横領・業務上横領(最終改訂、平成24年6月16日)

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質問:夫は会社で経理を担当していましたが、先週会社から「話を聞きたいことがある」と連絡を受けました。夫に尋ねると、どうやら会社の金を5000万円横領してしまい、競馬やパチンコに使ってしまったということでした。これから私たちはどうなるのでしょうか?私たちは分譲マンションに住んでおり、ローンも残っています。子供もまだ学生です。

(回答、解説)
犯罪を犯してしまった場合、家族にどのような影響があるか、以下、想定される疑問にお答えします。

@経理担当者が会社のお金を着服する行為は何罪に当たりますか?

答・業務上横領罪にあたります。横領とは、委託を受けて占有している他人の財物を、不法に領得する意思をもって所有者でなければできないような越権行為を行うことを指します。預かっている金銭を私的遊興費に用いたり、私的借金の返済に用いたりする行為が典型例です。横領には、単純横領、業務上横領の2種類がありますが、経理担当者の着服は業務上横領であり、単純横領より罰則が重くなっています。刑法における「業務上」とは、反復継続して行うことをいいます。したがって、一回だけ他人の物を預かっている状況で横領すれば単純横領ですが、会社で経理担当をしていたということは、反復継続して会社の(他人の)金銭を預かる立場にあったといえ、業務上横領に該当します。

参照条文
刑法
第二百五十二条  自己の占有する他人の物を横領した者は、五年以下の懲役に処する。
2 自己の物であっても、公務所から保管を命ぜられた場合において、これを横領した者も、前項と同様とする。
第二百五十三条  業務上自己の占有する他人の物を横領した者は、十年以下の懲役に処する。

A実際はどのくらいの刑に処せられるのですか?

答・量刑は、その人の前科前歴にも影響されますが、初犯の場合は、執行猶予付き有罪判決が出ることもあります。しかし、横領罪、特に会社の経理担当者の横領などの場合、発覚が遅れることが多く、そのため被害額が相当に大きくなることが往々にしてあります。法律上の根拠はありませんが、経験上、数十万円を超える横領の場合、示談できなければ(返済がなければ)、初犯でも実刑になる可能性はあります。執行猶予判決を得るためには、被害者の宥恕(ゆうじょ、許すこと)、示談の成立が相当重要です。そのためには、できるだけ早期に会社と話し合い、できる限り損害を賠償する必要があるでしょう。警察が捜査に乗り出す前でも弁護士を依頼して示談交渉を始めたほうが良いといえます。

B夫が返済できなかった場合、妻や子が支払わなければいけないのですか?それを防ぐために、離婚した方がよいのですか?

答・民事における返済義務は、横領という不法行為による損害賠償義務で、不法行為をした本人のみが責任を負います。従って法律上妻や子供に支払い義務はありません。しかし前項で説明したとおり、返済をしっかりして、会社の損害を回復することが、夫の刑罰の内容に大きく影響しますので、支払ってあげた方が夫のためになることは間違いないでしょう。しかし、中には、刑罰を受けてでも、妻と子に迷惑はかけたくない、という相談も見受けられますが、家族で話し合って結論を出すことになります。
離婚した方が良いか?という質問は多数いただきますが、精神的なことはともかく、法律的には、支払い義務はありませんから離婚するか否かは返済義務とは関係が無いことです。
なお、法的に責任を引き継ぐことになる唯一の事情として、相続があります。死亡したときには、配偶者と子は相続人になりますので、支払い義務を引き継ぐことになります。この場合は、相続財産全体を検討したうえで、相続放棄という手続をとればよいでしょう。離婚していた場合、死亡時に相続人にはなりませんが、相続放棄で対処できるので、やはり離婚に意味があるとはいえません。

C私が元々持っていた財産はとられてしまいますか?夫名義の不動産はとられてしまいますか?今のうちに私に名義を変えておいたほうが良いですか?

答・配偶者には法的には支払い義務はありません。したがって、奥様の財産がとられてしまうということはありません。ご主人名義の不動産についてですが、これは、会社がご主人に対して損害賠償請求訴訟を提起し、これが認められれば、会社は不動産を差し押さえることが可能になります。ただし、設問のように、ローンが残っているような不動産の場合には、差押・競売をしても、まずは抵当権者(ローン会社)が残ローン全額を取得するまで弁済を受けることができるので、現実的には差押や競売をしても会社は金銭を回収できないことが多いでしょう。
今のうちに妻に名義変更する、という方法については、まずローン会社の承諾なしに所有権移転をするとローン契約違反になってしまうでしょう。また、債権者(会社)は、詐害行為取消権(民法424条)を行使し妻名義への所有権移転を覆すことができますので、事前に名義を移転することは得策ではありません。

D自己破産すれば、支払い義務を免れますか?

答・破産に伴い、免責決定を受ければ、破産決定時に負っていた債務の支払い義務はなくなります。しかし、悪意の不法行為に基づく損害賠償請求権については免責されません。業務上横領は、通常悪意の不法行為に基づく損害賠償請求権に当たると考えられ、破産しても支払い義務を免れることはないでしょう。

破産法
第二百五十三条  免責許可の決定が確定したときは、破産者は、破産手続による配当を除き、破産債権について、その責任を免れる。ただし、次に掲げる請求権については、この限りでない。
一  租税等の請求権
二  破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権
三  破産者が故意又は重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権(前号に掲げる請求権を除く。)
以下略

E返せない場合にはどうしたらよいですか?

答・全額返せないとしても、今できるだけの金銭的賠償をして、誠意を見せるほうが良いと思われます。会社の立場で考えた場合、従業員を刑事告訴して、仮に従業員が刑務所に行ったとしても、それだけではお金が返ってくるわけではありません。別途民事訴訟を提起した上で、従業員の財産を差し押さえなければなりません。警察は被害回復の協力をしてくれるわけではありません。会社としては、損失を最小限に抑えることが重要ですから、会社に対して弁護士がアドバイスするとしたら、刑事告訴は後でもできる、回収を優先して考えるべき、ということになると思います。そのため、加害者としても、とにかく一円でも多く会社の損害を回復させることが、示談成立、刑事処分の回避につながる近道だといえます。

ご家族としては、やはり何とかして家族を救いたい、という気持ちでいっぱいだと思います。夫の量刑を少しでも軽くするために、できる限りの弁償をするべきですが、一方で、犯罪行為を行ったわけでもない妻や子供にも生活があります。自分たちの最低限度の生活までも犠牲にする必要は無いが、できるかぎり協力して謝罪をしたほうが良いでしょう。
横領額が多く、一括全額返済が難しい場合、警察への刑事告訴を防ぎつつ、分割での返済などをできるだけ相談するべきです。これは難しい交渉になることが予想されます。また、その後も刑事事件に発展する可能性もありますので、できるだけ早く信頼できる弁護士を探して依頼しておくべきでしょう。


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