消滅時効、時効中断、債務承認(最終改訂、平成24年7月5日)

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≪質問≫

 連帯保証債務の時効について教えてください。私は印刷会社に勤務する会社員です。8年前,個人で写真撮影スタジオを開業するという元後輩のPに対して,開業資金として無利息で500万円を貸しました(返還方法:貸付から1年間は据え置きとし,その後毎月10万円×50か月で完済する。)。ところが,その後,Pのスタジオは経営が傾き,返済も遅れ遅れとなりました。Pから返済してもらった金額は総額100万円で,最後の支払は3年前でした。そしてついに半年ほど前,Pは夜逃げ同然の形となり,連絡が取れなくなってしまいました。貸付の際,Q株式会社(Pの親族が社長をしている。)に連帯保証人になってもらっているのですが,Q社に残金400万円を請求したところ,8年前の連帯保証はもう時効だと言われてしまいました。本当でしょうか。なお,分割支払いが遅れた場合は一括で返済するというような約束はしていません。



≪回答≫

【消滅時効の制度の趣旨】
 なぜ消滅時効の制度が認められているのかについては,いろいろな学説がありますが,一般的に@長期間続いた事実関係を法的に保護し法律関係の安定を維持するため,A長期間行使されない権利は法律上保護する必要がないということや(権利の上に眠るものは保護されない),B期間の経過により証拠が無くなってしまう可能性があるのでむしろ債務者を保護する必要がある(例えば弁済の領収書の紛失),ということからこのような制度が法律上存在すると理解すれば納得できると思います(時効の種類により以上の理由を折衷的に考えられています。)。一般の人から見ると権利があるのに期間の経過により消滅してしまうのはおかしいと思うかも知れませんが,私的紛争解決の理想は,単に権利があるかどうかということだけでなく,当事者に公平にそして,迅速,低廉に行い公正な法社会秩序を維持することであり(民法1条,民訴2条,),時効制度は私的紛争解決にとって必要不可欠なものです。ちなみに,刑事裁判における公訴時効(刑訴250条以下),刑の時効(刑法31条,刑の言い渡しを受けたものの時効。)もほぼ同様の理由で認められています。

【連帯保証人に対する債権の時効消滅を判断する上での検討事項】
 債権の消滅時効が完成しているかどうかを判断するためには,時効期間,時効の起算点,時効中断事由の有無を検討していく必要があります。
 さらに,連帯保証人に対する債権が時効にかかっていないかを判断するためには,当該連帯保証人に対する関係だけでなく,主債務者に対する債権についても時効完成の有無を確認する必要があります。なぜなら,保証債務は,主債務が消滅すると附従性によって消滅する関係にあり,さらに,主債務の消滅時効については,主債務者がこれを援用しない場合でも連帯保証人が独立してこれを援用することができるからです(大審院昭和7年6月21日判決)。
 こうした理由から,主債務と連帯保証債務の双方について,時効完成の有無を見ていきます。

【時効期間の検討】
 あなたのPに対する貸金返還請求権,Q社に対する保証債務履行請求権の消滅時効期間は,いずれも5年であると考えられます。
 民法上,債権の消滅時効期間は10年とされています(民法167条1項)。
 しかし,あなたとPとの金銭消費貸借契約は,商法が適用される商行為にあたると考えられ,商行為に対しては,法律関係の迅速な解決の要請から,より短い5年の商事消滅時効が適用されます(商法522条)。
 個人が個人にお金を貸す行為であっても,本件においてはそれが商行為になってしまう理由は次のとおりです。まず,Pの写真スタジオ経営は,商法上,「営業的商行為」という類型の商行為に該当すると解されます(商法502条6号)。そうすると,Pは,商法上の「商人」にあたることになります(商法4条)。そして,商人が営業のためにする行為は,「附属的商行為」という類型の商行為とされています(商法503条1項)。開業する準備段階での金銭の借入れのすべてが「商人が営業のためにする行為」にあたるわけではありませんが,取引の相手方(本件ではあなたです。)がその事情を知っている場合には開業準備行為として商行為性が認められるとするのが実務の考え方です(最高裁昭和47年2月24日判決)。したがって,開業資金として貸したという本件では,Pの借入行為は商行為となり,当事者の一方であるPにとって商行為となる行為については,あなたが商法上の商人でなくても商法が適用されることになります(商法3条1項)。
 次にQ社ですが,Q社は株式会社であり,会社法上の会社に該当します(会社法2条1号)。そして,会社がその事業としてする行為およびその事業のためにする行為は商行為とされています(会社法5条)。また,会社法上の会社は,商行為を業とする者であることから商法上の商人であると解されています(商法4条1項)。この観点からもQ社の行為は商行為といえるでしょう(商法503条1項,2項)。したがって,あなたとQ社との間における連帯保証契約は,Q社にとって商行為であるため,Pとの関係と同様に商法が適用されることになります(商法3条1項)。
 以上から,前述のとおり,あなたのPに対する貸金返還請求権,Q社に対する保証債務履行請求権の消滅時効期間は,いずれも5年であると考えられます。

【消滅時効の起算点の検討】
 債権の消滅時効は,法律上権利行使が可能なときから起算します(民法166条1項)。本件の場合,P,Q社のいずれについても各割賦金の弁済期から起算することになります。
 とすると,今から7年前に全50回の分割払いが始まった本件では,既に支払われた10回分を除いた残りの40回分の弁済期は,6年2か月前から40か月間の間に毎月到来し続けていたことになります(分割払いを怠った場合は一括で返済する,という定めがある場合は期限の利益の喪失といって,それ以降の分割金の支払い期限が到来したことになり,時効の起算点もその時になります)。
 この場合,5年以上前に弁済期が到来した割賦金については時効が完成してしまったようにも思えます。しかし,そうではありません。次に時効中断事由の有無を検討する必要があります。

【時効の中断とは】
 時効期間の進行中,時効の基礎となる事実状態と相容れない事情が発生した場合は,もはや永続する事実関係を尊重して法律関係を安定させるなどの時効制度の趣旨が妥当しなくなるため,それまでに経過した時効期間を無意味なものとするというのが時効中断の制度です。
 民法は,時効の中断事由として,「請求」,「差押え・仮差押え・仮処分」,「承認」を挙げています(民法147条)。

【一部弁済による債務の承認】
 時効期間の進行中(時効完成前)に債務の一部を弁済する行為は,前記時効中断事由のうち「承認(民法147条3号)」にあたるものと解されます。債務の弁済をする行為は,その債務の存在を認めているにほかならないと評価できるからです。
 そして,たとえ分割払いのうちのある1回分を支払っただけのときでも,さらには,1回分のうちの一部のみを支払っただけのときでも,時効中断の効果は残債務の全体に及びます。
 債務承認による時効中断があったかについては,一般論としては,主債務者が最後に支払った時期だけでなく,それ以前の支払がいつなされたかについても確認する必要がありますが,本件においては,遅れ遅れになりながら支払を続けて,最後に支払ったのが3年前という事情からすると,Pのあなたに対する残債務の全部について時効中断しているものと思われます。

【主債務の時効中断が連帯保証債務に及ぼす効果】
 時効中断の効力が生じるのは,時効中断事由が発生した当事者およびその承継人に限られるのが原則です(民法148条)。民法の原則的な考え方である私的自治(個人の私法上の法律関係については,個人が自由な意思に基づいて形成すべきとするもの)から導かれた規定です。
 ただ,これには例外があります。その一つの場面がまさに本件で,主債務者に時効中断事由が生じた場合は,保証人の保証債務の時効も中断するとされています(民法457条1項)。保証債務が主債務を担保するためのものであることを重視して,時効中断の相対効の例外としたといえます。
 つまり,本件では,Pに対して主たる債務の時効中断がされていれば,Q社に対してもその時効中断の効力が及び,保証債務も時効中断されるということになります。

【まとめ】
 以上のように見てきたとおり,本件では,Pについて債務承認による時効中断がなされているかを確認する必要はあるものの,伺った事情の限りではQ社に対する保証債務履行請求権は全く消滅時効にかかっておらず,全額を請求できる可能性が高いと思われます。
 もっとも,本件では,主債務者Pに対して時効中断がなされているかと,Q社がなぜ時効だなどというのか(法的な検討を十分にしないまま,半ば出任せ的に言っているに過ぎないのか。主債務の時効中断が生じていることを知らないだけなのか。それとも,時効中断が生じていない確信があるのか。)を事前に確認しておくのがよいでしょう。
 時効制度は,それ自体は法律家にとっては基本的な概念といえますが,実際の管理となると複雑で頭を悩ませるケースも多々あります。とりわけ,保証人,連帯保証人が絡む事案ではその傾向が顕著です。時系列に沿って事案を丁寧に把握していく作業が必要ですから,Pから支払を受けた時期が分かる資料(振り込まれた銀行口座の通帳など)をご用意のうえ,弁護士にご相談をなさることをお勧めします。

≪参照法令≫

【民法】
(時効の効力)
第百四十四条  時効の効力は,その起算日にさかのぼる。
(時効の中断事由)
第百四十七条  時効は,次に掲げる事由によって中断する。
一  請求
二  差押え,仮差押え又は仮処分
三  承認
(時効の中断の効力が及ぶ者の範囲)
第百四十八条  前条の規定による時効の中断は,その中断の事由が生じた当事者及びその承継人の間においてのみ,その効力を有する。
(承認)
第百五十六条  時効の中断の効力を生ずべき承認をするには,相手方の権利についての処分につき行為能力又は権限があることを要しない。
(中断後の時効の進行)
第百五十七条  中断した時効は,その中断の事由が終了した時から,新たにその進行を始める。
2  裁判上の請求によって中断した時効は,裁判が確定した時から,新たにその進行を始める。
(消滅時効の進行等)
第百六十六条  消滅時効は,権利を行使することができる時から進行する。
2  略
(債権等の消滅時効)
第百六十七条  債権は,十年間行使しないときは,消滅する。
2  略
(主たる債務者について生じた事由の効力)
第四百五十七条  主たる債務者に対する履行の請求その他の事由による時効の中断は,保証人に対しても,その効力を生ずる。
2  略

【商法】
(一方的商行為)
第三条  当事者の一方のために商行為となる行為については,この法律をその双方に適用する。
2  当事者の一方が二人以上ある場合において,その一人のために商行為となる行為については,この法律をその全員に適用する。
(定義)
第四条  この法律において「商人」とは,自己の名をもって商行為をすることを業とする者をいう。
2  略
(絶対的商行為)
第五百一条  次に掲げる行為は,商行為とする。
一  利益を得て譲渡する意思をもってする動産,不動産若しくは有価証券の有償取得又はその取得したものの譲渡を目的とする行為
二  他人から取得する動産又は有価証券の供給契約及びその履行のためにする有償取得を目的とする行為
三  取引所においてする取引
四  手形その他の商業証券に関する行為
(営業的商行為)
第五百二条  次に掲げる行為は,営業としてするときは,商行為とする。ただし,専ら賃金を得る目的で物を製造し,又は労務に従事する者の行為は,この限りでない。
一  賃貸する意思をもってする動産若しくは不動産の有償取得若しくは賃借又はその取得し若しくは賃借したものの賃貸を目的とする行為
二  他人のためにする製造又は加工に関する行為
三  電気又はガスの供給に関する行為
四  運送に関する行為
五  作業又は労務の請負
六  出版,印刷又は撮影に関する行為
七  客の来集を目的とする場屋における取引
八  両替その他の銀行取引
九  保険
十  寄託の引受け
十一  仲立ち又は取次ぎに関する行為
十二  商行為の代理の引受け
十三  信託の引受け
(附属的商行為)
第五百三条  商人がその営業のためにする行為は,商行為とする。
2  商人の行為は,その営業のためにするものと推定する。
(商事消滅時効)
第五百二十二条  商行為によって生じた債権は,この法律に別段の定めがある場合を除き,五年間行使しないときは,時効によって消滅する。ただし,他の法令に五年間より短い時効期間の定めがあるときは,その定めるところによる。

【会社法】
(商行為)
第五条  会社(外国会社を含む。次条第一項,第八条及び第九条において同じ。)がその事業としてする行為及びその事業のためにする行為は,商行為とする。


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