刑事罰・行政罰(最終改訂、平成24年5月30日)

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質問:刑事罰について教えて下さい。行政罰も教えて下さい。どのような不利益がありますか。

回答:

1、 刑事罰は、刑罰法規及び刑事訴訟法が適用される刑事手続を経て有罪判決が確定すると執行される不利益処分です。刑罰法規の立法政策を研究する学問分野として刑事政策学があります。刑事政策では、刑罰の目的を応報刑論と目的刑論のふたつの見地から考えます。

2、 応報刑論は、不法な犯罪行為があったのだから、法治国家において個人的な復讐を禁ずる代わりに社会的応報として刑罰を科す必要があるという考え方です。有名なハンムラビ法典の「目には目を、歯には歯を」という、市民の素朴な応報感覚に対応する刑罰論です。日本でも鎌倉時代の御成敗式目で「殺人罪は死罪か流罪」という規定があります。応報刑論に対しては、犯罪予防目的を考慮しないので、予防効果を期待できないという批判も可能ですが、応報というシンプルな基準であるため、刑罰の限度を規定する機能を有すると言われています。つまり、矯正目的であったとしても犯罪行為に比べて重過ぎる刑罰は科すべきではない、という視点が提供されることになります。

3、 目的刑論は、社会秩序を維持し、犯罪を抑止する目的のために刑罰を科すべきであるという考え方です。犯罪者を刑事施設内で教育・矯正し、社会に戻すことにより、犯罪を予防し、治安を回復させようとする考え方です。犯罪の予防は、一般予防と特別予防に分類されます。一般人が犯罪行為に陥らないように、威嚇・心理的強制を行うのが一般予防で、犯罪者自身が再び犯罪行為を起こさないように教育矯正を行うのが特別予防です。どちらか一方のみを目的とするのではなく、両方の目的をバランス良く実現する必要があると考えられます。刑務所などの矯正施設では、特別予防を最大限に実現するべく努力が重ねられています。

刑法9条で、「死刑、懲役、禁錮、罰金、拘留及び科料を主刑とし、没収を付加刑とする。」と定められます。

死刑:絞首刑に処せられる最も重い刑罰です(刑法11条)。判決確定から6ヶ月以内(刑訴法475条)に法務大臣の命令が発令され、その5日以内(刑訴法476条)に執行される規定がありますが、事実上判決確定から数年以上経過する運用となっているようです。

懲役:刑事施設に拘置して、刑務作業を行わせる刑罰(刑法12条)です。有期懲役は1ヶ月から20年までが原則ですが、併合罪(刑法45条、確定判決を経ない他の犯罪がある場合)などに刑を加重する場合や、死刑や無期懲役を軽減する場合は、30年まで命じることができます(刑法14条)。

参考URL(法務省の解説ページ)
http://www.moj.go.jp/kyousei1/kyousei_kyouse10.html

禁錮:刑事施設に拘置する刑罰です(刑法13条)。有期禁錮は1ヶ月から20年までが原則ですが、併合罪(刑法45条、確定判決を経ない他の犯罪がある場合)などに刑を加重する場合や、死刑や無期禁錮を軽減する場合は、30年まで命じることができます(刑法14条)。懲役刑から刑務作業を省いた刑罰ですが、内乱罪などの政治犯や、一部の過失犯などに規定されています。禁固刑の受刑者は希望すれば懲役刑受刑者と同様の請願作業をすることができます。

拘留:拘留は1日以上30日未満、刑事施設に拘置する刑罰です(刑法16条)。侮辱罪(刑法231条)などで法定刑に規定されています。

罰金:1万円以上の金銭を国に納付させる刑罰です(刑法15条)。罰金を納付することができないときは1日以上2年以下の期間で労役場に留置されます(刑法18条1項)。

科料:千円以上1万円未満の金銭を国に納付させる刑罰です(刑法17条)。科料を納付することができないときは1日以上30日以下の期間で労役場に留置されます(刑法18条2項)。

4、刑の消滅(刑法27条、34条の2)
有罪判決を受けて判決確定したとしても、一定期間の経過により、法的に判決言渡しの効力を消滅させる制度です。
 執行猶予付き判決の場合は、執行猶予期間に再度犯罪を犯すなどして執行猶予の取消を受けずに経過した場合に、期間満了時に刑が消滅します。
 懲役刑・禁錮刑の場合は、執行終了後10年間、罰金以上の刑に処せられずに経過した場合に、刑が消滅します。
 罰金刑の場合は、罰金納付してから5年間、罰金以上の刑に処せられずに経過した場合に、刑が消滅します。

5、行政罰
 行政罰は、主に地方公共団体において、行政目的(国民の統治権委託による公正公平迅速な行政事務遂行、それを根拠にする合理的裁量権に基づく処分)を達成するために5万円以下の過料を条例で定めることにより、これに違反した場合に、市長など地方公共団体の長の命令により科せられる罰則です(地方自治法14条3項)。秩序罰とも言います。刑法や刑事訴訟法の規定は適用されず、地方自治法が適用されますので、一種の行政処分です。過料の命令に違反した場合は、地方税の強制徴収と同様の差押などの手続が取られます。過料は、刑法に規定のある刑罰ではないので、刑法や刑事訴訟法を適用する必要が無いということになります。従って、過料処分を受けても、法的に「前科」には該当しないことになります。主に、路上喫煙禁止条例や、ゴミのポイ捨て禁止条例などで規定されます。
 
4、刑事罰、行政罰の不利益

(1)(刑事罰と資格制限  関連する行政処分)
 刑罰を受けた場合の法的な不利益は、資格制限などです。様々な職業に必要な資格において、法令上、「欠格事由」として前科が規定されております。参考のために、資格制限の例をいくつか列挙します。(相対的欠格事由は資格が与えられない場合がある、という意味です。)又、資格が認められても、その後罰金等刑事罰を受けると取消乃至資格停止等行政処分があります。例えば医師等重要な資格ですと報道されることになります。

医師法4条3号 罰金以上の刑に処せられた者(相対的欠格事由)
保健師助産師看護師法9条1号 罰金以上の刑に処せられた者(相対的欠格事由)
弁護士法7条1号 禁錮以上の刑に処せられた者
宅地建物取引業法18条5号 禁錮以上の刑に処せられ、その刑の執行を終わり、又は執行を受けることがなくなつた日から五年を経過しない者(宅建主任者の登録に関する欠格事由)
国家公務員法38条2号 禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わるまで又は執行を受けることがなくなるまでの者
地方公務員法16条2号 禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わるまで又はその執行を受けることがなくなるまでの者

民間企業に就職する場合でも、履歴書には賞罰欄があり、前科があるのに「賞罰なし」という記載をした場合は、後日発覚した場合は内定取消や解雇事由となる可能性があります(最高裁判所平成3年9月19日判決地位確認等請求事件など)。

(2)(前科、犯罪経歴の詐称例)

最高裁判所平成3年9月19日判決内容
「原審の適法に確定した事実関係の下において、本件解雇を有効とした原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。原審は、上告人が二回にわたり懲役刑を受けたこと及び雇い入れられる際に学歴を偽ったことが被上告会社就業規則所定の懲戒解雇事由に該当するとした上、上告人のその他の言動を情状として考慮し、本件解雇が解雇権の濫用に当たらない旨を判示しているのであって、上告人が「既成の社会秩序を否定する考え」等を有するということをもって本件解雇を正当化しているものではないから、憲法一九条違反をいう所論は、その前提を欠く。また、所論は憲法二五条、二八条違反をもいうが、その実質は単なる法令違背を主張するものにすぎず、原判決に法令違背のないことは、右に述べたとおりである。論旨は、採用することができない。」

学歴(大学中退)と2回の前科(成田闘争)を偽ったこと及び反省の態度がないとする本人の言動が就業規則による解雇の理由と認定されています。第一審、原審も同様の判断です。やむを得ない判決でしょうか。

(3)前科の開示される場合、
前科等については個人の名誉、信用に関するプライバシー秘密事項であり、一般人には公開されませんが、公正な訴訟手続きに必要不可欠であるとの裁判所からの照会、又は、弁護士法23条の2の照会請求により、市町村等が選挙資格調査のため管理する犯罪人名簿、「前科、犯罪経歴」の開示を受けることが可能な場合もあり(最高裁56年4月14日判決、京都市から開示された道交法違反等の多数の前科が経歴詐称として別訴で解雇の問題となりました。第一審は京都市の経歴開示を適法とし、控訴審、最高裁は開示の責任を認めています。)刑事事件となった場合は、不起訴処分を目指す必要があります。社会的な地位についているか、着く予定のある人は注意が必要でしょう。罰金以上の刑罰が社会的資格に影響のあるものも多数あります。


最高裁56年4月14日判決の判決要旨

「前科及び犯罪経歴(以下「前科等」という。)は人の名誉、信用に直接にかかわる事項であり、前科等のある者もこれをみだりに公開されないという法律上の保護に値する利益を有するのであつて、市区町村長が、本来選挙資格の調査のために作成保管する犯罪人名簿に記載されている前科等をみだりに漏えいしてはならないことはいうまでもないところである。前科等の有無が訴訟等の重要な争点となつていて、市区町村長に照会して回答を得るのでなければ他に立証方法がないような場合には、裁判所から前科等の照会を受けた市区町村長は、これに応じて前科等につき回答をすることができるのであり、同様な場合に弁護士法二三条の二に基づく照会に応じて報告することも許されないわけのものではないが、その取扱いには格別の慎重さが要求されるものといわなければならない。本件において、原審の適法に確定したところによれば、京都弁護士会が訴外猪野愈弁護士の申出により京都市伏見区役所に照会し、同市中京区長に回付された被上告人の前科等の照会文書には、照会を必要とする事由としては、右照会文書に添付されていた猪野弁護士の照会申出書に「中央労働委員会、京都地方裁判所に提出するため」とあつたにすぎないというのであり、このような場合に、市区町村長が漫然と弁護士会の照会に応じ、犯罪の種類、軽重を問わず、前科等のすべてを報告することは、公権力の違法な行使にあたると解するのが相当である。原審の適法に確定した事実関係のもとにおいて、中京区長の本件報告を過失による公権力の違法な行使にあたるとした原審の判断は、結論において正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
 同第二点について
 原審の適法に確定した事実関係のもとにおいては、中京区長が本件報告をしたことと、本件照会の申出をした猪野弁護士の依頼者である訴外株式会社ニユードライバー教習所の幹部らが中央労働委員会及び京都地方裁判所の構内等で、関係事件の審理終了後等に、事件関係者や傍聴のため集つていた者らの前で、被上告人の前科を摘示して公表したこととの間には相当因果関係があるとした原審の判断は、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。」
最高裁は、厳しい条件がありますが、前科等の開示の可能性を認めています。問題となった会社が教習所であり道交法違反も解雇の争点の一つになったと考えられます。

(4)前科、犯罪経歴が国際的に問題となる場合、
目的にもよりますが海外渡航(ビザ免除国でも目的により必要な場合があります。)、留学、国際結婚等では、前科、犯罪経歴が問題となり、犯罪経歴証明書が必要となる場合があります。犯罪経歴証明書とはその人物に有罪が確定した経歴(犯歴)が無いことを証明する公文書です。一般的には、無犯罪証明または警察証明と呼ばれ、各道府県警察本部の鑑識課(東京都では警視庁公安部外事第一課)で交付手続きが行われています。


(5)前科等のプライバシーが新聞、インターネットで公開された場合の対応。
刑罰を受けた場合は、法律上の不利益の他に、事実上の不利益も大きく受けることになります。企業や団体の構成員が職務に関して法令違反を行い、マスコミなどの報道を受けた場合の社会的信用の低下は甚大なものがあります。行政罰であっても、法令違反を犯して処分をうけたことになりますので、信用低下は否定できません。前記の通り、法律上は刑の消滅により、5年または10年経過することにより、言渡しの効力が消滅するのですが、社会的信用の面ではこの期間が経過してもなかなか信用回復することは困難と思われます。万一事件が新聞報道された場合は、過去の新聞記事として半永久的に記録されることになってしまいます。コンピュータが普及し、これらの過去の記録を検索することも瞬時に行うことができるようになりました。就職や結婚など、あらゆる場面で、過去の事実が悪影響することが懸念されます。刑罰を受ける恐れを生じた場合は、弁護士に相談するなどして、最大限、回避する方策を検討するべきでしょう。

≪参考条文≫:
刑法
(刑の種類)
第九条  死刑、懲役、禁錮、罰金、拘留及び科料を主刑とし、没収を付加刑とする。
(刑の軽重)
第十条  主刑の軽重は、前条に規定する順序による。ただし、無期の禁錮と有期の懲役とでは禁錮を重い刑とし、有期の禁錮の長期が有期の懲役の長期の二倍を超えるときも、禁錮を重い刑とする。
2  同種の刑は、長期の長いもの又は多額の多いものを重い刑とし、長期又は多額が同じであるときは、短期の長いもの又は寡額の多いものを重い刑とする。
3  二個以上の死刑又は長期若しくは多額及び短期若しくは寡額が同じである同種の刑は、犯情によってその軽重を定める。
(死刑)
第十一条  死刑は、刑事施設内において、絞首して執行する。
2  死刑の言渡しを受けた者は、その執行に至るまで刑事施設に拘置する。
(懲役)
第十二条  懲役は、無期及び有期とし、有期懲役は、一月以上二十年以下とする。
2  懲役は、刑事施設に拘置して所定の作業を行わせる。
(禁錮)
第十三条  禁錮は、無期及び有期とし、有期禁錮は、一月以上二十年以下とする。
2  禁錮は、刑事施設に拘置する。
(有期の懲役及び禁錮の加減の限度)
第十四条  死刑又は無期の懲役若しくは禁錮を減軽して有期の懲役又は禁錮とする場合においては、その長期を三十年とする。
2  有期の懲役又は禁錮を加重する場合においては三十年にまで上げることができ、これを減軽する場合においては一月未満に下げることができる。
(罰金)
第十五条  罰金は、一万円以上とする。ただし、これを減軽する場合においては、一万円未満に下げることができる。
(拘留)
第十六条  拘留は、一日以上三十日未満とし、刑事施設に拘置する。
(科料)
第十七条  科料は、千円以上一万円未満とする。
(労役場留置)
第十八条  罰金を完納することができない者は、一日以上二年以下の期間、労役場に留置する。
2  科料を完納することができない者は、一日以上三十日以下の期間、労役場に留置する。
3  罰金を併科した場合又は罰金と科料とを併科した場合における留置の期間は、三年を超えることができない。科料を併科した場合における留置の期間は、六十日を超えることができない。
4  罰金又は科料の言渡しをするときは、その言渡しとともに、罰金又は科料を完納することができない場合における留置の期間を定めて言い渡さなければならない。
5  罰金については裁判が確定した後三十日以内、科料については裁判が確定した後十日以内は、本人の承諾がなければ留置の執行をすることができない。
6  罰金又は科料の一部を納付した者についての留置の日数は、その残額を留置一日の割合に相当する金額で除して得た日数(その日数に一日未満の端数を生じるときは、これを一日とする。)とする。
(没収)
第十九条  次に掲げる物は、没収することができる。
一  犯罪行為を組成した物
二  犯罪行為の用に供し、又は供しようとした物
三  犯罪行為によって生じ、若しくはこれによって得た物又は犯罪行為の報酬として得た物
四  前号に掲げる物の対価として得た物
2  没収は、犯人以外の者に属しない物に限り、これをすることができる。ただし、犯人以外の者に属する物であっても、犯罪の後にその者が情を知って取得したものであるときは、これを没収することができる。
(追徴)
第十九条の二  前条第一項第三号又は第四号に掲げる物の全部又は一部を没収することができないときは、その価額を追徴することができる。
(猶予期間経過の効果)
第二十七条  刑の執行猶予の言渡しを取り消されることなく猶予の期間を経過したときは、刑の言渡しは、効力を失う。

(刑の消滅)
第三十四条の二  禁錮以上の刑の執行を終わり又はその執行の免除を得た者が罰金以上の刑に処せられないで十年を経過したときは、刑の言渡しは、効力を失う。罰金以下の刑の執行を終わり又はその執行の免除を得た者が罰金以上の刑に処せられないで五年を経過したときも、同様とする。
2項  刑の免除の言渡しを受けた者が、その言渡しが確定した後、罰金以上の刑に処せられないで二年を経過したときは、刑の免除の言渡しは、効力を失う。


刑事訴訟法
第四百七十五条  死刑の執行は、法務大臣の命令による。
2項  前項の命令は、判決確定の日から六箇月以内にこれをしなければならない。但し、上訴権回復若しくは再審の請求、非常上告又は恩赦の出願若しくは申出がされその手続が終了するまでの期間及び共同被告人であつた者に対する判決が確定するまでの期間は、これをその期間に算入しない。
第四百七十六条  法務大臣が死刑の執行を命じたときは、五日以内にその執行をしなければならない。
第四百七十七条  死刑は、検察官、検察事務官及び刑事施設の長又はその代理者の立会いの上、これを執行しなければならない。
2項  検察官又は刑事施設の長の許可を受けた者でなければ、刑場に入ることはできない。
第四百七十八条  死刑の執行に立ち会つた検察事務官は、執行始末書を作り、検察官及び刑事施設の長又はその代理者とともに、これに署名押印しなければならない。

地方自治法第14条  普通地方公共団体は、法令に違反しない限りにおいて第二条第二項の事務に関し、条例を制定することができる。
2項 普通地方公共団体は、義務を課し、又は権利を制限するには、法令に特別の定めがある場合を除くほか、条例によらなければならない。
3項 普通地方公共団体は、法令に特別の定めがあるものを除くほか、その条例中に、条例に違反した者に対し、二年以下の懲役若しくは禁錮、百万円以下の罰金、拘留、科料若しくは没収の刑又は五万円以下の過料を科する旨の規定を設けることができる。


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