熟慮期間(最終改訂、平成22年3月31日)

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「熟慮期間」とは、相続開始(両親などの死亡)時から、3ヶ月以内に、相続放棄の申立をなすべきこととされている期間(民法915条1項)のことです。財産調査に時間がかかりそうな場合や権利関係が複雑な場合には、「期間伸長の申立(民法915条1項但書)」をすることができます。また、プラスの財産がマイナスの財産に超過する場合のみ、相続を受けるべきこと(限定承認、民法922条)を申し立てることもできます。

http://www.courts.go.jp/saiban/syurui/kazi/kazi_06_13.html (家庭裁判所における、相続放棄参考ページ)
http://www.courts.go.jp/saiban/syurui/kazi/kazi_06_14.html (家庭裁判所における、限定承認参考ページ)
http://www.courts.go.jp/saiban/syurui/kazi/kazi_06_25.html (家庭裁判所における、期間伸長申立参考ページ)

(相続の承認又は放棄をすべき期間の起算時期の原則)
民法915条1項は,相続人は自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に,単純承認,限定承認,放棄をしなければならないと定めており,この期間を徒過した場合には,民法921条2号により,単純承認をしたものとみなされます。このように,民法915条1項本文が相続人に対し単純承認若しくは限定承認又は放棄をするについて3か月の期間(熟慮期間)を許与しているのは,「相続人が,相続開始の原因たる事実及びこれにより自己が法律上相続人となった事実を知った場合」には,通常,上記各事実を知った時から3か月以内に調査すること等によって,相続すべき積極及び消極の財産(相続財産)の有無,その状況等を認識し又は認識することができ,したがって単純承認若しくは限定承認又は放棄のいずれかを選択すべき前提条件が具備されるとの考えに基づいています。3か月という期間は短いようにも思いますが,遺産を担保にしている被相続人の債権者からすれば,誰が相続人になるか重要な関心事ですので期間が限定されています。従って,判例(大決大15年8月3日)によれば,熟慮期間は,原則として,相続人が前記の各事実を知った時から起算すべきものであるとされています。

(具体的不都合と救済方法)
上記が原則的な考え方ですが,熟慮期間の制度を悪用した悪質な金融業者が,3か月の経過をまって相続人に請求してくることが考えられますし,被相続人と別居状態が長く続き自分に対して遺産がないと思っていて相続放棄の手続をせずに3か月経過してしまうケースも多く、その場合に、すべて単純承認(財産も債務も全て相続する)として処理してしまうと、相続人に過酷な結果となってしまいます。

そこで,裁判所(最高裁昭和59年4月27日判決)は,相続人が,相続開始の原因たる事実及びこれにより自己が法律上相続人となった事実を知った場合であっても,上記各事実を知った時から3か月以内に限定承認又は相続放棄をしなかったのが,被相続人に相続財産が全く存在しないと信じたためであり,かつ,被相続人の生活歴,被相続人と相続人との間の交際状態その他諸般の状況からみて,当該相続人に対し相続財産の有無の調査を期待することが著しく困難な事情があって,相続人において右のように信ずるについて相当な理由があると認められるときには,相続人が上記の各事実を知った時から熟慮期間を起算すべきであるとすることは相当でないものというべきであり,熟慮期間は相続人が相続財産の全部又は一部の存在を認識した時又は通常これを認識しうべき時から起算すべきものと解するのが相当であるとしています。

従いまして,3か月を経過してから請求を受けた場合でも救済される可能性がありますので,弁護士に相談し、相続放棄の手続をするとよいでしょう。後日,申述が受理されると,「相続放棄申述受理証明書」の発行を求めることが出来るようになりますので,債権者に対しては,この写しを交付することにより,支払い義務を免れることができます。

法律相談事例集キーワード検索「相続放棄」参照。


≪条文参照≫
民法第915条(相続の承認又は放棄をすべき期間)
相続人は,自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に,相続について,単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし,この期間は,利害関係人又は検察官の請求によって,家庭裁判所において伸長することができる。
2  相続人は,相続の承認又は放棄をする前に,相続財産の調査をすることができる。

第921条(法定単純承認)
次に掲げる場合には,相続人は,単純承認をしたものとみなす。
一  相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし,保存行為及び第六百二条 に定める期間を超えない賃貸をすることは,この限りでない。
二  相続人が第九百十五条第一項の期間内に限定承認又は相続の放棄をしなかったとき。
三  相続人が,限定承認又は相続の放棄をした後であっても,相続財産の全部若しくは一部を隠匿し,私にこれを消費し,又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき。ただし,その相続人が相続の放棄をしたことによって相続人となった者が相続の承認をした後は,この限りでない。

第922条(限定承認)
相続人は、相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務及び遺贈を弁済すべきことを留保して、相続の承認をすることができる。


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