82条(懲戒の場合)
第1項 職員が、次の各号のいずれかに該当する場合においては、これに対し懲戒処分として、免職、停職、減給又は戒告の処分をすることができる。
第1号 この法律若しくは国家公務員倫理法 又はこれらの法律に基づく命令(国家公務員倫理法第五条第三項 の規定に基づく訓令及び同条第四項 の規定に基づく規則を含む。)に違反した場合
第2号 職務上の義務に違反し、又は職務を怠つた場合
第3号 国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあつた場合
第84条(懲戒権者)懲戒処分は、任命権者が、これを行う。
第2項 人事院は、この法律に規定された調査を経て職員を懲戒手続に付することができる。
第85条(刑事裁判との関係) 懲戒に付せらるべき事件が、刑事裁判所に係属する間においても、人事院又は人事院の承認を経て任命権者は、同一事件について、適宜に、懲戒手続を進めることができる。この法律による懲戒処分は、当該職員が、同一又は関連の事件に関し、重ねて刑事上の訴追を受けることを妨げない。
第99条(信用失墜行為の禁止) 職員は、その官職の信用を傷つけ、又は官職全体の不名誉となるような行為をしてはならない。

※人事院規則12―0(職員の懲戒)抜粋
第1条(総則)
 職員の懲戒は、官職の職務と責任の特殊性に基いて法附則第十三条の規定により法律又は規則をもつて別段の定をした場合を除き、この規則の定めるところによる。
第2条(停職)
 停職の期間は、一日以上一年以下とする。
第3条(減給)
 減給は、一年以下の期間、俸給の月額の五分の一以下に相当する額を、給与から減ずるものとする。
第4条(戒告)
 戒告は、職員が法第八十二条第一項各号のいずれかに該当する場合において、その責任を確認し、及びその将来を戒めるものとする。
第5条(懲戒の手続)
 懲戒処分は、職員に文書を交付して行わなければならない。
2項  前項の文書の交付は、これを受けるべき者の所在を知ることができない場合においては、その内容を官報に掲載することをもつてこれに替えることができるものとし、掲載された日から二週間を経過したときに文書の交付があつたものとみなす。
3項  第一項の文書に記載すべき事項は、人事院が定める。
第6条(他の任命権者に対する通知)
 任命権者を異にする官職に併任されている職員について懲戒処分を行つた場合においては、当該処分を行つた任命権者は、他の任命権者にその旨を通知しなければならない。
第7条(処分説明書の写の提出)
 任命権者は、懲戒処分を行つたときは、法第八十九条第一項に規定する説明書の写一通を人事院に提出しなければならない。
第8条(刑事裁判所に係属する間の懲戒手続)
 任命権者は、懲戒に付せられるべき事件が刑事裁判所に係属する間に、同一事件について懲戒手続を進めようとする場合において、職員本人が、公判廷において(当該公判廷における職員本人の供述があるまでの間は、任命権者に対して)、懲戒処分の対象とする事実で公訴事実に該当するものが存すると認めているとき(第一審の判決があつた後にあつては、当該判決(控訴審の判決があつた後は当該控訴審の判決)により懲戒処分の対象とする事実で公訴事実に該当するものが存すると認められているときに限る。)は、法第八十五条の人事院の承認があつたものとして取り扱うことができる。
2項  任命権者は、前項の規定により懲戒手続を進め、懲戒処分を行つた場合には、当該懲戒処分について前条の規定により処分説明書の写を人事院に提出する際に、前項に該当することを確認した資料の写を併せて提出するものとする。


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