不動産の無権代理処分について(最終改訂平成20年5月13日)

トップページ > 暮らしの法律知識 > 不動産関係 > 無権代理処分 (サイトマップ

自分の権利証(権利証に代わる登記識別情報12桁の符号)及び、印鑑証明書、実印を信頼している息子さん等に預けておいた結果、登記簿上息子さん等が勝手に自分の虚偽名義にして以上の事情をまったく知らない第三者に転売(担保権設定)すると不動産をとりもどせない可能性があります(担保権も同様です)。

解説
1、息子さんが、勝手に権利証、実印等を利用し自分名義にする行為は無権代理行為(民法113条)であり、父親本人は契約自由の原則上権利移転の法律行為をしていませんから不動産所有権は依然として父親にあります。第三者が不動産の登記簿を信用し無権利者である息子さんと取引しても動産と異なり(動産の場合は占有に公信力があり即時取得という制度があります。民法192条)、登記に公信力(権利の存在を推定する外形があれば、そこに真実の権利がなくてその外形を信じ取引した者を救済する制度)もありませんから権利を取得できないのが原則です。不動産は経済的価値が高く取引の安全より真の権利者を保護しているのです。従って、本人は土地を取り戻せるのが原則的な結論です。

2、しかし、権利書、遺印を預けるように真実の権利者が、虚偽の外観作出に権利者本人の責任がある場合は問題があります。そもそも契約自由の原則は、適正公平迅速な取引秩序を形成維持することが目的ですから、このような場合まで真の権利者を保護し信頼して取引に入った者を救済できないとすることは、取引関係の円滑性公平性に反し適正な取引秩序形成維持ができない事になります。そこで、真の権利の保護と、新たに取引関係に入った第三者の利害の調整を図るため、このような場合、既存の外観信頼保護規定を類推適用して救済することになります。その規定とは、通謀虚偽表示の第三者保護規定である民法94条2項、無権代理人の外形を信じた者を救う表見代理(民法110条)です。

3、最高裁平成18年2月23日判決(所有権移転登記抹消登記手続請求事件)。この判例では、不動産の所有者であるXから当該不動産の賃貸にかかる事務やほかの土地の所有権移転登記手続きを任せられていたAが、Xから交付を受けた当該不動産の登記済証、印鑑登録証明書等を利用してXの不動産をAへと不実の移転登記をしていました。ところが、Xは合理的な理由なく上記登記済証を数ヶ月間にわたってAに預けたままにし、Aの言うままに上記印鑑証明を交付しており、さらにAがXの面前で登記申請者にXの実印を押捺したのに、その内容を確認したり使い道を聞いたりすることなく漫然と見ているだけでした。最高裁は、XにはAの不実の登記という外形の作出について重い帰責性があるとし、Xは不動産を取り戻すことはできないとしました。

4、基本的に判例は、本人がわざと自己の不動産を他人の登記名義にしていた場合や、自己の不動産の登記が他人に移転されたのを知っていながらあえて放置した場合には、本人に虚偽の外形の作出について重い帰責性があるとし、本人の保護よりも第三者の保護を優先させる考えをとっています。また、上記のように不実の所有権登記がされたことについて自ら積極的に関与した場合やこれを知りながらあえて放置した場合でなくとも、これと同視しうるほどの重い帰責性が本人にある場合には、民法94条2項、110条を類推適用してやはり第三者を保護するという考え方です。

5、このことから、長男が勝手に不動産の名義を変えたことについて、本人に上記のような重い帰責性がある場合には、不動産を取り戻せない可能性があります。被害回復手段としては、長男に対する不当利得返還請求や損害賠償請求が考えられます。不動産の売買代金の入金口座を仮差押するなどの手段が考えられます。弁護士に御相談なさると良いでしょう。

民法
(虚偽表示)
第九十四条  相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効とする。
2  前項の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。
(代理権授与の表示による表見代理)
第百九条  第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間でした行為について、その責任を負う。ただし、第三者が、その他人が代理権を与えられていないことを知り、又は過失によって知らなかったときは、この限りでない。
(権限外の行為の表見代理)
第百十条  前条本文の規定は、代理人がその権限外の行為をした場合において、第三者が代理人の権限があると信ずべき正当な理由があるときについて準用する。
(無権代理)
第百十三条  代理権を有しない者が他人の代理人としてした契約は、本人がその追認をしなければ、本人に対してその効力を生じない。
(即時取得)
第百九十二条  取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する。

6、データベース事例集検索

 相談データベース事例集で無権代理に関する記事を検索できます。 

7、電話法律相談、継続相談は、こちらのページを参照下さい。

8、電子メール法律相談 以下のフォームに書込し送信ボタンを押して下さい(@原則24時間以内の簡単で一般的な電話回答となります、A記入漏れがあると回答できません、B回答が有料となる場合は、あらかじめ見積金額をお知らせ致します)。

お名前(必須)
メールアドレス(必須)
電話番号、住所(必須)
無権代理の概要、
従来の交渉経過等
簡潔に記載下さい。

 

不動産関係のページに戻る

暮らしに役立つ法律知識のページに戻る

トップページに戻る