不動産の法律相談

不動産の無権代理・無断処分
勝手に売却・名義変更されたときの対応

法令・資料確認日:2026年9月16日

ご相談の例

息子に権利証や実印を預けていたところ、無断で息子名義に変更され、第三者に売却されてしまいました。土地や建物を取り戻すことはできますか。勝手に抵当権を設定された場合はどうでしょうか。

原則として権利を主張できます。ただし、第三者が保護される例外があります。

所有者が売却・贈与に同意せず、正当な代理権も与えていないのに、家族などが勝手に登記名義を変えただけでは、原則として所有権は移りません。不動産登記には、登記を信じたという理由だけで無権利者(息子さん)から権利を取得できる「公信力」がないからです。

もっとも、所有者が虚偽の名義を認めていた場合や、虚偽の登記を生じさせたことについて極めて重い責任がある場合には、判例上、第三者(買主)が保護されることがあります。実印や権利証を預けたという一事だけで、直ちに不動産を失うわけではありません。書類を渡した理由、本人の関与、発覚後の対応、買主の認識などを具体的に調べる必要があります。

参照:当事務所QA905/最高裁判例の比較

名義変更・転売のおそれがあるときは、早めにご相談ください。
登記の確認、処分禁止の仮処分、登記抹消請求など、状況に応じた対応を検討します。

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1.無権代理と無権利者からの売却は分けて考えます

(1)家族が「所有者の代理人」として売却した場合

たとえば、息子が父親の代理人を名乗り、父親の土地を買主に売却した場合です。売却の代理権がなければ、原則として、父親が後から承認する「追認」をしない限り、契約の効果は父親に及びません(民法113条1項)。親子であること、同居していること、財産の管理を手伝っていることだけで、不動産の売却権限が当然に認められるものではありません。

賃料の集金など限られた事務を頼んだことと、所有権の移転や抵当権の設定を任せたことも異なります。ただし、後述する表見代理が成立する場合には、実際の代理権がなくても本人が取引の効果を受けることがあります。

(2)無断で自分名義に変え、「自分の不動産」として転売した場合

この場合、転売は、登記名義だけを取得した人による「無権利者からの処分」の問題です。書類の偽造や冒用によって不実の登記がされたことを、一律に民法113条の無権代理と扱うことはできません。所有権移転の原因となる有効な行為があるかを調べ、そのうえで第三者保護の可否を判断します。

登記名義人に所有権がなければ、その人から買っただけでは原則として所有権を取得できません。動産についての即時取得(民法192条)は、不動産には適用されません。また、民法177条は不動産の権利変動の対抗要件を定めた規定であり、無権利者からの取得に登記の公信力を与えるものではありません。

なお、他人の不動産を売る契約自体は、売主と買主との間で直ちに無効になるわけではありません。売主は原則として、その権利を取得して買主に移転する義務を負います(民法561条)。これは、真の所有者が当然に所有権を失うという意味ではありません。

条文:民法113条・177条・192条・561条(e-Gov)

2.どのような場合に買主や抵当権者が保護されるのでしょうか

(1)代理人として取引した場合の「表見代理」

表見代理とは、代理権があるように見える事情について本人側に一定の原因があり、これを信頼した相手方を保護する制度です。代表的な類型は次のとおりです。

表見代理の主な類型(要旨)
条文本人側の事情相手方の保護条件
民法109条本人が他人に代理権を与えた旨を第三者に表示した。表示した権限内では、代理権がないことにつき善意・無過失。表示した範囲を超える場合は、同条2項の条件と正当な理由が必要。
民法110条一定の代理権は与えたが、代理人がその範囲を超えた。その行為について代理権があると信じる正当な理由が必要。
民法112条かつて与えた代理権が消滅した。従前の権限内では、代理権の消滅につき善意・無過失。従前の範囲を超える場合は、同条2項の条件と正当な理由が必要。

実印、印鑑証明書、委任状などを持っていることは判断材料ですが、それだけで常に正当な理由が認められるものではありません。不動産の価値、契約内容、本人への確認の有無、不自然な取引条件などを踏まえて判断します。

(2)虚偽の登記を信じた第三者の保護

無権利者が自分名義で売却した場合には、通謀虚偽表示の第三者保護を定める民法94条2項や、民法110条を類推適用する判例法理が問題になります。類推適用とは、条文が直接想定した場面と似た事情について、その趣旨に基づいて同様の扱いをすることです。

虚偽の登記と第三者保護の違い
所有者側の事情検討する法理第三者側の条件
他人と通じて虚偽の譲渡をした場合、又は自ら虚偽の名義を作出・承認した場合民法94条2項の適用又は類推適用原則として善意。無過失までは要求されません。
不実の登記を知らなかったが、その作出に関し、積極的な関与や承認と同視できるほど重い帰責性がある場合民法94条2項・110条の類推適用善意に加えて無過失が必要です。
盗用・偽造等によって登記がされ、所有者に上記の帰責性がない場合原則どおり所有者を保護第三者が善意・無過失というだけでは、権利を取得できません。

ここで「善意」とは名義人が真の所有者でないことを知らないこと、「無過失」とは知らなかったことについて必要な注意を怠っていないことです。「帰責性」は、虚偽の外観を生じさせたり存続させたりしたことを、所有者の責任と評価できる事情を指します。

所有者の意思と実際に作られた登記の内容が食い違うなど、上表だけでは整理できない事案もあります。単なる書類管理の不注意と、判例が求める重い帰責性とは区別が必要です。抵当権の設定についても、抵当権者が保護されるかを同様に検討します。

参照:民法94条・109~112条/以下の最高裁判例

3.重要な最高裁判例の比較

この問題では、次の最高裁判例が重要です。判決年月日だけでなく、所有者が何を知り、何を行い、相手方がどのような確認をしたのかに注目する必要があります。

(1)最高裁平成18年2月23日判決――所有者の重い帰責性を認めた事例

所有者は、賃貸の事務や別の土地の登記手続を任せていた相手に、合理的理由なく対象不動産の登記済証を数か月預け、印鑑登録証明書を繰り返し交付していました。さらに、売却意思がないのに売買契約書に署名押印し、目の前で登記申請書に実印が押されても内容や使途を確認しませんでした。

最高裁は、こうした事情を総合し、所有者の責任は自ら虚偽の外観を作った場合などと同視できるほど重いと判断しました。買主も善意・無過失であったため、民法94条2項・110条を類推適用し、所有者の登記抹消請求を退けました。単に実印を預けたというだけの事案ではありません。

平成15年(受)第1103号・民集60巻2号546頁/裁判所公表の判決原文(PDF)/当事務所QA905

(2)最高裁平成15年6月13日判決――書類の交付だけで第三者保護を認めなかった事例

所有者が、地目変更等の準備に必要だと説明され、白紙委任状、登記済証、印鑑登録証明書等を交付したところ、代金決済前に無断で所有権移転登記がされ、短期間に転売された事案です。

最高裁は、所有者に不動産取引の経験がなく、登記を承認・放置しておらず、問い合わせにも業者が巧みに言い逃れていたなどの事情を十分審理する必要があるとしました。そのような事情が認められる場合には第三者保護を認める事情はないとして、原判決を破棄し、差し戻しました。所有者の勝訴をその場で確定させた判決ではありませんが、安易に書類を交付したという理由だけで所有者の権利を否定できないことを示しています。

裁判所公表の判決原文(PDF)/当事務所QA905の比較解説

(3)最高裁昭和45年9月22日判決――不実の登記の存続を承認した場合

当初は無断で登記がされたとしても、所有者がそれを知った後、その存続を明示又は黙示に承認していたときは、民法94条2項の類推適用により、その後に取引した善意の第三者に対して名義人の無権利を主張できないとしました。

この判決が対象とするのは、登記の存続について承認が認められる場合です。発覚後に直ちに抹消できなかったことだけで、必ず黙示の承認になるわけではありません。抗議や是正要求、手続の準備状況などを記録しておくことが重要です。

裁判所公表の判決原文(PDF)

4.勝手な売却・名義変更が分かったときの対応

(1)登記と資料を確認する

土地と建物それぞれの最新の登記事項証明書を取り、現在の名義、移転の原因・日付・受付番号、抵当権や仮登記の有無を確認します。区分所有建物では敷地権なども確認します。必要に応じて登記申請の添付書類等を調査し、誰がどのような書類で登記を申請したかを把握します。閲覧できる範囲や必要書類は、利害関係等に応じて登記所に確認します。

次の資料があると、本人の関与や買主の認識を具体的に検討できます。

  • 売買契約書、委任状、登記原因証明情報、権利証・登記識別情報通知の保管状況
  • 実印・印鑑登録証明書を渡した時期、目的、返還を求めた経緯
  • 家族・買主・仲介業者・司法書士とのメール、LINE、録音、手紙
  • 売買代金・賃料等の入出金記録、固定資産税関係の書類
  • 不正を知った日と、その後の抗議・相談・是正要求の記録

(2)登記抹消請求と処分禁止の仮処分を検討する

本人に権利が残り、相手方を保護する例外もなければ、所有権に基づいて不実の所有権移転登記や抵当権設定登記の抹消を求めます。相手方が協力しない場合は、登記手続を命じる判決を求める訴訟が必要になります。どの名義人や抵当権者を相手に、どの登記の抹消・承諾を求めるかは、登記の順序と実体上の権利関係によって変わります。

訴訟中に再び転売・担保設定がされるおそれがあれば、登記請求権を保全する処分禁止の仮処分を検討します。これは後の処分との関係で権利回復を保全するための手続であり、仮処分後の登記申請をすべて物理的に止める仕組みではありません。権利と保全の必要性の疎明が必要で、担保を求められることもあります。

根拠:不動産登記法60条・63条・68条/民事保全法13条・14条・23条・53条・58条

(3)無権代理の追認・拒絶は慎重に判断する

無権代理行為を追認すると、原則として契約時にさかのぼって効力が生じます(民法116条)。無断処分を知った後に代金を受け取ったり、取引を前提とする合意書に署名したりした場合には、事情によって黙示の追認が争われることがあります。書類や金銭の扱いを決める前に相談してください。

追認を拒絶する場合、相手方に対する通知が原則です(113条2項)。ただし、拒絶の通知だけで、既に成立した表見代理や第三者保護の効果を消せるわけではありません。また、相手方から相当の期間を定めて追認するかどうかの催告があり、本人が期間内に回答しなければ、追認拒絶とみなされます(114条)。単に沈黙すれば常に追認になる、という制度ではありません。

(4)損害賠償・仮差押えによる金銭的な回復

無断処分をした人に対する不法行為に基づく損害賠償(民法709条)、事情に応じた不当利得返還(703条・704条)や委任契約上の責任などを検討します。回収が困難になるおそれがあるときは、預金や売買代金債権などの仮差押えも検討対象です。不動産自体を取り戻せる場合にも、別途生じた損害について請求を検討できますが、同じ損害を二重に回収することはできません。

仲介業者や司法書士に対する請求は、具体的な注意義務違反や因果関係の有無により判断します。関与しただけで当然に責任を負うものではありません。偽造や詐欺などが疑われる場合には警察への相談も考えられますが、被害届を出すだけで登記が元に戻るわけではなく、民事上の権利回復を並行して検討する必要があります。

参照:民法113~116条・703条・704条・709条/民事保全法20条

5.権利証・実印の管理と被害予防

  • 白紙の委任状には署名押印しない。対象物件、手続、権限の範囲を明示し、控えを保管してください。
  • 実印・印鑑登録証・登記識別情報を一括して預けない。必要な手続と書類を確認し、終了後は速やかに返還を求めてください。
  • 登記識別情報の漏えい等が疑われる場合は、失効申出を検討する。失効は、その情報の悪用を防ぐ手段です。所有権そのものを失わせる手続ではありません。
  • 不正登記の危険が具体的にある場合は、管轄法務局に不正登記防止申出について相談する。本人確認の調査につなげる制度であり、申出だけで必ず申請が却下されたり、全ての登記が停止したりするものではありません。
  • 判断能力の低下がある場合は、財産管理の体制を見直す。成年後見等の利用を含め、本人の状態に合った方法を検討します。

権利証や登記識別情報通知を紛失しただけで、不動産の所有権を失うものではありません。一方、書類の回収や印鑑登録の廃止だけで、既にされた不実の登記を取り消せるわけでもありません。現在の登記と取引の進行状況を確認することが大切です。

参照:QA857:権利証の紛失/QA68:権利証の盗難と不正登記防止申出/不動産登記法24条

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6.無料法律相談のご案内

「家族に勝手に売却された」「知らない抵当権が付いている」「買主から明渡しを求められた」「権利証や実印を返してもらえない」といった場合は、新銀座法律事務所へご相談ください。

ご相談の際は、物件の所在地、現在の登記名義、いつ何を知ったか、実印等を渡した事情、転売・決済の予定をお知らせください。資料を確認しながら、権利回復の見通し、緊急の保全措置、交渉や訴訟の方針を検討します。

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9.参照した公的資料・判例原文

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